第三十五話 言葉にできない:嫡子誕生と日野義資
第三十五話 言葉にできない:嫡子誕生と日野義資
結局、北畠君には伊勢国一志郡と飯高郡の二郡を与えることにした。この南は志摩にあたり、北には伊賀と北伊勢となる。
大和国南から名張を通り中伊勢へと通じる『初瀬』街道と呼ばれる伊勢路、木津川沿いを伊賀まで進む『大和』街道と、伊賀から北伊勢に抜ける『伊賀』街道の二つのルートが存在するが、勿論、整備は伊賀街道方面だけ行う。山が多すぎるし、北畠の領地で何かをする必要性を感じないからだな。
公私の区別って大事だよね☆ 私怨じゃないよ必然だよ。
日野義資、宗重姉妹の兄、俺の義兄。本来なら、還俗前から調子に乗っていたこのバカボンを将軍宣下と同時に蟄居謹慎と所領没収とするのだが、そんなことをすると、「彼奴は万人香車だから」と言われてしまうので、そういう分かりにくい事は俺はしないことにしている。
こいつの問題は……日野の叔母上たちに可愛がられて調子に乗っているってところなんだよな。馬鹿か、あの女たちはもう旦那死んでるんだから何の影響力もないぞ。俺に嫌われる方が余程不味いって分からないんだよね。
つまり、この馬鹿は、公私の区別がついていないのだ。確かに将軍の義兄かもしれないが、それは「私」の存在だ。官位も俺の方が上だし、年齢も俺の方が三つも上だ。ついでに言えば、俺、准后だったからね。つまり、法親王並の待遇だったわけで、平堂上の二百石かそこらのギリギリ殿上人とは
違うのだよ身分が。
それにだ、お前が「私」で俺となれなれしくするってことは、周りにそれは追従させることになり、政治を私する事になるって分からねぇのかな。まあ、口も利かないし「彼奴は奥さんの実家の人ってだけで何の影響力もないから」と、馬鹿経由で話を持ってくる奴らには手紙を書いたり、「将軍は公人ですが何か?」と個人的なコネは一切意味のない事を繰り返しアピールしている。
それに、俺は常に刀を身に着けているので、何かあれば刀に手を掛けて馬鹿義兄に圧を掛けるようにしている。まあ、剣術はからっきしだが据物なら斬れるんだよ。
だから、妹に子供が生まれた祝いを受け取る事は許容しよう。その贈り物の見返りに何か俺に働きかけるようなら容赦はしない。それは公に伝えてある。贈り物の有無や、立場の近い遠いで公の立場を蔑ろにはしないということを。
まあ、贈り物貰うと嬉しいから、勿論、手心は加えるよ。手加減もする。それは仕方ないじゃない。潤滑油だよ! だがしかし、立場を弁えない馬鹿は断固として排除する。それだけの事だ。
まあ、年若い将軍が先代より先に死ぬのは揉める元だしな。兄貴の息子の義量も、俺の長男も、義政の長男義尚も早死にしてから色々おかしくなったってのはある。公私の別がないと色々問題になるよね。
伊勢の話も同じで、潜在敵だが全てを滅ぼすよりは、泳がして周りにそういう存在を集めてまとめて駆除した方が効率がいい。寛容に接しているという風にも見えるだろ? 馬鹿はそこで調子に乗る、持氏みたいにな。
何度か許せば「流石にもう殺してもいいでしょ」という話になる。信長は何度も許している上で何度も裏切るから容赦なく殺すわけで、最初から高圧的でも一方的でもなかったな。
まあ、彼は陪臣の出で出来星大名扱いされていたが、籤引還俗将軍だって足利義満の実の息子で義持の同腹なんだぜ、元天台座主だし。なんで逆らおうと思えるのかね、意味が分からない。あれだ、身分や立場で身の程が分からなければ、物理で分からせるしかないという結論に達するわけでしょ?
後漢末じゃないんだから、親族の馬鹿を厚遇するような土民根性を俺は持ち合わせていない。別に、日野姉妹とか特に何とも思っていないし。馬鹿兄貴を厚遇する理由がない。
「という内容の文をもう何度も送っておる」
「……さ、さようでございますか」
さて、やっと宗重姉妹にも揃って男児が生まれた。宗子の息子は太郎次郎、重子の息子は次郎三郎にしてみました。干支とか季節とかを加えた名前が多かったので変えてみたんだよ。何故って、縁起悪いだろ、早死にヒキニートの幼名だぞ。まあ、長男か次男か三男か分かりにくいだろ、だがそれがいい。
「父様ですよー」
「あ、主様、次郎三郎が笑っております」
いや、そういうの要らんから。お前らの兄貴が俺の兄貴面して先触れも許可もなしに我が物顔で現れるのがムカつくだけだから。
あ、馬鹿兄貴は外出禁止だから。もうずっと蟄居していてもらって構わないからね。時々、監視を依頼している者から「今日は**邸に遊びに出て夜遅くにいい気分で帰ってきました」等と報告が来るので、即座に、その内容を文にして「出禁、蟄居期間延長」の通達を出している。
多分、もう、二十年位になっているんじゃないかな?
子供たちが大きくなるまで、若しくはあいつが死ぬまで蟄居で良いと思う。それが分かれば、周りも相手をしなくなるだろうから、その方が穏便でいいよね。会わない義兄、小父に何の影響力があるっていうのかと皆理解できる日が来ることを祈っているよ。これも『無為御成敗』の為だからね。
本来、次男を重子が生んだ年に何者かに殺されるんだ義資はさ。
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