第三十一話 相御簾悠:尹子推参
第三十一話 相御簾悠:尹子推参
ただちゃんがやってまいりました。いや、一緒に住むだけだよ。
「……よろしゅうおたの申します」
「ああ、自分の家だと思って寛いてくれ」
「ええ、わたくしの家でございますもの」
はい、ただちゃんは御年十歳です。おい!! 犯罪じゃねぇか!!帝と同い年なんだが、これ、子供作れないよね、あと四五年はさ。あー 正親町三条尹子は生年不明なんだよね。正室になりながらも子がいないのはなぜか不思議だったんだが……子供過ぎたな多分。
大体、四十に近い俺と年齢の釣り合う子供の産める姫様ってのは……後家さんくらいだろうし、流石に後家を将軍の正室にはできないよね多分。
正親町三条家は、小松君の母方の親族であることから、そこから妻を娶り娘を帝に嫁がせることを可能にするって態なのかね。将軍の娘では武家だし、平堂上の日野の娘じゃあだめだから、日野の娘で正親町三条の姫の猶子にでもして帝の傍に俺の娘を置くことで、よりフェイバーな関係を築こうということか。日野さんも帝も俺も喜ぶだろうとね。
とはいえ、宗・重でさえ娘ほどの年齢なのだが、下手すると孫だぞこの子……いやほら、家康君を見習うなら、孫ほどの年齢の女でも相手できないと駄目なんだけどな。三十歳下位のバツイチ子持ちならOKらしい。傅役に連れ子が!もれなくついてくるのも悪くないな。
まあ、本来のエキセントリックな義教だと、お姫様は怖かったかもね。俺? 餅公方として孤児に大人気だよ☆ 主に餅がね。
「こちらが、もう一人の正室の日野宗子、妹で側室の日野重子だ」
「宗子姉様、重子姉様、尹子でございます。よしなに」
そりゃ、まだ見た目女童な嫁がやって来たわけで、ただでは済みません。大体、さっきから真理子がガン見しているし。
「ねえさま、だあれ?」
おう、最近片言で話すんだよ。重子は頑なに「重子姉様」と呼ばせようとして宗子と言い争いになっているけどな。
「上様の嫁のただこです、まりひめ様」
「……ただこねえさま……」
「ねえ、真理ちゃん、なんで重子姉様っていえないのにただちゃんは姉様
と素直に言えるのかしら」
「図々しいわよ重子。真理は聡い子だから、おばさんかねえさんかは一目瞭然なのよ」
「……しげこねえさまは、真理ちゃん」
「……おばちゃま……」
大変可愛らしくてよろしい☆
ただちゃんは通い妻をしばらくする予定だ。何故なら、まだ正室としても正親町三条の姫としても修めるべきことがそれなりに沢山あるからだ。俺の仕事が暇なときに先触れありでやって来るので、多分週一日二日泊まる感じだろうか。
正親町三条家の家業は四箇の大事(節会・官奏・叙位・除目)・有職故実がお仕事なので、覚える必要があるのです。俺も、教えてもらう必要があるかも知れないから、ちゃんと覚えてもらおう。そういうの大事だよね。
座敷童が帰って行った。真理は「ねえさま、ねえさま」ととても懐いていた。うん、まあ、その位の年の差姉妹はあり得るね。
「本当に、可愛らしい姫様でございました」
「まだ、しばらくは……でございますわね」
宗子は娘を可愛がってくれたことが嬉しく、重子は……色々焦っている。 おう、出産で死んじゃったら困るから、もう少し大きくなるまではお預けだね。その間に、日野姉妹にじゃんじゃん男の子を産んでもらわねばなるまい。
俺は思うんだが……何で当代の足利将軍の遠縁の鎌倉公方が親戚面して『将軍の猶子になって次の将軍になる』とか言い始めるんだろうね。あと、管領とかもそうだけれど、色々取り決めるべきだと思うわけ。関東管領は足利将軍の任免だけど、鎌倉公方はそうじゃないってところが問題だと思うんだよね。
まあ、金がかかるが、鎮守府将軍兼鎌倉公方ということにして、幕府の推薦、朝廷での宣下という形にしてもらおうかなと思うんだよ。おかしいだろ、勝手に足利将軍の息子の家系が代々名乗るとかさ。変えちゃろ。
それは、持氏君が再度暴発するまでのお預けだな。先ずは、管領の任期制に関しても考えなきゃだと思う。政所執事と侍所頭人は任期四年で二年ずらして任命する事にしようね。管領は二期八年が最大で、それ以降は退任時に家督を子供に譲る事にする。
二期目の最中に、嫡子やその周りの側近には精々管領の仕事を良く学ばせておくことだ。辞めたい辞めたい煩いんじゃ!!
権力は腐敗するものだよね。帝や将軍は象徴だからなかなか変えられないかもしれないが、その下の管領や宿老・侍所別当あたりが入れ替わる事で新陳代謝を即すって事で良いんじゃないかな。
今のメンバーが死ぬ永享五年から七年の間くらいで将軍主導で進めちゃおうね。時間が解決するってなもんです。




