第三十話 明日 あの川で
第三十話 明日 あの川で
街道を整備するのを嫌がる皆さんがいる。所謂、国人領主などは、百姓が逃散するので嫌がるのだ。とは言え、京から整備して大和までだから、反対する奴って誰なわけ?
まず、山城国守護は俺です。大和はいないので、この機会に俺が守護になる事にします。半済を使って街道整備をし、京周辺の治安を改善できるように将軍の番衆を即時派遣できるようにします。帝も畿内の治安改善をお望みで、街道を整備することで盗賊の被害や、勝手に関を設けるわりぃ地侍を排除します。ね、みんなの為になるでしょ?
そもそも、武士ってのは武装農民という名の兼業強盗です。農業もやるISISですね。信仰している宗教はアッラーではなく一所懸命です。なので、土地の権利とか惣領権などで殺し合いを普通にします。
朝廷にお願いして、古い官道の記録などを奉行衆に調査させている。鎌倉幕府以前の官道って広いところは十間(18m)、狭いところでも五間あるそうです。江戸時代の東海道より広い。
で、とりあえず、奈良に向かう街道を宇治まで整備することを考えている。古代の駅伝制も復活させて、ローマ街道のようにはいかないけれど、駅には常駐の道の管理人を配置しようかと思う。自分たちでできる日々の整備や街道の管理・監視、災害復旧時には近隣の農村から徴発した農民を指揮する役割を与える。
幕臣の端っこの端っこで臨職扱いだが、能力のある者は取り立てて行こうかと思う。
雇用の回復と街道の治安維持にいいだろ?
そもそも、街道が整備できるのは統一された権力が地域を支配している象徴だしな。古代の大和朝廷が五街道を整備したのも、東国で鎌倉街道が整備されて鎌倉に向かう放射線状の道が追加されたこともそれにあたる。また、信長の時代の街道整備、信玄の棒道もそうだな。勿論、江戸時代の街道整備も同様だ。
言い換えれば、街道整備のできない地域は、統一権力が存在しないから、当然人の動き・モノの動きも悪くなるから経済的に発展しないし不安定であるとも言える。安定の象徴=道作りと言えるだろうな。
なので、ここに人と金を投入するのは将軍の権威を高めることになる。仕事も与えることになるからその地域の経済も活性化するし、道が整備されると景気が良くなると体感できれば、畿内に拡大しやすいだろ?
当然、関所はない。治安維持上必要な場所には設けるが、関銭は取らない。フリーウエイだな。当然、関所を設けている国人が文句を言うはずだが、知った事ではない。小銭を集めるより、商売する権利を貸し出せ。
ということで、俺はちょっと遠乗りに来ている。え、木津川に泉大橋ってその昔、行基が作ったらしいんだけど、平安の初めに流されてないんだよ。流石に、帝を舟で渡らせるのは忍びないから、橋を架けようかと思って現場を見に来ました。結構大きな橋になりそうだけど、ものの初めだ良い物を作らせよう。瀬田だって大津だって良い橋が必要になる。え、六角征伐用に整備しておくからそのうち。宇治には橋が架かっているので問題はここだけだな。
奈良街道っていうのは、巨椋池の東側を通るようになっている。昭和の初期に埋め立てられたので、現代の地図で見るとなんかぐにゃっと曲がって道ができているのは、元池のあった場所だからだな。今現在、四神相応の地ではない京都である。
「この川に橋を架けるとは……流石っすね兄貴!」
いまいち、感心しているとは思えないもっちーである。隣の新右衛門さんの方が真剣に考えてくれているのは良くわかる。お財布に厳しい選択だ。
「上様、本当に橋を架けられるのですか」
「そのつもりだ。まあ、行幸が決まってから橋は作るがな」
行幸前に増水で流されるとか冗談ではない。まあ、橋桁の部分を石積みにして、手前に流木除けを設けるとかすると多分大丈夫なんじゃないかね。
「渡しで収入を得ている者もおりますが」
「橋になれば荷車や荷を背負った馬も通せる。舟ではできまい。それに、帝を一々小舟にお乗りあそばしていただくのは……不敬ではないか。
しばらくぶりの歴史的行幸なのだから、橋くらい架けても罰は当たるまい」
収入? 駅で働くか、橋の警備ででも雇えばいいだろ。別に、舟で渡しをして収入を得るだけが仕事じゃないだろうに。
「それにだ、舟の渡しは地侍たちの収入源だろ。多分いくらかピンハネしている。橋守ならそれは無い分、手取りは増えるんじゃないか」
「……それはありますね」
でかい人斬り包丁で脅して金を巻き上げるような奴らは『悪党』と呼ばれるに相応しいな。俺たちが出自のロンダリングしてるのにさ、お前らはなにしてくれてるんだって話だよ。同じ仲間だと思われたら迷惑なので、そういう『鎌倉』な武士たちは歴史の闇に消えてもらう。出来る限り盛大に反乱して欲しい。土一揆? 良い訓練になる。何なら家屋敷も燃やして一族皆殺しもありだ。根切だ根切。
帝の御為に橋を架けることが納得できないなら、浄土に旅立てばいい。海の向こうに補陀落させてあげよう。
やっぱり、雨の少ない秋の終わりか初夏が良いかな。紅葉の時期も新緑の時期も両方帝には楽しんでいただきたい。




