第二十八話 こころは気紛れ:永享二年正月
第二十八話 こころは気紛れ:永享二年正月
行幸路は『御旗街道』と命名することにしました。え、下見の際に将軍自ら帝の命を受け、錦の御旗を掲げて街道を鎮撫するからだよ
帝は「行幸の途中、餅は食えるか」とか「揚水器もやれるのか」と聞いてくるので「もちのろんです」と答えておいた。勿論と餅論を掛けているのだよ。すまん、だが帝には受けていた、内裏には笑いが少ないのだろう。
政務の話をするのに、朝堂院をある程度の回復をさせようかなとも思う。事務方は幕府に移動しているので、帝と大臣と将軍(そのうち内大臣になる)が政務の話をする場だな。なに、形だけでも話をし、承認してもらえればそれで構わない。朝議で決まったって事にすれば、反対する事は困難だろう。
つまり、宿老会議で揉む、将軍が幕府を代表して朝議で報告、問題や懸念が無ければ承認してもらい実行、懸念があれば差戻て再検討という流れだ。内閣と国会みたいな関係だな。
もちろん、内閣を率いて尚且つ議員でもある将軍様に相当の権限が集まる。話の向け方次第で俺の意思を反映できるのだから簡単だ。それに、大臣だ関白だってのも国政に参加した気がするじゃない? 説明を受けて帝とそれを支える大臣が認めたとあれば、立派な政策である。餅が欲しい?ええ、いくらでもどうぞ。
今の宿老会議では難しいが、代替わりすれば別だ。管領でも家内統治はそう簡単には進まないし、権威も権限も伴わない。そこを、朝廷との関係を改善して権威を借りてこようという話だ。
勿論、君たちが実力をつけてくれば、徐々に形骸化する……かもしれないね。だが、今は素直に帝の権威をお借りして自分の立場を安定させるべきではないのかね。
大体、連枝だなんだって言っても、足利の庶流で親族だからってだけの権威なわけだろ。応仁の乱で幕府・将軍の権威が失墜して、ついでにてめぇらの権威も失墜して百年もたずに崩壊していくわけじゃない今の体制。
信長が朝廷の権威を持ち出して上手くやったなら、室町将軍ならもっと上手に経営できるよね。守護代の分家の陪臣の息子(庶子であったとも言われるな。殺した信行?が嫡子であったのを改竄したとかなんとか)の怪しい男でも朝廷の権威と実力行使で……まあ、時間は大分かかったが天下の一歩手前まで行ったんだからな。
最初から天下人に一番近い将軍が、出来ない訳が無い。
天皇家は一応、皇太子の立太子というのを早めにやるじゃない? 後継者争いをしないようにって事なんだろうけれど、少なくとも将軍・管領・守護の家は、継嗣順を五番目まで決めておくようにしようかと思うのだよ。
王位継承権のようなもんだな。常に、当代は五番目まで決めておく。つまり、一番目が当代になったら、改めて五人順番含めて決めるということだ。その上で、この順位の下の者が上の者を弑するなら、賊として継承権を失い討伐をする……ということにする。加担したもの含めて斬首だ。切腹ではない。
というような、当主の権威と幕府の権威、朝廷の権威も併せて後継者に付託するという形に持っていく。後継者を選定するたびに、その位階を与えることにすると言えば……朝廷は大賛成だな。その度にデアゴスティーニになるわけだから大喜びだ。
跡目争いで揉めることが減れば、また、揉めた場合朝敵(帝が認めた官位を持つ正嫡を排除しよとするのだから)認定を自動的にしてもらえるのも美味しい。なんなら、征夷大将軍自ら遠征したり、俺の息子たちが守護代をつとめているだろう、畿内の管領が軍を率いて鎮圧しに行くかもしれない。
御旗街道を征伐軍が征く……俺と帝は出兵式で餅を配ろう。
「「「上様、おめでとうございます」」」
「よき正月を迎えられ大変うれしく思う」
「「「ははぁー」」」
宿老ズと新年会です。まとめて済ませたいからね。畠山満家が昨年の八月で管領を引退、本人は後継を決めて引退したいらしい。今回は、息子である持国を供奉している。
畠山さんちは、この持国がポンコツでやらかしで蟄居・弟が家督を継がされたり、こいつの庶子が畠山義就であったりして……応仁の乱の遠因を作る男であったりする。どうしたもんかいのー まあ、やんわり締め上げる方向で義就だけ、俺の娘婿にしてしまおう。河内の守護代にして俺の義理の息子なら将軍の代わりに軍を率いても問題ないだろう。こいつはそれだけだな。
因みに、能登畠山は満家の弟が義満親父の生前家督を譲らせた弟・満慶が親父の死後、満家に家督を戻した際に、分家させた家なのだ。息子にはそのうち偏諱を与えて側仕えにするかもしれない。だって、持国があまりにもダメ人間だからさー。
「父・満家同様、これからも幕府の力になってくれ。期待しているぞ持国」
「ははぁー」
「……」
そうです、君は畠山義就の父親としてだけ期待しているからね。勘違いしないでよね! あんたの事なんか全然何とも思ってないんだからね☆




