第二十二話 ためらわない、迷わない:大和守護と行幸
第二十二話 ためらわない、迷わない:大和守護と行幸
まあ、俺と花園君は結構親しいマブな関係。親父の元伏見宮のパパ園君とはかなり仲がいい。桔梗屋の店頭でも「毛坊主は追い払っても良いが、きちんと剃髪している身分の高い坊主は仲に入れて丁寧にもてなせ」と指示してあるので、たまに桔梗屋でお茶する関係だ。
俺は思うんだが、最近、南朝の奴らが鳴りを潜めているというか、すでに絶滅危惧種・シーラカンス化している気がする。あれだ『南朝と幽霊は出たためしがない』というどこかで聞いたような宣伝文句を桔梗屋経由で京に流している。
つまり、もういないもんだとおもって色々行動すればいいわけだ。
平安の頃は、南都に帝が行幸するなんてことは割と有ったし、行った先で歌詠みする会を開いたりしたものである。だから、どんどん出かけよう。
最初は大和だな。あそこは、興福寺の権威がガンガン下がって、南朝と北朝に別れて……という建前で、筒井氏と越智氏にそれぞれの国人が付いて争っている。歴史的には今後十年は争うはずだ。
美味しいよね。
だから、ここから頂く。
大和には守護がいないから、守護代も存在しない。そこで将軍様は考えた。
「俺が守護になるんだよ!!」と
え、何かおかしい?大和は帝の父祖の地でしょ? 征夷大将軍が御守りして何が可笑しいのかな。そもそも、興福寺って藤原の氏寺で帝関係ないじゃん。まあ、食える程度にはしてやるけれど、延暦寺の前にちゃっちゃと処分する。
帝が先祖の地に行幸したいと言っている。それを踏まえて、将軍様が大和の争いに仲裁に入るわけです。お前ら、いい加減にしろと。帝が心を痛められているぞとだ。
そして、提案する。筒井と越智をそれぞれ大和半国の守護代に任じる。そして、どちらにも付かない者たちは……将軍家が預かる……ということにする。大和番衆ができました☆ そして、興福寺にも桔梗屋の支店を大和に出すので、使用人を出すようにと話を通す。
戦争が終われば、仕事が生まれます。先ずは、行幸に向けての街道整備に仮御所の設営だな。そこで使う道具類だって新規発注になる。帝だけじゃなくって、公卿も沢山引き連れてやってくるし、親友の俺が番衆つれて護衛で供奉する。え、だって、パパ園の指名だから仕方ないんだよ。
こうして、帝の来訪ということにかこつけて様々な需要が生まれる。行幸饅頭とかそういうのも売ればいいんじゃないかな。だが、リバーシの出番はない。
当然、迎える方が金を出すのだから、大和の国人や寺社は支出を強いられるのだが、奴らは名誉が大切だし、税も取り立てる大義名分ができる。民も、農作業以外の現金収入のチャンスが生まれるし、職人たちだって張り切らざるを得ない。
北野の大茶会とかみたいなもんだ。もう、南北朝は終わったの。
そして、最後に、吉野の地まで行って南朝の戦没者含めて慰霊祭を行ったりする。敵も味方もなく、全ての慰霊を行う。敵の本拠地であった吉野でだ。どう? もう、南朝なんて存在しないんだって誰もが思うよ当事者を除いて。
以上の話を満済さんにしたところ、渋い表情である。なに、何か問題あるのかな?
「……将軍家の力が大きくなることを皆警戒するでしょう」
「何故だ? そもそも、強いものに従うのが武士の心根だろう。武家の棟梁である将軍が強いのは当然で、それが問題になるのは何故であろうな」
「……」
まあほら、足利尊氏ってのは血筋が良いけれどお調子者だったんだろ。だから、担ぎあげるのにちょうどいい。最初は後醍醐天皇、その後は、幕府を倒した戦争の強い足利支族たち中心に自分たちの権利を拡大しつつ、頭を押さえられないように派閥争いを散々起こさせた。高一族や尊氏の弟や庶子もそれで排除された。やたら、将軍の子供を坊主にするのも同じことだろう。守護はそこまで子供を出家させていない。
つまり、子どもが多ければ直接軍を指揮する者が増えるので将軍の周りに戦力が集まるので困るというわけだよね。後継者争い? 最初から序列を作ってしまえばそこまでじゃないだろ。徳川家はそれでルールがあるから揉め事が少なくて済んでいる。
実力ったって、リーグ戦なんだから大した差なんてないだろ。下克上の本物の実力主義なんて、不安定でしょうがない。優秀な奴はそれなりに権限を与えるが権力を与えないって方法がいいかもね。譜代大名は小大名だったし、大大名の隣には親藩が存在するのがデフォだったよね。相互監視が大切です。
「それにだ、守護共にも利はあるんだぞ」
「……それはいかなるもので」
「自分たちの守護所を『京』にすればいい」
人とモノの流れができれば、そういう場所も沢山出来るはずだ。




