第二十一話 僕らの夏:半済
第二十一話 僕らの夏:半済
今は永享元年で、イベントが盛りだくさんになるにはもう少し先の話になる。とはいうものの、小松君はポイして後花園天皇……つまり今上の帝の実父の元伏見宮様と仲良くしてもらっている。元坊主と現役坊主だが、俺の方がキャリアは上なので、年齢差も余り感じず気楽に話している。
「なるほど。公方様は京だけでなく、少しずつ周りを豊かにしたいとお考えなのですね」
「はい。働く者が多くなっても奪われるだけなら誰も働きますまい。余計に働いて余計に手に入るなら人は頑張れる者です」
「欲を捨てるのが仏の道ですが」
「言っている本人たちが最も強欲ですから、何も心に響きません。仏が説くのはそれに囚われれる苦しみからの解脱ですが、食べるに困る民には喰えない苦しみの方が大きいのでしょう?」
「……耳の痛い話ですな……」
「それを変えるのが将軍の仕事だと思うのです」
いや、将軍ッて武家の棟梁だから、戦争に勝つのが仕事のはずなんだけど、帝から政の大権を委譲されているから、そういう面で責任取らなきゃならんのです。施肥の件、水車の件、あとは治水も考えないと桂川はそれなりに氾濫するからね。
「やって見せ、言って聞かせて、させてみて褒めてやらずば人は動かずと申しますから」
「……寡聞にして聞かぬ言葉ですが、心に染み入りますな……」
だって、アドミラル・ヤマモトの言だもの。まあ、でもあの頃の軍人さんは坊主っぽい人多いよね。髪も坊主だし、どっかの宗純よりよほど禅している。あいつは、ひねくれて逆張りロックなだけだから。心に響かないんだよね。飲酒・肉食や女犯を行い、蓮如とも仲良しだし。ああ、いい機会にどこかで一緒にぶち殺すべきか。
禅僧に子供がいるって……なんなの? どんなこのはしとおるべからずなんだよ。
「一度、秋にでも西岡の方へ足を運びませぬか」
「おお、それは楽しみでごさいますな」
まずはこの辺りに足を運んで……帝の耳に俺の話が届くようにする。興味を持てば、引籠り帝も外に出たいと思うだろうしな。いや、個人的にディスってるわけじゃないんだよ。この時代の朝廷の人間は京から出ないのが当たり前なんだから。
応仁の乱以降、マジで横領されて食えなくなって地方に下向する人が増えるけど、それまでは動かないんだから。
そして、最近考えているのが……『半済は犯罪』って話なんだよ。
半済は、室町幕府が荘園・公領の年貢半分の徴収権を守護に認めたことを指す。簡単に言えば、戦時徴収だな。南北朝の戦の戦費を領国内に強制的に掛けたわけだ。
で、最初は戦争中の領国である近江・美濃・尾張にだけ認めたんだが、河内・和泉・伊賀・伊勢・志摩国へと半済が拡大した。で、一大ムーブメントになったので、全国的に実施しつつ、幕府がルールを管理するようにしていつの間にか既得権益にされているんだなこれが。
守護が守護大名化するきっかけというか、原資になっているわけだ。南北朝の戦争終わったよね? なに借りパクしてんだよって話。横領された荘園や将軍・朝廷御料はそのままで、京で脳筋馬鹿どもがパリピする原資になっているっておかしいだろ。
で、禿げオヤジの金閣真似して、自分好みの別荘建てたりとかしてるだろ。
これにメスを入れる。おう、戦費なんだから、戦争の準備に金使え。江戸幕府でいえば『手伝普請』だな。名古屋城作ったりしたやつね。
畿内の『行幸路』整備に金を出させる。だって、半済してるんだからさ、嫌なら解除するよって話。
仕事を与えて金を払うのは上に立つ者の役割でしょ? なんで、嫌がるのかね。一緒に現場監督でもして汗を流したまえ。俺もたまに桔梗屋として現場に差し入れしたりするぞ。薄い濁り酒とか、餅とかもってな。そういう現場でのコミュニケーションて大事だと思うの桔梗屋……じゃない将軍。
『天下普請』とも称されたこの一連の江戸初期の巨大公共事業は、各大名の領内統治の権力確立や支配下の城下町の形成を促進し、領内の安定をもたらしたのです。まあ、座とかあるから城下町形成は微妙だが街道整備は悪くないと思うよ。
自分の守護所のある場所に、若しくは守護所を街道沿いに移転して街を築けば、関所なんて設けなくても人は止まるし、金も落とす。ついでに、仕事も生まれるので人も集まる。というわけで、そう考えて行動しろ愚民ども。
特に、伏見・木津は水運の拠点であり、商業集積地でもあるから、そこと整備された街道が京と接続されるのは商業的にも意味があるだろう。筒井君も、自分の勢力圏に良い影響があると理解できるだろうし、越智君もその街道を自領まで延長することでメリットがあると気が付く。
次は、伊勢路を整備して本格的に東海道のラインを強化すると良いんだろう。伊賀越えはあまり好まれないルートなので、ここを整備するのは悪いことじゃないし、何より六角に金が落ちないのが嬉しい。勿論、近江を幕府が直轄にするなら、それはまた別の話だ。
とにかく、掠め取った金を使って経済を回せって言いたいわけです。
鎌倉街道なら関ケ原、東海道なら鈴鹿越えか……六角邪魔だな。




