第十二話 そのままの君が好き:用間篇
ジャンル別日刊2位 総合173位に入っておりました。
ブクマ&評価ありがとうございました☆
第十二話 そのままの君が好き:用間篇
さて、踊念仏と言えば時宗、その前衛的パフォーマンス集団は本山を鎌倉に近い藤沢に持っている。そもそも、踊りながら念仏を集団で唱えるEX〇LEみたいな存在なので、開祖一遍さんが生きている時はそれはスゴい盛り上がりだったようです。やってる事も、EXIL◯だし本来の意味で。
一遍とその側近たちは「遊行上人」と呼ばれ、念仏札を参加者に配るという『賦算』と仏教の行の一つである『踊念仏』を行う事で大変な人気者になっていたわけだ。
ところが、南北朝の騒乱に突入し、そんな怪しい集団をあっちこっちに行かせるわけには行かないという事で、最近すっかり静かになっている。だけど、このパフォーマー集団は自分たちの趣味と活動拠点の確保の為に将軍や守護の屋敷の奉公人となり、同朋衆、仏師、作庭師、猿楽師として権力者の傍に侍っているわけです。
観阿弥・世阿弥なんてのは義満君のお気に入りだったわけだしね。近衛さんから直接指導を受けたこともあるんじゃないって、賎民の子が摂関家の当主の手ほどきを受けるなんて……本来ならあり得ない。
『阿弥』と名乗ることで、出家扱いになるからそれが可能になるのだね。
この阿弥ちゃんたちは、全国津々浦々で権力者に仕えている。だって、そういう仕事ばかりじゃない。スポンサーが必要なことでしょ?だから、自然と情報も耳にするのだけど、どうやってその情報を集めて京に集めるかという問題もある。
そう考えると、駄目次男が作庭師と余人を介さず話をしたなんてことが後の世に伝えられているけれど、諜報員として……使っているわけがない。趣味の世界では身分は関係ないってだけの話だよねやっぱり。
「ほお、室町第はそのような縄張りとなっているのか。流石は花の御所であるな」
「左様でございますな」
作庭師の某阿弥と会話中です。
さて、阿弥軍団とどう接するかを考えた結果、『因間』として扱うことにしました。孫子の兵法に出て来る奴です。
「なるほどなるほど。その方の話は大変興味深い事であるな」
人間の心理として、相手に喜ばれたい役に立ちたいと思いが働くものだ。ある特定の話題に興味を持ち、その話を喜んで聞くとなれば、阿弥達は日ごろからその手の情報を自然と耳にするように行動する。動機付けって大事だよね。反対に、こちらの情報はどうとでも取れる内容しか話題にしない。
話を勧め、根掘り葉掘り聞きだしながら上機嫌となり、こちらからは大した情報を出さない会話を頑張るのだよ。
これが、宿老と言われる幕府の重鎮相手だと難しいが、軽輩相手なら問題ないだろう。どの道、将軍の周りで仕事を貰わないと食えない連中なのだ。その中で気になる情報があれば、愛宕聖や満斎さんにでも調べさせればいい。
『反間』という使い方もある。こちらをスパイしようとしている重鎮たちに、適当な情報を持たせて相手の反応を確かめる。いざという時に、致命的な隙を作りだせるといいと思う。
そもそも論でいえば、宿老だ管領だ守護だってのは南朝方が消えることで室町将軍の権威が高まったりするのが嫌なのだろうと思う。細川だなんだって言っても、自分の都合で南朝方に転がる奴は沢山いたんだからな。
これからは南朝に転べないから、自分たちの都合の悪くなる事を将軍にさせないように振舞うはずだ。何しろ、義持兄が後を継いだのも、時の宿老筆頭の斯波義将の支持があったからだというし、義持兄が自身で後継者指名しなかった理由も「どうせ宿老共の意見できまるからどうでもいい」という気持ちも強くあったのだろう。
なにしろ、この七月に幽閉していたはずの南朝方の小倉宮が嵯峨から出奔……ようは逃げ出しやがったわけで、この辺りの工作も俺の将軍就任や新しい帝に対する嫌がらせとしか思えないわけだよね。
世の中安定しない方が自分たちの強権を振るいやすいと思っているのだろうね。そりゃ、安定したら何事も前例主義になるから、自分たちの都合の良い行動が取れなくなるから嫌なんだろうさ。
小倉宮の件は、俺の宣下以前の問題だから、宿老共に責任を取らせる事にしよう。元服だってその後だからね。未成年に責任を押し付けないよね。
「小倉宮はどこに逃れたんだろうな」
「はて、伊勢の国に参られたと聞いておりますが、真実は分かりませぬな」
俺の知っている歴史では、伊勢国司 北畠満雅の所で挙兵し、足利持氏と連合を組んで幕府軍と戦う事になるのだが、持氏が単独で幕府に恭順の意を示し、北畠満雅が敗死して宮様はそのまま伊勢に留まる事になるんだよね。
この辺りも、嵯峨から伊勢まで落とした協力者が京の有力者に存在するだろうし、北畠家も最終的には幕府に帰順して許されるから、出来レースを仕掛けた奴がいるんだろうと思う。
さてさて、この件は関心が無いわけではないが、俺の責任の範囲外って判断でいいよね。なんか言われたら、「その為の宿老でしょ」って言い返そう。満祐君は、播磨の土一揆どうするんだろうね。頑張れ!!