第百十二話 嘉吉八年/文安元年(1444):洛中洛外図
第百十二話 嘉吉八年/文安元年(1444):洛中洛外図
俺もいよいよ五十となった。元号が嘉吉から文安に変わる。 尹子も娘を生み、正子と名付けた。大姫である真理は大内に来年嫁ぐ。十五歳になるからな。その前に、俺は色々テコ入れをしなければならない。同じ年、俺は将軍を義法に譲り大御所となるつもりだ。
同じタイミングで、鎌倉に次郎三郎を元服させ『義尚』と名乗らせ鎮守府将軍として向かわせることにする。一年は駿河で準備させるけどな。
「周文、山口はどうだ。絵になりそうか」
「……然り……」
「是非、この街の姿を描いていただき、京に見せて頂きたいものでございまするな」
山口に出かける事もそれなりにあるのだよ。周文と言うのは「雪舟」の師匠に当り相国寺の禅僧兼官僚兼絵師である。
応仁の乱の後、山口を訪れた縁の深い雪舟は戦乱が無いので何の切っ掛けもなければ山口には来ないだろう。雪舟は狩野派のメンターでもあるので、それはそれで良くないのである。
「是非、あなたの弟子たちにも山口を訪れて頂き、描いて頂きたいのです」
「魅力的なお話ですな。愚僧をはじめ、京から出ることの少ないものばかりでござりますれば、山口を訪れる事は大いなる刺激となりましょう」
さて、俺が何を考えているか? 日本中に「京」を作る話は終わってないんだよ。それに、百聞は一見に如かずと言うじゃない。
俺は、京の姿を『絵』にして、京を知らぬ者共の盲を開こうと思うのだ。
洛中洛外図というのは、屏風などに描かれた当時の京のパノラマ市街図だな。上杉氏に伝わるものが有名だろうか。この屏風、作成時期が最も早いものが応仁の乱後当りの物になるようだが、今の時点で作成しようと考えている。絵師はいるだろ? 狩野派の祖先みたいなの。
大内に持ち込ませたのはそのプロトタイプ一号だ。この絵に負けぬ街を築くようにというのと、真理が寂しい思いをしないようにだ。家族の絵をさりげなく書き込んでるんだぜこれは。ウォーリーじゃないよ!
「その巨大な絵図を如何になさりまするか」
「褒美よ」
「……褒美にございますか」
お前らが護っている京というモノがいかなる存在か、帝のおわす場所が如何なる姿なのか、そして、自らの住む場所に築く「小京」を具体的にイメージさせるためのツールでもある。
百聞は一見に如かず……というが、まつろわぬ者どもに知らしめるには、見せるのが一番だろうと俺は思う。
駿河を京にし、山口を京にする。そこを見たまつろわぬ関東・九州の者達に理解させるのだ。
博多あたりもそうするのは面白いかもしれない。大宰府と博多の間に九州の京を設けるという考え方もありだろう。それって、どこの福岡?
鎌倉時代に大宰府が廃されて二百年ほど。街路は朽ち、敷石などが残るだけとなっているわけだが、都市を作る場所としては悪くないのではないかと思う。博多を拡張するには少々大変だしな。
「大宰府を惣構で作り直す事は可能だろうか」
「いくつかに分けて段階的に広めてはいかがでしょうか」
実際、応仁の乱の後の京の街というのは、土倉なんかが集まって土塁と壕で囲んだ街に集約していたり、惣構の寺院だけが残っていた態がある。信長の時代の京というのはそんな感じだな。何でこんなところにって場所に泊まるのは、他の所がまともな建物が無い状態だったからとしか言いようがない。
京が京に相応しくなるのは秀吉の時代であり、令和の京とはその時代を起点にしているから、『太閤はん』は大阪だけでなく京でも割と評価されているとかいないとかだな。
「大宰府の政庁跡を『鎮西将軍府』に、その周りを将軍府詰めの守護達の館を配置。北側の川を挟んで向かい合う感じだろうか」
「……なるほど……」
ここにも京の商人に店を出させるか。空港内の免税店的な感じで、博多と棲み分けをする。
「九州諸所の商人に店を出させても良いな。土塀で囲まれた安全な場所で商売ができるのであれば、考える者もいるだろう」
南側の川沿いに町家を築かせる。大体、元の大宰府の半分くらいの範囲になるだろうか。人が増えれば条里を足していき、最終的には元のサイズまで広げたら完全に惣構として完成させるのだ。
「博多の商人どもにも話を致しましょう」
「商売になると思えば、調達にも協力しよう。なにも、明や朝鮮と貿易するばかりが商売ではない。安全に日ノ本の中でも物が行き来すれば利益となる。なにも、屋敷の中に、唐物を並べ立てるばかりが能ではない」
佐々木道誉はそんな家に住んでいたらしいな。なんだよ、フィギュア並べるのと何が違うんだよ。フィギュアを壁一面に並べるほど展示するのも、時代が違えば『バサラ』だったのかもしれないけどな。
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