第十話 こんな日だったね:足利義宣元服
第十話 こんな日だったね:足利義宣元服
「……やはりそうか」
満斎さんは、管領・守護ばかりではなく、自分と結びつきのある商人等からも情報を集めている。今回の代替わり一揆は確かに馬借や借財を重ねた百姓による打毀しの類だが、知恵を付けて回ったのは国人領主どもであるという。地侍以上管領代未満というところか。
「商人は借金の踏倒しに大いに憤っております」
「なに、さらに金利を載せてむしり返せと言っておけ。国人共には特に容赦なくな。それと、守って欲しくば私の政に協力するのが吉であるとも伝えよ」
籤引将軍、民や商人には「青蓮院の座主様が選ばれるとは縁起が良い」「吉事だ」と評判がいいらしい。単純で有難い。
――― 籤の名前全部俺だったんじゃないかと思ったりもする。
やっぱりさっさと宣下してもらおうか。でも、ほら、新しい帝の践祚が終わるまでは大人しくしているべきなんだよね。一年くらいで髷が結えるほど髪は伸びないのだから、どうでもいいけれど。
「元服だけでも先に済ませるか」
「……でございますな」
元服しないと大人扱いされないので、室町将軍必殺の『御教書』も出す事ができないのだよ。さっさと、内政始めたいからさー まずは元服しようぜ。
「では、宿老の皆様に話をして」
「……いらんでしょ。烏帽子親って誰がなるか決まっているのか?そもそも、親も兄も死んでいるのに、何で管領たちにお伺い立てないと元服できないんだ」
後花園天皇も七月末には即位しているし、この先グダグダとするので、年明け二月か三月にでも宣下するのだろうが、この半年が無駄だ。奉公衆だって、元服前の中年オヤジの話は聞いちゃくれないからな。
「というわけで、満斎、今週末には元服するので、周知を頼む」
「しょ、承知いたしました。京と幕府の安定の為にも、そうなさるのが宜しいかと私も思います」
というわけで、俺三十五にしてやっと元服する。平均余命的には数年の命なんだけどね。
「主様、おめでとうございます」
「「「「おめでとうございます」」」」
来たい奴だけ来ればいいといったものの、満斎さん以外は誰も来ないってどいうこと!! 御教書乱発してやろうかと思うが、義昭君同様価値が逓減するので止めておこう。
「しかし、誰も来ないとは……」
「まあほら、孤児なんてこんなもんでしょう。それに、他人に祝って貰って喜べる年齢でもないからな」
「本当は寂しいくせにー」
重子さん、言って良い事と悪いことがありますわよ。確かに、まあ新人で籤引還俗将軍の扱いなんてこんなものです。正式に将軍宣下してもらってから始まるって事なんだけど、色々やっておきたいこともある。
それと、これである程度色々な話をできるようになる。
「愛宕権現の修験の取りまとめ役と会いたいのだが、頼めるか」
満斎に酌をしつつ、声を潜めて話をする。
「できないことはございませんが、何をお考えで」
「一度、愛宕権現に参拝したくてな。出来れば顔合わせもしておきたい」
「……天台座主であった貴方様が修験者とお会いになりたがるとは……」
「心配なら供をすると良い」
「はぁ、畏まりました」
宗子と重子には「愛宕の権現に安産祈願に行こうかと思う」と伝えると、とても喜んでくれた。嘘じゃないよ、それも半分は目的だからな。
愛宕権現は『勝軍地蔵』を祀っていることもあり、「愛宕さんには月まいり」などと口にされるほど、近隣からの信心が厚い場所でもある。特に、武士の信仰が厚い。
修験者は「愛宕聖」や「清滝川聖」と呼ばれ、戦勝祈願などに呼ばれる。つまり、その人間関係で手に入る情報を貰いたいのだ。
「では、対価は何をお考えでしょうか」
「……将来性か……」
「……」
ん、なんか変なこと言ったかな。将軍家が力を持てば、その信仰を支える愛宕権現も力を持つだろうさ。それに、地方に勧進したりするのも推奨する。情報は権力者が持てば持つほど力となるわけで、そういう将軍の権威と共に自己の勢力を拡大していくって考え方を持ってもらいたい。
あと今一つは、時宗を考えているんだけどね。踊念仏っていいよね。