第百二話 また、春が来る:六角征伐
第百二話 また、春が来る:六角征伐
赤松征伐後の統治も特に問題が無いのだが、但馬は少々落ち着かない。というのも、山名と苦楽を共にした国人被官が多く、幕臣に従うのを快く思わない者も少なくないと思われるからだ。
「一つの考えとしては……畿内に呼び込んで使い潰すという考えもある」
「然り。山名の配下で威を張る者もおりましょう。六角攻めの先鋒を委ねるというのも面白いでしょう」
はい、悪だくみと言えば妙椿教利君です。
おぬしも悪よのう!が最も似合う男。
秀吉相手に調略でドンドンと降っていった印象しかないんだが、使えるかどうか判断し、使えなければ磨り潰してしまおう。
六角は近江佐々木氏、鎌倉時代からの近江守護であり、足利よりずっと根付いている存在だ。時に対立し、時に協力し独自の存在感を残しているのだが、ある意味、足利の外様が京のすぐそばに存在するというのは落ち着かない。それだけなんだよな。
「佐々木の嫡子に姫を嫁がせるというのは如何でございましょうや」
「あと十年はかかる。それに、外戚面されるのは面白くない」
大内や今川の様な協力的な守護ならともかく、「俺、お前の舎弟じゃねぇから」アピールされるのも正直ウザい。
当主 六角満綱は母が足利尊氏の孫、妻が禿義満の娘……すなわち、俺の姉を娶っているので義兄弟であり、一色・斯波より余程親戚なのだが、如何せん、調子に乗ってしまっている。
嘉吉の乱で義教が死んだ後、叡山の荘園を横領し続けた結果、後年、討伐されることになる。叡山に圧力を掛けるために義教が命じたことだが、既得権にしてよいわけではなかったのだよ。
その後、京の混乱から土一揆が近江でも発生し、京のそれも六角氏の扇動であると叡山からさされ、京の屋敷も襲撃に会い、「満綱やりよった」が既成事実化され、隠遁し家督を息子持綱に譲っている。
結局、持綱の弟時綱を担ぎだす勢力が台頭し、親子ともども殺されることになる。
六角氏を抑えるには、家臣をばらさなければならないというのが俺の所見だ。六角義賢の頃も、外敵が存在すれば蝟集するが、内部で争いが絶えないのが近江の国人共であった。一向宗も強かったし、元々まとまりが良くないのなら、ばらしてしまえばいい。
坂田郡は幕府領となりつつあるので、北近江をそのまま幕府の直轄領にし、南近江を六角と幕府領に分けてしまってもいい気がする。草津や堅田は幕府が直轄にするつもりだ。元々自治都市化しているからそれほど問題無いのではないだろうか。
「では、今後の話を満綱と進める事にしよう」
「……承知いたしました」
親戚の六角を攻めるのは忍びないが、このまま近江の国人共を放置するのは土一揆対策などを考えるとよろしくない。そこで俺は、六角満綱と芝居を打つことにした。
近江一国の守護を務める六角だが、江北には京極の不入扱いの領地があり、そこを六角と対峙している時点で幕府の直臣に組み込んでしまう。元は守護不入地なので六角に損はない。
近江の横領した御料・寺社領を返還するように守護に伝えるが、横領して手放さないのは国人領主共なので、結局六角としては履行できないので、近江を攻める事になるが朝敵認定はしない。
近江の国人共を下し、一度接収した状態で領地の整理をし国人共が不当に占拠している土地を回復する。その上で、発給状を将軍から出し、本領以外の接収を今後行った場合、幕府が「賊」として討伐する事を伝える。
その上で、六角には『分国法』の策定をさせる。今川仮名目録的なそれだな。その上で、守護として近江の南半分の領国化を認める。
居城も、近江八幡に『京』型の新館を作ればいいと思うので、助言できる者を派遣する事も約束する。
幕府のある京の目と鼻の先でも、話を聞かない国人や地侍が存在するのだから、先ずは反抗する意欲が無くなるように攻め、その上で権利を保証してやる。その後、六角がきちんと半国を管理し、京同様の街を自分の館の周りに築き、近江の商人や職人を纏めて住まわせることで、「京」を作り上げ、近江を経済的に支配する……というのはどうだろうか。
まあ、坂本・草津・堅田もあり、今浜もあるので何とも言えないが、伊勢から近江にかけての商圏を抑えることが出来るような気がする。
「のりましょうや」
「乗らずば……近江全ては直轄領になるだけよ。国人に突き上げられる事を耐えるか、自分自身で奴らを指図できるようにするか。持つべきものは自分の京であろう」
土地と米だけなら横領するのが最も簡単な問題解決策だが、土地は有限で人の欲には限りが無い。今の問題解決方法では先がないと気が付けば、俺の策に乗るだろうさ。
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