第百一話 渚 ふたりで:大内教弘と大姫真理
第百一話 渚 ふたりで:大内教弘と大姫真理
「我が大姫では不服か?」
「そ、そのようなことはござりませぬ。畏れ多きことにございまする」
大内教弘が正室に俺の大姫『真理』をどうかと今、大内持世に打診中。歴史的には、俺もこいつも嘉吉の乱で死んで、後を継いだ教弘は、山名宗全の影響下に入り、同じく死んだ石見守護の山名熙貴娘を正室にすることになる。一時期大内は衰退するわけです。
ところが、この世界では、俺の娘婿が惣領になるわけで、そのまま九州に攻め入らせたいくらいなんだが、準備はまだまだするからね。
室町第には、娘たちもいるので顔合わせもしようかと思う。宗子も娘の夫が気になるだろうからな。教弘は因みに、尹子と帝と同じ年だ。
席を改め、俺と宗子、尹子そして真理と太郎次郎を大内親子に会わせることにする。
「初めてお目にかかりまする。大内刑部少輔持世にござりまする。
こちらに控えるは我が嫡子、大内左京大夫教弘にござります」
「左京太夫教弘にござります。御台様、姫様、若様、お見知りおき下さりませ」
親子は深々と頭を下げる。
「さて、大樹。この見目麗しき若人が大姫の夫となる殿方でござりまするか」
「左様。新御台と同じ年である」
「まあ、では帝とも同じ年ではござりませぬか。これは、近しい年の方がおらっしゃって嬉しゅうござりまする」
いや、ほら、大御台の宗子ママはかなり年上だから。気にしてるから!
「真理の母です。山口は京と似たとても良い場所だと聞いておりますが、誠でしょうや」
まあ、小京といってもこの京と比べればかなりスケールは小さい。が、冬寒く、夏くそ暑いという事はないと思うぞ。
「山口は西ノ京と呼ばれておりまするが、明や朝鮮からの学僧や商人も訪れまする故、少々変わっておりまする」
「なんと、明人もやってくるのか!」
太郎次郎、子供だからしょうがないね。お前は顔見世だけなんだよ。
「はい。若様も大きゅうなられましたら、山口を訪ねてくださりませ」
「必ず、明人にあわせてたも」
いや、見た目只の坊主だし、五山には結構いるぞその手の坊主。
「九州が落ち着けば、大内も京に滞在するようになる。なれば、大姫がそなたらと会う事も容易になろう」
「それは楽しみなことにござりまする」
「山口は船を使えばさほどの時間はかかりませぬ。何しろ……堺に大軍を上陸させ京に押し入ろうとしたこともござりまする」
「おおこわ!」
いや、それ自虐になってないからね! 大内義弘は持世の父親だし、教弘の伯父なんだからさ。
「これからは東の駿府、西の山口とは船でも街道でも太くつながるようになるであろう。奈良へ向かいのとさほど変わらぬようになるであろう」
「まあ、では花見にも行けましょうや」
「それは無理でしょう」
確かに、ツッコミどころ満載です。君たち、京から基本でないからね。生まれてから死ぬまでこの場所で生きていくのが貴族だから。
大内親子が下がり、家族だけの時間となる。
「お父様、私は山口に行かねばなりませぬか」
まあほら、心細いよね確かに。まだ七歳だろ?
「そうだな。だが、兄弟皆京を出て様々なところで帝のために働かねばならぬのよ。それが武家の務めだ」
「務めに……ございまするか……」
大姫は「あなたはお姉さんなんだから」プレッシャーを受けて育っているので「務め」というキーワードに敏感なのだ。
「鎌倉公方は務めを果たさず、己が欲の為に諸将を惑わせ世を乱した故に処罰された。つまりはそう言う事だな」
「そう言う事でございますね……」
真理は聡い娘だからな。まああと五年くらい先の話だ。
「その前に、九州を平らげ、お前の夫が戦働きせずに済むようにするから安心するが良い」
「……お父様が向かって下さるのであれば、左京様もご安心でございましょう」
左京太夫から『左京様』ね……まあいいか。可愛らしい呼び方であるから問題ない。真理はこれから左京と互いに文を出し合う事にしたという事だ。顔を合わせる事は難しが心を通わせることは出来よう。それに、美しい文を書くのも御台の仕事であるから、よく練習するべきだな。
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