第百話 僕ら:将軍と宿老
第百話 僕ら:将軍と宿老
「この勝負、そなたらの負けであるな」
「……左様でござりますか……」
俺は一回りほど年上の皴だらけの矮躯の男と対面している。年齢、体格、どれをとっても危険はないと思うが、その間には格子が存在する。
「仮に、将軍を弑したところでそなたらが生き残る術は無かったであろう?」
暫くの沈黙、そして小さく「信じべからざる者を信じたが故の失態」と反する。まあ、山名は真っ黒、細川は黒に近い灰色だ。満政辺りも唆したのかも知れないな。貞村は無い。俺の子の伯父だからだ。
最後に丸儲けしたのは山名宗全持豊だったけどな。その芽は取り除かさせてもらう。
「安心しろとは言えんが、将軍が将軍らしくあるためには、将軍を蔑ろにするような大きな守護や管領は不要だ。力があれば覆る政など、政とは言えまい」
「……分からぬことばかりでございまする、大樹のお考えは……」
まあ、そうだな。最初から赤松と山名と持氏は敵とすると決めていたからな。赤松満祐は赤松の惣領として、宿老として最も良いと思う事を志した。とは言え、この時代の武士には「公」の概念は無い。全てが「私」なのだから仕方ないのだ。赤松宗家を豊かにすること以外は余計なことなのだ。
「京を中心に、北九州から関東の西半分まではこれまでにない豊かな国となるであろう。見せることが出来ぬのが本当に残念だ」
「……それ以外の地はどうなると申されますか……」
赤松同様、奥州や東関東、南九州は捨てざるを得ない。何故なら、『公』が及ぶ範囲は京から離れるほど希薄になるからだ。残念。
「帝の御威光を恐れぬ者たちに、恵は行き渡らぬのよ」
「されば、我らも……」
「なに、庶流や国の民は責任をもって幸せになるようにしよう。故に……」
「はい。安心して黄泉路に旅立てまする……」
赤松満祐、好きではないが無能でも臆病でも怠惰でもなかった。生まれた時間が異なれば、良い側近として重用できたかもしれないが……ムズイな。赤松は山名の対抗馬兼抑制役。山名滅びる時赤松もまた衰微する。という事だろうな。
山名を弱めるためには、赤松を弱める必要がある段階に突入したという事だ。
さて、赤松一党は斬首ではなく……切腹とした。まあほら、一応は世話になった一族だから武士らしく死なせてあげたかったんだよ。それと、有馬氏に依頼して満祐一家の菩提をともらう寺を建てさせることにした。播磨の地を見下ろせる六甲のどこかに立ててもらいたい。
――― 六甲ってこの時代あるんだろうか?
さて、今現在宿老会議中。参加しなかった畠山持永・斯波持有はともかく、山名持豊、細川持之、赤松満政が熱いファイトを繰り返している。
「然るに、この度の恩賞が実質美作一国と言うのは納得いきませぬ」
「いや、但馬と備前の交換は大きかろう」
但馬はまだ銀山が発見されていないはずだ。美作備前とセットで瀬戸内海に出られる方がプラスだろう。
「管領殿も大樹のご意向を鑑み、備前攻めに功があるにもかかわらず、摂津三郡のみで納得されておるではありませぬか」
「そも、大樹自ら治罰綸旨を帝に賜り、朝敵として討伐を為された事を鑑みるにどなたもそれほどの功を立てたとは申せませぬ」
「左様、美作一国でも過分というものにござりまする。少々、左衛門佐殿は欲深きお方にござりまする」
はい、その通りです。グヌヌの髭親父の顔が嬉しい☆
「し、然るに!」
「鎮まるが良い。そも、赤松が一党が将軍を弑しようとしたのには訳があろう。九州親征のため兵庫湊を将軍直轄領とすることを打診したところ、考え違いをし、噂をうのみにしあのような仕儀になったのではないか」
「その噂を流したのは……赤入道殿との世間でのもっぱらの評判でございますな。まさかとは思いまするが……」
もっちー のナイスアシストで、心当たりがあるのかまさに顔を赤くし『赤入道』の姿である。お前もか!
「そ、それでは但馬は将軍直轄とするという事にござりまするな。それで、結構でございます」
「左様か。この中で最も得をしたのは山名ではないか。何が不満だというのだ。思う事があれば申してみよ」
「……」
この男は、面と向かって何か言うのではなく、思い込んでいることを黙って実行するから質が悪い。不言実行は格好がいいかもしれんが、政治家は目標を皆に示す事が大事なんだよ。黙って蠢かれると大変迷惑です。
まあ、チクチクとイビッテ野郎。
そのうち、爆発してくれると助かるな。山名の一族も分断し、各個撃破できるように頑張ろう。
これにて第十幕終了です。次幕は『畿内融和』となります。気になる方はブックマークをお願いします。
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