第九話 心はなれて:正長の土一揆
第九話 心はなれて:正長の土一揆
さて、帝は儚くなりました。生まれつき病弱だからしょうがないね。さて、彼の帝には実子がいないので立太子するべき人がいなかったんだけど、伏見宮って人を猶子にしていた時期があったんだよね。でも、ほら、病弱な帝だからナーバスになって廃太子させちゃったんだよね。
それで、小松君が気に病んでいて、その伏見宮さん本人は出家しているから仕方ないけれど、その息子さんを次の帝にって事にしたいんだそうです。まだまだ、若いものには任せられないというわけね。土俵際で足利義満をひっくり返すだけの粘り強さを考えれば、まだまだ現役なわけか。
「でございますので、将軍宣下は……」
いや、いっそ将軍なしでやってみればいいんじゃないかな。まあ、足利義輝とか義昭の頃みたいに滅茶苦茶になるかどうか試してみたい。
「いつでもいい。折角用意したズラが埃を被ってるけど。ゆっくり考える時間が持てるから悪くない」
「今しばらくのご寛恕を」
今日も満済さんは大変そうです。
将軍宣下を貰わないと、諸国にカンパの依頼ができないんだがいいのかね。
とはいえ、正長と言えば一揆だね。将軍宣下で「いっちょやったりましょうか」とばかりに借金踏倒しを仕掛けた奴らが現れます。だから、その酒屋、土倉だってのが払う税金が幕府の財源だってぇの。
代替わり一揆とかいう調子くれのパターンらしい。え、そりゃ暇だから将軍自ら土一揆征伐に出ちゃおうかと思います。本気出せよお前ら!!
「……それはなりません……」
満済さん、またですか。夏も終わり涼しくなってきたので私徳政の一揆を起したんだそうです。確かに、今の時点じゃ新人将軍で奉公衆も付いてこないかもしれないよね。あれだ、代替わりした途端に親父の側近集団にハブられて戦死しちゃう人みたいな感じだね。武田晴信も信虎時代の乙名達に逆らえずに若い頃は苦労したようだ。
「只今、畠山満家、赤松満祐の手勢が対応しておりますので、そう時間もかからず追い散らせるでしょう」
そうなんだよねー みっちゃんが護るからみっちゃんの顔色伺う京の商人が沢山いるわけで、やっぱり武力に担保されない政治力はいくないね。今回はその事が良く分かったという事で納得しよう。
「満済、一つ相談があるのだが」
「どのようなことでしょうか」
「守護の京詰めはそろそろ改める時期に来ているのではないかと思うのだ」
守護が京に集まっているって確かに即応性があるけれどさ、結局、南北朝の時代に京都を追い出されて賊軍にされたトラウマの問題じゃんね。
その南朝方ってもう壊滅したし、そろそろやり方を変えてもいいんじゃ
ないでしょうか。
一つは、将軍が自身と朝廷と京を護る常備軍を持つこと。『番衆』って組織が近衛みたいな仕事しているんだよね確か。それを拡充することで、守護が全員在京する必要性を減らす。
守護は領国に二年、京に一年滞在するとかにしようかと思う。その代わり、京守護代を置くことにする。江戸家老の室町風言い回しだね。この人が幕府と守護と各領地の守護代を繋げる仕事にするわけです。分家筆頭とか、当主の叔父とかが良いんじゃないかな。
管領も斯波・細川・畠山の持ち回りなんだから、在京守護も三年に一度の持ち回りで良いじゃんね。それを繰り返せば、主要街道の不正な関所も排除できるし街道沿いの治安も改善されるでしょ? 江戸幕府のしくみの良いところは取り入れようじゃないの。
あと、嫡子は在京して将軍と仲良くするようにしよう。江戸幕府も嫡子と正室は江戸に住むように定められていたからね。正室はともかく、息子は必ずね。喜ぶんじゃね? 都で勉学や他の子弟と交流できるんだからさ。人柄もみられるし、将軍家としても悪い事じゃない。
優秀な嫡子がある程度元服に達していれば、将軍親征のお手伝いで初陣を飾らせるなんてことも可能だ。将軍に逆らう賊の討伐だから、手伝いとはいえ先手を賜りたいだろうし、手柄を立てれば覚えも良くなり、官位なども授けやすくなる。将軍本隊は傷つかずWin-Winだと思う。
満斎おじさんは「一考の余地がございますな」という。干ばつの後、各領国から年貢の減免の申請が次々と守護にもたらされているのだが、事実かどうかを確認することが京にいる守護達には不可能なのだ。
「一先ず、将軍宣下の後、皆に提案するものとしましょう」
「根回しを頼むぞ」
「仰せのままに」
さて、守護が在京しないとなれば、将軍自身が常備の軍を持つことも問題なくなるだろう。やっぱり、自分の領国で王様然として生活するのって楽しいと思うわけだ。戻ってこない場合? 別に構わないよ。次の手を打つだけだ。