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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
6章:神の眷属に安らぎをもたらせ……
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一方的な暴力

⚠暴力表現があります。


__ピチョーン、ピチョーン……。


何処からか水音がする。途中から目隠しをされていたのでここが何処なのか分からない。ヒロインとまったく同じ(・・・・・・)目に遭ったと仮定するならここは首都郊外に作られた憲兵駐留地の地下牢跡である筈だ。同じなのか少し違うのかは判断できないが同じような(・・・・・)目に遭い似たような施設に捕らわれている事に違いはなかった。


「_…ッ!」


捻ってしまったのか腕が痛んだ。

地下牢の鉄格子の外には松明は焚かれて眩い。牢内にも所々に灯りがあり暗くない。地面はでこぼこで座り心地はよくない。……牢内には古ぼけた寝心地の悪そうなベッドと木製の椅子があるくらいだ。隅の方には薄いカーテンで仕切られたトイレもあった。


「まったく、悪趣味だ!こんな指令を寄越すなんて、ふざけてやがる。」


喚いてもイライラしても何も変わらない事は分かっている。そのうち物を言うのも疲れてきて何もする気がなく、諦めだけが俺の中を支配した。


「………ッ!こんな所に居る暇なんてないのに…」


ヘンドリックの帰還は2週間後、それが迫っているのにこのような目に遭うとは自分で蒔いた種だが本当に呆れる。

どのようにここから脱け出せるのかと思案するが鉄格子は潜れそうにはない、他に出口となりそうな所はない。すると、カツンカツンと靴音が外から聞こえてきた。


「……お前、あの時のリーダーか。」


「君にそんな口を聞く権利など無いのだが。

……縛れ。君には色々と吐いて貰う事があるんだよ。」


無理矢理押さえつけられ、椅子に座らされて拘束器具を付けられる。両手首と両足首の自由を奪われて身動きが取れない。無理に動かそうとすると不自由な為かいつもより疲れ、首や拘束されていないところまで痛んで疲労感が出てきた。


「……答える事なんて何もないよ。」


「いいや、ある筈だ。その事はお前が1番分かっているだろう?」


……エドワード様の事か。といわれても彼とは女性行方不明事件についてしか共有してないし……あ、この連中はそれで口封じに連行したんだった。その事を言おうにも言っても信じてもらえそうにない雰囲気なので口をつぐんだ。


「ダンマリでしらばっくれるつもりか?

呆れた。でも、その虚勢もいつまで続くことか」


「……………」


俺が何も言わない事に痺れを切らしたのかリーダーの男が外に向かっていって、格子の外にいた者に何かを言った。その言葉に外にいた数人の男が下卑た笑みを浮かべながら牢内へと入ってきた。何をされるのかは彼らの態度を見ればなくとなくだが想像できてしまう……きっとヘンドリックが心配していたような拷問の類いが待っている、多分ほとんど正しいと思う。男は鞭や見たこともないが拷問器具と一目で分かるような物を手にしていたから。


「な、何を……」


何をされるのかはだいたいこの状況を見れば察しがつく。しかし、それがどのような痛みを伴うのかまで平和な国日本で育ったシンイチロウには分からなかった。


「言わなくても、分かるだろう……先程までの余裕は何処へ行ったんだ?」


「元から余裕なんか無いよ!だいたい何の権利があって、こんな……」


「そんな口が聞けているうちはまだまだ余裕な証拠だ。お前は他国の大使と通じて国家転覆を謀ろうとした容疑がかかっている。……調べが進んだらいずれお前は凶悪犯だ。」


「そ…んな」


震える声を喉の奥から絞り出した。分かっていたが今回は完璧に俺の選択ミスだ。(今まで後藤や他人に任せきりだったのでそもそも)滅多にない失態に後悔するシンイチロウ、脱力してしまったのを見たリーダーの男が目を細めて何か指示を出していた。


「やれ。」


多分そう言ったのだと思う。

その一言を合図に、男達が俺の身体に鞭を打っていく。俺は咄嗟に“身体強化魔法モドキ”を使い、ひたすら耐えた。本来は筋力を一時的に強化させる戦闘補助系魔法の劣化版ではあるが効果はあったのだと思う。痛くて泣き叫びたくなるけれど思ったほど痛みはなく、こうして打たれながらもある程度現実から目を背けるように思考の波に飲まれる事も出来た。


「……_クゥ…痛、い…」


「吐け、お前は何を調べようとしていた!何を大使に渡そうとしていた!」


「………………」


言える訳ないじゃないか…敵に情報を渡せる訳ないじゃないか…。

男達から降り注ぐとても避けられそうにない鞭打ち、だけど言う事なんて絶対に出来ない。


「もう一度聞く。お前は、何を何のために調べ、何をしようとしていた。大使とは何のために通じていた。答えろ。」


「………ヒィ、何も…答える事、なんて…ない…」


ビシリ、ビシリ…鞭の風を切る音がする度にシンイチロウの体力は疲弊していく。

耐えて、耐えて、耐え抜いてそのうち痛みに慣れてくると打たれた所に熱が生まれるのが煩わしく感じるようになった。息をするのも苦しく、時おり大きく荒く吐く。


「早く吐け、お前がこのまま我慢し続けても何も得なんてないんだぞ?世間は案外薄情な奴ばかりだ、疑惑を持たれた時点でお前は終わりだ!」


「伯爵だってお前をクビにするだろう。」


「早く、早く、話せ。」


更に強く打たれて、一方的な暴力と悪意に曝されたシンイチロウの身も心もズタズタに裂かれていく。

終わりのない拷問に疲れはてていた。


「何も…何も、ないんだ。」


シンイチロウの言葉は段々と弱々しくなっていく。先程から同じことばかりを繰り返し、落とすのも簡単だろうと見ていた。


「何もなくない、早く言え!」


リーダーの男が、シンイチロウの襟首をつかんで拘束された椅子ごとシンイチロウは立たされた。


「何も、何も知らない…むしろ…いや、何も知らない。」


言葉で脅しても無駄だと思ったリーダーの男がシンイチロウを突き放した、シンイチロウはそのまま身を庇おうとしてバランスを崩し、でこぼこな地べたへと倒れこんだ。ぶつけた膝や腕が鈍い痛みを出す。


「そうか……どうしても話さないならこれを__」


先程から後ろの方に居た男が前に進んできた。手には見たこともない拷問器具を持っていた。_丸みを帯びた細長い棒のようなもの、シンイチロウにそういう方面の知識が無いのでどのような恥辱を与える道具なのか見当はつかないが、鞭よりも痛いのは明らかだった。


「_ヒッ!」


小さく悲鳴をあげて抵抗しようとするが拘束されていたので牢内に金属音を響かせるのみであった。リーダーの男がシンイチロウに説明しようと器具を見せつけて顔を近づけてきた時に外が騒がしくなった。


「どうした……!」


「た、隊長!それは最終手段でしょう。それよりもそろそろ任務の時間が……」


「チッ…!もうそんな時間か。シンイチロウ=ヤマウチ、明日は首を洗って待ってろ。絶対に何を隠しているのか吐かせてやるからな。」


隊長と男達は憎々しく見ながら去っていった。

今日は助かったのか、シンイチロウはそう思って安堵した。

__バシャッ!

先程リーダーの男に話しかけていた男に拘束を解かれた後、冷水を頭から浴びせられた。


「……ここには風呂が無いんだ、身体を清めておけ。」


……だからと言って急に服の上から水をかけるのは酷い。

でも、そう言って暴力が飛んでくるのは嫌だったので、大人しく渡されたタオルで身体を拭いておいた。鞭で打たれて夏を帯びていた背中には冷水はとても気持ちよかった。


「ありがとう……」


「礼を言われるような事なんてしていない。

お前はもうすぐ罪人だろう。お前が自白するか、隊長が罪の証拠さえ握ればそうなる。

……それと、これは飯だ。」


男はご飯をおいて出ていった、粗末なあまり美味しそうではないご飯。鑑定してみたが、特に何か仕込まれているわけではなかったので食べた。


「……クソ…何、俺は安心してるんだよ。後2週間なんだぞ、残されているのは。」


…そうか、ここに証拠が残っていないか確認してみよう。証拠は何も外側から手に入れられるものでもない、内側からも手に入る。

シンイチロウはここから何かを発見し、ゆくゆくは出られる機会を待つ事とした。








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