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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
6章:神の眷属に安らぎをもたらせ……
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性悪メイドの過去と企み


あたしの人生、本当に今までクソだった。

あたしは生後まもなくメスリル伯爵領のとある村に捨てられた。捨て子で『名前はエリスと言います』と書かれた紙切れ1枚と共に藁の上に捨てられていたそうだ。

拾った義理の両親は中々子宝に恵まれなくて、あたしを神からの贈り物として大事に育てた。__実の子である義妹が生まれるまでは……。

_ただの拾い物は疎まれた。あ、拾い者の間違いか。でもあたしの扱いなんてきっとそれくらいだったと思う。

こんなありふれた村など飛び出してしまいたかった、でも幼い彼女にそんな事など出来る筈もなく耐え忍んでいた。__あの日までは。


「これあげるよ」


この言葉がきっかけだった。誰が言ったのか忘れた(きっと覚える必要など無いくらいの細事だったんだろう)けど、その誰かは玩具をくれた。

今まで渇ききっていた彼女の心に水が注がれた瞬間だった。あたしも物を欲しがっても良いのか、しても良いんだ、そういう感情が生まれた。最初は認められたような気がして純粋に嬉しかっただけだった、物をもらう度に…止めどない無限の欲望が生まれるようになっていった。


「もっと、もっと…もっと欲しい!」


やがて、貰うだけでは飽きたらなくなった少女は、まず義妹の物を盗むようになった。あの忌々しい義妹の顔が歪むのは見ていて面白かったが、それもすぐに飽きてしまった。だったら他の人から盗めばいいじゃないと何事にもネガティブだった少女は世間一般から見ると間違った方向のみポジティブに考えだし、少女の周りの人間の物が無くなる事が多くなっていった。


「これでもぉ、一度もバレた事はないのよぉ」


少女はスリの才能があった。もし疑われても別の人間に罪を擦り付けた。少女は誰にも知られる事なくスリの達人となっていたが、少女はそれでも物足りなかった。

少女は物足りなかったが、他人から奪うものなどもう無かったので我慢していた。それが変わったのは今年の6月の事。


「え……メスリル伯爵家で使用人を募集している……?」


少女エリスが育ったこの忌々しい地を治めるメスリル伯爵家が使用人を雇い始めた。メスリル伯爵家は貧乏の代名詞と呼ばれるほどに貧困だった筈なのに……そう思いながらも何か面白そうな予感がしたから少女は応募して採用された。


「初めまして。あたし、エリスと言いますぅ。」


伯爵家には冴えない容姿の使用人シンイチロウとその叔父のヘンドリックが居た。2人とも動物みたい、ずんぐりむっくりとしていて熊と牛みたいだった。

彼らは伯爵やその一家から信頼されているみたい、ムカつくな……羨ましいな。その立場、あたしにくれないかしら…疼きに堪えられなくなった彼女はそう思うようになった。


「そうだぁ、向こうが辞めてくれれば良いじゃないの♪あたし、あったま良い!」


そう思ったメイドの彼女は“シンイチロウ解雇作戦~プランA~”に乗り出す事とした。

まず、なんでか知らないんだけど何かに怯えていた従僕のシャウムヒルデを脅して、彼を辞めさせようと思ったの……!ノイローゼに追い込んじゃえばと思って、足を引っ掻けたり色々手を尽くしたんだけどアイツ、何なの……全然辞めないんだけど!

シンイチロウは辞めなかった。いいや、慣れないこの地で自ら生計を立てていくのは“魔法モドキ”しか持っていない彼には厳しい、そしてこの家から離れがたくなっているという彼自身の考えからだったのだが、他人のエリスにそんな彼の事情など気づける筈もなく彼に嫌がらせを続ける事しか出来なかった。


「そうだ、何かアイツの弱味を握ればいいじゃん!」


そう思って聞き耳を立てて彼の化けの皮を探っているとヘンドリックと話す彼を見かけた。


「ヘンドリック……お前、お前は“ゲームの女性行方不明事件”と一体どんな関わりがあるんだ。」


『きっと、ゲームのシナリオ壊して解決する事が私を天上世界へと解放する条件なのかもな。私は側にいるから救うべき人物としてあてがわれただけだ、きっとそうだろう。』


「本当にそうなのか……?お前、本当は“この件”ともっと深い関係があるのではないのか?」


『そんな訳ないだろ、そ…んな…わ、訳、ない。シ…ンイチロ…ウ、お前は真犯人を捕まえるのに専念すればいい。』


テンジョウ世界が何か分からなかったけれどヘンドリック、彼と“女性行方不明事件”を探ろうとしている事だけは分かった。

職務怠慢を伯爵に訴えてやろうかしらと満足して戻ろうかとしていると_透け始めた。ヘンドリックの姿が確かに透け始めたのだ。


「今の、何……」


どうもその後の会話を聞く限り、ヘンドリックはもう長くは居られないのだという。じゃあ、後はあのシンイチロウさえと思うのだが、彼は苛めてきた私に対して『……すぐではなく、もう少し猶予をくれないか。そうしたら私は居ない者になるんだから。貴女が手を汚さなくてもそのうち思い通りになるから。』と言った。……本当に意味わかんない。

その夜、シンイチロウとヘンドリックはエレノア様を呼んで何か話そうとしていたのでチャンスだと思って盗み聞きしようとしたんだけど失敗した(ヘンドリックが用心の為に防音魔法を使ったので聞こえなかっただけ)。私、耳は良い方だったんだけどなぁ。


「本当にムカつく!」


そのうちシンイチロウとヘンドリックは、曖昧な理由で休職したのでエリスの欲求不満は続いた。

休職した日の夕方、買い物から帰ろうとしていたエリスに声をかける2人組の男が居た。


「お前、メスリル伯爵家の使用人か?」


「ええ、そうですけどぉ。」


「……シンイチロウ=ヤマウチについて知っている事を話せ。」


「ええ?でもぉ、まだ一月しか勤めていないですしぃ詳しい人柄とか知りませんよぉ?」


エリスは遠慮するように言ったが、内心歓喜していた。この目の前の男、怪しげだがただの荒くれ者ではない……エリスの直感がそう告げていた。


「それでも構わん、話せ。」


「えっとぉ…仕事のスピードはまぁ遅いですかね。そして、じ、実はあたし……彼にいじめられてるんですぅ!」


「それは醜悪な男だ。彼が怪しげな事を何か話していなかったか?」


「えっとぉ……行方不明事件が何とか言ってました。」


男の顔が変わった。何の成果も無かったのかという眼から使えそうだという価値を持った眼になる。男は話を聞き終えてから満足した顔になり、『これからも情報をよろしく。』そう言うとサッと居なくなった。


「アイツ、何やらかしたのか知らないけどラッキー♪」


闇が深い、そう思った。あの男に関わるのは危険な綱渡りだが彼らの狙いはシンイチロウだ。エリスは鼻歌を歌いながら帰路を急いだ。


「何が起こるのかしらぁ」


エリスの心は何年か振りに心の底から笑った。

__メスリル伯爵家に憲兵が来たのは、それから1週間と少し経った頃の話だった。






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