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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
6章:神の眷属に安らぎをもたらせ……
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新たな火種


__天上世界、復興した稲穂や湖の姿を見てミラーナは満足そうに微笑んだ。


《ここもようやく平穏を取り戻した……後は、あの女さえ介入してこなければ完璧だ。》


焼け野原になって荒廃していたこの地を復興させるのにどれほどの時間を有したか。アマテラスは管理者の中でも強い、それに比べてミラーナの強さはそれほどだ。会社に例えるなら彼女は専務クラスでミラーナは課長クラスぐらいの差がある。


『僕は、早く彼を戻さないとな。その為には……指令、そろそろ出さなきゃ。』


彼を踊らせる舞台はもう準備している。後は彼が踊るのみ。そう思ったミラーナが鼻歌を歌う横でオティアスが不機嫌な顔をしている。


『君、やっぱり何か企んでいるだろう……?だって、何故この件(・・・)を彼に解決させようとしている。これ(・・)は彼じゃなく“ヒロイン”が10年後に解決すべきシナリオだろう。昔の贖罪の気持ちなのか知らないが、彼にこれ以上長居してもらっては困るなどと言いながら何故だ。ヒロインほどの運の良さなどかつての彼ならいさ知らず、今の彼にはやがて活躍するだろう彼女ほどの運の良さは望めない。解決には時間が掛かるだろうのにね。』


『別に何も。オティアス、彼に試練を与えるべきじゃない?彼はこの世界に居たいと思い始めている、これは厄介だ。彼には生きていようが死んでいようが向こうに帰って貰わないと困る。

……だからこそだ。彼がこの世界に居たいと思わせないようにこのシナリオをあえて選んだ。』


『ふーん、そうかい。

まあ、別にそれはいいけどさ、彼の周りには随分と火種があるねぇ。』


オティアスは下界を眺めながら言った。

決してミラーナに賛同した訳ではない。だがミラーナの世界には攻撃できたり華やかな魔法がない分、人間達がどういう行動を取るのか予測しきれない所がある。オティアスにはそれが堪らなく面白かった。彼が四半世紀前とは真逆にゲームのシナリオを壊そうとしていようが、面白さがあればオティアスにとってはどうでもよかった。__この世界を壊しさえしなければ。

下界に居る山内信一郎の元には随分と騒がしい不穏な空気があった。あのエリスという野心を持ったメイド、帰還の時が近づきつつあるヘンドリック、前世の記憶を思い出そうとしている行方不明の侯爵令嬢、ヒロイン側のパトロンとなる予定の妖しいナショスト公爵夫人、彼が湖から見てとれるのはこの辺りだった。


『人間なんて欲深い生き物だ。』


『それは僕らも変わらないと思うけどね。プログラムされただけとはいえ僕らも人間と同じように思うべきと設定されている、あの方にね。

……で、まさかとは思うけれど彼にゲームシナリオを解決させるだけで済ませる気?それじゃ面白くない。』


オティアスは嫌な笑みを浮かべる。仮にも神と呼ばれる存在が見せるとされるような清廉なものではなく、黒い黒い権力者の嗤いだった。


『何する気?これ以上あの方に目をつけられたくないんだけど。』


『大丈夫、これは山内信一郎に対する試練、この世界へ未練を残さないようにするためのね。ほら、もっともらしい大義名分などいくらでも思いつくだろう?』


『まあ、そうだったな。』


フフと2人は微笑み合う。これを人々が見たなら10人中10人が清らかで優しく、甘い慈愛に満ちた笑みと答えるだろう。

湖の上に立って、彼らは爽やかな風を受けた。少し離れた場所にはこの世界を制御する装置達が鎮座している、アマテラスの襲撃で最低限の機能を除いて使えなくなっていたそれらは黒々としたボディーを光らせていた。


『で、どうする?あの火種の中のどれを利用する?公爵夫人?メイド?それとも侯爵令嬢?どうするの、ミラーナ君。』


『公爵夫人、彼女は劇薬過ぎる。メイド辺りにしておこうか。』


『侯爵令嬢は?』


『彼女はどちらかといえば味方になりそうだね。侯爵令嬢アング、彼女もまた面白いけれど彼女はもしものための安全弁の役割でもしてもらおうかな。だって、メイドが敵になるならエレノア嬢だって敵に回る可能性も高いんだから。だから彼女はもしものための彼の受け皿。』


『そうだね、味方くらい必要だもんね。』


どうせなら3人まとめてなどとオティアスは思ったが、今の彼に3人相手は厳しいかと納得した。ミラーナは機械を弄ってから、腕の白い腕輪に力を充填し始める。その力に反応して湖にいくつもの波紋が生まれ、小さな波を生んでいく。手の平に力が集まり、身体に力が馴染んできた頃にミラーナは呪文を唱えた。


『__この地の統治を任されし管理者ミラーナ=ルチアメロウが命ずる。我が名において、山内信一郎に乗り越えられる試練を与えよ。彼は、きっと大事な人との別れを経験するだろう。彼は、大切な恩人と引き裂かれるだろう…未熟な彼にどうか試練を与えたもう。』


バリバリと轟音が轟き、激しい閃光と熱風が吹いて赤い蝶が産み出された。紅い蝶はそのまま湖に潜っていき、メスリル伯爵邸にいるメイドのエリスの中に潜り込んだ。


『……はあ、酷いな。僕から言っておいてなんだけど、彼は生き残れるかな。あっちこっちボロボロで、アマテラスの呪いがジワジワ侵食している。せめて、自我だけは保てるように……お願いね。』


オティアスはこっそり青い蝶を産み出してフーッと息を吹いて、山内信一郎の元に飛ばした。

__紅い蝶は人々に不幸をもたらし、蒼い蝶は人々に安寧をもたらす、この蝶がどのような結果を下界にもたらすのかは彼らにも分からない。


『……ま、彼はきっと大丈夫だろうけど。』


2人のどっちが発したのか分からない言葉。

__ゲームシナリオの破壊を望むミラーナと面白さを求めるオティアスのこの行為がシンイチロウを不幸にすることを彼らは知るよしもなかった。いいや、思いもよらなかったのだろう。………『管理者とは神にも悪魔にもなる』これは眷属ヘンドリックの言葉であるが、彼のその言葉は案外正しいものであった。なぜなら、彼らは気紛れ屋さんでコロコロと主義・主張を変えるのだから。


_______


ドクリ…何か不穏な空気がしたのをシンイチロウは感じた。自分が抱く不安が産み出したものかと思ったが、生々しい感覚が彼の中にあった。


「今の、なんだったんだ……?」


『どうやら、ミラーナ様はお前に試練を与えたようだ。嫌な紅い蝶があの女の周りを飛び回っている。お前の周りには蒼い蝶が飛んでいる……つまり、これはあの女が何か仕出かすから気を付けろっていうサインなのかもな。』


近くに居たヘンドリックが言った。彼の顔はとても真剣で嘘など言っていないような真摯なものだった。にしてもミラーナ様、俺はこれでも手いっぱいなのでこれ以上の鬼畜展開は止めてください。メンタルはやられっぱなしなんですから。


「はあ、もういいや。

それにしても、俺さ次の指令がどんなものなのかなんとなく察しがついてしまったんだよね……。聞いてくれる?」


『私もなんとなくだが察しはついている。まあ、とりあえず聞こうか。』


シンイチロウは昨日付の新聞を取り出してヘンドリックに見せる。そこには『女性行方不明事件、無事解決!』とデカデカと書いてある。

『数ヶ月前から続いていた女性行方不明事件が解決した』と世間一般はこうとした取らないだろう、だがシンイチロウは違った。


「いや、だってさ……これ、10年後にヒロインが解決する筈なんだよ?今頃出るヤツじゃないのに……だって、ここにある迷花草(めいかそう)を使い廃人にするって手口、まんまあの“王の集い(KINGCLUB)”とぶつかる前のイベントの導入部分にそっくりなんだが!

……“王の集い(KINGCLUB)”絡みかぁ、あんまりゲームに関わりたくないんだけどな。」


『………そうだったのか、それは知らなかったが私もそちら絡みかとは思っていた。』


ヘンドリックは神妙に頷いた。彼ほど気楽にこの事を語ることは出来ない。そのゲームの因縁とやらで息子を失っただけでなく、“迷花草(めいかそう)”はヘンドリックが関わった陰謀で利用された麻薬だったから。


「しかし、ミラーナ様の真意も読めないけど俺のこれからもどうなるんだろうな。」


『それはあの使用人達の事か?それならば気にせずにいたらいい。ミラーナ様も案外、あの女に紅い蝶をやることでお前の忍耐力でも鍛えようとしてくれているんじゃないか?』


「おいおい、そんな方法でか?というか俺が言いたいのはそうじゃない。

この世界の人間だって生きているんだな。俺は大切な事を見落としていたのかもしれない。漫画やゲームで描かれていなかっただけで、彼らは生きている……ある程度分かっていたつもりだったけれど俺は分かっていなかったみたいだ。この間、行方不明になる前に舞踏会でアング様に会ってそう思った。」


『クライム侯爵令嬢か……。そろそろ、行こうか。また、あの女に睨まれるぞ。』


「ああ、そうだな。」


メイドのエリス、彼女が何故俺を嫌うのかは分からないけれど出来る事なら事を荒立てずに仲良くとは出来そうにないが、それなりの関係になれたらとシンイチロウは思った。

部屋を出て、下に降りた時に胸元のガラケーが音を鳴らした。きっと指令が来たんだ、シンイチロウはそう思って恐る恐るぱかりと開いた。


《5つ目の指令、“迷花草(めいかそう)”の撲滅。

クリア条件、女性行方不明事件の真犯人を逮捕。救うべき人物、ヘンドリック=オンリバーン》


「なっ…………!」


指令は自分の予想した通りだった。だが、救うべきはヘンドリック……全くの予想外でシンイチロウは間抜けな声をあげてしまった。


「おい、ヘンドリック………」


『おい、何そんな鳩が豆鉄砲喰らったような顔で私を見てくるんだ。何が書かれていた……ん?』


ヘンドリックは携帯の画面を見つめてから笑った。表面上は何事もなくしているようだったが、シンイチロウには内心とても驚いているのが感じ取れた。この男との付き合いももうすぐ1年になろうとしてきているので気づけたが、全身脂汗だらけだろうのによくここまで隠せるなと感心してしまった。


『私を救う?救うべきは他に居るだろう。』


ヘンドリックはそう言ってスタスタと歩いていった。シンイチロウは後からそれを追いかける事しか出来なかった。

__ああ、火種が多いこの世界で彼はどのようにしてこれからを過ごしていくのだろうか。






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