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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
5章:乙女の友情を取り戻せ!
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プライバシーって……


昼、エレノアがカフェでパンケーキが食べたり、嫌味を言われていた頃、シンイチロウとヘンドリックの2人は浮気男イワンの尾行をしていた。


「今のところ普通だな……。キャサリン様とデートして……なんかこんなところまで見て悪いな」


『仕方ない、あの男の正体を暴くためだ。』


申し訳ない気持ちになりながらも尾行を続ける。元の世界ならば、ストーカ!なんて言われてすぐに警察呼ばれていただろうけど、ここはまだストーカという概念自体が存在していない。

ここで、あの男の朝からの行動を言っていくと……朝7時起床→7時半、朝御飯→8時、パジャマから着替えて読書→10時、庭のバジルに水やり→11時、少し早めの昼御飯→12時、予習勉強→12時10分、外出用の服に着替え始める→12時20分、家を出る→13時、キャサリン様と合流→イチャイチャデート!←今ココ。


「やっぱり申し訳ないな………千里眼(クレヤボヤンス)とかでバンバン覗いて、プライバシーのプの字もない」


『そんなので申し訳なく思ってももう遅い……少年から情報をもらった昨日から、あのイワンとキャサリン嬢については張っていた。

今更申し訳なく思っても遅い。それに、プライバシーの侵害と言われても証拠はないだろ、私達を裁ける法律は無い、心配などするな……お前が罪に問われる心配など無いのだから。』


「そういうんじゃ………」


バレるかバレないかじゃないんだけどな……。俺が言いたいのは、申し訳なくて心が痛むという事なんだが……いや、良心の呵責も感じているんだけど、何なんだ……あの2人を見ていると無性に腹が立ってくる。そりゃ、略奪カップルだからな。でも、それだけではない……昔、似たような想いをしたような……。


『何をそんなに般若のような形相をしているんだ?お前、顔のパーツのせいで厳つく見えるんだからあんまり拗ねた顔すんな。笑ってた方が、お前は善人に見える。』


「余計なお世話だよ……なんかあの2人を見てたら妙なイライラを感じるんだ、ただそれだけ!」


『まあ、出来た理由が理由だからそう感じるのだろう。』


いや、だからそれも違うんだよ……。

思い出した!初恋のあの子にラブレターを渡して、その場で捨てられて……ああ、そうだ。その後に『私、クラスの〇〇君と付き合ってるから』確か、そう言われたんだ。あのイワンという男、その名前も忘れた恋敵に似ているんだ。確か、奴は爽やかなサッカー部のキャプテンで容姿端麗、成績優秀、クラスの人気者……ここまで思い出せるのに名前を思い出せないとは……よっぽど恨みだけが凝り固まっているようだ。イワンも奴に似て、軽そうなすぐに女に声をかけてフタマタも何マタもしてる風貌だからか。学園で見た時には、タニア様とキャサリン様の仲直りが可能かを吟味するのに必死で気づいていなかったが、シンイチロウは潜在的にこの男とは分かり合えないなと感じた。

___そして、シンイチロウは唐突に思い出したその苦い思い出にソッと鍵をかけて蓋をした。

目線の先で繰り広げられるイワンと彼女のイチャイチャを眼にする度にシンイチロウのトラウマが抉られてイライラが募った。


『そうだ、シンイチロウ……これは昨日の2人の予定、簡単に纏めておいた。』


「どれどれ……」


《イワンの予定

朝7時起床→7時半、朝御飯→8時、パジャマから着替えて学園へ(そのまま学園にて生活)→17時、帰宅、その後宿題をする→19時、夕御飯→20時、風呂→21時、読書→22時、就寝

キャサリンの予定

朝6時半、起床→7時、朝御飯→8時、学園へ→18時、帰宅→19時、夜会に行く→22時、帰宅→23時、就寝》


なるほど……まあ、学園にてイチャイチャしていたが、動きに目立った何かがあったわけではないという事か。


「じゃあ、引き続き偵察が必要という訳か……。つうか早く終われ!あんなに公衆の面前でイチャイチャしやがって!ああ、もう!この信一郎様が予言してやる、将来絶対黒歴史になるもんね!」


『将来ではなく近い将来だろう?タニア嬢と仲直りさせるにはあの男の事は排除しなきゃならんだろ。元凶はアイツなのだから。

__ああ、2人が移動したぞ。急ぐぞ。』


2人が足早に移動する。

まあ、タニア様とも婚約はそろそろかねぇと言っていた頃なのであの2人は婚約してもとやかく言う人はあまり居ないだろうけど、事情が事情なのでしばらくはヒソヒソされるのだろうからそれに対しての対策なのだろうと思った。

2人は、雑貨などを見て回った後に少しして別れた。どちらを追おうかと迷ったがイワンの化けの皮を剥がすのが目的なので、彼の方を追った。


『キャサリン嬢の方はテイムでそこら辺の動物達にやらせておけば良い。あの男…っ…を追うぞ…。なるべく早くしないとな。』


ヘンドリックの顔色が心なしか悪い。

ここのところ無理させ過ぎたか?それに、こんなに彼は線が細い人間だったか……?


「……おい、大丈夫か?」


『大丈夫、大丈夫だから……』


________


彼の後を追った。

彼は、夜に差し掛かっている夕暮れの繁華街へと進んで行った。ヘンリーに案内された、貴族の出入りも激しいと噂の例の裏通りにある、あの時覗いた店よりも遥かに高級そうな娼館。多分、気軽には行けないだろう場所にあのイワンという少年は惑うことなく行った。

中に入る事は出来ないので千里眼(クレヤボヤンス)を同調リンクさせて2人で覗き見た。


「やあ、女将……Mrs.brownieミセス・ブラウニーよ、“ミーシャ”は居る?」


「ええ、居ますよ?」


彼は店の女将と話している。

そして、そのまま奥の座敷へと通されていった。ミーシャという少年が言っていた女もそこに居るのだろう。しかし、慣れているな…あの歳でこれとは、先が思いやられる。思いやるほどシンイチロウは彼と親しくないし、思いやる立場でも無いのだが……。


「ああ、ミーシャ……僕の大輪の薔薇……」


「あら、イワン様……今宵もいらっしゃって。そんなに毎晩、毎晩来られては私の身体が持ちません………。」


「毎晩だなんて。3日ぶりに会えて、嬉しいんだから……そんなに茶化さないで」


ヴェールの向こうに、そのミーシャという娼婦が居るのだろう。声は艶っぽく、紅を引いた唇の両端を上げた。

ヴェールが払われて、彼女の顔が露になった。

その顔は艶があり、瑞々しく艶やかな肉体、ほっそりとした腕や脚……薄い生地で作られたドレスを着て、薔薇と言われるのも分かる、分かるのだが……よくイタイセリフを言えるな、シンイチロウが思ったのはこうだった。


「そういえば、キャサリン様とおっしゃる可愛らしい御方と一緒にいたとか……それなのに私の所などに居ても良いの?」


「あんなの貴女に比べれば……」


「まあ、女の子は大切にしないと……」


「友人から僕を取って、勝手に恋人面しているだけのツマラナイ女だ。」


「そう……ねぇ、キャサリン様よりも良い令嬢など沢山居るでしょう?例えば……噂では、カウンテス伯爵の妹御など、大層美しいと言いますが、彼女などは……」


「貴女に比べれば、まだまだ子供です。」


「彼女なら良いと思ったのだけれどねぇ。イワン様は私の大事な大事なお客様……幸せになってほしいのだけれど」


彼女の言い方は上手かった。

慎ましく、気遣うように聞こえる。シンイチロウはその場に居なくて良かったと胸を撫で下ろした。“ミーシャ”という女は口を使うのが上手く、多分その場に居たなら完璧に呑まれていただろう。覗き見ているこの状態でも、シンイチロウはこの目の前の女を悦ばせたい、そのカウンテス伯爵の妹御に手を出せば彼女の気を引く事が出来ると感情をわずかながら動かされていた。


「いつになったらお客様から貴女の横を許されるのですか」


「そんなの…私は卑しい身です。貴方様と同じになれる筈など……もう少し女性を喜ばせる方法を覚えてくれたなら考えても良いかもしれませんね。」


「僕、頑張ります。だから__」


その後2人は__。

何時間か経って情事の余韻が残る室内で、しなだれかかるミーシャの顔に口づけをして、イワンはこう言った。


「僕は、必ず貴女の横に立てる男の中の男になってみせます!」


イワンは服を着ながらそう言った。

ミーシャはボタンをとめている彼の後姿を三日月のようにニンマリしながら見ていた。


________


『“ミーシャ”か………イワンもそうだが、彼女も調べないといけないな。カウンテス伯爵は確か、ナショスト派だったな……もしかして彼女が、彼をけしかけているのか?』


「ノマモフ男爵が派閥のフタマタかけてるのか、それとも向こうに依頼されたと見られる“ミーシャ”が男爵家と関係なくイワンを誘惑しているのかって所だろうな。

ああ、ヘンドリック……寒いしそろそろ帰ろう。5月とはいえ夜は冷える。」


考えるのは明日にしたい。ここ何日か北の1件ほど露骨に心も身体も疲労を感じる訳ではないが、数ヶ月ぶりに身体が疲れる。

身体を休ませて、明日へ備えたい。


『そうだな……では次からは、しばらくはキャサリン嬢の方ではなく、あの2人の方を重点的にしよう』


「ああ、なんか今日はストレスが溜まる日だった。」


それにしても、こういう力に頼らざるを得ないのは分かるが、やはりプライバシーの侵害をしているのではと疑問に思った。それ言ったら、ラッキースケベに度々主人公に見せつけるヒロイン達や俺よりも魔法を“モドキ”ではなく正確に使える奴らなんて犯罪し放題だよな…と納得させた。

……ああ、どっと疲れた。早くベッドに寝転びたい。足早に急ぎながら、夜の街を2人は歩いていった。





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