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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
5章:乙女の友情を取り戻せ!
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貴族の大変な所


4つ目の指令……それはまさかの恋愛系のモノであった。当初関わる予定の無かった俺だったが、指令であるが故に渋々この不得意分野へ挑まざるが得なくなった。


「……で、どうするの?やることは、あの2人の友情を取り戻す事だから……あの2人から互いの主張を聞くこととその仲違いの原因となった男がどういう奴なのか……今のところ思いつくのはその2つだな」


『そうだな、何事にも情報収集は重要だ。

私は男の方を調べる、だから君達はそのタニア嬢とキャサリン嬢の言い分を聞いてきてくれ。』


ヘンドリックが意外とやる気があることに俺は驚いた。しかし…やっぱり恋愛系の事は苦手だと少し気が重くなった。

ヘンドリックが居なくなってから、アイツも経験値が同じくらいなのに大丈夫なのかと不安だらけになったが、そういえば俺達2人も似たり寄ったりなのでそっちの方が心配だとげんなりした。


「じゃあ、私達も行こうか……この時間だからきっと2人とも学園だね。ちょっとシンイチロウ、何そんな顔してるの!2人の仲直りは貴方の為にもなることなんでしょ!」


「そうだけど……なぁ今からでもヘンドリック様を追いかけて変わってもらえないかな、お前もあんな本を参考にしているくらいだ……多分経験値そんなに変わらないだろ、それだったらヘンドリック様の方がまだ人生積んでるから頼りになると思う。」


エレノアはうっと小さい声を上げて視線をさ迷わせた。そして、やや機嫌を損ねた顔をして俺の手を引っ張っていった。


「なあ、王立学園ってどういう所なんだ?行った事無いから、ちょっと聞きたい。」


機嫌の悪さを少しでも和らげる為に、適当な話題を出した。


「……はぁ、一応学園OGなんだけどあんまり良い思い出は無いかな。男子は役職就くためにっていう立派な理由があったけど、女子は婚約者探しとマナーのお復習みたいな理由……惰性でズルズル進級してた感じがする、それに今回の件みたいな事なんて日常茶飯事とは言わないけど程度が小さい事は1週間に1回くらいのペースで怒ってたからね。あれは怖かったなぁ」


「そうなのか……」


エレノアの話を聞くと、学校なのに大奥みたいなイメージを受けてしまう。別に男が上様しか居ない訳でもないんだけど、男を盗り合うという点では似ている気がした。

なんか俺の苦手そうな場所だ。

しばらく歩いていると、王立学園に着いた。少し首都から外れた南の地にドンと存在していた。城……いや、目の前にちょっとスケールの小さいベルサイユ宮殿があるみたいな感じだな。物凄く金がかかっているのだけは分かった。


「そんなキョロキョロしないの、田舎貴族みたいよ!とっとと話聞いて帰るわよ、あまり長居はしたくない場所だから。」


「何をそんなに怒ってるんだよ……まださっきの事怒ってるのか?」


「そういうんじゃない。この問題を解決しないとまずいのは貴方だけじゃないの、私だってそうなんだから。」


学園はまだ昼前の授業中で、もう少しで昼休みだとエレノアから説明された。

隅っこの方で時間が経つのを2人待っていると、ようやくその時間が来たのかチャイムが鳴った。まずはタニア様から話を聞くことにして、行き交う生徒達に所在を聞いてタニア様に会った。


「彼にもう未練なんて無い……そんな事よりも新しく相手を探す方が面倒なのです!」


入れ替わったエレノアとして、前に茶会で会った時と比べると彼女は若干やつれていて、眼には涙の跡があった。


「えっと、じゃあキャサリン様について何か思うところは……?」


「彼女に関して言うなら、特に何も……。私だって以前同じような事をして、人を傷つけた身ですから。友人だったのにという気持ちが無いわけではありませんけど、私もそんな事に構っていられないほど忙しいので。こうなったら、後数年の内に相手を見つけるか、それが出来なかったなら宮廷に上がるのみです。」


「随分ドライね……」


「エレノア様、エレノア様はご自身の幸福など考えた事も無いのでしょうね!貴女は恵まれている……私達が居候になれば、冷たい眼を向けられるだけ……貴女のように笑ってなどいられないんです!」


タニア様は言いたい事を言ってから『昼御飯を食べるので失礼します』と言って立ち去っていった。


「おい、エレノア………大丈夫か?酷い言い方だな、あんなのだから愛想尽かされるんだ。」


「だ、大丈夫。貴族令嬢なんてそんなもの。タニア様は状況が状況だから、つい爆発しただけよ。私はもうそろそろ嫁ぎ遅れと呼ばれるような年齢に近づいてきた。いや、もう嫁ぎ遅れているのだろうに楽しているように見えたから怒ったのかも、あまり彼女の事を悪く言わないで。」


お前も貴族令嬢じゃないか、そう言いかけたが黙った。しかし、貴族も大変なんだな……エレノアがいつだかに『夜会に来てる令嬢がハイエナに見える』などと言っていたが、それもこういうお相手探しに熱を燃やしすぎていたからだったのかとその情熱に呆れると同時にあまりのパワフルさに圧倒された。

エレノア曰く、嫁ぎ遅れた令嬢に残されたのは宮廷で女官になるか修道女か居候しか残されていない。そして、こういう現象が起こるのはたいてい下級クラスか中堅層の貴族子女達、雲上人の婚約は案外幼少期に厳重に決まるので少ないのだと言う。


「まあ、持参金ほぼ無しの不良物件と比べると彼女達はまだ人気もある方だから相手くらいなんとかなるでしょ。

はい、次はキャサリン様の方よ。こっちもこっちで面倒な予感がするんだけど、行こうか。」


「はいはい。」


キャサリン様に抱いているのは、この先ちゃんとやっていけるのかは分からないが、うまく親友から男を掠め取った方というイメージだ。

キャサリン様は優雅にお茶を飲んでいた。隣には、男性が2人居る。1人はきっと件の男で、もう1人はその友人か何かなのだろう。


「エレノア様、何か?」


「えっと、タニア様と仲直りする事は出来ないでしょうか?」


してくれないと私が困るという続きの言葉はグッと飲み込んでエレノアは切り出した。


「……向こうが勝手に拗ねているだけですわ。

でもお陰で、私も素敵な方に……」


と男性の1人にすり寄った。どうやらそっちがお相手さんなのだろう。


(変に拗れているな……というかこの男。アイツ、金八じゃないか……!)


その男、お相手ではない方の男性に見覚えがある。ミロ=サスナ=レッドヒート、ゲーム攻略対象の熱血系の学園教師じゃないか……!少し顔が幼いが間違いない。でも、ここでは関係ないので澄まし顔をしてエレノアの後ろに控えていた。

やがて、エレノアはこのまま話していても埒が明かないと話を中断させてやや怒りぎみに学園から出ていく。


「おい、何があった。」


「キャサリン様、タニア様と仲直りなんてしたくないって言うのよ?するとしてもあのイワンという男と結婚してからなんて言うのよ!そんなの何年掛かると思ってるのよ!」


しかし、お相手さんの名前はイワンと言うのか。金持ちな男爵家の嫡男で、顔良し金もある……聞いた所では優良物件だが、性格に難ありという噂だ。


「面倒な問題……」


タニア様は忙しいので構っている暇がない、キャサリン様は向こうが勝手に拗ねているだけと言う。拗れているなとプンスカ怒っているエレノアをなだめながらシンイチロウは面倒なモノに関わってしまったと思った。


_______


その頃、ヘンドリックはと言えば……。


『しかし、この問題……彼女達の問題ではなさそうだな。』


昔の経験から言って、ただの問題ではなさそうだと思っていた。思い当たるのは、派閥争いの延長線上の出来事か。

タニア嬢とキャサリン嬢はナショスト公爵夫人の閥に居る。一方、あの相手のイワンとかいう男の方は中立と見せかけているが、彼女よりも対立する閥に近いようだと、千里眼(クレヤボヤンス)やテイムで動物達に探らせて分かった。


『ああいう連中は私など入れてくれないだろうな、ここは知り合いを訪ねてやろう。』


ある程度情報は手に入れた。

だが、1件くらいは話をこの姿で聞いておかねばシンイチロウ達にサボリだと思われ弁明が面倒だと思って、アベルの所に行く事にした。

広間に通されて、椅子に座ってから周りを見回した。この室内に居るのは、アベル、フェルナンド、マリア、エドワード……他にも幽霊が1人居るがそれは無視しておこう。宮廷に明るい者は居る、話は聞けそう。そう満足していると何の話だと、アベルに眉を動かして問われる。


『イワン=ニコライ=アイリス=ル=ノマモフについて、あるいはノマモフ男爵家について知っている事を教えていただきたい。』


「それを何故、私達に?」


アベルは警戒した様子で問う。彼の気持ちは分からなくもない、かつて貴族社会に居て痛い目に遭った彼は北の地にいるトールが息子フェルナンドに男爵位を譲った事を快くは思っていない。彼は私が彼らを煩わしい世界に引きずり込もうとしていると警戒しているのだ。


『お前達が心配しているような事などしようとしていない、ただ彼や男爵家にどのような印象を持っているのかを教えてくれれば良い。それ以外、何か手伝ってもらおうなどとは思っていない』


「ヘンドリック様…ノマモフ男爵家、ですか……?かの家は中立な立場と言われていますが、最近はクライム侯爵と仲がよろしいという噂が。でも、子息はナショスト公爵の閥の令嬢と婚約したとかなので信憑性は低いかと。」


フェルナンドがアベルを庇うようにして言った。

マリアは黙っている、彼女はシンイチロウが光と共に現れた事を知っている人間なので私も怪しい同類と思っているのだろう。


『じゃあエドワード、君はどうだ?彼かあるいは男爵家について。』


「う~ん、宮廷に出入りするけど結構人と顔合わせるからねぇ……そのなんとか男爵の顔なんて覚えていない。まあ、中立気取って派閥のフタマタなんて珍しくもない事だよ」


そのエドワードの後ろで幽霊のヘンリーがやかましく怒っているが、それは無視してアベルに聞く。


『アベル、もしも君ならどうする?

この中で1番の年長者に聞いておこうかと思って。派閥なんて面倒、頂点に立っても良いことなどないと思ってそうだけど。』


「貴方はまるで上に立った事あるような言葉ですが。……そうですね。上に立っても苦労しかない、生半可な覚悟で挑んではいけないと思いますが……。私が男爵なら、エドワードの言う通りにフタマタ掛けて、優勢な方に味方しますよ。」


『変わったね……君も。

ありがとう、参考になった。』


話を切り上げて、玄関の方へと行く。

まったく、かつての彼ならそうは答えなかっただろうに、時の流れも運命も残酷だ。

私が出ていこうとすると、アベルとエドワード、ついでに幽霊のヘンリーも見送りの為に来てくれた。


『忙しい時に失礼した。』


「あの、貴方は………」


アベルは困惑した顔で言いかける。その続きの言葉はヘンドリックには心当たりがあった。__『貴方は私が知っているヘンドリック=オンリバーン侯爵なのですか?』彼はきっとそう聞きたかったのだろう。知り合いだったからか口調がいつもと違ったものになってしまった。


『アベル、私は君には火の粉は降りかからせない。むしろ、君が注意すべきは私よりそこのエドワードの方じゃないか?ナクガアの大使をしょっちゅう家に上げるなど、そちらの方がフェルナンドの為にならない。

……そんな事していたら君がまた悪徳宰相…もう宰相じゃないから、悪徳ジジイかな、そう呼ばれる。』


「注意しろだなんて酷いな……」


大使の仕事が暇だなんて嘘だろう。

今はどうでもいいが、もし今後彼の悪巧みに関わることとなれば……まあ、良いかと出ていった。

クライム侯爵絡みかと悩ましげに頭を回転させてメスリル伯爵家に戻っていった。






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