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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
4章:冬の旅行に指令は無いが、災難あり。
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この世界の魔法事情


夕方、一面焼け野原となった冬の大地を歩く。呆然とこの光景を見つめる老人がトボトボと歩いていく姿が物悲しい。銃弾は町を廃墟にして、瓦礫を積み上げ、その瓦礫も粉砕されて、町並みに残るのは、城から見渡せていたあの綺麗な表通りくらいだ。


「俺らがあんな眼に遭っている間にこんな事に……」


戦乱など映像世界の話だったシンイチロウは呆然とこの町並みを見つめていた。

黒幕となったあの曰く付きの教団の幼い教祖もこの光景を見ていたが、彼の瞳が何を映しているのかはシンイチロウにも分からなかった。彼はとても手が掛からない子供であった、動くなと言われれば動かずじっとしていて、ひどく言えば子供らしい元気さなどとは無縁の弱々しい存在だった。シンイチロウは手の掛かる子供だったので、それを見て複雑でどのように反応してよいのか分からなかった。

屋敷に着いて、少年の身柄はトール様に引き渡される事となった。彼がどうなるのかはシンイチロウには分からないが、彼も被害者である。酷い眼には遭わないだろう、誰か信頼できる者の元に引き取られる事となるというのが、トール様の意見だった。


「あの!あのオリンさんに似た御方は一体どなたなのでしょう!」


「ちょっと待って、シンイチロウ…人に心配かけておいて謝罪もないの!?」


エレノアとゴンザレスがうるさい。

でも話せない。俺だってあの現象を完全には飲み込めきれなかった。……だって、式神さんと戦ってから召喚されて、更には別世界の神様と共に異世界に呑まれかけていましたなんて言っても信じられない、まさにファンタジーの世界の話だろう。


「色々とすまないと思ってるけど、多分首都に帰ったら、エレノアも同じセリフを吐かれると思うぞ?」


とりあえず話をすり変える。

ゴンザレスには適当に納得させるような話をして、なんとか引き下がってもらえた。目茶苦茶不審がられていたけど、まあOKだ。問い詰めて来なければそれでよしとしよう。

………いや、今思ったんだけれどもそもそも式神さん×2&アマテラスの侵入を許しているミラーナ様の管理体制は一体どうなっているのか…いや、絶対に管理システムに欠陥があるとしかどう贔屓目に見ようとしてもそうとしか見えないのだが。


「あの、ちょっと2人共…私を忘れてない!」


ああ、そうだった……事情を飲み込めるエレノアにどういう事なのか説明をしてから、ヘンドリックに聞きたかった事を聞いた。


「なあ、この世界には魔法は無いんだろ?じゃあ、アマテラスのあの現象は…“魔法分子”とか意味不明な単語が飛び交ってたあれは一体何なんだ?教えてくれ……」


『それは__』


ヘンドリックの説明を纏めるとこうだった。

この世界には魔法は使えないようにしている。だが、魔法を使うためのエネルギー源の“魔法分子”は空気中に漂っている。所謂魔法使いと呼ばれる者達はこの魔法分子を集めて身体の中で精製して魔法として体現している。かつてはここや日本など以外のどの世界にも魔法を使える人間がいたけど、魔法を手に入れた人間は管理者《神様》に届こうという野心を手に入れるくらいに強大となったので、不都合に思った神々による話し合いで、人間がこのまま強くなろうとするなら魔法自体使えないようにする、引き下がったなら魔法を神に近づこうと野心を抱かない範囲内で使えるようにした。この世界や日本などは、引き下がらなかった人間達の世界だという。キリンが木の上の葉を食べるために首を伸ばしたように、人間が四足歩行から二足歩行へと進化した………その逆の方法で、何世代もかけて人は魔法を使えないように退化していった。これが我々が魔法を使えなくなった所以だという。


「じゃあ、なんでアイツらは俺らを召喚したり出来ていたんだ?」


『それはな、それはそれで複雑な事情なのだが……』


「何なんだよ……」


ヘンドリックは説明を続ける。

エネルギー源“魔法分子”が未だに漂っている理由、それは酸素のように人間に必要不可欠であるから。だが、魔法分子は困った性質を2つ持っている。1つ目は人の強い想いに反応してそこに蓄積するという性質だ。そして、2つ目はあまりにその想いが歪んでいると魔法分子そのものの組成が変わって黒魔法など良くない魔法のエネルギー源“黒魔法分子”に変わってしまうこと。この場合あの狂信者達の熱狂的な信仰心に引き寄せられて教会辺りに溜まっていたらしい。それが、いつしか“黒魔法分子”に変質していたという事らしい。それがアマテラスの時空魔法に歪みを持たせたというのが真相だ。


『私も眷属になってそう時間が経っていないから詳しい原理などは知らん、魔法原理などはまだ学んでいないんだ。この間まで自分が使える魔法の種類すら知らなかったくらいなんだから。』


「あー、そう。……頭をこんなに使ったのは学生以来かもしれん。なんか魔法というよりは化学みたいだな……組成だの、分子だの」


『……おいお前、会社員をして父親の秘書も経験して、おまけに国会議員だろう?政策論争とか、権謀術数などでも頭は使っただろう?流石にそれは言い過ぎじゃないか?』


「……そういうのは政策秘書に任せてたから、俺は難しい事を考えるのは苦手なんだよ。」


ヘンドリックの目が点になった。

その反応を見て、俺は恥ずかしくなったり、この間まで自分がそうだったのだと懐かしさを感じたりと内心複雑な想いになった。

エレノアはスウスウと寝息を立てて寝ている。


「なあ、男2に女1はヤバくないか?いや、娘くらいの歳だし手を出すとかそういうんじゃないんだけど、ここってそういうの厳しいんじゃない?不味いだろ。」


『フム……それもそうだ。いや、すっかり感覚が鈍っていて考えもつかなかったが言われてみればそうだ。

シンイチロウ、私もお前に話がある。場所を変えよう。』


________


ヘンドリックは、誰もいないだろう部屋に身軽な身ごなしで入って俺を招き入れた。


『……話というのは、お前の心についてだ。』


「俺の心?いや、メンタル面なら心配しなくていいぞ。」


深刻な面持ちで話を切り出したヘンドリックに俺は軽口を叩いて返す。


『そうじゃない。お前は、ここに残るつもりはないだろう?いつかは帰る……。

実は、お前に言いそびれていたのだが、管理世界には異世界転移者だけに作用する瘴気がある……多分、魔法分子の仲間か何かで白血球みたいにこの世界を守る目的で創られたモノなのだろうけど、それは徐々に…徐々に、心を蝕んでいく。』


「おい、マジなのか………それは。」


ヘンドリックは重く頷いて、掠れた声で話を続ける。


『お前がその瘴気に蝕み始められているんじゃないか、私はそう思えてならないんだ。』


「おい!いくら、歳上で眷属だからと言っても怒るぞ!俺は、心を病んでなんていないさ!」


静かだが、重く厳しい声にシンイチロウの顔からも楽観的な表情が消えた。そして、自分が狂人になり始めているのではと言われた事に無性に腹が立って声を荒らげた。


『いや、私だって根拠もなく君を侮辱するような発言をしている訳じゃない。

例えば、バトル漫画の主人公は戦いに早く慣れて次々と強敵を倒していくだろう?初めは戦うなんてなどと言っていた主人公が、その巻の最後には敵を倒すのを苦とも思わなくなっている……あれと同じ現象が君に起こっているのではと言いたいんだ。

君は、曰く付きの屋敷で彼女の心を壊した時、とても後悔していた……だが、屋敷に着いてから人形姿の私の件でドタバタしたとはいえ、彼女に行った事など口では何とも言えるが、心の中ではもう無かったも同然になっているのでは……読心術など使えないが、そう見えたもんでな。』


「………そう言われても。」


棒立ちになって動けないシンイチロウにヘンドリックは眼を伏せて、『お前をここまで悩ませるつもりはなかった……』と申し訳なさそうに言う。


「……でも、お前が言う通りなのかな。

人を殺したのに、俺は罪悪感を抱いているとは言えない……あの刺客にも家族はいたかもしれないのに、助かって良かった、日本に帰りたいという気持ちの方が罪悪感に優るんだ。」


『シンイチロウ、それは人として当たり前の感情だよ……私の勘違いだったんだ、気のせいだったんだ、だから今の話は忘れてくれ。

お前を不安にさせて済まなかった、済まなかったな。』


感情を失いつつある自分はそのうち生きる上で大切な何かを見失うのではとシンイチロウは漠然とした不安に襲われた。


「そんな事はない、ヘンドリック……」


『だが、もう1つ問題がある。

この姿なんだが、私はアベルに会ったときどうすればいいんだろうか……彼は、生前の私を、この姿の持ち主の事を知っているから。』


今のヘンドリックは生前の姿に戻れている、式神の作った異空間での偶然だと思うが。だが、そこで問題は起きる……。彼が死んだのは、約半世紀前。__つまり、厄介な事に生前の彼を知る存在がいるのだ。例えば、首都ランディマークにいるアベル=ライオンハートがその1人だ。


「なあ、世の中には似た人間が3人は居るって言うんだぜ?俺の親父にもな、ドッペルゲンガーがいたんだ!だから、世の中には似た人間が3人は居る……こう言えばなんとかなる。」


『フム、そういうものなのか?』


「そういうものだ!」


ヘンドリックにそう言って部屋に2人で戻った。


_______


帰りの馬車で…眠い、眠れなくて眠いが欠伸をしながら外の景色を眺めて居心地の悪さを感じる。


「旅も終わりか………」


「そうだな………」


そう欠伸をして、今度は屋敷の方を眺める。

トール様がこの暴動後の処理に3ヶ月ほど掛かるので胃が荒れそうだと胃薬を飲みながら言っていたのをボーッと思い出して苦笑した。

頭の中には、ヘンドリックのあの推論が残っている。いつかは帰るが、それまでに正気を失えばどうすればよいのか、もしこの利己的な帰還欲求が倫理的な感情を失わせているのだとしたらどうしようとシンイチロウは不安に感じてブルリと震えた。


(俺は、大丈夫なのか……?)


眼に涙が浮かんできて、鼻水をズルズルと言わせていると外が騒がしい。

__まるで行きのあの石を投げる領民達を思い出させるような罵声がシンイチロウの耳に届いた。






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