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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
4章:冬の旅行に指令は無いが、災難あり。
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俺が初めて人を殺した時

残酷な表現があります。


見たくない方は回れ右をお願いします。












__マルチウス帝国北方のマナセイン伯爵領の屋敷に巻き込まれる形で滞在する事となったシンイチロウは早朝5時頃、何かの物音を感じて目覚めた。ガラケーを確認すると時刻は5時11分だった。


「こんな時間に何なんだ………」


最初、オリンか誰か違う使用人なのかと思ったが使用人の始業時間は午前6時半だとこの屋敷では決まっていて、まだ早い。


「ヘンドリック……誰なんだ?」


『……暗くてよく見えんが、この屋敷の人間ではないようだ……』


「なんだよ、それ……もしかして屋敷に誰か侵入したのか。」


眉を寄せてから声を潜めて問うと、『それはあり得ない事でもないだろう。』と面白そうにヘンドリックは言った。

呪われたという称号を持った事もあるし、何かあってはいけないと思ってシンイチロウは言う。


「何笑ってるんだよ!笑い事じゃねぇよ。……念のため、嫌だが見に行くぞ。」


『うん、分かった。』


寝ぼけ眼をこすりながら、もそもそと布団から出て、簡単に薄いカーディガンを羽織ってからソッと人影が居ると言われた方向に向かって歩いていった。

灯りが微かに燃えて、薄暗い朝5時の事…石造りの廊下をこっそりと歩いていく。誰も起きていない、廊下を歩いているのは私と胸元のヘンドリックだけ。


『どうやら人影は3階に向かっているようだ…人影は2つほど、階段を昇っているみたいだな。シンイチロウ、相手は武器を持っている可能性が高い……だから、“これ”を持っておけ。』


「剣だな……自衛のために仕方ないか。」


物騒な物をと心の中で思っていると、その様子を見たヘンドリックが呆れたように言った。


『お前、人を殺す事も覚悟しておけ。お前が今まで、殺人を犯さずにすんだのは奇跡に近い。だが、いつまでもそうでいられるとは限らない。……お前の住んでいた平和な国とは違うんだ、ここは。ここは、戦争こそ起きてないし殺人は見つかれば罪に問われるが、剣が身近で死も“ニホン”よりも近い存在、それを覚えておけ!』


「ああ、分かった……」


ヘンドリックの言葉に気圧されながらシンイチロウは震える手で装飾のない剣を握って、ゆっくりと音を立てないように歩いていくのだが、現実味のない重さにゾッとした。

__自衛の為の殺人と、良心の呵責の間で迷う。どちらを優先すべきなのだろうか、答えが出てこない。日本に帰る、それは優先すべき事だ……だが、その為に人を殺しても構わないのだろうか………?


「おい、この階段の上か……?本当にこっちなのか、随分静かなのだが。」


『こっちだ、間違いない。3階の領主の私室、そこが目的のようだ、走れ!』


言われた3階の私室の方向に急いで走る。ガシャガシャと小さな金属音がして、音のした方向に急ぐ。


「……入るぞ。」


ノックなしに扉を開け放つと、そこには老人と黒ずくめの人影が3人分あった。老人がなんとか刀を受け止めているが、殺られるのも時間の問題だ。


「お前、何者だ。」


「お前も領主の私兵か!」


「殺れ、殺れ!」


黒ずくめA、Bがこちらに向かってくる。Cは老人を相手にしながら、器用にも命令をしていた。

向かってきた殺意を、腰が引きながらもなんとか刀を受け止める。


「あ、あ…」


先程のヘンドリックの言葉がいよいよ現実感を帯びて襲ってくる。


「……助太刀に来てくれたと思ったら、随分役に立たんのが来たな。ゴホ、ゴホ!」


咳き込みながら敵の刃を払い除けていく老人に呆気をとられながらも『間抜けた顔してる暇はない、避けろ!』とヘンドリックに怒鳴られながら攻撃を避けていった。


(なんで、俺は…避けきれているんだ……?)


奴らの剣筋など、一切見えていない。

なのに、身体が勝手に動いてさらりと避けているのだ。


『お前は、ミラーナ様の祝福を受けている。だから、怪我を負おうとも死ぬほどのものは負わないようになっている筈だ!』


ヘンドリックの言葉を理解できていたかも後になって思い出してみれば怪しいがこの時彼はそう言ったのだと思う。

無我夢中で剣を振り回す、だが素人のお遊びなどプロには通用しない。押し退けられて跳ね返された。


「……くっ、こんな…所で…。」


息が荒くなって、死の恐怖に顔がひきつった。


「死ね、軟弱な領主の犬。」


声から男だという事が分かった。体格からも何となくそうだと思っていた、最後の足掻きとばかりに睨み付けた。


「おとなしく死んで、たまるか!」


剣を男に目掛けて突き立てて刺す。剣は男の胸の真正面を貫いて、剣を伝って血がボトボトと落ちてきた。


「……うぐっ、うぐぐ。」


吐き気を堪えて、嗚咽を漏らす。


「人を殺すのは、初めてか?いや、その反応なら初めてだろうな……おい、立て。

はじめまして、私はアルト=グラティエ=ル=マナセイン、領主代行をしている。」


「シンイチロウ=ヤマウチ、メスリル伯爵家の使用人です。」


「そうか、シンイチロウ君というのか……」


刺した時の感覚がまだ残っていて、ぬるりとした血の感触が手にこびりついてぬぐってものかない。剣の斬撃を受け止めた痛みや罪悪感は感情が高ぶっている為かあまり感じない、まるで現実感がなくて自分が犯した罪について感覚が麻痺したかのように感じた。


「…とりあえず、君はもう…部屋に戻りなさい。」


「は、は…はい……」


3人の死体が転がった部屋で老人は平然と言った。それが怖くて、コクコクと頷いて部屋に戻ってゆっくりと息を整えて、汗とどす黒く変色し始めている血でビッチョリと濡れた服から着替えて外に出る。


「ヘンドリック…俺、俺は…人を、人を殺した。は、は、こんな事仕出かして、俺はどうしたら良いんだよ………!」


『……フム、そうだな。

だが、“ニホン”に戻れたとしてもそれを知る者は誰もいない。そして、お前を裁くのはマルチウス帝国の法律だ、“ニホン”の法律ではない。つまり、つまりは…お前の罪を知る者がいないのなら、黙って胸にしまっておきなさい。今は、忘れなさい。』


「うう…俺は、俺は…」


ただそこに怯えて震える事しか出来ない。

命を狙われた、あれは正当防衛だ。理屈では分かっていたが、まだ手には刺さった時の感触が残っていた。


「部屋に戻っていなさいと言った筈だが…?」


振り向くと領主代行のアルトの姿があった。手には、血を吸った剣がある。


「外の空気を吸いたくて……すいません、すぐに戻ります。」


「……そうした方がいい、まだ敵が潜り込んでいるようだからな。あの後も数人捕まえた。」


「アルトさん、貴方は病を患っていると聞いたが……?」


掠れた声の老人に問う。彼がギブアップと言うので、ここに戻ったという経緯があるのだが、目の前の老人は声は掠れて咳を時たましているが身体は元気なように思える。


「確かに、薬を手放せなくなった。私はこれでも元軍人だ、数人くらいなんとかなる…だが、近頃は侵入が多くて、さすがに身体も衰えてきたし、伯爵に戻ってもらい、策を講じる段階に入ったと思ってな。」


「………はぁ。」


“光輝く奇跡”はそんな過激組織だったかと頭をひねりながら考えたが、話を合わせる。


「シンイチロウ君、君…気をつけてくれよ?あの連中は危険だ、まだ潜んでいるだろうだから戻りなさい。」


「あ、はい。」


言われた通りに戻ろうと部屋のある建物の方向を向いて、戻ろうとした時に『おい、シンイチロウ!後ろ!』というヘンドリックの声がして振り向くと、潜んでいたと思われる黒ずくめが1人居た。こちらに向けて剣を向けてくる黒ずくめに対してアルトさんが黒ずくめの袖をつかんでから剣を向けて、払い小手のような感じに剣を弾いてから降り下ろす。

黒ずくめは逃げようとこちらをつかもうとしてくる、それから逃れようと城壁から前のめりになってしまい、横に避けようとした所バランスを崩して、シンイチロウの身体は城外へと落下していく。


「うあああああああああ」


この高さから落ちたら、間違いなく助からない。上を見上げるとアルトさんがこちらに向かって手を伸ばしながら何かを言っている。だが、もはや何を言っているのかも理解できない。色も音を失い、聞こえない、そして視界がゆったりと暗転していく。

__こんな所で、あんな事を仕出かしてまで助かろうとしたのに、家族に看取られずに死んでなるもんか!

そう思ったりもするが、自分に起こるだろう死を想像などして、恐怖ゆえに眼をぎゅっと閉じて身体を硬直させる事しか出来なかった。

__身体はゆったりと、ゆったりと下降していく。その先に待ち受けるのは__。





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