策を考えよう!
日本円にして1億円もの借金を完済できる見込みのある所まで減らせ、神からの指令を受けてなんとか策を考えるのだが………。
「いやいや、そもそも無茶だ!だいたい元手もないのにどうする。」
俺、山内信一郎自体お金に困った事はない。それに自分の専門は経済や金融分野ではないのだ…。
マルチウス帝国に限った事ではないらしいが、貴族とは面倒なものでお家断絶等にならない限りは貴族を辞められない……借金がいくらあろうとも破産すら出来ない。貴族の法律を全て知った訳ではないが、俺が出した案は全てトール先生に『それは無理だ』という一言でバッサリと切られた。
だからと言って諦めてはいられない。膨大な伯爵家に残された本と格闘しながら答えを探す、そこに答えが存在するとは限らないという事実には眼をそらしながら。
「ねえ、お父様から聞いたけど……ウチの借金を完済しようなんて崖から飛び降りるような無茶な事を考えているんですってね?」
考えている俺の所にそう言って近づいてきたのは俺を助けてくれたメスリル伯爵令嬢のエレノアである、性格は何処か冷めていてつまらなさそうな歳の割りに物静かな女性である。個人的に言えば、顔面偏差値も中身も申し分ないと思う。金髪碧眼、シミ1つない白い肌……まさにフランス人形のように精巧な顔立ちをした彼女は愛想さえ良くすればである……まぁ、中身46で既婚者の俺とどうこうなるなんてそんな都合の良い妄想は考えていない。さらに夢のない事を言えば、法律の壁は厚い、ベルリンの壁並みに……たとえ紙面上の約束事であったとしても、妄想が叶った時の事を考えるのは怖すぎて縮み上がりそうだ。
そんな彼女が行き遅れだの言われているとは世の中は実に不公平だと思った。だが、俺はこの国の首都ランディマークの街に出て答えを知った。__この世界の顔面偏差値はハイレベルなのだと言うことに、特に貴族はそうであるらしく彼女は大したことないとか……これで大したことないとは地球は、いや我が世界の人間あるいは(我々にも分かる美意識があるのか分からないが)宇宙人は負けている……!
ああ、日本の事を思い出して泣きそうになってしまう。
「そうしないと、家族の所に帰れないんだ。
無茶だと笑いたいのなら笑え、でも俺はあの若造を見返さなければ死んでも死にきれん。」
「………変なの?ウチの借金と貴方の家族と何の関係が?」
エレノアはこてんと首を傾げる。
ややこしいから適当に誤魔化すが、怪訝な顔をされる。なんか孤独な気持ちになる。ここの人々は皆優しい……だけど自分のこの気持ちを完全に分かってくれる人は誰1人としていないのだ。死んでいない…生きているから会おうと思えば会うことは出来るのに異世界という異なる次元に居て俺は彼女らと会えない事を寂しく思うのだ。
「__で、何かアイデアは出た?」
「ああ、この家にはずいぶんと絵があるようだな。その絵を展示して個展を開くんだ、その時の入場料で借金を返していく……どうだ?良い方法とは思うが。」
日本の話だったか、イタリアだか何処かヨーロッパの他の国の話だっただろうか。ある貴族はそうして借金を返したというような話を本で読んだような気がする事を思い出したのだ。
「ううん、良い方法だと思うわ。でもウチにあるのはもう皆ほとんど名前も忘れている方達の絵よ。それに、ウチには使用人が貴方しか居ないの、応対できる人がいなければ個展を開けないわ。」
「ああ、そうか……そうだな。」
エレノアの指摘で俺の案はまた却下された。
人手不足からなんとかしていかなければいけないのか、借金以前の問題だ。なんかパァーッと解決できる方法はないのか……異世界に行けるくらいなら青い猫型ロボットの居る22世紀にでもタイムリープも出来たら良いのに、そう頭の中でこの世界の神様ミラーナに悪態をついた。
「それと、その言葉使いは直しなさい。」
「……はい、分かりました。」
「それでよし!」
柔和に優しく微笑んでエレノアは囁いた。
自分でも気づかないうちに言葉使いは戻ってしまう、意図したものではない。こちらに来て1週間、俺は適応力はそれなりにあると自分で思っていたのだが、案外そうではなかったという事を学んだだけだ。………46にしてそんなしょうもない事に気づくことになるとは思わなかったが、また1つ賢くなったとポジティブに思っていよう。
「あっ……!ねえねえ、人手不足も借金も全てを返す方法は一応存在するよ?」
イタズラな何か善からぬ事をたくらむような笑顔で彼女は言った、何なのか……そんな美味しい話が存在するとは思えないのだけれども。
「それはね____。」
「そ、それは……!」
確かに彼女が出した方法は確かに合法的で手っ取り早い方法とも言えた、ただそこに行き着くまでにとてつもなくハードルが高いという難点が存在する……だけど不自然ではない方法だった。
その方法を聞いた時に突然視界がぼやけてきてあることを思い出した。
____それは、女房と共に家出した今年高校3年生となる娘の真理と交わしたほんの少しの情けない親父の記憶であった。
作者都合にて、土曜日に更新します。