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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
3.5章:神々の間では……
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こうして眷属は人形になった


暗く沈んでいくような感覚が続いて、意識が朦朧としていく中で、何者かに救われてふわふわと浮かんでいる感覚が次に襲ってきた。

__どれくらい眠っていたのだろうか。何故かやたらと身体がスースーとして、寒かったので眼が覚めた。


(確か、あのミツキとかいうふざけた式神に変な技を繰り出されて……それから、何が起こったんだったか………?)


“闇に包まれし死《ブラッディミツキ・スペシャル》”なる技を繰り出され、辺りが闇に包まれてそれに呑まれた所まではぼんやりと思い出す事が出来た。手に聖剣を持ったまま頭を押さえて考え込む。


『睡眠時間はもうとっくに過ぎましたのよ?__さあ、眠るように死ね。』


脳天をつくような痺れと痛みに襲われて、のたうち回っているうちにミツキは消えていった。


_______


__そこは古い屋敷だった。

あの山内信一郎が泊まっているいわく付きの屋敷でもない、マルチウスで使われているような白い街屋敷とも違う、繊細さや優美さなどない殺風景な外観の4階建ての古城。

__懐かしのオンリバーン侯爵邸だった。


(あの式神、一体何のつもりだ……)


多分これは、あの式神が見せている幻影なのだろう。妙に生々しい物を触った時の感触を感じながら進んでいく。長い、長い夢だ……幽霊に、眷属になってからは睡眠も食事も排泄も何も必要なかった、物に触れても感触は上手く感じられず、このような鮮明な感触は久しぶりの事だった。

2階の書斎には、誰も居なかった。相変わらず、生前と変わらずに本が乱雑に置いてあるのみだ。

ミツキはどこに行ったのだろう、その答えを求めて階段を上り続けた。そうするより他になかった、出口など存在しないし生物の匂いや気配すら感じられない、どこにいても感じられる生の雰囲気がここにはないのだ。

気が遠くなりそうなほどの長さがあった階段を上り終えて、4階の見晴らしの良いバルコニーへと行く。

人影を察して、自然と剣を握る手が強ばってくる。


「……居たか!」


再び、手にしていた聖剣をぎゅっと握りしめて、剣を構えてから斬りかかろうとした。_が、すんでの所で止まってしまった。


(何故、何故お前がここに………!)


私と同じくらいの背の艶々とした黒髪の中年男、その眼はこちらを鋭く怜悧に睨み付けてくる。


『何故、ここに私が……そんな顔をしていますね__親父。』


「お前は四半世紀前に死んだ、そして今は新たな生を歩んでいる筈だ。ここに、この時代にお前がいる理由などない。

そう思うのは、当たり前だ。」


声が震える。

__そこに居たのは、もう死んだ筈の息子ショーンだったから。


『死んだ、死んだか!確かに死んだ、でもこうなったのは全て親父のせいだ、親父が踏ん張っていたら私は死なずに済んだ!』


「そうか、それは済まなかったな。」


いや、ちょっと待て。なんか怒っていたようだから反射的に謝ってしまったが、よく考えたら謝る必要あるのか……?

いや、確かに息子が死んだ理由の1つを作ったのは私だと思う。それは認める、だけど死んだのは私ではなくミラーナ様が世界に干渉したからであって、私のせいではない……のかなぁ。


『チッ!貴方を恨んでいるのは、私だけではない。アベルも、ヘンリーも……皆、皆貴方を恨んでいる!』


「ああ、え、うん。いや、もう死んだし恨まれた所でどうしようもないと思うのは私だけか?」


『うるさい!』


「お前、親に向かってそんな口の聞き方を!というか、私はお前を舌打ちをするような子供に育てた覚えはありません!」


『あの、少しは自分のした事に責任感じてくれませんか!貴方が闇に呑まれた尻ぬぐいをしたの、私達なんですから!』


「あー……まぁそれは悪かったと思ってる。」


何の話をしているのか分からない方々に言っておこう。

半世紀以上前、我が故郷レミゼ王国で悪巧みをした某御方がいた。それを止める為に、私は死を選んだ。結果的に、その闇は表舞台から無かった事として封印されたがその先に起こったのは、私が全てを人々に明かさんと証拠を託していた盟友の謀殺と息子達にそれを背負わせてしまったという罪のみだった。

そう、たとえそれが大きな原因ではなかったとしても、死の原因の1つであることに違いはないのだ。


「それは、悪かったと思っているよ……たとえ、何があったとしても私は自ら明かすべきだった。それは分かっている。」


『私が聞きたかったのは、その言葉だ。__これでやっと、”闇に包まれし死《ブラッディミツキ・スペシャル》”を発動できる。』


「__ぐっ!お前、息子じゃない……いや、それは分かっていたが、まさかお前本人とはな!」


ショーン、正確にはショーンに化けていたミツキが黒い靄を集めて何かをしようとしている。


『今更気づくとはショーン君も可哀想に、こんなマヌケが父親で。ああ彼も貴方に似て他の事にうつつを抜かしていたから死んだんだった、親子共々マヌケもツラいね。』


ミツキの顔が歪む。馬鹿にしたように、こちらを嘲るように、私を見ていた。


「ふ…け…な……ふざけるな!

私の事を馬鹿にするのは、いくらでもしろ!だが、息子を馬鹿にするのは、それだけは止めろ!」


頭が沸騰していた。先程まで息子を騙っていたミツキの罵倒で身体も、心も冷えきっていた筈なのに頭だけは燃えるように熱くて沸騰していた。


___ザクリ!


物凄い速度で動いてミツキを切った。

切ったのに感触がしない、先程までは感じていた筈の鮮明な重みも、何もない。いや、これは彼女が造り出していた幻影だから感じられていた、そうだと分かっていても先程までが現実で、今が非現実な気がして怖くて震えながら何度も何度も刺した。


『ふん、愚か者め……。

式神は簡単に死んだりしない……!』


またミツキは力を溜め始めて、黒い闇をこちらに投げてくる……だが、何度も刺したせいなのか、これまでの戦いのせいなのかそれは勢いもなく規模も徐々に徐々に小さくなっていった。


『……私、アマテラス様の命令は絶対ですから…。絶対です、絶対に……__神の悪戯(ロシアンルーレット)!……グガガガ、ウウ。』


「え……ちょっと待て!お前一体何をやったー!!」


なんかとても嫌な予感がする……バチンと耳にうるさい轟音が響いてから、ガラガラと音を立てて古城が崩れ去っていた。

いや、これはきっと私の記憶…あるいは姿を騙っていた息子の記憶データを使ってこの空間は作成されただろうから、きっとその造り出した本人がくたばったからこの空間も保つことが出来なくなっている……という所だろうか。


「む……グアアアアァァァァァァァァ__!」


あの天上から落とされた時と比類にならないくらいの重力に耐えながら宙を舞い、墜落していく身体……やがて身体はゴミ捨て場に激突して、そのまま動かなかった。


「………(痛ッ!……声が出せない。)」


そして、血管がプチリと切れたような音を数回空から落とされた時に聞いたような気がする。それに、眷属になったからといって万能ではない。ダメージだって受けるし、血管など肉体は失われたが魂が記憶している限り、痛みは襲ってくるのだ。のたうち回りたい、そうでもしないとやっていられないとヘンドリックは思うのだが、身体が動かないのだ。


「………(クソ、あの女!)」


眼を開いて見回してみると、そこはレミゼ王国でもないし、私が知る限りではこういう国はただ1つ、マルチウス帝国だった。


「………(なるほど、あの戦いでマルチウス帝国に飛ばされたのか。)」


胃酸が逆流するような吐き気を感じた。ああ、いい加減ここから動けるほどに魔力が回復してくれれば………この時は、まだこんな楽観的な思想を持っていた。


「おいおい、今日はゴミが大量だな!」


「バロックじいさん、この椅子まだ使えるよ!」


こうして数時間ほど経つと浮浪者2人組がフラフラとこちらにやって来た。


「おや、この人形はまだまだ新品同様じゃねぇの!けど、ウチに娘はいないからなぁ。」


「ウチもだよ。」


「………(どういう事だ!)」


この今のやり取りで違和感を2つほど感じた。まずは、人が大きく見えるということ。眷属の姿なら、生前と同じなのでこのようにこの2人組が巨人のように見えることなどあり得ない筈なのだ。そしてもう1つ、彼らは私に向かって“人形”という言葉を使った。間違いがないように言っておくと、私は人形のように可愛らしいなどという言葉とは生前の幼少期から無縁な体型と顔だ、それにこのように表される顔ではない。……そうだ、眷属は人には見えていない筈だ。だから、この男達は私の近くにあった人形をそう言ったのだとこの時思った。

その考えが甘いと分かったのは、翌朝だった。


「おう、大量だな!コイツらを工場に運ぶのも大変だ。」


今度は青い服に帝国の記章を腕にはめたこれまた生前の私と同年代くらいのおっさんが来たとき。彼は、ゴミ収集人というゴミを回収する役割を持った男だと私は判断した。


「………(どうせ、私の身体は透けて見えない筈だからなぁ……それにしても、早く動きたいのだが……)」


魔力は回復している筈、だからいい加減痛みが引いて動けてもおかしくないのに動くこともままならない。


「よっと!」


「…………(待て、これは一体どういう事だ!)」


彼の顔が間近にある。

いや、ゴミと共に私が持ち上げられているんだ。

幽霊も眷属もその上位的存在である管理者も人とはビミョーに異なる次元を生きている、だから触れられる筈などない。

そんなヘンドリックの狼狽など知らずに、ゴミ収集人のおじさんは荷台に目一杯ゴミと私達を乗せてどこかへ出発してしまった。


「………(ぐあ!)」


だが、ゴミで不安定だったので私の身体は車から投げ出されて路上に動けないまま、痛みに耐えながらボーッと空を眺めていた。


「わあっ!おにんぎょうさん!」


路上で身動きもとれずに、ただただ空を眺めて無心でいた私を拾ったのは幼い少女。


「…………(この子、確か……セイラとかいうあの山内信一郎と一緒にいたエレノア嬢の妹御だったか?)」


「わあい!」


そのまま、私は引っ張られて散々な眼に遭ったのだった。

そして、我が身が可愛らしい人形に変わっている姿を見て愕然するのはこれから数分後の出来事である。


_____


『いやぁ、本当にツラかった。一度死んだ身とはいえ死にたくなったよ。』


「笑い事じゃないだろ……大変な眼に遭った癖によく笑ってられるな」


話を聞き終えたシンイチロウは脱力した。

横にいたエレノアは話についていけてなかったようだ。


『しかし、ミラーナ様はどうなったんだ?』


それは、シンイチロウも感じていた疑問。

ヘンドリックを地上へと突き落としてから彼ら2人の管理者はどうなったのか……気になっていた所、ちょうど良いタイミングでガラケーが鳴り始めた。







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