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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
1章:貧乏伯爵家を救え!
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伯爵家の内情


1つ目の指令がようやくやって来た。__“メスリル伯爵家を財政難から救え”、ガラケーに送られてきた指令はこうだった。


(めんどそうだな……どうやって情報を引き出そう。)


人の事情をあれこれと好き勝手聞くのは得意ではない、だいたいおみくじを破いただけで何故人の家の財政難を解決させねばならないのだろうか……もし失敗してもリセットボタンなどやセーブポイント等は存在しない命懸けなゲームだ。


(まぁ、この家の人間は恩人だ……恩返しをする大義名分はあるだろう。)


……あまり気持ちいい話は聞けそうになさそうだが、今すぐにでも何故そうなったのかを知るのは重要だ。

そうやって俺は立ち上がったのだが……。


「……フミャア!?痛っ!」


「こら、あんた……私の授業中に逃げようだなんてたいした度胸ね!」


おでこにジンジンとした痛みが走った、あまりの床にうずくまっているとよく通る凛とした声が頭上から響いてきた。恐る恐る見上げると、仁王立ちした家庭教師役のマリア=ドレリアン先生がこちらを見下ろしていた。


「ああ、そうだった……今、授業中だった。」


神様の指令で頭が一杯になっていた俺は授業中だったことをスッカリ忘れていた。


「それにしても、お兄様は過大評価しすぎじゃない?あの偏屈なお兄様が好評するくらいだから百年に一度の逸材かと思ったんだけど……期待はずれね。」


「………はぁ。期待はずれで済まないな、だがこっちだってそんな期待を勝手にされても困る。」


多分トール先生がそんな評価をしてくれていたのは、俺がこの若々しくみずみずしい見た目29歳(推定)、中身は46だからだろうか……それなりに良い大学を出て社会人としての知識は持ち合わせている、それを使えば完璧にとは言えないがある程度は飲み込めて、そつなく対応できて当然なのだ。


「それと、その口の聞き方。使用人はそんな上から目線な言い方はしないわ、この家だから良いものの他の家だとすぐにでもクビよ。」


「はぁ、済まない……じゃない、申し訳ありませんでした。それにしてもマリア先生にはお子さんが居たのではありませんでした?それなのにこのような授業をしてくれてありがたいですけど、家庭の方は大丈夫か……?」


「ああ、ルイの事?貴方に子持ちだって言ってたっけ……?まぁ、乳母(ナニー)も居るし大丈夫よ。」


おっといけない、ルイの事は知らないという設定だった。そのうち会う機会もあるだろうが、今はさぞ可愛いだろうな。その子供が十数年後にはブリザードビュービュー吹かせる少年に変わるとは言った所で信じられないだろうし、予言者なる存在と持ち上げられて散々見世物(巨人の国に流されたガリバーのよう)にされた挙げ句使えなくなったら捨てられる未来しか見えないので適当に笑って誤魔化しておいた。


「まぁ、今日の貴方に教えることはそれ以上は無いから。続きはまた明日ね。」


「なんか俺、ものすごく期待はずれだったみたいですね。申し訳ありません。」


するとマリア先生はイラリとしたように俺を見てから言う。


「“俺”じゃなくて“私”!一人称も気をつけなさい、貴族なんていちいち細かいから言動1つも見逃さないのよ……。そういう所はすごいんだけど世のためにその水も洩らさぬ緻密さを発揮してくれたら良いんだけどね、あ…今のは忘れて。こんな所誰かに聞かれたら憲兵に通報されちゃう。今のは無かった事にしてね。」


「はぁ……分かりました。」


この国は言論統制でもされているのか?愚痴も禁止されるほどに実を言うと危険な国だったのか?おかしいな、ゲームにはそんな設定は無かった筈なのだが。

だいたい、そんな設定があるのならヒロインがルイ君を口説くために『貴方の苦しみは分かっている、お祖父様に責められてこの国では余所者と言われて苦しかったでしょうね』等とさぞ彼の苦しみを分かったかのように群衆見守る噴水の前で痛烈に(その時実際に起こっていただろうリアル(日本社会)の時事ネタ等をふんだんに盛り込んだ)お国(帝国)批判を行って無傷な筈はないし、あのヒロイン(御花畑女)が自国の皇太子の前で『この国の貴族って皆頭固いわ』とか言って大丈夫な筈ないだろう!


「……はぁ、ゲーム設定が使えない可能性もあるのか。こんなんで大丈夫か?」


とにかく事情を聞かないと解決しようにも出来ない、伯爵の所にレッツゴーだ。


_______


このメスリル伯爵家は当主の伯爵アルバート=マイク=チェリー=ル=ド=メスリルとその妻メアリー、長女のエレノアとその弟で跡取りのポーター、まだ5つの末妹セイラの4人で構成されている。


「あの……失礼します。」


ドアをノックして扉を開くと伯爵は顔色を悪くして古いが、上質な木を使って作られたであろう机に手を当てて何か思案していた。


「君はシンイチロウか……どうしたのだ?まさか従僕見習いを辞めたいと言うのではあるまいな?」


伯爵は迫力のある顔が怖い御方だ、俺も幼馴染の小野に顔が怖いだの熊みたいだのと言われていたがこの御方には負ける。まるで時代劇の悪代官、魔王様が降臨したかのような迫力のある眼だけで人を殺せそうな目付きの悪い御方である。

本人は、辞めるなと引き留めようとしているのだろうが、人が見ればこの場面すら俺が伯爵に何か脅されているようにしか見えない。


「まさか、そんなことはありません。

伯爵、1つ聞きたい事があるのです。この家は何故このように使用人も雇えないほどになってしまったのですか……?」


「ふむ……?何故そんな事を聞くんだ?」


ポカリ口をあけて間抜けな顔になる伯爵、だがあっけらかんとしてガハハと笑いながら教えてくれた。


「私の祖父の代までは金もあったのだが……父が、投資家のうまい話に騙されてね。私が物心ついた時にはこの通り既に貧乏だったよ。」


「はぁ……それは、気の毒な事で。えっと、借金は現在いかほどですか?」


「うむむ、確か千万マルチウスマルクだったかな………返しても返しても増えていくばかりで減らないんだ、むしろ徐々に増えてる気しかしない。」


日本円にすると1億円か……漫画の知識だがそのくらいだったか。え?1億も返せるのか、元手何もないんだが……それに俺自身は金に困ったことは無いぞ、ついでに言うと金もないぞ。


「伯爵、俺は……いえ、私は助けて頂いた伯爵に恩返しをしたいんです!なんとか方法を考えて少しでも借金を減らせるように協力させてください!」


「ああ、分かった……分かったがそんなに期待はしないよ。なんせ1000万マルチウスマルクだ、返せる筈がない。」


伯爵は一応期待はしておくけどあんまりあてにはならないという風に俺を見ていた。

そんな目で見ないでくれ、こっちだって1億も返す方法を見つけるなんてそんな面倒な事はしたくない、恩人にこんな事を言うのもなんだがいっそのこと一家夜逃げした方が楽な気もする、けれども神様が与えられた試練を解決しないわけにはいかない、解決しなければ俺は日本に帰れないのだ……!


(あんのクソ神……!

おみくじ破いただけでなんで実質俺が1億背負った状態にならなきゃならんのだ!)


心の中で悪態をつきながら、死ぬほどめんどくさい借金返済計画を立てなければと重い腰をあげた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 描写がしっかりとしていて読みやすいです。
2019/11/06 20:02 退会済み
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