大事な物はベッドの下に
__4人で、ナージャが犯人だという証拠を固めないといけなくなった。これは、私が日本に帰るためにしなくてはならないことだ。
「じゃあ、まずはジョンおじさんの書斎から見ていこうかな?オルハの件についてはもう出来る事が限られてるし、私はジョンおじさんの死体をハッキリと目の前で見た訳じゃないから……。
何か、ナージャが脅されていたとかいう証拠を発見出来たら1番良いんだけどね。」
アデルとアマーリエ、その2人を連れて私はジョンおじさんの書斎へ午前0時の鐘の音に慰められながら忍び込んだ。エレノアは1人で地下牢にお留守番だ。
「はぁ……まさか、こんな泥棒じみた真似をすることになるなんて、ね……」
「ツキ、貴女は何処かへ頭をぶつけたのですか?今日は随分おとなしいですが。」
アマーリエによるツキのモノマネは上手くいかないようだ、まぁあんな笑い方を中々実践しようとは普通は思わないだろうし。
そして、ツキのピッキングスキルを使って中へと入った。ツンと薬のような変な臭いがして、それが堪らなく私には嫌だった。
「じゃあ、アデル……君は外で待っていてください……ヒヒヒ。」
「は、おい、お前……!何勝手に、決めてるんだ。」
声を潜めながらも怒ると、アデルはスンと鼻を鳴らして自嘲するような笑みを見せた後、
「大丈夫です、私は何もする気はありません。地下牢で大人しくエレノア様と待っていますから。安心してください。」
こう言う。彼女の言葉を素直に信用する気はないが、返事をいう前にアマーリエが彼女を追い出すように外へ出してしまったので2人で証拠を探す事となった。
断る事も出来た筈なのに、屋敷の奥さまの頼みを断る事が出来なかった。何か断ったらいけないような、断る方が危険なようなそんな予兆めいた物すら感じさせるのだ。
__書斎の中はエレノアの話でもあった通り、随分と荒らされていた。家具が傷むのを嫌うジョンおじさんはカーテンの光が入るのも嫌うようで室内は暗い、ジョンおじさんが化けて出そうだなと思いながらも、暗すぎるのでカーテンは開けさせてもらった。
そして、物を探しているとアマーリエが質問をしてきた。
「1つ、いや答え次第では増えるかもしれないですが、質問しても良いですか?
貴方は…この先、人を殺さなければならないような事態に遭遇すれば、人を殺すのですか……?
いえ、変な意味はありませんよ……ただ、貴方が元居た世界は人殺しは犯罪だとかつて貴方と同じ世界からいらっしゃった御方から聞いた物ですから……。」
「………それは、その時になってみないと分からないよ。だけど、罪は一生背負っていかなきゃいけないんじゃないかな?」
……かつて、私のような異世界転移者が居た。アマーリエはさらっと爆弾を落としてきたが、私はたいして驚かなかった……日本語で書かれた屋敷の奥さまの本はそういう事だったのだろうとむしろ謎が1つ解けた。
人を殺しても、ここは日本ではない。私を縛るのは日本の法律ではなく帝国の法律なのだ。帝国が罪だと判断したなら罰を受け、野垂れ死んで死体となって日本に帰されるのみだろうから。
「罪、罪ですか……貴方は、助かるためなら人を殺しても良いと言っているようにも受け取れますが。……私には、関係ない事でしょうから今は探し物をしましょう。」
「………?ああ、そうだな。」
本棚の本などは普通に小難しい私があまり好まないタイプの本だった。一応、1冊1冊挟まった物がないかなどは確認したが、特になかった。
「落ちている物も特に怪しい物ではありませんねぇ……後は引き出しの中とかタンスの中くらいでしょうか?」
残念そうな顔をしてアマーリエは言う、彼女も無実を晴らしたいので必死になっているのだろうか?私には、何百年も語り継がれる程の存在となるなんて想像も出来ない、想像もしたくない……そんなには長生きなどしたくもない、彼女は私が逃げたくなるような現実に立ち向かっている強い女だ、そう尊敬の念を持って彼女を見た。
「それにしても……まあ、いい。引き出しの方から行くか。頼む。」
__カチリ。
小さく屋敷に響いた音を聞いて、便利な力だなぁと羨ましく思った。いじけていると彼女は勝手に引き出しを開け始めた、ガタンと大きな音がした。
「………なんだ、この本みたいなの?」
1番上の引き出しには、数冊の本。2番目は、紙やインクなど……3つ目が借用書の束だった。
「これは……」
「何か分かったんですか?」
本、それは家計簿みたいな物で金銭の支出と収入について書いてあった。あのジジイがチマチマとそんな書いている所を想像したら、なぜか笑えてきた。
「フフ、いや……これは帳簿だな。しかも、この調子なら10年も持たない……5年すら怪しい所だな。いや、私だって親父の所で秘書を5年ほどやった経験があるからな……それくらいは読み取れる!」
「秘書ってなんです?」
「あー、この世界の感覚で言ったら専属使用人みたいなもんじゃない?ちょっと違うけど、偉い人を補佐する人みたいな感じ。
で、ジョンおじさんの帳簿……これによると、伯爵家ほど高い額ではないにしろ、屋敷の維持費にコスト使いすぎだなぁ……後、変な占い師か何かに一時期引っ掛かってたのか?『お布施料』って書いてあるし、結構な額なんだが…絶対に詐欺だろ、雑誌広告にあるヤツみたいな感じなのかな……?」
「お布施ですか……もしかして、これって私のせいなんですかね?そういえば、一時期『キエエエエエ!』と変な声を上げる女の人が出入りしてましたね。」
「うわ………犯人が目の前に居たんだけど。
他も探すぞ、怪しい何かであるかも。とりあえず、この帳簿と借用書の束はこちらで預からせて貰うとしよう。
……結局、ナージャが犯人だって証拠は見つからなかったなぁ。よし、次はベッドでも見たいな。ジョンおじさんの私室に行くぞ。そっちならもっとプライベートな物も隠していそうだからな。
しかし………」
「……?どうしたんです?」
「いや、なんでもない。」
怪訝な顔をするアマーリエには隠したが、ジョンおじさんは随分危険な場所から金を借りたようだ。
(よりによって、王のつどい絡みとはな………)
シンイチロウが手にした借用書には、債権者の欄に『K・Cカンパニー』と書かれていた。このイニシャルは王のつどいが絡んでいるという証拠だ。
___王のつどい。表向きは選ばれた貴族が入会出来る会員制の紳士クラブだが、裏では人身売買に麻薬の密輸入・密取引、悪事のオンパレードを行っていたとんでも集団だ。夏の舞踏会で威張り散らしていた令嬢の父のクライム侯爵もこの団体の一員だった。まぁ、10年もすれば、ヒロインにぶっ壊される組織なんだがな。
それに、まだ足は踏み入れてなどいない。私じゃなくて、ジョンおじさんが関わっていただけだ。
ジョンおじさんの私室もまたカーテンは閉めきられていて、真っ暗だった。もう慣れてきた鍵開けをして、カーテンを開けてから調べものをした。
「………さてと、ジョンおじさんは随分物を持たない人だったんだな。伯爵家の屋敷でももっと本とか有ったのに、馬鹿にしてた相手よりも物を持たないとは……彼は、本格的にやばかったんじゃないか?」
「そうですねぇ、それは分かりかねますが探しやすいのでいいじゃありませんか。」
楽観的な返事が返ってきた。
あの組織なら、もう借金取り所か生贄くらいいても不思議じゃないしな……でも、それにしては物が残っている。ただ単に物を持つのが嫌いな人だったのかもしれない。
___物なんて沢山持っても、どうせ無くすものだ。だから、持たないように……なーんて考えてもおかしくないか……彼がそうなのだとしたら気持ちはよく分かるし。
「ガラクタばっかりだな……引き出しは。」
紙や本、胃薬……ガラス玉、特にめぼしい物は無かった。
「……っと次はクローゼット、何かあるだろ……調べるぞ!」
モーニングコートにタキシード、後は普段着(と言っても伯爵が着ている物よりも若干高い物)などくらいか、ポケットにも何も入っていない。
クローゼットの下には木箱があったが、中には壊れたオルゴールや人形、子供向けのオモチャが入っていた。……何故ジョンおじさんがこんな物を?と思っていたが、それは鑑定スキルで分かった。
《人形:目の部分にダイヤが埋め込まれた人形、かなり高そう……》
「コイツの眼、ダイヤなのか……高そうだもんな。」
「……初級じゃそれぐらいの開示情報なんですか?なんか眼の所に仕掛けがあるみたいですよ?このお人形さん。上級鑑定でやってみたらそうらしいですが………」
眼をベタベタと触っているとガタンと小さい音がして、パカリと人形が真っ二つに割れました。棺みたいな構造になっていたのか、というか隠し扉の時から思ってたんだけどこの家は目潰ししたら何かしらの証拠が出ちゃうのは気のせいか?
「これは……紙が入ってるな」
《本は本でも食べられる本ってなーんだ。》
なぞなぞ付きで紙が1枚入ってました。
「食べられる本、なんでしょうかねぇ………」
「本の隠し場所か?定番だとベッドの下にあるもんだが………」
……ベッドに手を突っ込むと、ありました。
やましい本を隠すのは、世界を問わずベッドの下なのか………1つ新しい発見をした。
『ハレンチ学園~秘密の課外授業~』という、まぁ如何にもなエロ本を発見した私は、無心で……いやほんの少し、いやかなりの下心を持って本をめくった。
「………こ、これは!」
私が気になったのは、どう見ても小学生なのに高校生設定の女でもなければ、アマーリエの冷たい視線でもない。
___袋の中に葉っぱのような粉末上の何かの一部……しかも使われた形跡すらある。
「鑑定………」
《迷花草:大陸東端レミゼ王国原産の草。麻薬の原料となる》
「麻薬……これを誰かに使っていたって事ですよね?」
「ジョンおじさんは病気でも患っていたとかは……?ガンとかなら、痛み止めとして麻薬を使うと聞いたことはあるが……」
「それはないでしょ、あの人はピンピンしてましたから。」
………じゃあ、悪事に手を染めてたって事か。
ゲームじゃ語られてなかったけど、あの洞窟を提供したのもジョンおじさんかもしれないな。
「本人も使ってた形跡はないし、誰に使って__っ!まさか、これをナージャに………?」
「可能性としてあり得なくはないですけど、なんでそんな事を?」
「知らねぇよ、お前は知ってるんじゃないのか?ずっとこの屋敷に居たんだろ、なら知ってるんじゃないのか………!」
私はアマーリエに聞く。
彼女は悲しい顔をした、まるで最初からすべてを知っていたかのような、そんな悲しい顔を……。
「明日、俺は冤罪を解く。
もしも、使われたのがナージャなら鑑定スキル使えば分かるだろ?状態の所に答えが書かれている筈だ。そうじゃなかったとしても、アデルを呼んでジョンおじさんの件の嫌疑は晴らさせて貰う。オルハの方はなんとでもでっち上げられる、第1あれは俺の仕業じゃないんだ。
その為には、本人と対面してみんなの前で無実を勝ち取らなければならんからな。」
「そう、ですか………」
アマーリエは私の決意に一言だけそう言った。




