犯人は、分かったが証拠はない。
なんか脱出した間に事態が悪化しているのですが……それは良い、だが話を聞いて1つ分かった事がある。
「多分、ジョンおじさんの件の犯人はツキ、タイヨウ、ナージャ……メリンダじゃないか?」
「ヒヒ、なんで私が入っているのさ!流石に笑えないんだけど!あ、笑っちゃったけどまあ笑えないよぉ。」
「アデルは死亡推定時刻に私の所に居た、そしてサラはアデルに対して『発見された』と言っていた……だから彼女はその何者かに会って口止めでもされたものと推測する。カークは人殺しが出来る器じゃない、そんな図太い人間なら私の死体の1つや2つと遺書でも用意して茶番を演じているだろ。伯爵一家は入れても良いが彼女としては低いだろ、あの人達が私の件で虚仮にされたくらいで毒入りジュース飲ませる程未熟な人間ではないだろ?
しかし、1つ謎だなぁ……ジョンおじさんはなんで金を欲しがっていたんだ?」
ジョンおじさんは伯爵一家を下に見ていた、私の不審な行動をネタにした嫌がらせと考えても不自然ではないがそれなら金でなくても色々と手段はあるはずだ、例えば噂とか。
「そんなの分からないね。」
「そうよ、ツキの言う通りそれはおじさんしか分からないよ。」
「まぁ貴方を地下牢に入れたお祖父さんだから金以外にもゲスイ事考えてそうだけどね。」
「………そうだけど、本人もう死んでるからな。確かめようがない。」
だから、金の件は置いておいて犯人を誰かという疑問から解決させないといけない。それがあの幽霊との約束だからな。
「それでどうするのさ。」
「犯人を絞る前にちょっと聞きたいんだけど、お前……誰だ?ツキではないだろ、あの笑い方しないし。」
さっきから頭をフル回転させるので全然気づいていなかったが、ツキは先程から不気味な笑い方をしていなかった。
「バレてしまいましたか……貴方は意外と鈍い御方なんですねぇ、初級鑑定使えばほんの数秒で解決する問題に何分時間をかけているんですか!」
ツキの口調が気色悪い普段の甲高い声から間延びしたおしとやかな女性らしい声へと変わっていく。コイツ、まさか………
「鑑定……」
《ツキ=エレメン=ツェルニエ
level:1(MAX)
種族:人間
年齢:14
職業:メスリル伯爵領立マクシミリ学園第1分校中等科2年生
称号:右手に神を宿し者(笑)
状態:憑依(アマーリエ=ベイジン)
体力:68→1705
魔力:21→500
攻撃:34→732
防御:54→969
素早さ:67→767
運:50
スキル:ピッキング、スリ
持ち物:ちょっとボロボロの服、鉄屑》
「ツキの方が攻撃力が上なんだけど…………」
「ってそこなんですか?けどそんな大差じゃないですって、そこよりも状態の欄の所を突っ込んで欲しかったんですがねぇ。」
「いや、なんとなく分かっていたし……それよりも攻撃力がこの子以下って所に思ったよりもショックが大きくて………」
………えーっと結論から言いますとツキの身体に、アマーリエが憑依してました。
「え…………何これ、なんか私だけ話についていけてないんだけど。」
あっそうだ、エレノアに今までの事話さないとこの事態を飲み込んでくれないか……という事に遅まきながら気づいた私は話すことにした。管理者が現れて鑑定スキルをくれた事もその後隠し通路を見つけたら麻薬の密取引現場に遭遇して川に突き落とされて漂流して……色々と話しました。
「えっと、今までこっちも色々とあったけど貴方の身に起こった事に比べると細事に見えてきたわ………。」
エレノア、顔がムンクみたいになってるぞ……淑女がそんな顔したらお婿さん候補皆逃げるぞ。まあ飲み込んでくれたから良いとするか……。
「それで犯人なんだが、おい、ツキ……じゃなくてアマーリエ、お前知ってるんじゃないか?犯人、それなら言ってくれよ誰か……まぁなんとなーく想像つくけど。」
「誰だと思ってるんです?実は、言えるものならもうとっくに話してますよ。持てる情報全て貴方に与えてますよこっちも。
でも、どういう訳か犯人について言おうとしたらダメージを受けてしまうんですよ……。
というわけで私は言えません。山内信一郎、貴方の推理を聞かせてほしいんですが。」
「犯人は、オルハの妻ナージャじゃないかなぁって私は思う。
彼女にはオルハを殺す理由がある上にオルハの横に座っていた、ナイフで刺す機会が無いわけではない。
ふう、ジョンおじさんを毒殺した件について言えばちょっと弱いんだけど……消去法に近い感じかな、さっきので行くとツキ、タイヨウ、ナージャ、メリンダだが、オルハが居なくなった時点でメリンダはジジイを殺さなくてもそのうち遺産が手に入るだろうし、ツキ、タイヨウに殺害動機はない。まあ、あのジジイが知らない所でやらかしてたら話は別だけど。さっきも言ったがカークはそういう事が出来る器じゃないし、伯爵一家についてはいくら伯爵家が貧乏で金に困っていてみすぼらしく、地主よりも下の暮らしをしていたとしても、貴族であってお家断絶にならない限りはジョンおじさんが超えられる相手じゃないだろ?心で見下してても、表面上は敬うべき相手だ。
消去法で残ったのはナージャ、彼女ならあり得る。」
「あの人が……?で、でもまだそうだと決まった訳じゃないわ!」
「確かに、でもまだ弱いんじゃありません?」
確かに、そう言われると言葉に詰まる。私は推理に向いた人間ではないんだよ、多少の穴は見逃してほしいが………。
「例えば、『オルハが死んだから出ていけ、タイヨウはこちらで引き取る』とか言われたとすれば話は別だと思うけどなぁ。………こうなったら知ってそうな人に話を聞くしかないんじゃない?」
もう何処かへ丸投げするしかない。そもそも自由に行動すら出来ない連続殺人鬼なもんですから。
ツキ、アマーリエ…もうどっちでも良いけど主導権を握っているのはアマーリエだから便宜上そう呼ぶが、アマーリエはそんな人いるのかと呆然とした顔をしていた。間抜けな面だ。
「今のところ、犯人知ってるのはお前とサラと犯人自身……だが、もう1人だけ知っている可能性がある奴がいる……」
「だ、だ、だ、誰よ!誰よ、それは!」
おいエレノア、“だ”が多いぞ。落ち着け、まずは落ち着いてくれ………いや、私が落ち着きすぎているのか?もう分からない。山内信一郎、いわく付き屋敷で疑いをかけられて、もう参っています。
「アデルだよ、あの婆さんはサラと話していた。その時に、『実は……』とかばらされていたかもしれないし、もしあの婆さんだったとしてもこっちにはこの剣がある!
だから、なんとかなるだろう!…と思いたい。」
「うん、言われてみれば確かにそうかも!」
ハッキリと言う、この時のテンションは正直言っておかしかったと思う。無謀だった、本当にそうだったと後に思った。
もう疲れていたのだろう、皆それぞれ酷い眼に遭ったのだから。あの婆さんが犯人だったとしてももうどうでも良いやという気持ちが心の何処かにあったのも事実だ。
「お前らの食事を運びに来てたんだったら翌朝には来るだろう、だからその時に話を聞こうか。」
翌朝にはと言っていたが、彼女は意外と早く来た。真夜中、携帯で確かめると午後10時半くらいの時に……
「ひぇぇ!」
あっそうか……私は逃亡したから居ない筈だったな、もうそんな事も思い出せない程に長い時間が経ったように感じる……不思議な事だ。
「驚かないで、アデル。
君には色々と言いたい事もあるよ?毒入りの食事と惚れ薬入りのワインを人に飲ませようとしたことも、突進してきた事だって怒りたいし慰謝料を払ってほしいくらいだけど、それよりも聞きたい。君は、犯人を……オルハの方はどうだか知らないけど、ジョンおじさんを殺した犯人は誰だかサラから聞いてるんじゃありません?」
「ええ、聞きました。犯人を私はサラから聞きました。」
やっぱり知ってたんだ、この人は。
「だから、サラからあの人が旦那様を殺したと聞いて驚きました……。その後、すぐに貴方を解放しようと思っていたのに……」
これ、私は別に逃げなくても別に良かったじゃん。それに、逃げて酷い眼に遭っているから完全に損をした気分だと乾いた笑いを浮かべながら、現実逃避をした。
「じゃあ、教えてくれ。犯人はオルハの妻ナージャなのか……?」
「……………………………はい。」
腰の曲がった老女は肯定した。
「割と穴だらけの推理だと思っていたが当たった………良かった。」
「でも、今のところ状況証拠しかないよ?サラの証言が嘘だったらナージャ犯人説も崩れちゃう。証拠を集めないと………」
「ここに居る4人でなんとか協力して証拠を集めよう。」
こうして、犯人は知る事が出来たので証拠固めの段階に入る事となった。




