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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
3章:いわく付き屋敷の大パニックを解消せよ!
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屋敷に居ない間に


あれは、2日ほど前……もう3日経っているかもしれないけど、ともかく貴方がジョンおじさんに連れていかれた日の夕食後、ジョンおじさんは高らかに宣言したわ。


「伯爵、貴方の所の使用人は随分と教育がされていないようだ。皆、彼が犯人だ。しかも、彼を捕らえようとしたら逃げられてしまった。」


本当は地下牢で老女とお喋りをしていたのだが、地上ではそういう冤罪を見事に着せられていた。

ジョンおじさんの宣言が皆にもたらしたモノ、それは安堵の表情と不安の表情…割合としては8:2という所だった。皆、得体の知れない殺人鬼に怯えていたから真相がどうであれ、殺人鬼(生贄)が居なくなった事にホッとしていたのだろう。


「伯爵、それで貴方はどう責任を取るつもりだ?」


一気に空気が冷え込んだ、とても居心地の悪い空気。本当にこの人達嫌い。特にジョンおじさん、彼は無実を知っていて生贄にした……本当はこの中に殺人鬼がまだ紛れ込んでいる事を知った上で……。


「ヒヒ、ヒヒヒ、ヒヒヒヒ……本当に面白い。」


「な、何がだ。そして、その気持ち悪い笑い方止めろ!不気味なんだよ。」


「不気味、か……。本当に、本当にアタシはそういう人間大っ嫌い。シンイチロウの方が好き、女の子らしくしろってお前らみたいに気味悪がったりはしなかったから。」


ツキ、彼女が何故そんな笑い方をしているのかは分からないが彼女なりに何か考えがあっての事だったのだろうとエレノアは思った。

夕食が終わった後に、部屋に戻ったエレノアに伯爵はどういう事かと珍しく声を荒らげた。これは多分ジョンおじさんにとんでもない要求を吹っ掛けられたと推測される。


「私達は何もしていない、殺人鬼はまだあの中にいるのにジョンおじさんの考えが分からないわ」


「とにかく、こっちは金を要求されて困ってるんだ!どうして、どうしてシンイチロウはそんな怪しまれるような真似をした!」


………金、か。少し意外だった。我が家に金が無いのは周知の事実、無論この地でも。それなのに金を要求するのは意地が悪すぎるのではないか、本当に嫌いだ。

父には、探検ごっこをしていた、とだけ言った。彼の本当の目的を話すわけにはいかないと思ったから。


「明日、金を支払うのは少し待ってもらうように言うつもりだ。首都の屋敷にある本、そしてガラクタ達を売ればなんとか要求の額を作る事は出来るだろう。……彼のお陰で借金は無くなった、その貯蓄もある。」


「ごめん、なさい。」


「シンイチロウ、帰ってくるよね?きっと幽霊の仕業なんだよ!」


ポーター含めて私達伯爵一家はややイラついていたが、彼の無実を信じていた。

___丁度、その夜中だった。ジョンおじさんが殺されたのは。

発見したのは、メイドのサラだったそうだ。彼女は驚いたらしいが、老女アデルにだけは感づかれて彼女だけには早い段階から話していたと後から聞いた。話すのは結構だけど、もしもサラが犯人ならどうするのか……今は一応シンイチロウが殺人鬼という扱いを受けているけれど、それまでは彼女が筆頭候補だったのに。老女アデルも人を疑った方が良いと後にエレノアは思った。


_______


翌日の朝、シンイチロウはと言えばまだポタポト村の方へと流されていたくらいの頃、老女アデルがその時になって始めてジョンおじさんの死を皆の前で告げた。


「何故、お父様が!?殺人鬼はこの屋敷から居なくなったんじゃなかったの?」


「そうだ、そうだ!」


老女の知らせに、娘のメリンダとその夫カークが吠えた。皮肉な事に、今この集団の中で1番発言力を持っているのは、メリンダだった。血筋と格だけ見れば、この中で1番貴い私達伯爵一家は発言権すら無かった。使用人が殺人鬼だったというのが一般的な見方だったので当たり前なのだろうけど。


「さあ?なんとも言えかねます。旦那様は毒をお飲みになっていらっしゃったのでなんとも……」


「だとしても、こうなったら皆の持ち物を検査させてもらう。もちろん、あの殺人鬼の物もだ!そして、刃物や危険物はこの金庫の中に入れてもらう!良いな、そういうことで。」


影の薄いカークが場を仕切り出した、横でメリンダはその様子をイラつきながら見ていた。


「あのう……そうなったら台所の包丁は一体……食事を作るのに支障が……」


「う…じゃあ、包丁は一本を残して全て回収よ…………何その眼は、貴方は随分と不満そうだけれども。じゃあ良いわ、包丁も全部回収してみすぼらしい食事を食べれば良いわ。」


メリンダとカーク夫妻の仲の悪さは多分修復出来ないほどに悪化していた、元からこうだったのが今露呈しているだけなのかもしれないけど、それでも速い速度で、この2人の間に溝が出来ていたのは確かだ。


「くっ………」


カークはそれこそ人を殺しかねない眼でメリンダを見ていた。それを娘のツキとオルハの息子タイヨウは冷めた眼で見ていた。この中でシッカリしているのは、大人よりも案外この2人なのではないかと思った。

……武器となりそうなモノは全て回収された。包丁、鉄製の物、先端が尖った物、鈍器になりそうな物も全て……。


「僕の木馬返してよー!」


ポーターが持っていた200年ほど前に作られたという木馬の玩具も、


「私の簪をどうする気なの!」


お母様のお気に入りの簪も、


「読みかけだったのにぃ~!あの子とあの子がどうなるのか、まだ読んでなかったのに!」


お父様お気に入りの120年程前に書かれた有名作家の恋愛小説の初版本も、


「……………」


何故か、私の新調したばかりの服までも。

簪はともかく、木馬の玩具や服なんて武器にならないでしょうが!これは、武器の回収ではなくただの略奪行為と言っても過言ではない。

だけれども、頭を低くしてそれに耐え忍ぶより他に方法は無かった。略奪の嵐…それは通り雨のようには過ぎ去ってくれなかった。安全の為の武器回収という名目で略奪が過ぎ去ったのは夕方の事だった。


「ヒヒ、やっと終わったのかい?」


「ねえ、あんたの親、めちゃくちゃ横暴なんだけど。あんたからも何か言っておいてくれないかしら!」


エレノアは正直言って、正直に言わなくてもガチギレしていた。


『皆の為にも脅威は排除しなければならない』


メリンダに隠れていた筈のカークが急に態度を変え始めて、物を奪われる……向こうの方が力的に勝っているので致し方ないとそこは割り切って耐え忍ぶしかない、だけれども……この言葉だけは許せなかった。


(その、貴方がそう言っていられるその状況を造り出したのは……誰だと思っているの!)


殺人鬼が邪魔者を排除してくれたのと、伯爵家使用人シンイチロウが濡れ衣を着せられて行方不明&伯爵家が何も言えない、この3つの条件が丁度良い具合に重なってこの状況を作り出してくれていたのだ。

それに気づいていない身勝手な言い方、罪の意識すらない卑怯者の傲慢な言い方に腹が立った。


「ヒヒヒ、エレノア様が言いたい事は分かってる。けど、あの親はアタシの言う事なんて聞いてくれないよ?………後、良い情報と悪い情報どっちから聞きたい?」


ツキは据わった目付きでこちらを見ながら言った。


「悪い情報からお願い。」


……良い情報から聞いて気分が台無しになるのは嫌だったので悪い方から聞くことにした。


「ヒヒヒ、ヒヒ、悪い情報ねぇ……メイドのサラ、彼女が空き部屋に拘束されている。まぁ、シンイチロウに次ぐ筆頭候補だからしょうがないんだろうけど……オルハ伯父さんの時も後ろに居たのは彼女だしねぇ。ミイラみたいにロープぐるぐる巻きにされてたよ。あのクソ共に何かされなかったら良いけどね。

良い情報はね、今ならお祖父さんの死体が拝めるよ。サラに掛かりっきりで死人の事なんて気にしてないみたいだし。私もあの本取り戻したいから。」


「貴女……情報はありがたいけど、もう一度話を皆から聞く必要あるんじゃないの?」


「ヒヒ、この状況でかい?発言権失ったエレノア様が聞いても誰も答えてはくれないよ。ウチの親なんて特にそう。」


「じゃあ、貴女の親以外で怪しい人達から聞くわ。」


そう思っていたが……。まず、第1被害者オルハの妻ナージャの元を訪れたのだが、


「お母様ならダメだよ、精神的に参ってるから今人と会えば取り乱して手がつけられなくなる。」


息子タイヨウにそう言われた。『見てごらん』とほんの少しだけ扉を開いて盗み見して目の当たりしたのは枕に顔を埋めた数日前の面影もないほどに憔悴しきったナージャの姿だった。


「だろ?お祖父様を殺したのも僕ではないよ。そんな事してもメリットなんてないんだから、ましてや毒殺されたお祖父様はともかく、お父様をナイフで刺せるほど力はないから。」


「うん……そっか。」


タイヨウにお礼を言ってからその場を離れた。


「あの子も可哀想なもんだねぇ……ヒヒ、次行こうか?それともお祖父さんの所に行くかい?」


「あのアデルってお婆さんも怖いし、あんたの親にも会いたかないからそうしようかしら。」


そして、私達は書斎の前に立った。ノブを捻るが、鍵が掛かっている。


「ダメじゃん、これじゃあ。」


「ふん、これくらい神の手を持つツキ様にはちょちょいのちょいだよ!」


懐から針金を取り出してから、がちゃがちゃと鍵穴に入れているとカチリと音がして鍵が開いた。まったくどうなってるんだろ、彼女の技術は。

中に入ってから、内側から鍵をかけた。


「なるほど、これがお祖父さんか……」


机の上であられもない姿をしていたジョンおじさんの亡き骸を観察する。死因は毒殺……それは間違いないだろう、側にはコップが転がっていた。もがいたときに倒れたのかもしれない。


「それにしても、随分と部屋の中が荒れてない?そりゃ、苦しくてもがくかもしれないよ?でも、毒入りの飲みものを飲んでもがいたとして、こんな部屋の隅まで物が散乱するかしら?」


「ヒヒヒ、犯人は何か探していたって事?犯人は、あのクソ親と伯母さんとタイヨウとアデルとサラ……そして私達と伯爵一家か……その中で探し物がありそうなのは、クソ親と伯爵一家……後伯母さんくらいじゃない?」


「バリバリ容疑者か……私達。

ジョンおじさんは毒殺で間違いなさそうだし、サラから話を聞きましょう。」


「ヒヒヒ、そうだねぇ。はぁ、シンイチロウはどうしているのやら……」


まだ川を漂っている最中なのでこんな事になっているとは知らないが、屋敷は修羅場だった。

次に、メイドのサラ……。そういえば、シンイチロウに仕事ばっかり与えて給料増やして上げられてなかったわねとしみじみと思い出して、悲しい気持ちになった。


「ヒヒヒヒヒ、ここさ。」


何が愉快なのか分からないが、その笑い方はやめてほしい。


「ヒヒヒヒ、ちょちょいのちょい。」


____ガチャン。


もうこの過程を見るのも慣れてきた。あらゆる感覚が麻痺している、もう1ヶ月はここに居るような気分になってくるのにまだ1週間すら経っていやしないのだ、それに人が2人も死んでいるのに今度は自分だという恐怖すら生まれてこない…何処かに現実逃避してこれは偽りの記憶だと訴えかけてくる自分すらいるのだ。


「本当に、ミイラみたい……」


ロープぐるぐる巻きなってミイラみたいだというツキの例えは間違っていなかった。大袈裟に話をうんと盛ったと思っていたが、そうではなく本当にぐるぐる巻き、白い物体となってサラはそこにいた。


「だから言っただろう?ぐるぐる巻きにされてたって。まず、このロープを切るよ。ほら、ツキ様はナイフをちゃんと持ってきているんだ!~♪」


ザクザクとロープを切ってからサラを話せるようにした。


「あ…あ、ありがとうございます……。」


「ヒヒヒヒ礼には及ばないよ。サラ、どうしてこんな眼に遭ってるんだい?」


唾を飲み込んでから咳き込みながらサラは答えた、その顔は恐怖にひきつっていた。


「も…申し訳ありません……私が、旦那様を殺したと疑われていて……」


「本当にそれだけ?」


「うう……私、旦那様を発見したの、私じゃない……私じゃない。私、私の前にいた。」


文法がぐっちゃぐちゃの舌足らずな言葉で言った。


「じゃあ、誰がジョンおじさんを見つけたの?」


背筋が凍ってくる。冷気が足元から身体へと這い上がってくるような感覚がした。聞いてはいけない何か、それをサラは知ってしまった……だからこんな眼に遭っている、それは間違いなさそう。


「それは、私じゃない。私じゃなくて__ひぃ!」


サラの声が不自然に止まって顔が先程よりも恐怖にひきつっていた。

後ろ、私達の後ろにそのサラをこんな顔にさせている対象があるのだろう。振り向くと……


「何をしている、君達は。」


顔が歪んでいたカークがそこに立っていた。

まったく、しつこい男って淑女は嫌いなのに……ってそうじゃない、何故…何故コイツがここにいる。


「ヒヒヒ、どうやら来た時間が悪かったようだ。皆が夢見る時にでも来れば良かったなぁ。」


「あー……なるほどね、私達手柄を取るのに焦りすぎたって所かしらね。ツキ、ごめんなさいね。せっかく情報くれたのに………」


「どうでも良いさ、こうなっちゃったら何も言えないね。アタシ達もシンイチロウみたいに行方不明にされて何処かで野垂れ死ぬ扱いを受けるのかな?」


いつもの笑い方を止めたツキは元気なく言った。


「お前達は、協力者として野垂れ死ぬ事になるだろう………アデル、コイツらを何処かに捨てておけ。メリンダにバレるとまずいから秘密裏にな。」


そうして、私達はアデルによってこの地下牢に連れてこられた。

それはカークの目論みとは違っていて、彼は私達を殺す気だったけれど、アデルは罪の意識なのか何なのかわからないけど、私達を彼女は助けてくれた。

____彼女の持ってきてくれた食事と、ツキがくすねたクッキーのお陰で私達はこの数日を乗り切る事が出来た、こういう訳だ。


_________


エレノアから話を聞き終えたシンイチロウは顔をピクピクとひきつらせてから一言だけこう言った。


「えっと、俺がいなくなってからなんでそんな事態が悪化してるのかな………」


えっと、1日半流されてから1日お世話になってそこから忍び込んで……だいたい3日くらいしか経っていない筈なんだけど、何故そんな眼に遭っている………シンイチロウにはそう言う事で精一杯だった。





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