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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
3章:いわく付き屋敷の大パニックを解消せよ!
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いつの間にか変わっていた運命


__シンイチロウが眼を覚ますと目の前に、30代前半くらいの男性がこちらを眺めていた。


「眼が覚めたか……?」


「ひぃっ……!」


慌てて後ずさろうとするが身体が重くて動けない、感覚自体が分からなくなる程に身体は冷えていた。

開け放たれた窓から田園風景が見えて、ここが川の近くの村人か何かの家だという事をゆっくりと理解した。


「まったく、ビックリしたよ。最初は土左衛門かと思ったが、なんとか生きていて。ここは川の流れは穏やかだが、上流になると岩とかでたいてい死んでるもんだがな。」


「えっと、ここは………?」


「ここはメスリル伯爵領のポタポト村だ。」


「ポタポト村……?」


確か、麻薬の密取引現場に居合わせてしまい、口封じに川に突き落とされて……ポタポト村なる知らない村に流れ着いてしまったようだ。縁側に腰掛けた男は無関心そうに言う。


「お前、名前は?俺はリキ=ディス=フィールドって言うんだ。」


「シンイチロウ=ヤマウチです……」


男の名前を聞いてヒヤリとした汗が流れる。

その姓に聞き覚えがあった、“フィールド”とは攻略対象の1人の名字ではなかったか?いやいや、多分よくある名字なのだろう。そう思っておこうとしたのだが、その逃避は無残にも打ち破られた。


「おとうさん!」


突進してくる勢いで子供が現れて、リキに飛びついてきた。リキの息子なのだろう。攻略対象のヨルド君ではない筈……ない筈、ない筈……


「こらヨルド、お客さんの前で失礼な真似を。自己紹介しろ。ああ、息子のヨルドです。」


「はい、ヨルド=ビズ=フィールドです!5さいです!」


な、い…筈……。えっと、あー同姓同名の少年か。うん、そうだよな……そうだと思いたいんだが。


鑑定(ステータス)……」


《ヨルド=ビズ=フィールド

level:1(MAX)

種族:人間

年齢:5

職業:ポタポト村村人、無職。

称号:将来のゲーム攻略対象

状態:異常なし

体力:40/43

魔力:12/12

攻撃:8

防御:15

素早さ:20

運:50》


…………うわあ、間違いないんだけど。コイツ、ゲーム攻略対象のヨルドだ!あのヒロインに振られたらヤンデレ化するアイツだ……。

ヨルド=ビズ=フィールド、ゲームでは“優しいほんわか系の幼馴染”で彼もまた暗い過去を持っている。夜釣りに行った父親が麻薬の密取引を目撃したので殺されて、彼1人が生き残った……首都に居た親戚に引き取られて、近所に住んでいたヒロインに心救われて彼女に依存していくんだったか……?


(こんな恐ろしい少年のいる所に居られねぇよ。とっとと逃げよう。

なんで私は行く先々で攻略対象に会ってしまうんだよ!ルイにオリン、そしてコイツ!3人目だぞ……)


そう思うものの身体が思うように動かない。


「おいおい、無理矢理動こうとするな。その様子じゃ今日は動けそうにない、この川は流れは穏やかだから歩いていけば元居た場所まで戻れるだろう。今日はウチで泊めてやるから、先の事は明日になってから考えな。」


「そうですか……申し訳ありません。」


非常に不本意ながら、お世話になるしかなかった。

その後、話を聞いていくうちにここがあの屋敷から南西に1㎞ほど離れた場所で、あのローブの2人組に流されてから1日と半日ほど経っていたという事が分かった。


________


「え?あのお屋敷……?

不気味だよな、あそこは。」


あの場所で既に2人の人間が殺された。その事を周りの人は知っているのかと思い探りを入れてみたのだが、どうやら情報伝達のスピードが思った以上に遅かったようだ。

2人(もしかしたら、私が流されていた間に犠牲者は増えているかもしれない)が殺された事や私が容疑者第1候補の濡れ衣を着せられた事もどうやらあの屋敷の外にはあまり広がってはいないのだと少し胸を撫で下ろした。


(指名手配とかされてなくてよかったぁ……。

それに、またあそこに戻って事件解決しないと、あの女、成仏してくれないとか抜かしてたからな。)


………ってあれ?私、平気で幽霊の姿見えてなくね?今まで、地下牢での事や深夜のテンションなどその他諸々ですっかり気にしていなかったが、1日と半日前の私は幽霊と普通に喋ってたよ!


(でもステータスに書かれてなかったし、何なんだろ?)


そう考えていると、リキの声で現実に帰る。


「本当にあの屋敷って変な噂多かったよな?俺が子供の頃かな?古代ブームみたいなのがやって来たんだよね、その時またあのお屋敷に噂が立ったんだよ……。___あの屋敷はかつて大帝国の要塞があった場所で、その砦跡にあの屋敷が建てられたっていうどうも胡散臭い噂がねぇ。」


「へぇーそうなんだ。」


多分それ、嘘じゃないよ。だってあの隠し通路には帝国の皇帝を讚美するような内容ばかりだったし、あの地下牢もその時のやつなのかな……流石にそれはないか。


(なんか物騒な場所に建てられてたんだな、あの屋敷。)


「まあ、まだ寝てなさい。」


そう布団に寝かされる。

………でも、眠れない。ああ、あの屋敷にいる奴らはどうなったんだろう……エレノア達、ちゃんと生きているのかな?


(眠れねぇな、色んな意味で。)


眼をつぶっても、ヨルドの視線を感じるのだ。彼が、眼を輝かせて何故か覗き込んできたのには恐怖を覚えた。

そのうち、私は眠気に襲われて眠りについた。


________


シンイチロウが眠ってから1時間ほど経って、リキは畑仕事が一段落したので縁側で煙管をふかしながらボーッと気だるげな眼をして眠った男を見る。


「おい、ヨルド……寝てるんだ、そっとしておいてやれ。」


「うん……」


そうして畑仕事を続けようとしていたその時に近所に住むルナ=アレンさんが大声を出して訪ねてきた。

ルナさんは、50代なのに若く見える美女だ。この村では占い師みたいな事をしている、もっとも恋愛相談すれば、カップル誕生率100%ともまことしやかに囁かれるほど、人の感情を読み取る能力に長けていた。


「ねぇねぇ、大変!

あの魚がよく釣れる洞窟、あそこで麻薬の密取引がされてたみたい!今、下流の村から獣道使って自警団が向かってるよ!」


「ええ!?あそこでか?

俺、2日くらい前にあの場所行ったんだけど何もなかったぞ……?」


つい先日まで利用していた洞窟で悪事が行われていた、そのショックは意外と大きいもので驚くことしかできなかった。


「いや、噂じゃ2日前も取引してたらしいんだよ?あんた、鉢合わせしてたら危なかったねぇ。それと、この男はどうしたの?」


「ん、川に流れ着いていたのを拾った。妙な男でな、シンイチロウ=ヤマウチ……姓からしてこの辺の出身じゃないな。」


俺が男に眼を向けていると、ルナさんは顔をしかめて嫌そうな顔をした。


「はぁ……この村に来て15年、こういう所だけは好きになれないわねぇ。余所者に厳しい眼を向けるのは、やめてくれないかしらね。私だって余所者なんだから。

今は滅んだ国で生まれ、東の方を放浪して…東の国で育って、また放浪して……。大変な目に遭った人が、また大変な目に遭うのは見ていられない。親切にしておやりなさい。」


「はぁ……分かったよ。」


俺はそんな眼を向けているつもりはなかった、けど他の人から見ると違うのかもしれない。

そして、このルナさんは怖い。彼女の美貌と占いの力は本物だ……だからか信奉者も多いし、余所者には珍しくこの村だけでなく近隣の村から信頼も厚いのだ。


「それに、この男……彼は怪しい事は考えていないよ。ただ……『“ニホン”に帰りたい』ただそれだけしか思っていない。」


「ニホン?聞いた事ない名前だな?

まあ、ルナさんがそう言うならそっとしておくけど……本当に大丈夫か?」


「ふん、私の占いは外れた事ないもの。

そして、私の占いによるとこの男がその麻薬密取引現場に鉢合わせしたお陰であんたは助かったみたいよ。………心当たりある?」


「いや、ない………あっ!

そういえば、あの時洞窟の入口で変な2人組とぶつかったな。」


もしかして、もしかして、その2人組がそうだったのか………?


「しかし、これまた面白い男ね……」


「ルナさん、あんたは一体何者なんだ?」


「ん?私は、ただの占い師……ただのルナ=アレン、本名はもっと長いんだけどね。」


ルナ=アレンはそう言って胡散臭い笑みを浮かべながら鼻歌を歌いながら去っていった。

本当に謎だらけな人だなぁとリキは思っていた。



___シンイチロウは知らないうちに運命を変えていた、その事に彼が気づく事はなかった。








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