隠し通路は思わぬ所に繋がっていて…
……目の前には隠し扉がある。大きく開ききった扉を目の前にこれまでの出来事をボーッと思い出す。
家探しをしようとしていた所を発見される→犯人の濡れ衣+地下牢行き→管理者から鑑定能力を貰う→どさくさに紛れて牢屋から脱出&隠し扉を発見←今ここ………という訳だ。
(……そもそもなんでこんな屋敷に隠し扉とか地下牢が存在するんだよ!だいたい、この屋敷謎が多すぎなんだけど。)
わんさかとある怪談話に、物騒な地下牢や隠し扉、そして日本語で書かれた本……むしろ関われば関わるほど謎が増えていく、この謎達にどうやって対処したら良いのだろう……。
で、本題に戻ると…危機的状況に見舞われた時に隠し扉が目の前に存在するとき、人間はどのような行動を取るか……そんなの1つしか無いだろ?隠し扉の中に入る、その1つしか。
(……もうどうにでもなれ!)
私は、隠し扉の向こう側へと入った。
隠し扉は私が入った途端にガタンと大きな音がして閉まってしまった、暗いな……一応携帯電話の頼りない光源で進んでいく。
人1人やっと通れる高さの隠し通路の中は冷々としていた。今は午後11時頃、外からは秋風が吹いて、隙間風が吹いている事からどこかしらの所に繋がっているのだろうけど今の段階でそれは分からない。
ぼぉっとした光を頼りに進んでいくと、何か紋章のような物が彫り込まれていた。
「こういう壁画にあまり興味は無いが、凄い技術力だな………。」
“ロストテクノロジー”と言われるような代物だ。優美な曲線に無駄に細かい文字のような羅列……管理者から授かった“究極の言語理解”のお陰で何が書いてあるのかは分かる、権力者をひたすら賛美するような内容だった。
《偉大なる帝国の皇帝__アルシェ、※※、我らは汝に__》
(帝国…アルシェ…訳が分からない。また謎が増えた。)
歩けば歩くほど謎が増えていく、謎は無視をしてとりあえず紋章の写真だけ撮っておいた。
そして、またいくつかの同じ紋章と文字の羅列を横目に進んでいくと1つの分かれ道に着いた。上と下の2つ、どちらに行こうか……ひとまず上の道を選んで進んだ。
「上って事は屋敷のどっかに通じてるのか………?まあ、行ってみたら分かるか。」
とりあえず階段を登り、上へと進む。
ホコリと砂にまみれた階段の先に畳二畳ほどの空間があった。その空間からは室内の様子を伺い知る事が出来た。__私の眼にまず飛び込んで来たのは机にだらりと頭を乗せて虚空を見つめる屋敷の主ジョンおじさんの姿だった。側には、あの幽霊の女も居る。
「おいおい、マジかよ……。」
老女とメイドのサラの会話から死んだのはジョンおじさんだと思っていたが、まさか幽霊の女とセットで居るのだとは思わなかった。
「鑑定……」
《ジョン=ダーキニー=ツェルニエ
level:1(MAX)
種族:人間
職業:地主
状態:死亡(死亡推定時刻、午後10時半。死因、毒殺。)
体力:---
魔力:---
攻撃:---
防御:---
素早さ:---
運:---
スキル:初級の悪巧み》
なるほど……死んだら---で表されるのか。
横で彼を労るように見ている女……奴は、奴は誰だ。なんとなくだが気があまり進まない、パンドラの箱でも開けるようないけない事をしている気分になる。
「鑑定……」
《アマーリエ=ベイジン
level:35(MAX)
種族:幽霊
職業:屋敷の奥さま
称号:憎しみの亡霊、現世に留まりし者
体力:1705/1705
魔力:500/500
攻撃:732
防御:969
素早さ:767
運:50
スキル:初級意思疎通、上級鑑定、極大の呪詛
※備考:幽霊などは人間よりも数値的に上位の存在です。》
「……やっぱり、アマーリエ=ベイジンか。て言うか強っ!」
直感が当たったのは良いが、どうやって意思疎通をはかろうかと思っていると、
『人の名前を呼び捨てとは、感心しませんね。』
向こうからの意思疎通をはかってくれた。……まぁよく見れば、スキル欄に“意思疎通”って思いっきり書いてあるしな。
「あっ、どうも。こんな隙間から申し訳ありません。私は__」
『山内信一郎__上級鑑定のスキルを持っているのよ、それくらい理解できるわ。
……随分と精神的に未発達みたいだけど。』
自己紹介を遮られた上に面と向かって悪口を言われた。
「なんだよ、人の事を馬鹿にしやがって。……鑑定スキルを持っているなら分かるだろ?俺は、7人救わないと帰れない。その3人目がお前なんだ……何か、俺に出来る事はないのか?」
『そう言われても、私は何もして貰うような心残りは無いわ。……そうね、強いて言うなら指輪を探してほしいの。もう何百年も前に無くなったモノだけど。』
意思疎通の応用なのだろう、頭の中にエメラルドの指輪の画像が送られてきた。
「探しておく……それよりも、お前が喪服を着てるって事は、ジョンおじさんはやっぱりそういう運命にあったって事なのか?」
『何故だか分からないけど、この家の血を引く人間には、死の間際に私の姿が鮮明に見えるようになるみたいなのよ。……まぁ、私を見てこの男も驚いていたしそうだったんじゃないの?こっちも驚かして遊んでやったのだけれどね。』
「そうか………それは。」
よかった、そう言葉を続けそうになって慌てて口をつぐんだ。
私のせいではなかった、管理者からの指令によって運命が歪められたのではない。アマーリエの言葉を聞いて少しだけ安心した。
『正直言うと指輪よりも私の冤罪を晴らしてほしい所ね。身に覚えの無い殺人の罪を着せられても困るのよ、そうやって『誰かがやってくれる、これはアイツのせいなんだ』なんて人に責任を押し付けているから人って進歩しないのよ。
………私を救いたいなら、せめてオルハとかいうあの男とそこに転がってる男を殺した奴を暴いてくれないかしら!』
「………分かった、そうしておく。
けど、ひとまず俺は逃げる……地下牢から逃げたのはバレてるだろうから、機会を待って必ず晴らすから。
それと、今回はお前の悪評が利用されただけだと思うがな……お前もお前だ、歴代の主を驚かせてそんなことしてるからこんな目に遭ってるんだよ。そこは反省しろよ。」
『だって人を驚かすのは幽霊の生き甲斐みたいなものじゃないの!貴方は私から生き甲斐を奪うの?なんて無慈悲な男なの!』
「……もう知らん。」
こうして私は、階段を降りて元の分かれ道に戻ってから、今度は下に下っていく。
(長いな……何故この屋敷にこんな通路があるんだよ。)
しばらく下に降りていくと、行きどまりだった。
「えっ!ここまで来て、これなのか?」
体当たりしてガンガンしていると、パカリと壁が割れて洞窟のような場所に出た。川が流れている、とりあえず水を飲もう……。
すると、何処かからか人の気配がする。
(ラッキー、アイツらに助けてもらおう!)
満面の笑みを浮かべて、手を振りながら近寄ろうとしたのだが、何やら不穏な雰囲気を感じて足を止める。ゆっくりと見ると、そこにいたのはローブを纏った怪しすぎる2人組の姿だった。
「“例の物”は何処に。」
「はい、ここに……最近は取り締まりが酷くてこの程度しか手に入りませんでしたけど。」
「そうか……まぁ良いだろ。紳士・淑女の方々は刺激さえあれば高い金を払ってでも“これ”に手を出すのさ。何しろ、これを吸うだけで夢のような極楽へ導かれるのだからな。」
「本当だ、それは間違いない。」
………なんだか私は麻薬の密取引現場に鉢合わせしてしまったようです。
(俺の運は50じゃなくて0の間違いじゃないのか)
とりあえずこっそりと、例の扉の中に隠れてから嵐が過ぎ去るのを待つ。
「……そういや、攻略対象の1人も父親を麻薬の密取引絡みで殺されたっけ?」
なんかそんなストーリーがあったような気がしたが、上手く思い出せない。………まぁゲームの知識なんて有っても無駄なモノだし、無理に思い出さなくてもいいか。
耳をすませても音は聞こえない、大丈夫かと思って出ると……
「うん、誰もいない。」
誰もいなかった。よかった、嵐が過ぎ去った。だけど、私は忘れていた。
映画やドラマ、小説などではこういう嵐が過ぎ去った後に恐怖は再び襲ってくるという事実を。
「おい、人がいる……」
「この現場、見られたかもしれんぞ!」
居なくなった筈の2人組の男達がこちらに突進してきている事に、私は気づかなかった。
「「とりゃあああああ!」」
みぞおちに鋭いパンチ、そしてバランスを崩した私は小川に放り出された。
水の中に沈んでいく。鼻や口に水が入ってきて上手く息が出来なくて、とても、とても苦しい。それを先程の2人組が見下ろしている。
「……お前は都合の悪い所を見たんだ。運の悪い男よ、悪く思うな。」
__苦しい、助けて。
その願いも虚しく、私の身は川の水へと沈んでいく。前髪を激しく掻き回され、流れにさらわれて身体中が翼を失って地上に落下する飛行機のようになりながらもどこかへと流されていった。
(管理者、ミラーナ様……どうせなら相手の能力を奪える力とか、最近流行りのテイマーの力なんかが欲しかったですよ………)
最後にこんな事を考えながら、私の意識は暗転していった。




