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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
3章:いわく付き屋敷の大パニックを解消せよ!
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クローズドサークルに閉じ込められた


チュンチュンチュンという鳥のさえずりすら聞こえないほどに雨は降りしきっている。私達は正体を確認して、ホームズ&ワトソンコンビを結成した後に寝てしまったようだ。目覚めると朝だった。


「……朝ね、結局あの後推理もせずに寝てしまったわね。」


「そうだな、とにかく外で皆に会う前に現状を整理しよう。」


《3つ目の指令:屋敷内のパニックを解消せよ。

救う対象:

※屋敷内で起こる怪談の謎を解け。》


屋敷の主ジョンおじさんの息子オルハが、屋敷の奥さまという怪談話をしようとした後に風が吹いて蝋燭が消えて、気づくと死んでいた。この指令が来たのはそのすぐ後だ。


「ねえ、そもそもなんだけど救わなければならない“アマーリエ=ベイジン”とは誰なの?今ここにはそんな名前の人は居ないわ。」


「そうなんだよ。ミステリー物に有りがちなのは誰かが偽名を使って紛れ込んでいるパターンだが………まずはジョンおじさんに確認するのが先じゃないか?屋敷の主ならその名前に心当たりがあるかもしれない、それに彼じゃなくても他の人間が知っているかもしれない、それを確認しに行こう。彼らの顔色に注意していろよ。」


こうして、まずは名前に心当たりがあるかを確認する作業に移る事にしたのだが……部屋を出て広間に行こうとしていた時に、血相を変えたこの屋敷のメイドのサラに呼び止められた。


(あ、そういえば使用人なんだから朝5時起きだったな……)


その事を今ハッキリと思い出したが、先程時計を見た時には針は7時の所を回っていた。だからその事を咎められるのかと思って頭の中で言い訳を考えていた。


「あの、シンイチロウさん!何時だと思ってるんですか、もう7時過ぎていますよ。それに、何故エレノア様と一緒に居るんですか!まさか……」


う、やっぱりその件だったか……そして、横に居るエレノアとなんかいかがわしい事でもしたと勘違いされているような気すらする。これは、選択を誤ったのか……?このままでは、事件解決どころか遅刻魔+変態男の不名誉きわまりない称号を戴いてしまう。


「そんな事するわけないだろ、2時間の遅刻なら謝るから……。それと、何かあったのか?」


「あ、それは……その、言いにくいんだけど近くの村に繋がる道が大雨の落石で封鎖されてしまって……私達は、この屋敷に閉じ込められてしまったみたいなんです!」


「ええ!?……ちょっと待ってよ、この屋敷にずっと居ろって事?」


声が震えていて、落ち着かない様子でサラは言った。エレノアの言葉にサラはこくんと静かに頷いた。


「あー……まぁこの雨ですもんね。ハハハ、しょうがありませんよ。」


「もう!何笑ってるのよ、笑っている場合じゃないのよ!………あ、うん。」


エレノアは私が現実逃避状態にいることを悟った、そのため口をつぐんで何も言わなくなった。


(いやいや、笑うしかないだろ…この状況。だいたい、どこから突っ込めばいいんだ!)


人が殺され、屋敷に閉じ込められる。クローズドサークル……もうミステリー定番じゃないか、なんだよ……この屋敷には金〇一とかコ〇ンでも紛れ込んでいるのか?いや、アガサ・クリスティの影響でも犯人は受けてるんじゃないか?そのうち誰もいなくなるんじゃないか………ハハハ、そして誰もいなくなった、笑えないね。

シンイチロウは本気で混乱していた。思考回路が乱れている、いつもの調子を取り戻せ……。


「…あ、えっとサラ、君は“アマーリエ=ベイジン”という名前に心当たりは無いか?」


「?……いえ、私の知り合いにはいないですね。そんな名前の人は。そんな事よりも、旦那様から広間に全員集まるようにという命令がありました。」


サラは本気で知らないようだ、心底不思議そうな顔をして首を傾げている。


「そうか、顔を洗ってから広間に行く事にするよ。」


そうして、サラとは一旦別れたのだが……。


「さて、それで……あの後オルハの遺体はどうしたんだ?」


「確か、倉庫の方に一旦持っていったって聞いたわ。でも、オルハさんの遺体なんて見てどうするの?私達は医者でも無いし、検視なんて出来ないわよ?」


「オルハの遺体をカメラに収めておくんだ、何かの手がかりになるかもしれないですし、後で見たら何か思い出すかもしれない。」


ようやくガラケーが指令を受け取る以外の役目を果たした。遺体から犯人の手がかりになる声を聞く、それが私たちの使命だ。

ほこりをかぶった物達にあふれた倉庫、扉を開けた瞬間にそのほこり達が舞い上がった。


「こんな所に放り出すなんて、罰あたりじゃないか?ジョンおじさんも随分と冷たいねぇ。」


「………これよ。」


そこには、確かに昨夜死んだオルハの遺体が転がっていた。……死者に対して失礼な言葉遣いだと思うが、あまり高くない語彙力ではこの言葉しか出なかったのだ。

その遺体の背中には深々とナイフが刺さっていた。どす黒い色の乾いた液体が服にこびりついていた。


(ナイフで刺されていたのか……!背中は死角だから気づかなかったな。死因は、刺殺……だよな。どう見ても。)


多分後ろから突き刺された、それは間違いなさそうだ。とにかく急いで彼の遺体を収めなければと無我夢中がカメラに撮り続けた。……後になって考えてみれば、人の死体をカメラでパシャパシャと撮るなんて失礼な行為だと気づいたがその時はそんな事に気づく余裕も私達には無かったのだった。


「よし!これくらいで良いだろ、とっとと広間に行くぞ!流石に怪しまれる」


「そうね。」


なんだかとても複雑そうな顔をしているエレノアと共に部屋へ行くと、ジョンおじさん以下全員が既に集まっていた。


「……何処へ行っていた、随分と遅かったな。」


「ええ、まあちょっと。」


「おトイレって聞いたけど長かったんだね!」


ポーターが無邪気に言う。彼の声だけが明るく響いた。


「ちょっとね……ジョンおじさん、そして、皆も“アマーリエ=ベイジン”という名前に心当たりは無い?」


“アマーリエ=ベイジン”、殺人事件の真相も大事だが彼女を救うことも重要だ。いや、むしろそれこそが私のやらねばならぬ事なのだ。

………そして、救うべきその名前を出した時に1人だけ顔色を変えた人物が居た。その人物はジョンおじさんだった。


「知っているの?おじさん、その名前を知っているの……?」


「何故、何故その名前を知っている……何故だ、私達以外(・・・・)誰も知る筈もないその名前を何故知っている!」


ジョンおじさんは明らかに狼狽えていた。普段ならきっとこのような失態を犯すことは無かったのだろう。無理も無かろう、精神的余裕すら無くなる事態が起きているのだ……その中で正気を保っていられる私は間違いなく異常者になりつつあるのかもしれない……その恐怖で顔がひきつっていく。


「………ジョンおじさんが知っている彼女を救わなければ、私は幸福にはなれないのです。だから、彼女の事を教えてくださいませんか?」


「ダメだ……教えない、教えるわけにはいかない。」


ジョンおじさんの口調は固く、教えてもらえそうになかった。仕方なく、彼の態度が軟化する事を待つのを選んだ。


__帰る時には、お前は死体になっているだろう。


呟くような小さな声がして、振り向くが誰もいない。……最近、幻聴が多い。


___間違いなく、そうなっている。“アマテラス”が許す筈もない。


聞こえない素振りをしていたが、耳元で姿が見えない誰かに囁かれた。


(アマテラスって日本を治めている管理者の……?どういう意味だ?)


おみくじを引いたくらいでこんな仕打ちをするんだ、でも帰してくれないなんて約束が違うじゃないか………。

気づくと皆、疑心暗鬼になり部屋へとぞろぞろと戻っていき、私とエレノアだけが広間に残された。





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