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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
3章:いわく付き屋敷の大パニックを解消せよ!
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やっぱり事件が起きた


「えっと、これって………」


腕を引っ張られて連れていかれたその先には……この屋敷の人間全てが揃っていた。暗い屋敷には、円卓の上に蝋燭が何本も灯されていてそれを囲むように、ジョンやその家族達……伯爵達も座っていた。

席次はジョン、右に息子夫婦、そのまた右に娘夫婦、そしてその子供達、そしてジョンと対面する形で伯爵夫妻やエレノアとポーターが居る形だ。使用人は後ろで控えておく形で伯爵の後ろに私、ジョンの後ろに老女アデル、息子夫婦の後ろに若いメイドのサラが居た。


「何その顔は。今から行うのは、この屋敷の名物怪談語りよ。」


「そうです、この歴史ある屋敷にまつわる怪談話を語るのがこの集まりの目的です。」


エレノアと屋敷に住み込む老女アデルが眼をキラキラさせながら言う。本当に女って恋愛話とか怪談話好きだよな……よくそんなに長い時間話すことが出来る、そう半ば呆れた思いでこの様子を見ていた。


「では、1人目……どなたから行かれますか?」


「じゃあ、ワシから行かせてもらおう。」


呆れていても怪談話は始まる。トップバッターは屋敷の主ジョン=ダーキニー=ツェルニエ氏だ、寝たい……俺はお化けと水だけは嫌いなんだよ。生きてる人間も恐いけど、幽霊なんて何するかも分からないから恐ろしい。


「まず、ワシが話すのは『開かずの203号室』じゃな……。これは___」


ジョンが語ったのは、だいたいこんな感じだ。開かずの203号室には、夜な夜なこの屋敷の初代主が化け出て狂い笑っている……そう、今も__。


(くだらないな……それにしても眠い。)


子供騙しかよ……実際問題、私を誘った筈のエレノアは前にも聞いたのか眠そうにしているし、怖がっているのも子供達しかいない。

確かに203号室はよく分からない謎の呪文が扉にびっしりと書かれていて、いわく付きそうな感じがしたが、夜な夜な笑うだけでそんなにするものなのか、もっと他に何かありそうな感じがするのだが、面倒なのでそれは突っ込まずに次の話を聞く事とした。


「じゃあ、次は私が行くわ。」


ジョンの娘メリンダが挙手をした、彼女が2番目なようだ。彼女の第1印象は、無表情で何も話さない……そういうイメージしかない。だから、こうして声を聞くのもこれが初めてだし、ああこの人は喋れたんだ、そう驚きと共に思ったほど彼女は無口な女性だった。


「では始めたいと思います。私がこの度語るのは『魂のワルツ』という怪談話です。昔、ある夜に___。」


(随分と大袈裟な始め方だなぁ。それにしても、“魂のワルツ”ってなんか楽しそうなタイトルだ。)


夜だし多少の現実逃避をしつつ、ぼんやりと話を聞く。……話すネタもないので言っておくと、多少の現実逃避の中には、明日の朝5時起きにも関わらずこんなつまらない怪談話を聞いている事も含まれている。そして、今が午前0時過ぎだ。先程午前0時の鐘の音が外でザアザアと降る雨音と共に微かに聞こえてきた。つまりこのままだと私の睡眠時間はナポレオン以下という事になる。……まぁ、議員時代から慣れっこだけど、遅寝早起きは久しぶりだからちゃんと起きれる自信はあまり無い。


(……後どれくらい話す気なんだよ。)


彼女の話は、ある夜、使用人がキッチンを通りかかるとそこには火の玉が浮いていた。恐ろしく思って逃げようとしていたら、同僚のメイドがフラフラとそのキッチン目指しておぼつかない足で歩いている。後を付けるとそのメイドは狂ったように踊っていた。その彼女の周りには、彼女と踊っているかのように火の玉達もワルツを踊っていた。血の気が引いた使用人が逃げて部屋の隅に隠れていると、屋敷中に響くバタンという大きな音がした。屋敷の人間達がキッチンを見に行くと、そのメイドは既に事切れていた……。


「「「キャーーーー!!」」」


子供達が悲鳴を上げる。うん、私も澄ました顔をしているけど内心ビクビクしている。これは怖い……皆さんには分からないだろう、だけどこの屋敷内の人間の中(主に自分や子供達)にはこんな公式が成り立っているのだ。


怖い話+いわく付きのお屋敷+雨音しか聞こえない午前0時の夜=物凄く怖い



「ようやく、おもしろくなってきたのぉ。じゃあ、こうしよう……これからは話をする度に蝋燭を消していくというのはどうじゃ?」


ジョンおじさんは怖さに油を注ぐような事ばかり言う、皆は主に異論など唱えること出来る筈もなく1つ話す度に蝋燭を消していく事が決定事項となってしまった。


「伯爵、この辺りで話されたらいかがです?

別にこの屋敷の怪談話を知らないのなら、別の話でも良いので。」


「あ、ああ……そうだな。じゃあ、遠い東の国に伝わる王の話でもしようか。タイトルは……だいぶ昔に読んだ本だから覚えがないが『消えた王』とでもしておこうか。ある国にはこんな昔話が伝わっているそうだ。」


急にジョンおじさんに当てられて、注目の的となってしまった伯爵は慌てていたが諦めて話をした。

その国の王は不思議な人だった。腐敗を極めた王朝を倒した勇ましい人物であるにも関わらず、記録に残る王の姿はあまりにも少ない。『普通の青年の姿だ……だけど姿に騙されてはダメ。まるで鬼神のごとく敵を倒し、何万人もの血を浴びて犠牲を払って国は出来た』という。でも、その王はある日を境に狂い始める……死んだ人間を探し、親しい人間を手にかけて、王の治世の晩年は暴政他ならぬモノだった。そしてある日、王は消えた。人々はその存在を忘れて、記録にしか王の姿は残っていない。その王は確かに存在したのだ……なのに、側に居た筈の側近や息子ですら彼がどんな人物だったのか覚えてはいないのだ……。


「__以上です。」


(憐れな話だ、誰にも覚えられていない記録にしか残っていない王か………)


そういえば、自分も日本に居る人間から見たらそのうち、そうなるのかとしみじみ思う。行方不明になった無名の落選2世議員の事など皆忘れていく、何故かその王の話が他人事とは思えなかった。


「いまいち面白さに欠けるな。……次、次は誰が話すんだ?」


ジョンおじさんは次を誰にしようかと言い始めて、そこで私はジョンおじさん達が我々伯爵家の人間を馬鹿にしているという疑念が確信へと変わった。エレノアが彼らを嫌っていたのもこの辺りが原因なのだろう。

そこまで思考を巡らせていると、背筋がブルリと震えた。


(……まただ。この変な背中に嫌な視線が感じる、これはなんなんだよ!)


この屋敷には邪悪な何かを感じる、視線のようなものをじーっとこちらに向けている何か、後ろには誰もいない筈だ……なのにそれを確かに、そして先程よりも確実に強く感じるのだ。ああ、いろんな意味で早く帰りたい。


「じゃあ、次は私が。『鬼ごっこ』……」


エレノアが話始めた。

屋敷の裏には、今は使われない庭がある。その庭が使われていた頃の話。昔、その庭で鬼ごっこをしているとその子供の1人がいつのまにか消えるという事件が起きました。大人達が探し始めたのですが、遂に見つかることはありませんでした。それから数十年経った時に、少し離れた村に住む子供達がその庭へ度胸試しをしに行きました。その8人の子供達は庭で鬼ごっこを始めた、でも何も起こりません。噂かと思って落胆していると気づいたのです、ここには7人しか居ないという事に……その子供は遂に見つかることはありませんでした。


「ああ…その話、知っていますよ。この屋敷に伝わる七不思議みたいなモノですよね。」


息子オルハの妻ナージャが言う。

他に6つもそんな話が存在する方に驚くのだけど……エレノアの七不思議語りから、話は派生して『七不思議語り』へと変わっていく。

……他にも、『夜中に動き出す人形』とか『人食い部屋』など七不思議が語られていく。というかよくこんな家に住もうと思えるな、ジョンおじさんも。こんな人が死んだりあやかしが日常的に起こる屋敷に住めるという意味では彼は普通の人間ではないのかもしれない。


「皆中々本丸を攻めないよなぁ、俺が本丸を言ってやるよ。」


息子のオルハが嫌な笑みを見せて言う。それを聞いたジョンおじさんの顔がサーッと曇った。


「待て!それだけは話すな、『屋敷の奥さま』だけは語ってはいけない!」


「“そんな迷信”信じているなんて馬鹿だなぁ。……俺が言ってやるよ、『屋敷の奥さま』昔、ある所に大きな屋敷がありました。その__」


屋敷の奥さま、確か行き掛けにエレノアが語ってくれた昔話だっただろうか?ジョンおじさんは必死な顔をして止めるが、オルハは構わずに語った。

だがその時、風が吹いて蝋燭が全部消えた。不吉な予感に皆が悲鳴を上げてパニックに陥る、手探りで灯りを灯そうとする黒い影が動く。ある程度皆が落ち着きを取り戻そうとしているのを見計らったように、今度は屋敷内がガタガタと小刻みに揺れ始めた。所謂ポルターガイストという奴だろう。反射的に机の下に移動してから、うずくまる。


「なんなんだ、一体……」


ポルターガイストが収まってからメイドのサラが灯りを灯してくれた。


「お…おう、サラよ。ありがとう……」


「何だったの、今のは……」


「バチが当たったんだよ。」


腰を抜かしたジョンおじさんや他の面々、子供達はすっかり怯えて恐怖で顔がひきつっていた。


「サラさん、こんな暗いのによく早く灯りを灯してくれたね。眼がいいんですね。」


「ありがとうございます。野生児だったせいか猟師だった祖父と一緒に野営をしていたらこうなったんですよ、私。あだ名は猿でしたから。」


「そうなんだ……」


やっと一息ついて皆でホッとしている。

ジョンおじさんは息子のオルハに向かって、


「ほら見ろ、この屋敷では『屋敷の奥さま』を書くことは許されても語ることは許されていないんだ!お前、聞いているのか!おい、オルハ!」


「………………」


返事がない。オルハはいつまで経っても返事をしない。気味が悪くて震えた、先程から感じている嫌な視線がまた更に強くなっていたからだ。ここは異世界、元居た場所とは違うところだ……隠れていた才能が開花してもおかしくはないし、今まで出来ていた事が出来なくなってもおかしくはない場所なのだ。


「ひ、ひ、ぎゃああああ!」


ジョンおじさんの悲鳴が屋敷中に響いた。

肌が妙な色に変色して、明らかにオルハは生きているとは思えない様子だった。


「…………………ひっ!」


思わず口を覆ってその場にへたりこむ。屋敷内の空気は重々しく、冷々とした空気が覆い、外の雨音のみがした。

しばらく経って、動けるようになった私はオルハの身体に触れてみる。医者ではないので脈のはかり方など分からないが、身体は冷え始めていて体温を失いつつある。シンイチロウは心の底からゾッとした。


(おい、まさか……まさか、指令の為に殺されたんではないよな………?)


もしそうだとしたら彼をコロシタのは、この私だという事になる。山内信一郎という存在が居たから彼が死んだという事になる。

唇を噛んだ。指令の為に人が死ぬのならこの責任は私にある、ここに存在していなければ彼は普通の生活を送っていただろうに。その責任の重さにゾッとした、ゾッとしたけれどもそれでも立ち向かわなければならない、逃げてはならない……逃げてしまったら、もう2度と日本に戻れない。彼の死すら無意味になる。


「気のせい、気のせいだよな……」


だけど、そんな儚い夢は掻き消された。

静かな空間にガラケーの着信音は随分と大きく聞こえた。


「こ、今度は何よ!」


「怖いよぉ!」


「やっぱりこんなところに来るのは反対だったのよ!」


ガラケーの音を聞いた事の無い人々は再びパニックに陥った。


「あ、あ、なんで……そんな、そんな……」


胸元の固いその機械に触れながら、唇をキッと結ぶ。突然、ぐらりと視界がぼやけてよろける。


「大丈夫か、えっと……シンイチロウ君とやら。顔色が悪いが、大丈夫なのか……具合が悪いのなら部屋に戻っていなさい。」


「はい、そうさせてもらいます。」


罪悪感を感じながらも、私の頭の中には誰が救う対象なのか指令を確認する作業の事を1番に考えて、このジョンおじさんの申し出をありがたく受け入れる事とした。

部屋に戻って指令を確認しようと事態を飲み込めていない身体を無理矢理動かす、だけど私はこの短時間に起きた非現実的な事や罪悪感にばかり気をとられて気づいていなかった。__不審に思ったエレノアが私の後をつけていた事に。



部屋に戻った私は、ガラケーを開いて指令を確認する。


《3つ目の指令:屋敷内のパニックを解消せよ。

救う対象:アマーリエ=ベイジン

※屋敷内で起こる怪談の謎を解け。》


「………ったく、こんなときにかよ。人の命をなんだと思ってやがるんだ、神様は。」


自分でも真顔になっていることは分かった。くそ、謎なんて解いている暇ねぇよ。

そう思っていると、小さな足音と視線を感じる。先程から感じている嫌な視線とは違う、間違いなく人間が向けている視線を感じた。

私は慌ててガラケーを胸元に隠してから様子を伺った。そして、ソッと扉を開くとそこには…………。






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