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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
9章:最終決戦、王の集いをぶっ壊せ!
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情報と策


6月下旬頃、クロハが月1度の外出許可を貰ってメスリル伯爵邸へとやって来た。なんでもオリンに会うのも騙し討ちのように女官にした父や兄に会うのも嫌だという理由で来たようだ。


「宮廷で女官になってもう後少しで2ヶ月になるなあ。それでな、宮廷ではメッチャ面白いことばっかり起きたんや。“妖精おじさん”っていう変な存在があってな。それから__」


「へぇー、そんなことがあったんだ………」


エレノアは少し顔がひきつっていた。当たり前だろう、その情報は“王の集い(KINGCLUB)”でないと知り得ない情報ばかりなのだから。特に女官長がノルマンディア公爵に騙されてスパイになったのは彼に余程信頼されているか、俺らのように秘密通路から見たとしか思えないものばかりだったからだ。


「ウチは、それがクライム侯爵だと思うんや!」


「ほう?それはなんで……?」


「実はな__」


クライム侯爵とおぼしき月桂樹のジャケットを着た人物が必ずと言っていいほどその“妖精おじさん”の側で目撃されていたらしいのだ。……まあ、クロハの主観的な情報だが。


「う~ん、でもやっぱ、あの家柄が服着て歩いてるようなおっさんな訳ないよな。まあ、そんな風に面白いことばっかりなんや!

じゃあ、そろそろ帰るわ。もうそろそろ帰らな門が閉まって入れなくなるから。」


「おい、クロハ……お前は宮廷に上がったこと、後悔してないか?」


「後悔、しているよ。でもな、今は楽しいしお使いの時やこういう月1度しか外に出られないのは辛いけどなんとかやっていけているからもういいよ。」


「そうなのか……そうか。」


俺の問いに帰ろうとしていたクロハは精一杯の笑顔で言った。それは無理しているようにも吹っ切れているようにも見えて真意は分からなかった。

彼女が去った後に俺は先程の話と共に彼女のことを考えていた。彼女を宮廷から出したいと考えていたオリン、彼が言っていたことをすっかり忘れていたのだがもしそれが実現すれば……俺には、どうしようもない話なのだが何故だかそう考えてしまった。

少し考えていた時に、昭美さんが部屋に入ってきた。また、3人で話をする。


「なるほど、そのような話が………お父様は一体どうしてしまったのでしょう。悪いものでも食べたのかしら、そう思わざるを得ないような変貌ぶりですね。」


「アキミさんは随分クライム侯爵に冷たいのね。まあ、殺されかけたのですから当たり前か……」


「エレノア、親子の関係なんて複雑で一言では言い表せないよ。俺だってレールの敷かれた上を歩く平凡な人生を送ってきたけれどそれなりに年相応の修羅場は経験している、本当に平坦な人生ならば昭美さんの反応は冷たいと言えるけれど、俺はそうは思わない。……血は水よりも濃しなんて言葉もあるけれど本当に複雑で切りたくて切ろうとしても中々切れないのが家族の縁ってものだよ。それに、どの家庭も必ずうまくいっているとは限らないだろう。……貴族の場合は、家族関係が希薄になりやすくて庶民よりもより一層複雑で生々しいものだ。」


「シンイチロウ、貴方はまるで家族を疎んじているように感じるけれど貴方にだって奥さんや娘さんが居るのでしょう?」


「親子の関係の話だ、俺は家族なんてクソくらえと思っていたガキの頃があったんだよ。でも、子供が居るからこそ親は仲悪くても離婚できないもんなんだ、近くに居る夫婦を見ていてそう思えることもあった。………俺んちはラブラブってほどじゃなかったけど普通にうまくやっていた、と思う……。

……っていうかこういう話は雰囲気が暗くなるだろ!話をクライム侯爵に戻そう。」


「そうですよ、エレノア様。とりあえずお父様の話に戻しますよ。」


話が少しずれてしまった。エレノアにはきっと一生かけても分からない悩みだと思う、伯爵としょっちゅう喧嘩しているけれど数日で仲直りしてしまう彼女には家族の縁を重苦しく思う苦しみは分からないとシンイチロウは思った。エリスの人生を知った時に俺が彼女の苦しみをなんとなく分かったけれど、昭美さんには贅沢な悩みだと一蹴されたように周りは理解できても本当のところはその人にしか分からないものだと思った。

さて、この辺で話を戻すとしよう……


「まず、その“妖精おじさん”がクライム侯爵だと仮定してだ……なんとか彼から情報得られないかな?」


「私は反対です。まさかそんなことをあの人がするわけありません!家柄が服を着て歩いてるような人ですよ?娘よりも家の誇りの方が大事な人です、まさか情報をくれるとは思いません。根回しという言葉の存在を無視しないでください、シンイチロウさん。」


「シンイチロウ、私だって反対よ。わざわざ敵に接触すれば危険よ。」


2人の反対はもっともだが、あのような謎の部隊まであるくらいだ、女帝側は恐らく既にあの通路を使ったのが俺だと分かっているだろう。通路は使えない、女帝側は敵でそれと敵対する“王の集い(KINGCLUB)”も指令のせいで敵と言える。動かずにこのまま待つのも策の1つではあろうけれど、それではその間に着実にクーデターの準備が進んでしまい俺らの働きの意味がなくなる。………裏切り者(?)に接触するのも手の1つである。


「そうは言うが、このままどうする気だ?クーデターの準備は多分着々と進んでいる、その間に動かなければ彼らがただ自滅するだけだ。指令解決……と言えるのだろうか、あれは俺がやらなきゃならないんだよ。そうじゃないと多分いけない。まず聞くが、クライム侯爵はどのような人物だ?」


「誇り高く、娘も道具としか考えない……そして、侍女に手を出して秘かに殺していた酷い人。家はいつもギスギスしていたし、妙な占い師呼んだり、あのような思い出すと奇妙な家に住んでいるある意味図太い人……だったと思います。間違っても危険を犯して情報を漏らすような人ではなかった。」


「ムム……まあ、色々と問題がある人物だが、やはり彼に吐いてもらうことが今1番できることに違いない。……だが、情報を補強する為にも夜会で手に入れた情報を教えてくれ。」


「そうね……クライム侯爵は最近、物を手離しているという噂…後は行き付けの占い師だとかなんとかと聞いたわ。」


「………お父様達の占い好きは変わらないのね。あの人らしくてよ。」


昭美さんは静かに呟いた。それはいつもの昭美さんとは違っていて、もしかすると一瞬だけ侯爵令嬢アングが主導権を握って表に出ていた中井昭美を押し退けて出てきたのかもしれない、そう思った。


「……やはり、俺はクライム侯爵に賭けてみる。彼に情報を貰うしか方法は無い。」


「な、何故貴方はそう思うの?確かにそれは最善の手なのかもしれないけれど。」


「クライム侯爵が情報を教えてくれるという勝算が高いからな。

彼はクーデターに消極的な感じであり、ノルマンディア公爵に踏み留まるようにと血判状を捺す前に言っていた。そして、彼には“王の集い(KINGCLUB)”を財布代わりにされて限界が近いという恨む理由もある。物を手離すというのは建前でどこかへ売り始めたのだと思う。彼は、金銭的にかなり困っていると見てもよいだろう。追い詰められているからこそ、“妖精おじさん”になることもできる、そして__」


ため息を吐いて言葉を一旦区切る。腹の底にわずかに感じた理不尽さを無視して、何もなかったように話を続けた。


「女官長まで荷担しているのは、彼らしか知るよしもない情報……普通の末端の者なら知らない筈、内部の者の仕業だろう。………以下のことから俺はクライム侯爵に賭けてみようと思った。どう思う?」


「動きようがないならば、やってみる方がよいのかもしれないわね……時間は限られているのだから。」


そうエレノアは気が乗らない様子で答えてくれた。出来れば関わって欲しくないという顔だった、俺だって指令が無ければ放置して自滅するのを待つだろう。……昭美さんに話を振った。


「昭美さんはどうするつもり?」


「シンイチロウさんがそうしたいのならそうすればいいです。」


「そうか。君は良い妻になれそうだな。なんだか、そう言われると自分が考えた策が成功しそうに思えてくる。」


「それは買いかぶり過ぎです。でも、そのシンイチロウさんの策にもう1つだけ付け加えても良いでしょうか。それは__」



昭美さんの策を聞いた俺は笑った。彼女も趣味の悪い人だ。しかしそれもよいかもしれない、そう思った。__その為には少しだけ準備が必要で今日、すぐにはできないだろう。でも、面白くなりそうだとシンイチロウは笑みをこぼした。

……オレンジ色の光が窓から射し込んでくる。それは燃え盛る炎のようにも見えた、陽は落ちようとしている。クライム侯爵、彼から何か得られればよいが、シンイチロウは不吉なほど真っ赤な夕陽を見てそう思った。








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