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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
9章:最終決戦、王の集いをぶっ壊せ!
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証拠ゲット、なれど…


大陸暦1833年6月の上旬のある夜、マルチウス帝国の首都ランディマークの何処かにある秘密の館でその儀式は行われた。

館の地下、怪しげな骸骨や綺麗なピカピカ光る棒など祈祷に使われるという道具が沢山あった。今日は、彼ら“王の集い”がクーデターを企み、誓いを立てる所の話をしよう。__ここに出席できるのは決意に満ち溢れた選ばれた一流の者(王の集いの会員)達である。彼らは“王の集い(KINGCLUB)”の会員となった日から正統な王に仕えると使命を持っている。


「皆の者、よくぞ集まってくれた。

今日が我らにとって記念すべき日である。では、これより儀式を始めたい。」


ノルマンディア公爵の一言で黒衣を纏った痩せた男が入ってきた、彼は神の復活を願っている男カマセ=イヌ=オシエ=ル=アクヤク元司教である。指名手配犯である彼が捕まらずにいられるのも彼らの庇護があるからに違いない。

元司教がゆっくりとした足取りで部屋に入ってきて祭壇の方へ向かってまずむにゃむにゃと祈りを唱えた。そして、次にノルマンディア公爵から他の貴族へと何か透明な水をかけていった。その次に上の階から死んだ獣が持ってこられ、その血が祭壇に置かれていた聖杯に注がれた。


「皆様、順番にこの血をお飲みください。」


そして順番に飲んでいくとまたさっきの透明の水を浴びて、体を清めた後に紙が用意されて1人1人そこにサインをしていった。__これは、クーデターに参加してその成功の為に悪魔に命を差し出すという事が書かれた契約書であった。


「誓おう………我らに正統な皇帝を!」


その掛け声と共に指の先を小刀で傷つけて出た血を血判状に捺していった。ノルマンディア公爵、デコン伯爵にセフテンバー侯爵やクライム侯爵など高位貴族とその令息、約40人あまりが血判状に判を捺した。そして、その血判状を祭壇近くの木箱に入れて鍵をした。鍵は入口近くの取っ手にかけられた。

その後は女帝に対する呪詛が行われ、おぞましい狂気の沙汰だった。“迷花草(めいかそう)”に酔う彼ら、彼らは既に悪魔に魂を売り渡してしまった。ある者は皇位の為に、ある者達は私利私欲の為に……その先に待ち構えているのは一体、彼らの栄光か破滅か……。


「……………………」


我が世の春とばかりに快楽に溺れる同胞達をクライム侯爵だけは猫のような目で見ていた。


________


シンイチロウは吐き気を覚えた、口元を覆っていないと胃の中の内容物が出てきそうだった。胸が苦しくて仕方なかった、その気概を正しく帝国の為に使う気は無いのか。私利私欲を求めて快楽に溺れる彼らの気持ちは分からなくもない、けれど少しだけ臆病な自分には無い大胆な勇気を持つ彼らを羨ましく思った。

彼らが居なくなったのを見計らって、先ほどまで彼らが居た部屋へと侵入する。この秘密通路を造った奴は一体どういう意図を持ってこのような通路を造ったのだろうか?入口と出口が1つではないのだ、出口は関所越えの時に出た所以外にも王宮内部のあの女帝を覗き見たあそこに1ヶ所、そしてこの“王の集い(KINGCLUB)”の秘密の館に出られる出口が俺の確認した所あるようなのだ。


「まあ、証拠さえゲットできたらなんでもいいんだが。」


シンイチロウはフードを被ってから手袋をして祭壇の裏にあった秘密通路の出口へと出て、秘密の館内部に侵入した。そして、部屋の入口近くに掛かっている鍵を取ってから血判状と女帝への呪詛の証拠を収納魔法でしまってから周囲を確認した。誰も居ない事を確認してから祭壇の裏にある出口を使って秘密通路へと戻った。この間の時間はだいたい2~3分程度だったが、心臓がバクバクと鼓動を速めて中々落ち着けない。


「しっかし、本当によくこんな事出来るよな……」


とりあえず証拠をゲットできたしそろそろ戻ろうかと来た道を戻って大きな道に出ようとした所で誰も居ない筈のこの秘密通路で声が聞こえてきた。男3人ほどの声で、チラリと覗き見てみるとあちらも俺のような黒装束で手には刀を持っていて明らかに訓練を受けていそうな手練れだった。


(ま、マジかよ……そうだ、この通路の存在を知っているのは俺や昭美さんのような存在だけではない!皇家やそれに連なる血を引いていれば情報は得られる……まさか、ノルマンディア公爵にそれがバレたのか……?)


そう思って戦々恐々として収納魔法でしまっていた刀を手にして息を潜めていたのだが、男は不思議とこちらの方には向かって来ずにコツリ、コツリと靴の音を立てて去っていった。一体ここの造りはどうなっているんだ?初めて、秘密の館を覗き見られるこの通りを見つけた時も今まで道が見えなかったのに急に現れた、まるでカメレオンのように保護色となって隠れていたような……シンイチロウがそこまで考えていた時に、男達の会話が聞こえてきた。


「本当にここに侵入者が……?」


男の1人、3人の中で1番若い男が若くて高めな声で言う。


「間違いない、女帝陛下の元にある“皇家の地図”にこの辺りに侵入者の反応があったとの事だ。」


リーダー格とおぼしき男がそう問いに答えた。どうも彼らは女帝側の人間らしい。確か、“皇家の地図”はこの秘密通路の地図が乗っていたものだったと思う、ゲームにも登場していた…ような、あれ?登場していたんだっけ?……あまりうまく思い出せないけどゲームでヒロインがここを通った時はジョージア皇太子が地図を手にしていた筈だからそれが“皇家の地図”だったのだろう。そのような名前は無くてただ地図としてしか用いていなかったが。


「でも、侵入者は居ないようです。本当にここにいるのでしょうか?入るのだとして誰がここに、ここの存在を知るのは皇室の方々かそれに準ずる方々だけです。__ま、まさか、ノルマンディア公爵では……!かの御方は近頃妙な行動を取っていたと聞きますし」


「さあな、だがノルマンディア公爵はあり得ない。彼はここの存在を教えられていない。先代のノルマンディア公爵は先々帝に疎んじられ、ここの存在を知らされないままお隠れになった、その息子であられるノルマンディア公爵は多分知らないだろう。」


「……色々とややこしい事情がありそうですね。では、一体誰がここに……?」


そのまま過ぎ去ってくれ、シンイチロウはそう思った。しかし、そうはならなかった。あまりに突然の事で震えが止まらずに小石を蹴ってしまいバキッと派手な音を立てた。普通の道ならばこのように大きい音を立てる事はなかったのだろうが、ここは普通に声を出しただけで反響する場所だ。相手の耳にも聞こえていた。ダダダと男達が来た道を戻ってきて、“侵入者(シンイチロウ)”の存在に気づいた。


「何者だ!」


「……………」


シンイチロウは刀を構えてブンブンと振り回して男達が塞いでいた進路を進んだ。そのまま、逃げようかと思ったのだが、やはりそう簡単にはいかない。男達も短剣を構えて、戦闘状態に入る。

男達3人の短剣は容赦なくシンイチロウを襲ってきた、俺は何故それを防げているのか自分でも分からないくらいだったが息絶え絶えになりながら防ぎきっていた。

だが、シンイチロウとて異世界から来たことと神様から超能力以上魔法未満の魔法モドキが使えること以外は普通のそこら辺の人間なのだ。体力の限界ならば人数的にも技量的にも劣っているこちらにすぐにやって来る、それは必然であった。


__ザクリ!


降り下ろされようとした刃をを防ごうと腕を顔の前に持ってきて切られた。服を貫き、腕をざっくりとかすめて血飛沫をあげた。熱を持った感触のする腕を庇いながら応戦を続けるもやはり片腕を庇いながらの戦闘は苦しくこのままではただでさえ劣勢なのに負けは確定だ。


「くっ……!」


押さえつけられて止めを刺されそうになった俺は、最後の力を振り絞って男の短剣を防いでからもう2人が刺してくるのを体を丸めて避けてから男の脛を蹴りあげて一散に逃げ出した。


「ヘンドリック様の剣術が無ければ死んでたぜ、しかしここへ来ていた事が女帝側に筒抜けとはどう動こうか。考え直す必要があるな」


神速の勢いで走っていたシンイチロウはこのまま逃げ切れる事を願いながら、森にあるこの通路の出口を目指した。


「……クッソ、腕が!」


シンイチロウの声が硬くなる。不思議な事に男達は追ってこないが、別の道を通って先回りして出口の所で待ち構えているかもしれない。その前に出て戻らなければならない。更に足を速めようとして、急ぎすぎたのか足がもつれて転んだ。膝にも鈍い痛みがする。


「もう少し…もうっ…少しだ!」


走り出してすぐにまた足がもつれて転んだ。最近は精神的に磨耗して疲れていたが、それにしては体が重くて転びやすい。先程の戦闘と腕の傷もあると思うがそれにしてはおかしい。


「奴ら、何かやったか……?」


ぐわんと何かに殴られたように世界が揺れた。慌ててステータスを確認してみる。


《山内信一郎

level:1(MAX)

種族:人間(異世界人)

年齢:46(見た目は30、中身は中学生レベル)

職業:メスリル伯爵家使用人、前衆議院議員。

称号:異世界から来た者、“元の世界の神(アマテラス)”に呪われし者、“この世界の神(ミラーナ)”の祝福を受けた者、“異界の神(オティアス)”に興味を持たれた者

状態:疲労、毒状態

体力:31/130

魔力:15/25

攻撃:64

防御:85

素早さ:78

運:50

スキル:初級鑑定、究極の偽装、究極の言語理解、初級剣術、魅了魔法モドキ、テイムモドキ、収納魔法モドキ、薬物耐性モドキ、身体強化モドキ、物理攻撃耐性モドキ。

持ち物:普通の服、携帯電話、血判状、呪詛の品》


「ど…ど、毒状態、か」


シンイチロウはようやく自分の体に起こった異変を自覚した。薬物耐性モドキを使い、なんとかおぼつかない足取りで壁を伝って歩いて行き、ようやく出口へと出られた。出口に出た途端に人影が見えて再び刀を構える。

そこに居たのは__


「シンイチロウさん!」


昭美さんだった。安心して力が抜けて刀を地面に落とした。

でも、どうして彼女がここに?


「ど…して、どうして…ここに?」


「やっぱり心配だったんです!エレノア様からも頼まれました、シンイチロウさんの事を見てくれって!……で、でもなんでこんな事に…」


「か…か、かっ、刀の先に、ど…毒が、塗られていたんだ…証拠はっ…ちゃんと持って帰ったから、とにかく家にか、帰ろ…う。」


「家に帰る前に、薬を!」


「そ…れ…は、だ、大丈夫…だ…から、耐性モ…ドキでなん…とか、しているから…だから、昭美……さん…は、早く__」


バタン!!

シンイチロウは何かを言いかけて倒れた。先ほどまでは走ることも話すことも出来ていたのだが、今は筋肉が言うことを聞いてくれないのでそれもできない。どうにか意識は保てているものの体に力が入らなくて耳栓でもしたように声が聞こえにくい。

抗いがたい闇に覆われ、思考する事もままならない。昭美さんが大声で必死に何か叫んでいるがそれすらも何を言っているのか理解できない。


「……ぅ…_ぁ……_」


シンイチロウは言葉にならない言葉を発してそのまま気を失った。

シンイチロウの脳裏に浮かんだのは、自分がこのまま死体となって向こうに転送されて悲しむ家族の姿とこちらで泣き叫んでいるエレノアと昭美さんの姿だった。

星が綺麗に輝く夜の森に昭美の慟哭が響いた。







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