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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
8.5章:最終決戦前の小話
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西暦2010年1月22日、管理者と審判者の語らい


西暦2010年1月22日、千葉県内に存在している冬神神社の中ではある話が行われていた。冬神神社は普通の(・・・)人間から見ればただの古ぼけた神社にしか見えない。神主不在で町内会では取り壊す事も検討されている荒れ神社というのが一般の認識、そこに世界を管理する管理者アマテラスが住まう事など知っている人間はほぼ皆無である。


「ん?珍しい人が来たな、一体何の用で?」


管理者アマテラスは気の強そうな顔をした目鼻立ちがハッキリとしたタイプの美人だ。そんな彼女の今の悩みは誰も近寄ってこないように荒れ神社に見えるようにエフェクトで誤魔化しているにも関わらず、夏休み・冬休みに入ると何故か肝試しをする無謀な若者が増えることだ。


「特に用は無いわ、最近仕事が忙しくてもうダメなの。だから、少しの間匿ってちょうだい」


金髪のクール系美女、メルヴィーナ様。彼女は魂の行き来を監督する審判者という立場にある方だ。_今回は、この2人の話である。


「まあ、別に構わぬが……」


アマテラスはメルヴィーナを中に招き入れた。祠の中には色とりどりの着物が干してあった。その着物達の奥に机と椅子、そして机の上には一冊の分厚い本があった。


「で、何の用なのじゃ?貴女が妾に匿ってもらうためだけに来たとは思えぬのだが。」


「バレちゃったか……ぶっちゃけ聞くけど、山内信一郎をどうする気なの?」


「はぁ?どうするとは……?奴が助かったのであればこの世界に帰還させる。死んだのであれば死体を転送させておけばよい、ミラーナともそういう約束になっておった。それ以上の干渉はせぬぞ?」


メルヴィーナの問いがアマテラスには不可解なものだった。何を今更そんな事を聞くのか、そう思っているとメルヴィーナはムッとした様子でこう言った。


「死んだらそれで構わないと思う、けど生きていた時に彼をそのまま野放しにしておくのは危険な行為だと思うわ。」


「山内信一郎にそんな妾が脅威に思うほどの力は備わっておらん。何を怖がる必要があるのじゃ、ミラーナが祝福を与えて魔法モドキを使えるようになった所で普通の人間よりも少し体が丈夫で少し剣術など武道に優れるくらいじゃ。妾に敵わんばかりか彼に国を滅ぼしたりする力があるわけでもない、恐れるほどのものじゃない。」


「そういう事を言っている訳じゃないの!」


「ならば、どういう事だ?」


彼にそのような脅威になり得るような驚異的強さなどそもそもミラーナが与える筈無い、彼に与えられたのは我らが許した範囲内での強さに過ぎない。


「本当に単純な事にも気づかないのね!時間の流れが個々の世界によって異なるようにステータスだって異なる、向こうじゃ普通の人間と同じくらいだったとしてもこっちじゃそれよりも強くなるという事もあり得るのよ?」


「ああ、その事か。それも考慮した上でミラーナの所へ送った。あちらとこちらではステータスにそれほどの差は無い。ミラーナの所はまだ肉体労働も多い頃だからこちらの人々の平均値からすると多少の差はあるが、妾が呪いを解いた所でシンイチロウにはそうじゃな……オリンピック選手並みの体力と速さなどがあるくらいでほとんど変わっておらん。」


「それは充分元の彼からすると変わっていると思うわ。…でもオリンピック選手程度ならまあ良しとしましょうか。それと、後1つ……彼の心の変化はどうする気なの?身体だけじゃない、彼の心だって2年前……じゃなくてこっちで言えば4日前と比べると変わっているわ。」


心の変化、それは確かに問題だった。しかし、彼はそれも乗り越えてくれるとアマテラスは信じている。


「いずれにしてもそれはシンイチロウ、彼が乗り越えるべきもので妾が手を出すべきではないと思っているので注視して見守っていきたいと思っている。」


「………何、急に逃げ腰になって!彼は本当に再びこの世界でやっていけるの?だって、もう彼はここの常識だと犯罪者よ。殺人、傷害罪…王宮への不法侵入に関所越えも不法出国かしら?キャサリンとタニアの仲直りの件でストーカー規制法違反もやらかしてるから相当よ。そんな事を仕出かしても彼の経歴はマルチウスでは真っ白なんだから、その環境に慣れた彼が何も仕出かさないという保証もないものね。1度上質な肉の味を覚えた獣は中々その味を忘れられないものよ」


「……確かにそうかもしれぬ。だが、彼がもしもこちらで人を殺したとしてもこの国の法律によって裁かれるだけじゃ。」


「本当にそれで良いのかしら。ミラーナの手から離れれば貴女が結んだ契約も終わりよ、そこで彼を殺せばいいのじゃない?どうせ、彼が死んだところで運命はたいして変わらない。」


「それは妾が決めること、いくら審判者メルヴィーナ様とはいえ手を出さないでもらえるかのう。少なくとも妾にその気持ちはない。」


そう言いながら、アマテラスは机の上に置かれた分厚い本をパラパラとめくって『山内信一郎の一生』のページを開いた。これは、ミラーナの所でいう所のあの大がかりな黒々とした制御装置と同類で人の運命や過去から現在までのあらゆる歴史が書かれている書だ。もちろん、この世界の制御も出来る。


「この通り、彼はまだ後20年と少しの寿命を残しておる。定めた運命の前に死なせるのは妾が定めた事に逆らうという事。妾はミラーナのような愚かな真似はせん。」


「………ふうん、そう。」


メルヴィーナにそのまま何も言わずに寝転がり、天井を見つめていた。アマテラスは黙って書を開く。この書には沢山の事が書かれている、分からないことなんてないくらいに沢山の歴史が……人間達が分かっていない未だにミステリーなどと騒ぎ立てている出来事ですら分かる。例えば、ケネディ大頭領暗殺の謎から世の中に流れている陰謀論の真実、そして隣町の斉藤さん(86)が探している眼鏡の在処も斉藤さんのお向かいの田中さん(59)の家から行方不明になっている柴犬の居所まで大小問わず分かるのだ。


「聞きたいことが無いなら帰ってもらえないか?山内信一郎の事なら手出しは許さぬ、あれは妾の獲物じゃ!」


「いや、何もしないけれど彼、不思議な人よね。だって、まるで主人公みたいに人を惹き付ける。けれどもそれを制御したり操る術を持ち合わせていない……未発達だなんて言葉で済ましていいのかと思う部分もあるまるで子供の時のまま止まっているかのような……。単なる精神面の未発達なんて言葉で片づけられる代物でもなく本当に不思議な所、彼は精霊のような存在ね。」


「精霊のような、か……彼はそんなスゴい人間ではない。」


「本当かな、貴女は何か隠しているんじゃないのかしら。でも、気をつけておいた方がいいんじゃない?彼は、中井昭美から未来を少しだけ聞いている。無意識的に線を引いたのか、政局や彼が関わりそうな所を深く聞いた訳じゃないから大丈夫そうだけれど、それを利用すればさすがに運命は変わると思うわ。………エレノアや中井昭美や今現在彼の周りに居る人のように。」


「なるほどな……心得ておく。」


深々と息を吐いた。ミラーナに踊らされていただけであちらに来た意味は無いのでは、そう彼は思っていたようだがそれは違っている。ゲームのシナリオを変えようとしているミラーナに踊らされているという彼の考えもある一点から見れば間違ってはいないが、彼は既に他人の運命を変えているのだ。それが最も顕著に表れているのはオリン=ベアード=ミニスターだ。彼は元ならクロハと出会う筈もなかった、ただヒロインに歪んだ愛情を抱くだけの存在だった筈なのだ。エレノアや中井昭美だって本来なら平凡な人生を送る身だったのだ。

やっとこのメルヴィーナが帰ってくれるのかと思っていると


「最後に1つだけ、彼は本当に何者?」


「彼は山内信一郎、大昔に妾を振った忌々しい縄文人に似ているだけのそれだけの存在じゃ!それ以上でもそれ以下でもない。」


「……まるで、それ以上でもそれ以下でもないって言って三行半でも彼に出しているようにしか見えないけど。」


「そんなわけない。変な事を言うな。」


「ハイハイ、分かりましたよ。そこまで言うなら何も言わないでおくけど……」


しつこかったメルヴィーナがやっと帰った。アマテラスは脱力して床に座り込んだ。やはりあの感じは苦手だ……管理者となってもう千年、万年…いや、もっとそれ以上の気の遠くなるほどの歳月が流れたのに未だに慣れない。


「山内信一郎、彼は一体何なのか?」


自分自身に問う、しかしその答えはアマテラスですら持ち合わせていない。この日何度かとなるため息をついてから『万能の書』を開いてもう一度『山内信一郎の一生』のページを開いた。


《山内信一郎(1964年1月10日~)

1964年1月10日、誕生

1970年4月、公立山田小学校入学

1976年3月、小学校卒業

〃4月、私立青華学園中等科入学

1979年3月、中等科卒業

〃4月、同学園高等科入学

1982年3月、高等科卒業

〃4月、私立三流大学入学

1986年3月、同大学卒業

〃4月、高岡商事入社

1993年、退社→衆議院議員山内誠一郎秘書

2000年、初当選

__(略)》


「彼があのような人間になった理由か……」


このページを開いて改めて見てみる。小者を自称する彼も自分がいつからそうなったのかは分かっていなかったようだが、アマテラスには終着点が何となく分かっている。名門私立から名もない三流大学なるその名の通り3流大学に進学した事が原因ではなかろうかと思った。噂好きな人々は彼が名門私立学園に入学した際は『コネ入学だ』と馬鹿にして、落ちこぼれた彼が3流大学に入学した際は『やっぱり彼はその程度だ』と言った。毎日のようにそんな言葉を投げかけられた彼が更にひねくれない筈もない。そうやって彼は精神面の成長を止めて今に至っている訳だが、それならば未発達で済まされるのだ。しかし、彼はその言葉1つで済ませるにはやっぱり何か欠けているのだ。


「そんなの妾にも分からんさ」


管理者であれど人の心を操ることはできても読むことまでは出来ない。科学が発達しても不老不死にはなれない人間のように、妾達にも出来ないことは多い。


「考えすぎて疲れた……少し、遊びに行こうかの。」


パチン!

指を鳴らすと何もない空間にブラックホールのような隙間が出来てからやがて徐々に開いてクローゼットのようになった、そこには沢山の服が飾られていた。ボディコン、バッスルスタイル、様々な時代の服が出てきてアマテラスはいつの時代へ遊びに行こうかと悩む。


「皆、お祭騒ぎの夢のような時代へ行くか。」


アマテラスはそう言って服を手に取った。

彼が生きていようがメルヴィーナの言うようにはしない、約束は守るのがアマテラスの信条その8だったから。

神社周辺の町はなにやら不穏な空気、マスコミが押し寄せて対応に追われている者やそれを見て不安に思っている者どもが居る。だけれども彼女はその騒いでいる人々がなんとも滑稽に見えてクククと声が出そうになる笑いを噛み殺した。そして、古臭い流行を遥か遠くに過ぎ去った服へ着替えた後に自分の姿を知覚する事も出来ない人々に対してこう言った。


「案ずるな、もう少しで返してやるから。……生きているか死んでいるかは妾にすら読めないが、彼はきっと返してやるから騒ぐな。」


それでもなお騒ぐ彼らに眉をひそめながらアマテラスは時空の波へと入っていった。





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