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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
8.5章:最終決戦前の小話
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大陸暦1833年4月20日、不穏な香りのする宮廷


暗い、暗いほとんど誰にも知られていない今では誰も再現する事など出来ないであろうオーバーテクノロジーを用いて造られた秘密の通路を歩く。


「ここを通って関所越えたんだよな。」


「そうですね、それにしても記憶を取り戻す前にこの事実を知らなくてよかった。もし知っていたら絶対にお父様に話していた。そうしたら……想像するだけで怖いです。」


「私は、そんな平然と皇室くらいしか知らなさそうな隠し通路を歩くあなた達の方が怖いわ!」


エレノアのよく通る声が反響する。そう言われても漫画で知っているからな……ん?でもそうなったらヒロインも平然と入っていたな、まあ2次元の世界に文句言っても仕方ないか。

ここに俺達が居る理由、それは指令が来る前に“王の集い(KINGCLUB)”の証拠を掴んでおこうと考えたからである。


「けどさ、ゲームじゃマップのアイコンクリックするだけでよかったけど実際に行動するとなるとどこなのか分からないな。」


「確かに……私も“王の集い(KINGCLUB)”の秘密の館の場所知っている訳ではありませんから、本当にごめんなさい。」


「しっかし、俺らみたいな例外が居たらどうするんだよ。これじゃ侵入し放題だ。」


ここは本当に声がよく反響する、そして下水道と繋がっているのか僅かに公衆便所の臭いがする水が足元に水たまりを作っている。その臭いに顔をしかめる。


「下水道と一体化していたのか?そんな設定は無かったと思うんだけどな、まあ夏に来なくてよかった……」


「最悪!もっと丈の短いドレスにすればよかった!」


「エレノア様の言う通りです……」


俺の後ろにドレスの裾を持ち上げながら怖々とついてくる2人を連れて進むと、縦に伸びた鉄の格子に行き当たった。格子の先にも道は続いているようだが、格子に阻まれて先に進むことはできない。


「まさかのここに来て行きどまり?」


「いや、この錆び具合ならシンイチロウさんが本気出せば大丈夫そうです。」


「任せろ!」


鑑定スキルを使って弱点を確認してから思いっきり蹴りあげるとバキッという気持ちいい音を立てて格子が折れた。カランコロンと音を立てて倒れた格子だった鉄棒を端の方に投げてから先に進んだ。先に進んでいくと臭いがひどくなっていく。何も言わずに無視して行くと臭いもなくなっていき階段など登り降りが多くなった。


「これ、どこに繋がっているんだ?」


「「私達に聞かないで!!」」


そうやって登っていくうちに、空気穴がポツポツとあった。僅かに光が漏れ出てくる。覗き見てみると色鮮やかなドレスを纏った沢山の女性達が並んでいた、20代に入ったなまめかしい女性や40代ほどの人生の春を過ぎた女性も居た。シンイチロウが分からずに首をかしげていると苦笑しているエレノアが説明してくれた。


「あれはきっと女官の任官試験の様子ね、筆記試験が終わって身体検査をしているところかしら?身体検査が終わると宮廷の一員になるの。女官になるのはたいてい、結婚適齢期を超えた人や未亡人かしら。でも……」


「へぇー……って事はここは宮廷の内部なのか!で、昭美さんはなんでそんなに不満そうな顔をしているの?」


「シンイチロウさんはご存じ無いと思いますけど、本来なら女官は濃い青、侍女は濃い赤と着るものの色も決まっているんです。それなのに、あれでは……」


昭美さんの説明によると、宮廷では1番上の女官長から皇族の部屋に専属で仕える女官、そして伝達や雑務をこなす女官、皇族の部屋に専属で仕える女官の補佐をする侍女、掃除洗濯など家事をする侍女に分かれている。この任官試験で結果がよかった者は普通の女官から、悪かった者は最下層の掃除洗濯の重労働をする侍女からスタートするらしい。そして、それぞれによって服の色も決まっているのだとか。


「確かに色も薄いし、ピンクって言った方が良さそうな色の奴もいるな、水色もいるぞ。宮廷の風紀は乱れてんな」


そう言われた後に改めて覗き見ると色は薄く、桃色や水色と形容した方がよい色のドレスを着た女達が多いように思う。ちゃんと決まりを守っている女性の間に紛れ込んだ薄い色はまだらで滑稽に見えてくる。俺達は規則を破っている彼女らを見てみることにした。


________


マルチウス帝国首都ランディマークの中心部に王城はある。そこの絢爛豪華な大広間で沢山の女性達が何列も作って均一に並んでいた。奥には玉座、そしてその手前に中年女性の姿がある。


「諸君、ここまでご苦労様。私はこの宮廷の女官達を取り仕切る女官長のターニャと言う。君達は、この検査を終え次第最下級の侍女かその1つ上の女官になる。ここでは家柄など関係ない、運が良ければ女帝陛下のお側に仕える事も最高位の女官長になることも可能だ。」


張りのある声で50代前半くらいの中年女性が言う。服装は、並んでいる女性達よりも上質な布地でできていて女官長と言われても頷ける。


「ターニャ夫人、質問があります!何故、私達が5人1部屋なのですか!」


「お前達は女官だ、1人に1部屋なんて贅沢は認められない。」


ピシャリとターニャ夫人が言うと、不満そうに女性は黙った。そして、その後も宮廷での決まりや必要事項を言っていた。そして、あるところまで来たときに女官が夫人に耳打ちした。目配せをして女官を下がらせた後、


「これから、女帝陛下と皇太子殿下に拝謁することとなる。決して粗相が無いように」


こう言ってから、今度は扉の側に居た侍従に目配せをする。すると、侍従は杖でドンと床を突いて、それを合図に扉がサーッと開いたのを確認してから『女帝陛下、皇太子殿下のおなーりー』と大きい声を出して、それが広間に響いた。サササと広間の奥の玉座まで一筋の道が出来る。30代くらいの厳しい顔をした女帝とあどけない顔立ちのジョージア皇太子、そして女官や従僕が通っていく。そして、金銀が使われて機能性より見栄えを重視した座り心地の悪そうなマルチウスの繁栄と女帝の地位を端的に表している重厚な椅子へ座った。

再び均一な数列に戻ってから女官や侍女となる女性達は膝まずいた。


「「「「「女帝陛下、皇太子殿下に拝謁いたします。」」」」」


「面をあげなさい。」


凛としたすべてを圧倒する女帝の声がよく響いた。皇太子は緊張しているようで視線をウロウロとしていて落ち着きがない。


「女官長、今年はどうも背伸びしようとする娘が多いような印象を持つ。女官長はどう思う?」


「は……そうでございましょうか!?」


女帝に問われた女官長はやや上ずった声で言葉を返した。


「そなたの目は節穴か?宮廷の決まりはいつから新任の女官や侍女が桃色や水色の衣を纏うようにと変わったのだ?」


「は……そ、それは!!」


女帝の目は厳しいものへと変わっていった。列に並んでいる女性は小刻みに肩を震わせる人もいた。何も答えようとしない女官長にしびれを切らしたのかイライラとして、女帝は静かに怒った。


「ここには皇太子も居るのです、皇太子は今年で7歳。決まりを守り、手本となるべきそなたら大人がそのように率先して決まりを破るとは!

……女官長、父帝の代から仕えているその忠義に免じて今回は不問とするが、次は無いと思いなさい。それと、規則も守れない者など宮廷に要らぬ、全て帰してしまいなさい。」


「は、はい!」


顔色の悪い女官長は慌てた様子で命令を出していた。薄い色の服を着ていた面々が居なくなって均一だった列に穴が空いたのを見てからため息を吐いて、


「女官長、あの面々は名門の令嬢だったようだがそのような家柄など気にする事なく公正に試験は行いなさい。もし、何か言う者が居るのならすぐに報告するように。

では、下がりなさい。」


「「ありがとうございました」」


最初よりも小さくなった声で女官や侍女達は下がっていった。その後、女帝は女官長に何か言った後に皇太子を連れて広間から出ていった。

誰もいなくなった広間で、女官長が1人屈辱に満ちた顔をしていた。


「おのれ……!今に見ていろ」


1人、呪詛のように言葉を吐き捨て地団駄を踏む彼女。シンイチロウ達隠れている面々を戦慄させているのにも気づかず、周囲が見えていない彼女に近づく人物が居た。


「いけないですね、女官長ともあろう人が。」


「あ、貴方は…ノルマンディア公爵!申し訳ありません、今のは忘れていただけないでしょうか?」


「忘れてやろう、だが1つだけ願いがある。貴女には皇室への忠誠心はおありですか?それならば内密に話したいことが………」


ノルマンディア公爵、確か女帝の従弟にあたる人物でジョージア皇太子に続いて王位継承権第2位の持ち主である(ゲームには未登場)。こちらからは柱に遮られて姿は見えない。


「内密に……?」


「今の女帝陛下は先代の血を引いてなどいない。子が出来ない事を焦った皇后がどこぞの男と不貞したあげくに出来た子だ。」


「ま、まさか……!?確かに皇后様はお子が出来にくい身体で女帝陛下はかなり遅くの子だったのは知っておりますが……」


女官長の声は驚愕に満ちていた、シンイチロウ達も話の展開についていけずに放心状態だ。ノルマンディア公爵は矢継早に言葉を続ける。


「本当だとも、それを追及しようとした父は皇后の手で先代に疑心を植え付けられて無念の死を遂げて、婚約者候補だった私も名ばかりの公爵位と王位継承権だけしか残らなかった。……つまり、あの女帝は由緒正しき大帝国の血を引いてなどいない。」


「私で良ければ、力に……」


2人の間で密約が結ばれた。

しかし、2人はそれを見ている目撃者が3人も居る事には気づかなかった。


__________


2人が扉の向こうに消えたのを確認してからシンイチロウは叫んだ。


「怖っ!宮廷って怖いわ…」


「まさかあのような場面に遭遇するとは……」


俺たちは震え上がった。

ノルマンディア公爵について明美に聞くと


「ノルマンディア公爵は女帝陛下の従弟で皇太子に続く王位継承権第2位です。私が舞踏会で見かけた時の印象は風流人として名高く王位には興味ない風に装っているように見えましたし何かしらの事は企んでいるのでしょうけどまさか女帝陛下への不敬を言っていたとは……。」


と返ってきた。肝心の内容を聞けなかったので確証は無いが彼が女帝をよく思っていないのはあの会話で女官長を引き入れようとしている時点で確かだ。


「あれがさ、もしもクーデターへのお誘いとかだったりしたらどうなるんだろうな?」


「成功すればナショスト公爵派は大打撃でしょうね、だって女帝陛下即位前は貴方が追っている“王の集い(KINGCLUB)”の方々がノルマンディア公爵を、ナショスト公爵派は女帝陛下を担いでいたから。」


「エレノア様、まさかそこまで………あ、あ!」


明美が何か思い出したかのような反応をした。訝しげな目を向けて聞くと………


「シンイチロウさん、“王の集い(KINGCLUB)”とクーデターってなんか聞いた事ありません?」


「いや、ないけど……」


「じゃあ言い換えると“王の集い(KINGCLUB)”と暗殺未遂……なら聞いた事絶対にある筈です。」


「ああ、それなら分かった。確か、ヒロインちゃんに暴かれて血迷った奴がジョージア皇太子を刺そうとするんだよな?」


ゲーム内でジョージア皇太子は常々暗殺の危険に晒されていた。そして、“王の集い(KINGCLUB)”を壊滅させた後に今までの暗殺未遂全てが彼らの仕業だと分かって、暴れん〇将軍の悪人みたく最後の足掻きで皇太子を刺そうとするという描写があった。皇太子の好感度がある一定以下だとヒロインが庇って死ぬ、一定以上だと避けて助かるという感じだったが……


「おいおい、まさかノルマンディア公爵が“王の集い(KINGCLUB)”と繋がっているって事なのか?未登場だぞ、ゲームには。」


「でも、それなら辻褄が合うんですよ。かつて担いでいたノルマンディア公爵が王になって得をするのは間違いなくあの人達です。それに、王になるのに邪魔なのはジョージア皇太子……彼らが暗殺を何度もしようとしていたのはこういう事情があったからかもしれません。」


「なんだか話が壮大になってきたね、私はもうついていけないわ。」


「もしかして、最後の指令ってさぁ、あのクラブを潰すのとクーデター(?)を防ぐのと両立してしなきゃいけねぇの!?

………ったく、アイツらが皇太子を狙ってたのってただ単に自分等の悪事を悟られたからだと思っていたが…こんなの知らないぞ。」


「多分、ゲームには描かれなかった裏設定だったのかもしれませんね。シンイチロウさん、これはどうしたらいいんでしょうか?」


俺に聞かれても困るよ……あの密談は肝心な所は言わないまま2人が部屋出ていってしまったし、どこから聞いていたんだって話になる。


「なあ、これがもしもゲームの裏設定とかだったとしても放っておこう。……俺は“王の集い(KINGCLUB)”だけで手一杯だ。」


「「もう、意気地無し!」」


息ぴったりでこう言われてしまった、しかし俺らがどうにかしようとしても3人じゃなんにもならないと思う。毛利元就の3本の矢理論では俺らみたいなモヤシのように細い矢じゃまとまっても折られるのがオチだ。

そのままグチグチ言われながら元来た道を戻った。石碑のある森に出るともうすっかり夜だった。

___この時の俺は知らなかった、後にこの件に関わることとなってしまう事実をこの時はまだ気づいていなかった。





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