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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
8章:性悪メイドを懲らしめろ!
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ショボい勝負と結果


さて、勝負が始まった。しかし、なんなんだろう……このシュールな構図。いい歳した大人と少女が竹馬に乗っていつ足をつくのかつかないのかという物凄くくだらない勝負をしている……しかも陽も暮れてきた公園で、もう端から見れば不審者以外の何者でもない。


「エリス、これ……恥ずかしくないか?」


「しょ、勝負中に話しかけないでください!というか、なんでそんなに平気にしてるんですか!?八百長してませんよね!?」


「してねぇよ!こっちは竹馬なんて小学生…まあ初等科生以来なんだから、結構必死なんだよ!」


陽が暮れてきて視界が悪くなる、そして風が容赦なく俺の手に打ち付けてきて限界に近いのだ。話しかけてくる彼女の方をチラリと見ると彼女も限界なようでプルプル震えていた。そして、先程まで『ナレーションやってみたかったんだよ』と勝負する俺達以上に意気込んでいた昭美も審判のエレノアも固唾を飲んで見守っているので静かだ。静寂な中で俺は足をつかないように踏ん張りながらふと気づいた、俺は物凄い嘘をついてしまったと。


(そういえば俺、竹馬は2年ぶりぐらいだったんだ……)


そう、先程小学生以来だと言ってしまったが、落選後からこちらへ来るまでの浪人期間に従妹に頼まれて、その娘みっちゃん(7)に竹馬を教えていたんだった……すっかり忘れていた。そして、そう考える頃にはもう無心だった、指令とかそういうのを抜きにしてもうどっちでもいいから早くくたばってくれないかなとシンイチロウは思っていた。震えていたエリスがふらつきそうになっている、このまま耐えれば勝てるのはこっちだと確信した。それにしても何分経ったのだろう、もう20分は経ったように感じる。


「あっ!」


エリスがそう声をあげて、足をついてしまった。エレノアが声を上ずらせて審判をした。


「そこまで、シンイチロウの勝ち!」


パッとしないまま俺は勝負に勝った。何の実感もなかった、砂でも噛んだように何も感じない……まるで最初からこうなることを知っていたような変な感じがした。


「あたしの負けです」


「あ、ああ…そうだな、俺は勝ったんだもんな」


自分に言い聞かせるように『俺は勝ったんだ』と心の中で念じた。


「……どうしたの?なんか納得いかないような顔をしているけど、貴方が勝ったじゃない。」


「シンイチロウさん、エレノア様の言う通りですよ!もっと嬉しそうな顔をしてください。勝者がそんな顔していては負けた彼女にも失礼です。」


「そう、だな……そうだよな。」


昭美の言う通りだと思い、俺は納得しない引っ掛かったものを感じながらニコリと笑った。やり込められたのかは分からないが、勝負には勝った…俺が感じたのはそれだけで何か特別な達成感は感じなかった。


「おい、そろそろ帰るぞ……流石に伯爵に怒られるぜ?」


「そうね、シンイチロウにアキミさん……あなた達も一緒に帰りましょう。お父様なら私が説得するから。」


エレノアならそうすると思っていた、伯爵家に戻れるのはうれしい。でも、こうやって居られるのは後少しだと思うと悲しくなった。……しかし、説得できるのか…俺は一応厄介者だ。伯爵が優しい人物だというのは理解しているが俺を雇ってくれるのかと心配になった。そう思っていると、エリスが言った。


「あの……あたし、伯爵様に本当の事言います。あの騒ぎを仕組んだのはあたしだって言います、そうしたら2人を雇ってくれるかもしれません。」


「ありがたい事だけど本当にいいのか?」


彼女は既に覚悟しているようだった、しかし何がそんなに彼女を変えたのか……気になって聞くと『伯爵家には貴方が必要だってよく分かりました。貴方が居なくなってから計画は全て狂いましたから』と答えるだけだった。


「……なんか納得いかない。」


そう腑に落ちないものを感じながら俺は伯爵家に行った。エリスはそこで全てを告白して、俺は再び雇ってもらえる事になった。彼女はそれでよかったのだろうか、彼女の仕出かした事を知る者が居ないのならそのままの方がよかっただろうに。

久しぶりに戻った伯爵邸の使用人の部屋でゆっくりと瞑想していると携帯が小さく鳴った。確認してみると指令解決のお知らせだった。

__こうして腑に落ちないと感じたまま、指令は解決してしまった。大陸暦1833年の3月半ばの事だった。








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