2人によるゲームについての考察
ほぼほぼ2人の雑談です。こういう感じの話が後二、三話続きます。
彼女が住んでいるという、人里にある家へとやって来た。彼女は少し前まで居候していたそうだが住む人が居なくなって久しい家をタダ同然で買い取って今はそこで暮らしているそうだ。
家の中は清潔が保たれていて、質素な感じだ。テーブルや椅子など必要最低限以外の物はない。
「どうぞ、物はあまりないけど。」
「お邪魔します。」
俺は本当に力のない気の抜けた声を出していたと思う。彼女が俺にもたらした情報の事もあるだろう。彼女が居た10年後では民自党は政権奪還していた、しかしそこに俺の姿はなかった_俺は、行方不明のまま……。
__これは一体どういう事なのだろうか。それともここがあの乙女ゲームの世界と同一でないように彼女が居た世界と俺が居た世界も同一でないという事であって俺の未来など彼女が言う通りになるものでもないという事なのだろうか?
「10年後……まだまだ先だな。俺はどうなるか分からず、ゲームではヒロインが活躍する事となる予定だが、それも俺への指令によって危ういものとなっているから……」
「ゲームか……少し気になる事もあるのだけれども、貴方は私以外に同じ人間と会った事はなくて?どうも、元からシナリオからずれていたような気がしたので。シンイチロウさん、心当たりはあります?」
「いや、俺らのような人間と会った事はありませんよ?もし会っていたら言うでしょう、俺は眷属や管理者などという摩訶不思議な存在には多く会っていますが、同じような人間と会った事はありません。」
彼女が眉を寄せながら言った疑問に俺も心当たりはあった。ルイの祖父アベルと伯父のトール、彼らは漫画で語られる過去編で彼の心に傷を残す役割をしていた悪役だったが、実際はその仕事を放棄している。そして、金に苦しんでいた筈の噛ませ犬が神の復活を願い、そういう怪しげな本を持っていたジョンおじさんは逆に金に苦しんでいた。__不自然と言えば不自然なズレであろう。シナリオを変えることが出来るのは、それを知る人間しか居ない。つまりは、転生者かその関係者の仕業という事になる。
「そうだよね……でも、転生者が増えすぎてオーバーワークとかメルヴィーナ様も言っていたし、あり得ない話ではないと思うんだよね。」
「まあ、そのメルヴィーナ様とやらがどういう方なのかは知らんが、眷属のヘンドリックはかつてここの管理者であるミラーナ様に対して『神様のようなことをして助かる筈の人を殺した』というような事を言っていた。ミラーナ様は『君の息子にも王女にも悪い事をしたと思っている』と返していた。__転生者じゃなくて彼らが行った可能性もある。」
堂々巡りである、これといった結論を出せないまま話を終わらせようと思った。彼女が複雑な顔をしながら聞いてきた。
「はぁ、そういえばあのゲーム会社どうなってるか知ってる?倒産しちゃったわよ、『瞳を閉じて、恋の学園』が売れ過ぎて調子乗ったのか過去編よりも前の『恋する幸福の国で』を出して失敗し……いつのまにか倒産、貴方も調子乗ってたらそんな酷い目に遭うから気を付けた方がいいわよ。」
「ヘーヘー、わかりましたよ。………で、その『恋する幸福の国で』っていうのはどういう作品なんだ?聞いたことないな、まだ発売されてないみたいだが。」
「あの作品はね、私もプレイしたわけじゃなくて実況動画しか見たことないんだけど__」
『恋する幸福の国で』……2016年発売、人気はこれまでのシリーズに比べるとイマイチで舞台はなんとレミゼ王国!攻略対象は王太子アルベルト、トール=ドレリアン、レオン=バルベシュタイン、ジスト=メルサイユ、シャルル=ダルテンと隠れ攻略キャラのナクガア王国の王子であるイチヤ王子。ちなみにアベル様が悪役だったりフェルナンド様がサポートキャラだったりと聞いていて変な感じがした。
「つうか、トール様ってあれで攻略対象だったのか……アベル様は悪役どころか濡れ衣着せられ国外追放と聞いているんだが。豪華だな、イチヤ王子(当時)なんて今じゃナクガアの王様だぞ!
………その他のキャラがどうなったのか、俺は知らんが悪役のアベル様が国外追放されている所を見るとおおよそゲーム通り進んだんだろうな。」
「でしょうね、じゃあ貴方から聞いたアベルの変化っていうのは一体どういうわけ?」
「アベルの事は良いじゃないか、それよりもそのゲームの中に王女とショーン=オンリバーン侯爵については描かれているのか?」
アベルが見間違えたくらい俺に似ていたというヘンドリックの息子に昔何があったのか。ヘンドリックに聞きたかったが、彼は天上に居る身なのでとてもじゃないが出来ない。
「いや、そんな事は描かれていなかったと思うわ。そもそも王女って誰の事よ?分かんないわ」
「だよな、この話はこのくらいにしとこう。過去をほじくるのはよくない。結局はゲームの通りとなったんだから。」
「そうだよね。シンイチロウさんの言う通り、過去を気にしてもいけないんだよ。止めにしよう」
そうしてこの話は終わった。
それからは彼女の家に俺が居候する事となり、洞窟から荷物を運び込んだり、慌ただしくした。
木の葉がすっかり散って、沈んでゆく夕陽の心細さと自分の頼りない身の上を重ね合わせて物思いなどしているうちにあっという間に冷え込む夜がやって来た。
「おやすみなさい……」
そう言って、彼女はベッド俺は来客用に置いてあるソファーで寝る。微睡む中で俺の中に1つの馬鹿馬鹿しい推論が生まれた、本当に馬鹿馬鹿しいものだ。
「……そんな事ないよな。」
それは、アベルは悪役ではないがゲーム通りにするためにミラーナ様によって彼の実像は人々に歪められて伝わってしまったので彼は国を追われた。それを申し訳なく思ったミラーナ様は俺を使ってゲームのシナリオを壊そうとしている。多分、アベルに対するごたごたにその何某王女とアベルの盟友であったショーン=オンリバーン侯爵が巻き込まれて死んでしまった、そういう事だったのではないか……。つまり、俺への指令はアマテラスが課したものをこれ幸いにとミラーナ様が歪んだ罪の意識の元で利用して産み出したモノだという結論になった。
夜ももう更けて動物の鳴き声が遠く聞こえるくらいとなってきた、もう大人も寝る時間だとシンイチロウは目を瞑った。




