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大凶を引き当てた男は異世界転移する  作者: かりんとう
6章:神の眷属に安らぎをもたらせ……
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ヘンドリックside:チーム・アッシュ大集合!


ナショスト公爵夫人からの見取り図を待っている間、ヘンドリックは部屋で何か書き物をしていた。


「何を書いているんですか?」


『もしもの為に、指南書を書いているだけだ。これがあればもしもの時でもシンイチロウも暮らしていけるだろう。………後は、見取り図を待つだけだ。』


「体調、大丈夫です?」


『大丈夫、大丈夫。気にするな。』


錠剤をガリッと噛む音とカリカリと物を書く音だけが部屋に響いた。3日間、彼はこうして病を押してまでシンイチロウの今後の為にノート数冊分の知恵を書き記している、エレノアは何もできていないことを歯がゆく感じていた。何度も進言するが一喝されて終わりだ。自分の親ながら、恩に報いる事も出来ないのかとガッカリした。

そうしているうちに、4日目が来て公爵夫人は見取り図を寄越してくれた。彼女はその時に、『広場に味方を呼んでおいたから』と意味ありげな事を言っていた。


「………これでシンイチロウを助けに行ける。」


『ああ、そうだな。しかし味方とは一体……』


首都の憩いの広場へ向かうと、そこにはナクガア大使のエドワードとアベルの姿がある。


「やっほー、ヘンドリック様!俺、俺、町の平和を守る泣かせた女の数は未知数、ヘンリー=ベアドブークでーす。」


ただし、中身は父親のヘンリーだったようだが。横のアベルが苦笑いをしながら彼を見ていた。彼も訳をきっと最近知ったのか困惑の感情も含まれていた。


「まさか、とっくの昔に死んだ盟友とこうして会えるとは思いませんでした、ヘンドリック様。そして、訳も聞きました。シンイチロウ、彼が四半世紀前の因果に囚われているというのなら、私もあの当時の関係者として微力ながら協力させてください。」


「おう、さっすが悪徳宰相アベル、太っ腹!……ショーちゃんが居ないのはちょっと寂しいけど、これでチーム・レミゼ……いや、チーム・アッシュの集合だぜ!」


「ヘンリー……懐かしいけどもう私も歳です。そのテンションについていけないのでもうちょっと静かにしてくれませんか?」


「え~、感動の四半世紀振りの再会じゃん!」


おまけに温度差もあってついていけてない感が半端無い。……ヘンドリックは2人のテンションは放って、話を続けた。


『チーム・アッシュかどうかはさておき、2人共…早く行くぞ。

計画では、私達が先に乱入してシンイチロウを救う、その後にナショスト公爵夫人の手の者があそこを制圧して世間的に奴らの悪行をばらまく……分かったな。』


「はい、ほらヘンリーも行きますよ。」


「ヘーヘー、人使い荒いな。」


2人の再会の抱擁も終わって、声をかけて向かうべき首都近郊の施設へと向かおうとしていた。


「あの、1つ聞いてもいいですか?何故アッシュなのですか?皆さんがレミゼ出身ならチーム・レミゼで別に良いと思うんですけど?」


エレノア嬢の疑問に頷ける。ヘンドリックは上から見ていたので彼ら2人と息子ショーンの頭文字を取って、アルベルト王(当時のレミゼ国王)を惑わす灰色の御方(ASH)と呼ばれていたからだという所以を知っているので『私のイニシャルは息子と違ってSじゃないからアッシュにならないんだが……』などと言い、クスリと笑えるが、知らない者が聞けば首をかしげたくなるだろう。

2人に代わって訳を説明し、それから進んだ。


「息子の身体、相性いいな……で、やっちゃうの?燃やしちゃう、あの施設毎。」


「な、何言ってるんだ。今回は、シンイチロウの救出とあの場所のリーダーの捕縛だけだ!施設を破壊する事は含まれていないと説明にあっただろう!まったく、相変わらずヘンリーは話を聞かない人なんだから!」


『相変わらずだな、この2人は……』


「アベル様があんな姿になるところ、初めて見ました。」


移動しながら小言を言う2人を後ろから見ていると懐かしさを感じる。だが、次にヘンリーが爆弾発言をした。


「いや、あの施設が心臓部なんだよ。アイツら、本当にマヌケだよ、あそこでほとんどの事やってたみてぇだ。女性の選別も“迷花草(めいかそう)”の栽培と(紛失に見せかけた)裏取引も……主要な密輸ルートのアナトリアン公国が火事で麻薬燃えちゃったからあの中の麻薬燃やせばしばらくは流通しないと思うぜ?そんで、もし公爵夫人に何か言われたらアイツらがやらかした事にすりゃあいいんだよ。」


「………ヘンドリック様、どうします?」


『え……どうするかと聞かれても、ナショスト公爵夫人に任せておけばよいとしか答えようがない。』


我々の間に少しの欲が生まれた。

ヘンドリックはその陰謀に呑まれた、アベルとヘンリーは息子と共にパンドラの箱を開けてしまった。気づかなかった方がきっと幸せだったかも……いや、それはないか、気づかなかった方が不幸になっていただろう。でも、どっちにしてもそれが彼らの政治生命を短くした事に違いはない。その対象を燃やすという事は我ら3人の恨みを間接的に晴らす事が出来る、それがなんとも魅了的に思えた。


『……では、計画変更だ。シンイチロウを助けてからあそこを燃やす。そして、公爵夫人の手の者には奴らがやった事にしておこう。奴らの罪はどうせ暴かれる、そこに証拠隠滅をしようと燃やした事が加わった所で変わらない。』


「ヘンドリック様!?それでは……公爵夫人との約束が!」


『エレノア嬢、“迷花草(めいかそう)”が燃やされるのは私達の自己満足だけじゃない。それらが出回る事で不幸になる人を減らす事が出来る、そしてシンイチロウも私を救うという指令を果たす事が出来る、まさに一石三鳥だ。』


「まあ、それに公爵夫人の思う壺って訳にもいかねぇよ?彼女は政敵の排除が出来るが、憲兵共の悪行が知れて国民の反感を買う事にもなる、反感は貴族全体に及ぶだろう。そうなれば、彼女だって政敵の排除でやったー!とか言ってらんねぇ事態しか待ってねぇぜ。麻薬が公の施設にあったなんて国際問題になりかねねぇし、いつかは巡りめぐってくるよ。………だが、奴らが麻薬の証拠隠滅をしたことにして証拠を消せば、まあ彼らの罪は女性行方不明と不当な取調べくらいになるが、国家の傷は浅くなるってもんだよ。」


「でも…国益を損なう事は帝国の為にはならないんですよね。私、何も聞いてませんから、そういう事で。」


エレノアはそういう事にした。そして、この老人アベルと中身老人のヘンドリックとヘンリー達でどうにかなるのかと疑問であったが、彼らの動きは俊敏であった。


「おっと、済まねぇな!」


ヘンリーはまるで通りがかりにぶつかったのを謝るような自然な手つきで短剣を入口の門番に突き立てた。


「……ッ…!ぐああああ、何をしやがる!」


男の呻き声が響いた。

ヘンリーはそれを汚物でも見るようにとどめを刺した。そして、何事もなかったかのように『さて、行くぞ。』と言って先へと進んでいった。


『エレノア嬢、君は下がっていなさい。ここは私達でなんとかするから。……ナショスト公爵夫人の手の者が来るまで後二時間と少し、そのうちに殲滅させないと。』


「……はい。」


胸が苦しくなってきた、ピルケースの錠剤を噛んでからヘンドリックも剣を握って、思わぬ猫達の助けも得ながら錯乱状態となった敵を切り払いながら進軍した。

そして、何人殺しただろうか?憲兵達の大半を殲滅させてからシンイチロウを探すも見つからない。やがて、1つの他の部屋とはワンランク豪華な室内に居た憲兵のリーダーから認めるような発言を聞き出してから殴って気絶させて、ぐるぐる巻きのタコ縛りにしてから外に放っておいた。


「さて、シンイチロウは何処に……」


そして探しているうちに血を垂らした剣を握ったシンイチロウと再会した。さすがに1週間囚われていると臭うので風呂に入ることを勧めてからようやく脱力した。


________


お風呂でさっぱりしたシンイチロウに私達はこれまでの出来事を説明した。


「そんな事してもいいんですか?……まあ、なんでも正直言ってると馬鹿を見る事になるからな、いいんじゃない?」


猫達の加勢も終わり、ほとんどの憲兵達は死んでいる。今さら“迷花草(めいかそう)”を燃やした所で騒ぐ連中は居ない、そう考え至ったシンイチロウは特に何も言わなかった。


『それで、ヘンリー……“迷花草(めいかそう)”の在り処は何処だ?』


「もー、ヘンドリック様はせっかちだな。」


呆れながらヘンリーは案内をした。地下深く、コツーン、コツーンと足音しか響かない地下に武骨な施設に不釣り合いな重厚な扉、そしてその先には………


「「「「『こ、これは……!』」」」」


5人が声をあげた。

目の前に広がっていたのはプランターに植えられた繁る“迷花草(めいかそう)”達。葉は僅かに艶があり、小さな花やつぼみがポツポツとついていた。


「へっ…!よくもまあ、こんなに育てやがって。これだけありゃ、パーティーも楽しめるじゃねぇか!」


「ヘンリー、貴方は相変わらず物騒な発言を。その暴言癖治せないんですか?」


「フッ!アベルよ、これが俺のトレード・マークだ。そうでなくても生まれつきのもんを治せねぇよ。」


アベルとヘンリーが話しているのをシンイチロウ達3人は呆れながら聞き、肩をすくめた。


「ヘンドリック、顔色悪いけど大丈夫か?ああ、そうだ。あの牢内でこれを見つけたんだよ。」


『大丈夫だ。……ああ、これは重要な証拠だから預からせてもらおう。そして、忌まわしきものを早く燃やしてしまおう。』


その時、ヘンドリックが咳き込みはじめて、ゴボッと喀血した。他の4人が驚いて駆け寄ると彼は手を払い除けて言う。


『燃やせ、燃やせ!この忌まわしきものを燃やせ。跡形もなく、皆、皆燃やすんだ!』


口から血を垂らしたヘンドリックはそう叫んで絶叫した。

目がギラギラと光り、いつもの彼とは思えないほどに狂気を宿していた。アベルがマッチに火を灯して、青々とした草花に向かって放り投げると大きく火を上げて燃えた。防火・消火設備などない施設内の草花に落ちた火は瞬く間に燃え広がり煙が充満した。


『燃えろ、燃えろ!メラメラと我らを滅ぼした草よ♪我が祖国のように灰のようになれ、誇りを失い灰色になれ!

………ふう、我々はこんなものに悩まされていたんだな。こんなものの因縁に半世紀も囚われていたんだな、そう考えると悲しい。今考えるともっと色々と出来る事があったのに。』


プランターも炎に溶けている。

炎が明るく私達5人を照した。アベルはじっと祈るように目を閉じていた、きっと無念な死を遂げた息子の代わりに祈ってくれているのだろう。エドワードの身体を借りたヘンリーは拳を震わせて複雑な顔をしていた、きっと生きてこの光景を眺めたかったと悔しがっているのだろう。シンイチロウは特に何も思っていないようで不思議そうにボーッと眺めていた、彼は直接因縁に囚われた訳ではない…ただ、異界からゲームの因縁に巻き込まれただけだ。エレノア嬢はブルブルと震えていた、彼女をここまで連れてきたのは失敗だったか?彼女はシンイチロウと会わなければこの因縁に触れる事などなかった、本来ならまったく無関係な人間なのだから。そして、私は一体どんな顔をしているのだろうか?

……濡れたような潤んだ瞳。彼は興奮して微笑んでいた。


『さて、ここから出よう。

もう疲れたから、ここから早く出よう』


ヘンドリックは無邪気に笑った。その笑顔からは悪意や欲など感じられない純粋な喜びしか感じられず、他の4人は何も言えずに無言でその言葉に従った。

炎が広がり続ける施設から脱出して、転がっているリーダーの男に女性の遺品の純金のイヤリングを側に置いておきそのまま5人は近くの森の木陰へ逃げた。少ししてから、公爵夫人側の手の者が突入していった。


「彼女もえげつないな。ありゃ、リーダーの男もただじゃ終われねぇ。」


「散々息子の身体を使って殺しまくった貴方が言うセリフですか?」


ヘンリーには呆れさせられる。

呆れているとシンイチロウとエレノア嬢が不思議そうな理解できない顔をして聞いてきた。


「何故、そんな平気なんですか……?」


そう聞いたのはエレノア嬢、そして答えたのはアベルだった。


「私は祖国で悪徳宰相と呼ばれていました。きっと今もあの地には私の悪名が残っている事でしょう。それは、それらの多くは事実無根です。しかし、私が“悪”であったことに変わりはないのです。ただ、そう呼ぶ“彼らの悪”と“私の考える悪”の定義が違っていただけで、私は噂通りの人間だったと思うようになりました。だって、私はたくさんの人を犠牲にしてきましたから。エレノア嬢、生半可な正義なんて持っちゃいけない。

……民衆からすれば、弱者を気遣う優しい為政者が1番なのだろうね。でも、経験者から言えばそんなの弱腰な大馬鹿だ……頭が良くても、器があっても優しさだけで治められるほど現実は甘くない。私が優しい為政者だったのか冷酷な悪徳宰相だったのかはノーコメントだが、私だって人を犠牲にした。……1人や2人じゃない、見えないところでもっと大勢を犠牲にした。大切な盟友も、国外追放になったと言い訳をして見捨てた同志達、そして、私が生半可な故に犠牲になった人もいる。今更数人殺した所でなんとも思わない。貴族である限り、黒いものと関わる身分に居る限りそのしがらみから逃れる事は出来ん。

シンイチロウ、今回は君だって殺したのだろう?どうだった。」


「……初めての時は恐ろしかった、ですが段々と慣れていく度に何も感じなくなりました。」


「……エレノア嬢、それと同じようなものだ。」


アベルの言葉は鉛のように重かった。太い釘を身体に打ち込まれているように響いた。

痛かった身体が更に痛くなり、ピルケースを取り出そうとしたヘンドリックは自らの身体に限界が来た事を悟った。


『皆、そろそろ別れの時が来たようだ。』


無意識にヘンドリックはそう4人に呼び掛けていた。振り向いた彼らが見たのは薄く透けた神の眷属の姿だった。






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