証拠は何処に?
『なあ、最近刑事ドラマって出尽くした感しないか?』
『はあ?ほーちゃん、何がだよ。あんたの刑事ドラマ愛は分かったから黙っててよ、今委員会中だぞ。』
当選同期の優男、桜島豊太郎がそう言っていた、これはきっと夢だ……俺はホームシックにかかっているようだ。奴が言っていた興味の無い話を思い出すほどなのだ、精神的に相当参っているようだ。
『最近、推理モノ増えたよねぇ……どれもそれぞれ面白いんだけどあまりにも増えすぎて、昔の派手にドンパチやってた頃が懐かしくなってくるよ。ああ、あの頃は何処に居たのか……』
『いや、だからさ委員会中__』
『推理物の弱点は、主人公の協調性の無さが顕著に現れてしまう所だと僕は思うんだ。ドンパチしてたアクション系刑事ドラマではあの火薬や迫力のダイナミックさ…そしてチームプレーも見物だからそこまで気にならなかったんだけど……どうも推理モノはねぇ……ほら、人情モノもは〇れ刑事とかは〇だし刑事が最後だったし……推理モノ、増えすぎちゃってもう僕は覚えられないよ!アイツら警視庁で働きすぎなんだよ!』
『委員会中にうるせぇ、黙れ。』
『山内君、君も一回は__』
彼はこんなにうるさく喋っていただろうか……やはりこれは俺の都合の良い夢なのだろう。その証拠に、彼の姿は段々とぼやけてきて俺は一気に現実へと引き戻された。
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夢の中で奴はこう言った。
__『山内君、君も一回は刑事ドラマに触れ合ってみると良いよ!』
今、この状況で出来る訳ないだろう。俺は証拠を見つけなければならない、そして出られる機会が来るのを待たなければならない。
「刑事ドラマか……いや、そんな事よりも証拠……さて、探さないと。」
俺の扱いは変わった。自白剤で全てゲロッた俺だったが、異世界出身であることも全て馬鹿正直に答えてしまった結果、憲兵の奴らは俺が何らかの不幸な境遇に見舞われ、狂っていたのをエドワードに騙されていたとよく分からない明後日で斜め上な解釈をされてしまい、俺への扱いは優しくなった。
ここへ来てもう4日、5日ほど経ったが、8月の寒い地下牢で俺は薄味の食事を与えられて今日もまだしぶとく生きている。
「まったく、ヒロインはこんな目に遭う事なく助けてくれたのに……」
ヒロインは鞭に打たれる前に『大丈夫か!』と攻略対象全員大集合で助けが来たのに……これがヒロイン力の無い俺へのミラーナ様からの対応の違いなのだろう。
いつもの薄味のスープと硬いパンを食べてから俺は初級鑑定で証拠を探す作業に入った。見つかる可能性は限りなく0に近いけれど。
「ここもないか………」
やはり証拠など出てこない。探した所で無駄に近いと思い始めたがこのままでは奴らが女性行方不明事件を起こしていた証拠は何もなく推測の域を出ないものとなってしまう。
「これ、もう無いんじゃないの……?だって後、残すはトイレくらいだしそんな所にあるわけ無いだろう。」
薄いカーテンで仕切られたトイレの周りに鑑定スキルを使ってみると………
「マジかよ……」
…………あった。トイレの便器と地べたとの溶接部分に出来た隙間に金色の光輝く何かが挟まっていた。頑張って引っ張ってみると小さな純金製のイヤリングだった。高そうで細かい装飾がしてあって少なくとも庶民の手に届くような品ではないことは、芸術や流行に疎いシンイチロウにも分かった。
「しかも、この時代ってヴィクトリア朝期がモデルだからイミテーションアクセの産みの親シャネルの現れる前だし、使われてるのもマジモンの宝石やら金銀だからなぁ……」
後藤の妹久美子はそういうファッションの歴史について興味があり、よく語っていた。枯れ葉のようにたいして気に留めてもいなかった記憶によればそう彼女は言っていたと思う。……高く売れそうだな。
憲兵達にこんな高価な品を手に入れるような奴はなく、ましてや女モノのイヤリングなど持っているような奴らはここには1人も居ない。売っても文句言われないだろうと思っていた時にふと思い出した。
「あのメアリーだったか……彼女が言っていたな、女を選別していたって。もしかしてこれって選別段階にここに連れてこられた誰かの物という事か?」
だとしたら売れない。
重要な証拠じゃないか!と気づいた俺は収納魔法モドキを使い、しまっておいた。
“収納魔法モドキ”__これは役に立つ魔法モドキだった。仕舞える数に限りはあるが物を収納できる。今だって俺は財布やこちらに来た時に着ていたスーツや携帯電話などを収納している。
「でも、証拠を集めてここに居ても……」
_何も変わらない。
俺がこうして無駄に時間を消費しているうちにもヘンドリックの寿命は近づいてきている。ここでじっとしている暇もないのだ。だが、シンイチロウに使える“魔法モドキ”はどれも役に立たないモノばかりだった。“テイムモドキ”は猫にしか使えない、“魅了魔法モドキ”は女性と雌猫だけ…後は薬物耐性や物理攻撃耐性など防御面のモノや生活魔法ばかりでここでは使えない。剣術だって自信がある奴だったら身体強化と併用して使うだろう。しかし、ヘンドリックに手解きはしてもらったが、剣道(笑)しか経験したことの無い俺が短期間しか教わらなかったモノなので剣道(笑)から剣術(?)に進化したくらいのレベルだから使い物にならない。
「あーあ!俺って本当に損な奴!」
外の連中に聞こえるくらいの大声で言った。
奴らは相変わらず気の毒そうな目で見てくるが、そんな事は今どうでも良い。なんとしてでも脱出手段を考えなければ。
(魅了魔法……ここに猫か女さえ居ればな。)
……シンイチロウは無駄な足掻きだと分かってはいたが何もしないよりマシだと魅了魔法を発動させた。__シンイチロウは知らない。この足掻きで発した魅了魔法モドキが壁に空いていたほんの僅か、ネズミすらもとおれないほどの小さな穴を伝い、外に居た雌猫達に効いていた事を。ここは郊外、滅多に人は来ない……なれども猫はどこにでも居るものなのだ、その偉大さを知るのは数日後の事である。
そんな未来を知らないシンイチロウは、脱力して地べたに寝そべった。
「機会を待つしかないのだろうな、奴らがこうして俺を生かしているのにも意味はあるはずだからきっと……。」
しかし、最近は先程の桜島豊太郎の夢もそうだが、なぜか元の世界の夢ばかりを見る。帰りたい、望郷の念にいつも駆られている。しかし、この世界に居たいという自分だっている。迷っている、元の世界に居てもまたいつ挫折を味わうのか分からない、そして自分がここの生活に馴染んできている……帰ったらここに俺の居た証は残るのか、消えてなくなりエレノアや皆から忘れ去られてしまうのでは……そう思うと帰ろうにも帰られない。
「今更ホームシック、か……どうしてだろうな、証拠がまるで刑事ドラマの偶然かっていうくらいすんなりと見つかったからかな?」
ああ、あの夢を思い出そうとする度に眼が痒くなって涙が出るじゃないか……俺は、まだこっちに居なきゃいけないんだ。後2つ解決するまではこっちに居なきゃいけないんだ。この日々は何なのだろう、まるで俺が歩んでいくはずだった運命の流れから逆らっているような…甘酸っぱい青春のような…これは何なんだ?そこまで考えた時にシンイチロウは無言の自嘲気味な笑みを見せた。
運命に抗えるほど、『青春』なんて言葉を使うにはシンイチロウはあまりにも若くない、『青春』という希望に満ち足りた日が今更自分にやって来てもどうすればいいのかも分からない。
(ここから出られてすらいないのにそんな先の事を考えるなんて…)
まずはここから出ないと、シンイチロウはそう決意した。
__シンイチロウは、外で自らのクビが決まっている事を知らないまま、エレノアやヘンドリックの為にそう決意していた。




