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7 お茶会に参加しまして

「涙止まった?」

「うぅ・・・ぐずっ、どまっだ。」

「はい、これ。鼻水かめよ。」

「ありがどぉ・・・」

私はありがたくやつから鼻紙を受け取った。

ズビズビと鼻水を拭いているとやつは隣で笑った。

「ったく、そんな我慢しなきゃいいのに。目元赤くなってんぞ。」

「こんな世界で弱みなんて見せられないよ。私、味方いないし。」

私はイジケながらそう返した。

「味方、ね。じゃあ俺がその味方とやらになってやるよ。」

「・・・ほんとにぃ?」

私は横目でじろりとやつを見る。

「ほんと、ほんと。神様とも約束したし。」

やつは笑いながらも私の目を見て言った。

どうしよう、ちょっと嬉しいぞコノヤロウ。


「あ、そういあば私あなたの名前を知らない。」

私がポツリとつぶやくとやつは「あれ?言ってなかったけ?」と言ったあとに私の方へと向き直った。

「俺の名前はアーネスト、神様見習いです。改めてよろしく。」

傍から見たら完全なるヤバイやつの自己紹介なんだけれども面白かったから私ものることにした。

「知ってると思うけど私の名前はイリーナ・アナベル。前世は普通のOLやってました。よろしくね。」


気分は転校初日のワクワクとドキドキが混ざった感じ。ちょっとした冒険者のような。


私はアーネストと一緒にお茶会の会場へと向かった。



◇◆◇


「あ、そういえばアーネストはお茶会参加出来ないよね?」

私は入場しようとしてアーネストに問いかける。

「いや、参加出来るよ。」

・・・ん?なんで?


「えーと、なんで貴族でもなんでもないアーネストが入れるの?」

「ちょーっとだけ情報操作した」

テヘペロと続けたアーネストはこぶしを作って自分の頭にコツンとあてたけどまっったく可愛くない。むしろ若干鳥肌がたつ。

私が引いてることに気づいたアーネストはスグにこぶしをおろした。

うん、それが一番いい選択だね。


暫し、気まずい沈黙が流れて私達は黙って歩き出した。

あまりにも気まずいので私は仕方なくアーネストに疑問に思っていたことを聞いた。


「そういえばアーネスト、この後どうするの?情報操作したはいいけどお茶会が終わったら貴方は爵位なしよ。私に近づくことは出来なくなる。」

「ん?あぁ。いや、それだとちょっと面倒臭いからそれも情報操作で養子かなんかに入ったことにしてどこか爵位のある家に入るよ。」

「じゅ、準備万端だね。」

「まぁな。」

アーネストはまたニカっ、とわらった。



会場にはいるとすぐにニコラスが来た。

「お嬢様!どこに行ってらしたのですか。」

「あ、ニコラス。遅くなってごめん。」

「・・・え?」

ニコラスが呆気にとられた顔になるのを見て私は首を傾げた。

え、なんでそんなビックリしてんの?私変な事言ってないわよね?


私が混乱しているとすぐ近くにいたアーネストが私に耳打ちした。


「お前、喋り方が前世の喋り方に戻ってる。もっとイリーナっぽく喋らないと。」

あ、やべ。アーネストとずっと喋ってたからつい・・・。


「こ、この人の名前はアーネストよ。私の友人だから失礼なことはしないように。さぁ、行きましょ。ニコラス。」

無理矢理戻したけど・・・、大丈夫だよね?

ニコラスの方を覗き見ると訝しげにめっちゃこっちを見ていた。

やばい、やばい・・・!口調には気をつけないと・・・。

私は過ぎたことは仕方ないっ!と開き直ってアーネストに問いかける。


「アーネストはこの後どうするの?」

「だから口調戻ってるって」

苦笑しながら注意された私は恥ずかしくて少し俯いた。

・・・くそ!自分の学習能力のなさが恥ずかしい!


「俺はとりあえずお前について行こうかな。ただあんまり距離が近いとお前に非難が来るからお互い気をつけよう。」

「・・・どういうこと?」

「この国の王子という飛び切りの婚約者がお前にはいるだろ。それなのにあんまり他の男とベタベタしてると色々大変だぞ。」

「べ、ベタベタって・・・!」

そんなつもりないっつーの!と反論しかけて私はおや?と考え直す。

このままアーネストと一緒にいる→王子、私とアーネストの仲を勘違い→婚約破棄される→不敬罪で処罰→晴れて平民落ち!


「アーネスト!!!」

私は思いっきりアーネストに抱きついた。

「うわ、ちょっ、おま、なにすんだよ!」

「静かに・・・!」

私は抱きついたままの体勢でアーネストの耳元に顔を寄せる。

「私、実は平民落ちのルートを目指してるの。そのためには婚約破棄が一番早くて・・・、だから協力して。」

私の今の説明だけでアーネストは私がしようとしている事に気づいたらしい。アーネストは私を見て囁いた。

「・・・正気か?」

「うん。私もともと前世庶民だし、こんな暮らしもう嫌なの。」

私はアーネストの目を見てしっかり頷く。

「・・・分かった。が、これは流石にくっつきすぎ。」

「えー」

私は若干耳が赤くなっているアーネストが面白くて抱きついたままからかってみる。うりうり、純情ボーイ可愛い〜。


と、私の耳にいや〜な声が2つ入ってきた。

「お嬢様、お離れください」

「随分楽しそうですね、イリーナ様」


・・・はぁ。この声は。

一つ目は言わずもがなニコラス。そして、もう一つは・・・。


「あら、ご機嫌よう。ルイス様」

屁理屈理系男、もといルイス・ミートンの声だ。

またの名を前世の私の推し。


私はアーネストから体を離さないで返答した。

本来なら令嬢にあるまじき体勢での挨拶だ。


「お嬢様!!」


この声は、ニコラスだ。

ニコラスが声を荒らげたことなんて今まであったっけ?

なんて考えているとニコラスは怖い顔をしたままこちらに近づいてきて私とアーネストをべりっ、と引き剥がした。

「いい加減、離れてください。」

低い、唸るような声でニコラスに睨まれてはさすがの私でもちょっと怖い。ていうか怖すぎる。

私はとりあえず大人しくアーネストから離れた。


「そう、怒鳴らないでくださる?」

私がいつものイリーナ口調を意識して返すと隣でアーネストの吹き出す音がした。

・・・くそっ!なんかこいつがいると恥ずかしい。

私は悔しくてアーネストに言い訳のように耳打ちした。


「アーネストがやれって言ったのよ」

「悪い、悪い。上手に出来てるよ」

ぐぬぬぬ、と思う反面褒められたぁ、とほくほくしているとニコラスが怖い顔をさらに怖くさせて「そこ、距離が近いです」と言ってきた。そんな近くないと思うけど・・・。


隣では呆気に取られたルイス様がいるし。珍しくいつも皮肉か嫌味しか言わないその口はポカーンと開いている。


「・・・なんですの?ルイス様。」

「え、あ、いや。貴女は・・・、頭でも打ったのですか?それともイリーナ様に似た別人?」

「・・・・・・はぁ?」

いきなりとても失礼なことを言われた気がするのだけれども・・・。


私の様子に気づいたルイス様は慌てて「あ、失言でした。」と頭を下げた。

・・・別にいいけどさ。事実、中身は別人だし。


「イリーナ、お前王子のとこに行かなくていいのかよ?」

少し気まずくなってしまった雰囲気の中、気を利かせてアーネストが私に声をかけてくれた。

「・・・イリーナ?呼び、捨て?」

しかし、私が返事をする前にニコラスが頬をひきつらせながらアーネストを見た。


「アーネスト様、失礼ながら誰に許可を得てイリーナ様を呼び捨てで?」

「え?いや、別に特に許可は・・・」

狼狽えるアーネストを見て私は急いで助け舟を出す。

「ニ、ニコラス!私が許可を出したの。別に気にしなくていいわ。」

「しかしお嬢様、ハルロド様に聞かれたら誤解を生んでしまいます。今すぐやめて下さい。」

「・・・いやよ。なんでわざわざ身近な人にそんな距離を置いた話し方をしなきゃいけないのよ。」

「な!?」

反論してくると思わなかったのかニコラスは驚いたように私を見る。

やっとできた唯一の味方に様付けでなんて呼ばれたくないし、第一、アーネストに様なんか付けられるとか違和感ありすぎて笑っちゃうわ。


「だからアーネストはそのままでいいわよ。」

私がアーネストを見るとアーネストは心得たとばかりに頷いた。

しかし、それで収まらなかったのがルイス様。

「部外者が話の途中に入って済まないが、イリーナ様は本当にそれでよろしいのですか?いくら身近な人だからとは言っても彼は男性ですよ?貴方の愛するハルロド様に疑われてしまいます。それで万が一距離を置くようなことになっても自己責任なのですよ?」


長々と何を、と言いたくなるけど、多分ルイス様が言いたいのはこのままハルロド様に私とアーネストの仲が勘違いされて婚約破棄にでもなったら私が誰かしらに八つ当たりすることがないかを心配してるんだと思う。


別にいいよ、てかそれが狙いだわ。むしろ愛するハルロド様とかチャンチャラおかしいわ。私はもうあの人に一切の恋愛感情なんてない。第一、国を背負う者としていくら婚約者が最低だろうとなんだろうと浮気するのはどうでしょう?って話よ。


2次元でこれは萌えるけど3次元ではただのクズじゃない。そんな人、私から願い下げです。


なんて言えるわけないので適当に言い訳を考えてる時にあいつは来た。


「何の話だ?」


お読みいただきありがとうございました!

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