6 再会しまして
次の日、私は今日もイベントがあることを思い出した。
そっかー・・・、これからは自分でイベントもこなさないといけないんだよね。なんか新鮮な感覚・・・!
と思いながら私はイベントの内容を思い出す。今日のイベントは確かお茶会でのことだった。
私と同じくお茶会に呼ばれていたヒロインと私のドレスの色が被っちゃって穢らわしい!って言ってお茶をかけるんだよねぇ・・・。
そうとなったらはやく同じ色の可愛いドレスを選ばないと!
とルンルンで部屋に戻った私は気づく。周りの使用人がやけに顔を青ざめさせて私から距離を置いていることに。
・・・そーだった。そう言えば、私この屋敷の使用人全員に嫌われてるんだったぁぁぁぁぁ!!!!!
よく考えてみればわかる話だ。全自動の時の私は使用人をこき使いまくり、髪の毛が1本部屋に残っているという理由だけで使用人を辞めさせる鬼畜さ!今まで私のせいでクビになった使用人は数しれず!
すっかり忘れてたよ・・・。私、今までイリーナがやることなす事本当に他人事だったからなぁ。
ドレスのアドバイスを聞こうと思ったけど・・・、あの怯えようだと聞けそうにないよね。
多分私があんまりにルンルンしてるからまた悪巧みを思いついたとでも思われてるんだろう。
仕方がない、これも自業自得。
いや、私は何もやってないけど。やったのイリーナ・アナベルだけど。いや、私もイリーナ・アナベルだけど、いや(無限ループ)
そんなこんなで私が部屋でひとり寂しくうんうん唸りながらドレスを選んでいるとノックの音が聞こえてきた。
「入ってどうぞ」
「失礼します。」
扉が開くとともに入ってきたのは能面執事こと、ニコラスだ。
「何かしら。私は今忙しいのだけれども。」
と言うか、あなたとあまり関わりたくないんですけど。
速やかに部屋から出て言ってほしいのだけれども。
私は内心汗びっちょびちょになりながらニコラスを見た。
「失礼ながらお嬢様、また何かする気ですか?」
「・・・はぁ?」
問いの意味がわからない私はつい眉をしかめる。
「使用人達からお嬢様の様子がおかしいと報告が入っております。無礼を承知で申し上げますが、これ以上サラ様に危害を加えることになれば何かしらの処罰は免れませんよ。」
・・・何かしらの処罰。
何かしらの、処罰!!
「ねぇ、ニコラス!何かしらの処罰って今のところだとどれくらいかしら?処刑までいってしまう?それとも婚約破棄?平民落ちはするかしら?」
ついテンションが上がった私はニコラスに詰め寄る。
「え?え、いや、た、多分今辞めれば厳重注意で済むかと、」
ちっ、厳重注意とか、毒にも薬にもなんないな。
私は「そう・・・」と一気にトーンダウンしながら答えた。
やっぱり今日のイベントを成功させるのが一番よね!
私は後ろで訝しげにしているニコラスに気付かないふりをしてまたドレスを選び始めた。
◇◆◇
さて、何だかんだあったけどやってきました。お茶会!!
いやー、使用人達がご機嫌の私を見て震えちゃってなかなかメイクだの何だのが進まなくて思いのほか時間かかっちゃったんだよねぇ。
まぁ、時間にはちょっと遅れちゃったけどイベントを成功させれば問題なし!
私は馬車から降りて傍らに控えていたニコラスに手を差し出そうとした。
が、それは後ろから突如私の腕を引っ張った誰かにより邪魔された。
・・・誰っ?
私が咄嗟に後ろを振り向くとそこには美しい、漆黒の髪色を持った美青年が立っていた。その姿はどこからどう見ても境界とやらで出会ったあの(自称)神様見習いで、でも着ている物はあの不思議な衣ではなくて普通の正装で・・・、私は訳が分からずに美青年を見た。
「・・・え、あんた!」
「よぉ、ちょっと顔貸せや。」
私は何が何だか分からずにされるがままに引きずられていかれ・・・そうになった所をニコラスが止めた。
「貴方は誰ですか。」
ニコラスは美青年の腕をガッシリと掴んでいる。
「ちょっとこいつの知り合いだ。話したいことがあるからしばらくかりるぞ。」
「は?誰が身元も分からないやつに渡すと思いますか。私が旦那様に殺されます。」
珍しく殺気のこもった目と声でやつを睨みつけるニコラス。
両者に不吉な雰囲気がながれ、「やばい」と思った私はわざとらしく明るい声で二人の間に割り込んだ。
「に、ニコラス!大丈夫よ。この人は私信頼してるから!!ニコラスは先に行ってお茶会には少し遅れると連絡しておいて。」
「しかし、」
「大丈夫だから!行きましょう!」
私は無理矢理ニコラスの言葉を遮ってやつの腕をとった。
早足で人の少ないところへ向かった私達は一息ついた。
「ちょっと!何であなたがいるの?第一その格好は何よ?神様見習い何でしょ?なんでこの世界にいるの?」
質問攻めの私にやつはやれやれ、とでも言うように首をすくめた。
正直かなりムカついた。殴ってもいいかな?
額に青筋を浮かべている私には気づかずにやつは「それよりもあの執事おっかないな」と呟いた。
「ねぇ、答えてよ。なんでここに来たの?」
私はじれったくなってもう1度聞いた。
「まぁまぁ、そう焦んなって。ん〜、でもまぁ、お前の問いに答えるなら、神様と俺でお前のことをサポートすることに決めたから、かな。」
「えっとー・・・、私をサポートしてくれるの?」
「おう。」
そのためにわざわざこの世界に来てくれたのか、そう考えるとちょっと、いやかなり嬉しいかも・・・。
「・・・あ、ありがと」
消え入りそうな私の声をしっかりとやつは聞き取って「おう」と笑って頭を撫でてくれた。
頭を撫でられるなんて前世を入れても久しぶりで少しくすぐったかった。お父様も頬ずりはするけど撫でないし、最近は忙しくてまずまずあえてない。ハルロド様は絶対そんな事しないし。
使用人とは距離があきすぎて撫でるどころか喋るのも困難。
久しぶりの人の温もりに私は少し嬉しくなった。
「・・・お前、なんで泣いてんの?」
「へ?」
最初、やつが誰を見てそう言ってるのかわからなかった。
だけどしばらくして私に向けた言葉だとわかって反論しかけた私はポタ、と落ちてきた雫にびっくりした。
「・・・あれ?え、なんで?」
こんなんじゃ私、ただの情緒不安定女じゃん・・・。
ていうか、涙流してるのに気づかないとかはずかしすぎるんですけどぉぉ。
やだ、これ、止まんない、何これぇぇぇ。
慌てて涙を拭うものの次から次へとこぼれ落ちる涙は止まらない。ゴシゴシと目元をこする私を見かねてかやつは私の手を取った。
「やめろ、あんまりこすると腫れるぞ」
「・・・うん。」
私はそれでもなんとか涙を止めようと必死に歯を食いしばる。でも結局うまくいかなくてむせた。
げえっほぉ、おぇぇ、っていうおっさんみたいな声出たし、鼻水で顔ベチョベチョだし、目はじんじん痛いし多分顔はすごいことになってると思う。
けどやつは何も言わないでくれた。
「なんで我慢するかねぇ、我慢しないで泣けばいいだろーがよ。」
そう言われて私は頷いた。
だって、私は悪役令嬢だから攻略対象やヒロインの前でなんて絶対に泣けないし、使用人なんかの前で泣こうものならどんな反応が返ってくるか。
お父様の前で泣いたら「私の可愛いイリーナを泣かしたのは誰だい?今すぐ潰してくる」とか言いそうだから迂闊なことは出来ないし・・・。
私は結局ひとりでいるしか無くて、弱い所なんて誰にも見せられなかった。でも今はこいつがいてくれる。それなら、もういいや。今だけは泣いちゃおう。
やつの胸に頭をもたれかけて泣いた。傍から見たら抱き合ってるように見えるとか私の顔がとんでもないことになってるとか今はそんなこと頭になかった。
ただ、ただ、泣いた。
「っちょ!お前鼻水つけんなよ!」
「だ、だっ"でぇーーー!」
「あー、もう良いから良いから、好きなだけ泣け。」