4 オートモードが切れまして
「・・・ん」
微かに目を開けると真っ白な天井があった。
・・・よくドラマとかである目覚め方だぁー。
どうでもいいことをぼんやりと考えながら、私はあれは夢だったのかな、と記憶を巡らせる。
あたりを見渡せばどうやらここは保健室のようだ。
私はベッドの上で仰向けに寝っ転がっている。部屋全体の様子はベッドの周りにカーテンがしかれているせいで見えない。
私は本当にあったことなのか夢だったのか確かめるために試しに少し指を動かそうとした。
・・・動い、てる、よ、ね?これ、私の意思で動いてるよね・・・?
ゆめ、じゃない・・・?!
その事実をより確実にするために私は今までずっと自分の意思では出したくても出せなかった声を出そうと声帯を動かした。
「あ、あーーー。」
最初は小さく、そして段々と大きく声を発していく。
出てる、出てるよ!!!私、自分の意思で声が出てる!!!
神様ぁ!!!!!もうまじで神!!いや、事実、神なんだけれども、能力が神っていうか、いや、それも神様だから当たり前なんだけれども、いや。まぁ、とりあえず神様最高!ありがとうございますーーーーーー!!!!
1人、静かに感動に震えているとさっき私が発した声が聞こえたようで保健室の先生がカーテンを開けた。
「失礼します、イリーナ様。起きられたのですね。」
「え、ええ。」
・・・困った。喋れるようになったは良いものの、イリーナってどんな感じで喋ってた?私あんな極端に悪者みたいな喋り方できないよ?!ていうかイベントの時以外適当に過ごしすぎて普段のイリーナがどんな感じだったか全く覚えてないんだけど?!
・・・とりあえず偉そうに喋っておけばなんとかなるよね。
「どこか痛むところはありますか?」
焦る私に気づかない保健室の先生は気遣うように私を見た。
「と、特にないわ。大丈夫よ。」
「そうですか。どこか痛むところがあったらすぐにそこの呼び出しボタンをお押し下さい。私はイリーナ様が起きたことを報告してまいりますね。」
「ええ・・・。」
保健室の先生が保健室から出てくるのを見送って私はこっそりため息をついた。
はぁ、緊張した・・・。久しぶりに自分の意思でお喋りをしたからなんか変な感じ・・・。
・・・にしても。私がタメ口なのに注意もしなかったわね、あの先生。むしろ先生の方が敬語使ってたし・・・。
さすが、イリーナ・アナベル。恐れられてるねぇ。
ま、こういう所をヒロインが革命起こしていくんだろうけど。
とりあえず自分が死ななくて良くて、学園退学くらいで済むのならそれくらい、いつでもするわ。何よりも私には前世、庶民として暮らした記憶があるんだから!!!
最悪、こっそり庶民に紛れて暮らして行方不明エンドでもいいかもね。むしろそっちの方が向いてるかもしれない。
更に、と私は自分の今の容姿を思い出してふふ、と笑う。
私、薄紫色の髪にロイヤルブルーの瞳なんて冷ややかな外見してるけど美人は美人だから性格直して庶民として暮せばそれなりに幸せになれるよね?
なんてルンルンしながら未来のことについて考えていると保健室の扉が開く音がした。
先生帰ってきたのかな・・・?
私が扉の方に目をやるとそこに居たのは保健室の先生などではなく、ハルロド・ジェニングス、私の婚約者だった。
「あ」
予想外の人物に私は声を漏らす。
お、おぉ・・・!!こんな時に思わず声が漏れちゃうとか・・・、嬉しい!!
私の記憶では私は6歳から全自動になったので現在にいたる高校一年生までの約12年間、自分の意思で喋れなかったことになる。
そんな私だからこそ、思わず声が漏れたとか・・・、何年ぶりの感覚だよ・・・!!と感動を覚えている真っ最中です。
あ、違う。今そこじゃない。大事なのそこじゃなかった。
何でここにハルロド様がいるんだろ?
「お前、また仮病か?」
「へ?」
また、ということは前にやったことがあるってこと?
私は全自動の頃を必死に思い出す。
・・・あー、そう言えば寂しくて、みたいな理由でわざと転んだり仮病したりしてハルロド様を呼び出したりしてたかもしれない。
oh・・・、申し訳ない。ハルロド様も忙しいだろうに。
保健室の先生が知らせたのかな?
「あ、いえ。申し訳ありません。どうやら私、知らないうちに倒れていたらしくて。わざわざお越しいただいて申し訳ないのですが私なら1人でも大丈夫ですのでなにかお急ぎのようでしたら帰っていただいてよろしいですよ?」
あくまで下手に、下手に・・・。
あんまり怒らせないようにね、私が目指すのは平和的なエンドだからね。
ただ今までの私の態度を考えればそれは逆効果だったようでハルロド様は私の言葉に驚いた後、眉をしかめた。
「お前、何を企んでいるんだ?」
「へ?」
「お前がそんなことを言うなんておかしい。明らかになにか仕組んでいるだろ?」
「えーと・・・。いえ、本当にそのー、心をいれかえた、というか。」
「お前が?心を入れ替える?はっ、お笑いだな。」
私の弁明にもハルロド様は鼻で笑って返す。
こ、こいつ・・・。めっちゃムカつくんですけど!?!
「でも、確かにお前、今日は喋り方がいつもと違うな。覇気もない。頭でもうっておかしくなったか?」
・・・いっらぁ。絶対今私の額に青筋浮かんでる自信あるわ。いや、我慢しろ、自分。耐えろ耐えろ。
「まぁ、いい。今日は俺はもう帰る。お前も勝手に帰れ。」
「え、あ、はい。」
私が素直に返事するとハルロド様はまた驚き、目を瞠った。
私が何に驚いてるのかわからなくて首を傾げるとハルロド様は急いで目線を逸らした。
む、失礼なやつ・・・。
「それでは失礼する」
ハルロド様はそう言って保健室から出ていった。
・・・よし。やっとあいつ出ていきやがった。
それにしてもイリーナ・アナベル、なんであんな奴が好きだったんだろ?
これもゲームの強制力ってやつかな〜。それとも恋は盲目ってやつ?
私はベッドの上でうーん、と伸びをして帰る支度を始めた。
◇◆◇
「ただ今帰りました。」
疲れ果てた私が家に帰ると待ちうけていたのは美形執事(攻略対象)だった。
・・・あ、こんな所にも攻略対象。
ちょっとどうしよう。今、私ちょっとパニック状態だわ。
「わ、私ちょっと今日は部屋にこもるわ。」
「失礼ながらお嬢様。学校でお怪我をしたとの報告が入っております。その話、詳しくお聞かせ願いますか?」
・・・いや無理無理無理。ちょっと一旦落ち着かせて。本当に。あなたが攻略対象って言うの忘れてたんだって。ダメージがでかいんだって!
「わ、私が休みたいと言っているのに邪魔する気かしら?」
ちょっと声が震えたけどいつものイリーナっぽく出来た。
よーし、このまま押せ押せでいっちゃえば・・・。
「お嬢様、・・・これは主様への報告が必要な案件ですよ?」
執事が呆れたように呟く。
「う"っ」
主様への報告・・・。
それを言われたら、拒否できないじゃないっ!
私は抵抗することを諦めた。
イリーナのオートモードが始まったのを6歳に変更しました