30 お父様が帰ってきまして
その後のお話。
私はその後、お城に行ってハルロド様と婚約解消をした。あくまで破棄じゃなくて解消ね。
案外あっさりことが進んで驚いているとハルロド様は一言、幸せになって欲しいからと言ってくれてた。
王家との婚約解消はもちろん大変話題になった。
街中でも学園内でも大騒ぎで今まで友達がいなかった私はその一件で一気に周りに人が増えた。
ちょっと嬉しかったりしないこともない・・・。
ただ、その噂が悪い方に行かなかったのは私的には予想外だった。
王家と、それも陛下との婚約解消なんてビックニュースだ。
良くも悪くも騒がれるのを覚悟の上だったのにハルロド様が抑え込んでくれたらしく、うるさい権力者たちは目立つことは無かった。
街の人や学園の人たちは意外と受け入れてくれたようでそっちもなんかたまに生暖かい視線を送られながら日々を送っている。
そして、ヒロイン。サラ様はというと、実を言うとこの学園にはいない。
でも、それは何かをやらかしてしまったとかではなくてただ単に家族の仕事の問題での転勤による転校だった。
サラ様の様子がわからない私としてはかなり不安なんだけどこの前天界に行った時は神様は少しだけ嬉しそうに「今のところは異常なし」と言っていたからきっと少しずつではあるかもしれないけど更正に向かっているのかもしれない。
あ、あと神様にアーネストとのことを言ったらめっちゃうるさかった。もうね、泣き叫ぶわ「それなら僕とも結婚しよう」だの意味のわからんこと言い出すわ。っていうか、この世界は一夫一妻制ですからね。え、神様だから関係ない?黙らっしゃい。
レイ様はにたにた笑っていたし、ルイス様はコミュ症のお手本のようにどもっていて何を言いたいのわからなかったし、ザハール先生はマセガキ、なんて言って笑っていた。
そこには私の処刑されるはずの未来はひとつもなかった。
自由になった時はまさか、みんなに受け入れてもらえる未来があるなんて思いもしなかった。
あまりにも幸せで少し怖くなってくるくらいだ。
・・・ただ一つ心配することがあるとすれば。
「お嬢様」
私は後ろで控えていたニコラスの方に振り返った。
・・・そう、ニコラスだ。
何故かニコラスにこのことを伝えるとしばらく部屋にこもって何かを企んでいたようでその後もやたら甘やかして私を堕落させようとしてくる。
「何、ニコラス?」
「今、旦那様からお知らせがありまして、旦那様が今週末に帰ってくるようです。」
・・・忘れてた。心配事はもう一つ。
あのクソ親父が帰ってくるんだった・・・!!
度重なる試練(笑)に私の心は折れそうです。
◇◆◇
嫌な時ほど時間は早く流れるもので、なんだかんだ騒いでいるうちにあっという間にお父様が帰ってくる日になってしまった。
っていうか、既にいる。
私の隣に。
「お父様、いい加減離れてください」
「やだ!イリーナはいつからそんなに冷たくなってしまったんだい?前まではお父様っていってイリーナの方から寄ってきてくれたのに」
その言葉に私はゾワッと鳥肌を立てる。
全自動の時のことを言うな!あれは私の黒歴史だ!!
「ほら、お父様いつでもまってるよ。イリーナ、いつでも僕の胸に飛び込んできてい「お父様、お話があります」
お父様の言葉を遮って私が話しかけるとお父様(変態)は「僕、泣いてもいいかい?」と言ってきたので無視した。
「え、ちょ?!無視?!」
「お父様、実は紹介したい方がいるのです」
「しょ、紹介したい方?!イリーナ・・・!やっとお友達ができたんだね!!」
お父様の言葉に私はギョッとした。いや、ちがうし、たしかに前まで友達いなかったけど!!そりゃあお父様にも「紹介したい友人などいませんわ」的な事言ってたけど(オートモードのときね!)
「違います。私が紹介したい方は友達ではなく、恋人です。」
私の言葉に目の前のへんたお父様はぴしりと固まった。
「こ、いび、と?」
「はい」
「いやいやいやいやいや!!それは無い!!だってイリーナ、ハルロド様と婚約解消したんでしょ?僕と結婚したいがために!」
いや理由が大いに違います。なんだこいつ、思考回路お花畑かよ。
随分と失礼なことを考えながらも絶対零度の瞳でお父様を見ていると「そんな冷たい瞳のイリーナも素敵だけどね」なんてことをほざきやがった。・・・いけない、どんどん口が悪くなってゆく。
「いえ、全く違います。お父様の情報と私の認識で随分違いがあるようですが私が今回婚約解消をしてもらったのは他に想い人が出来たからです。」
「だからそれは僕のことでし「違います」
あ、お父様がまた固まった。
・・・黙ってればかっこいいのに。
私は密かにそんな様子を見てため息をつく。
実際、このひとの後妻になりたい人はあとを絶たない。
でもこの人こんなんでも一応人を見る力があるから相当な人じゃないとその立場は難しいと思うよ。
私のこと溺愛してるし。ついでにお母様のこと、今でも大好きだし。
「イリーナ、お父様、本当に泣いちゃうぞ?」
・・・性格はだいぶ残念だけど。
「だから、お父様に私の婚約者と会っていただきたいのです」
「え?!なんかレベルアップしてない?!さっきまで紹介したい方だったのにいつの間に婚約者に?!!お父様、許可出してないよ?!!」
「まぁ、そこは適当にゴニョゴニョしました。さて、アーネスト入ってきて」
「ちょっとまって!お父様まだ準備できてないから!心の準備が!!イリーナにボキボキに折られまくって心の準備が大幅に遅れてるから!!」
「失礼します」
喚くお父様を馬鹿らしく見ているとアーネストが部屋の中に入ってきた。
「・・・イリーナ」
お父様に急に静かにでも今までとは違って威厳のある呼び方で呼ばれて私はビクッ、としながら返事をした。
「なんでしょうか?」
「イリーナ、婚約者は顔で選んじゃダメなんだよ?!!」
・・・威厳とか私の勘違いだったみたいです(白目)
何だ、こいつ。なんで若干泣きそうになってんだよ。顔すげぇことになってんぞ?お父様に求婚してる女性が見たら全員引いてくれるんじゃないかってくらいの酷い顔してるからね?っていうかイケメンフェイスで鼻水を垂らすな!!
「顔ではありません。たしかにアーネストは綺麗な顔立ちをしていますが私はしっかりと中身で選びました。」
「お初にお目にかかります。アーネストと申します。本日は私のためにお時間をとっていただき」
「お前のためにとったんじゃない!イリーナのためにとったんた!」
「お父様、黙ってください」
「酷いっ!!」
自己紹介の途中で邪魔されたとうのアーネストはポカーンとお父様を見ている。わかる。この人いろんな意味で規格外だよね・・・。
「ニコラス!」
突然お父さんが部屋の外で控えていたニコラスを呼んだ。
「失礼致します」
ニコラスが入ってくるとお父様は真面目なトーンで話し出す。
「・・・なぜ報告しなかった」
「・・・・・・申し訳ありません。お嬢様に口止めされておりました。」
その言葉に私は焦った。
「お父様、ニコラスは悪くないわ。私が無理を言って頼んだのよ」
「・・・お前の主は誰だ、ニコラス」
私の言葉には何も反応せずお父様はニコラスに問いかける。
「旦那様です」
お父様はその返答に無言だ。
が、その数秒後にニコラスが再び言葉を発する。
「と、数ヶ月前の私なら答えていたと思います。」
その言葉に私はニコラスの方に振り返る。
「ですが、今の私の主はお嬢様でございます。」
ニコラスがきっぱり言い切るので私はしばらくフリーズしてしまったけどしばらくしてからことの重大さに気づく。
「ちょっ!ニコラス、そんなことを言ったら」
クビになっちゃう・・・!
と言おうとしてそれは遮られた。
お父様の笑い声によって。
「ふ、ははははは!!!なんだ、俺がいない間に随分言うようになったな。そうか・・・。」
「お父様?」
突然黙り込んだお父様に不安になっているとお父様はゆっくりと顔を上げた。
「イリーナ、俺が出した試練をその男が達成できたらけ、けっ、結婚のき、き、きょ、きょ、きょ・・・!」
「旦那様、お気を確かに」
途中までカッコつけてたのに急になんか、意味わからん発言を壊れたラジオのように繰り返すお父様に冷静にニコラスが声をかける。・・・よくその状況でそんな冷静でいられるね。実の娘からしても顔を真っ赤にさせてぷるぷる震えて「きょ、きょ、」と繰り返し言ってるお父様は怖い。っていうかキモい。
お父様はニコラスの言葉に一度息をつくと言った。
「そうしたら許可をだそう・・・。」
「ありがとうございます」
アーネストは周りから見たら爽やかに笑っていたけど横で見ていた私にとってはその笑顔はあれだ、あれ。
レイ様が私によく向ける感じのニタァって感じの笑みだった。
あ、お父様これ負けたな。
と思った私の予想は見事に当たった。
それからの事を更にざっくりダイジェスト化してしまうと、アーネストは突きつけられた無理難題(正直アーネストじゃなかったらクリア出来てなかった)を無事クリアして、最終的にお父様の仕事が休みで屋敷にいるあいだ、ずっと通いつめてそしてやっとお父様からの許可が出た。婚約の許可が。
っていうか、お父様絶対、私に結婚させる気無かったよね?!
アーネストじゃなかったら死んでたかもしれないからね?後できっちり締めておこう。
なんかお父様は「なんで、あんな人間離れしてるわけ、アイツ?」なんて若干青ざめていたけど、まぁ、スルーで。
だから中身で選んだって言ったじゃん。
・・・まぁ、そんな訳で時はさらにすぎてゆく。
そして、今日は私達の結婚式の日だ――。
少し駆け足になってしまいました、お読みいただきありがとうございました!




