26 問題は解決しまして
私は神様に何か言いたくて口を開いたものの結局何も言えなくて口を閉ざした。
そして神様はまた話し始める。
「こいつをこの世界に記憶を残して転生させたのは事情があってね。その理由っていうのがこいつの魂を見極めることだった。もしも、今世で心を入れ替えて頑張っていたのなら現状維持。だけど、もし前世と変わらず自己中に生きているのなら・・・」
不自然なタイミングできられた神様の言葉に私は嫌な予感を覚える。話の中心人物――サラ様は静かに涙を流していた。
そんなサラ様を視界の端で捉えながら神様はゆっくりと口を開いた。
「魂ごと一欠片も残さず消滅させると決めていた。それも長い間苦しみを感じる最も残酷な消し方で。」
神様の顔は見えない。
どんな感情で、この言葉を言っているのか分からないけど。
それでも神様がそれを望んでいないことは声色でわかった。
「これは決まりなんだ。彼女のような人がいると世界のバランスは崩れる。そして、そのバランスを取り持つのが僕なんだ。」
神様は暫く黙った後にこっちに向き直ってニッコリと笑った。
「さて、僕の話はこれで終わりだよ。アーネストには前話したけど、イリーナちゃんもその他の人もわからないところが多かったでしょ?質問あるならどうぞ」
重く、長い沈黙があって一番最初に口を開いたのはアーネストだった。
「どうして、俺に彼女が罪人だって教えてくれなかったんですか。もし教えてくれたらあなたがそんな事しなくても言いように・・・」
「はい、アウト」
「え?」
アーネストの声を遮った神様の声はやっぱり機械のようだったけどでもその表情は少しだけいつも通りの優しいものだった。
「だから君に言わなかったんだよ。これは彼女の人柄を見極めるものだったからね。君に行ったら彼女を探し出して自分を犠牲にしてまで彼女を助けようとするだろう?だから言わなかった。」
アーネストはその言葉に押し黙る。
・・・確かにアーネストならそうしてしまっただろう。
でも、こんなやり方じゃ・・・、神様が辛いだけだ。
何も出来ない自分がもどかしくて唇を噛み締めていると神様がいつもの優しい顔に戻って私に笑いかけた。
「イリーナちゃん、そんなに辛い顔をしないで?これは僕の仕事だから仕方が無いんだ。大きな力を持つ代償なんだから。」
「・・・サラ様を救う方法はないんですか?」
「ないよ。もう手遅れだ。」
「そんな・・・」
「・・・彼女の記憶をなくす、というのは?」
また重い沈黙が流れるか、と思った瞬間、一つの声が聞こえた。レイ様だった。
「無くしたところで魂は変わらない。どうせ同じことになるよ。」
困ったように眉を下げた神様をみていると今度はルイス様から声が上がる。
「もしも、またそのような事になったら即魂を消してくれても構わない。」
「・・・」
ルイス様の真っ直ぐな目を見て神様は黙り込む。
「そんなに、彼女のことが好き?こんな彼女のことが」
神様は思案するように目を伏せた。
「いや、私はお嬢様に害を与えるものなんて大っ嫌いですね。」
「は?」
やべ、声でちゃった。
が、これは仕方が無い。だってこの雰囲気の中、ニコラスがそんなことを言うから思わず・・・。
驚きを隠さずにニコラスを見るが、ニコラスはこちらに顔を向けずに続ける。
「でも、私もレイ様達の意見には賛成ですね。」
「何故?」
神様の問いかけにニコラスはにっこりと綺麗な微笑みをむける。
「お嬢様はきっとそこにいる彼女のことを助けたいでしょうから。」
・・・確かにそうだけどさ。それはあなたの理由になるのか?
ポカーンとする私を置いて神様は声を出して笑った。
「ははは!なるほどね!うん、君面白いね。欲望に忠実でいいと思うよ。おおかた君たちもそうだろ?」
「・・・私は単に後味が悪いからです」
神様の言葉にルイス様が拗ねたように呟けば
「まぁ、そんな所だね」
なんてレイ様が笑う。
口を開かなかったハルロド様はその様子を見て「俺もそうだな、イリーナが嫌がるだろうし彼女には世界を恨んだまま消えて欲しくないな」と真面目なトーンで返す。
その言葉に唖然としていると同じく唖然としたザハール先生と目が合った。
「あー・・・、俺は状況が良くわかっとらんしお前らがそんなに仲良くなってたなんて初耳だが、まぁ、教え子に消えられるのは嫌だな」
よく分かってないのにザハール先生は意見を合わせてくれる。
ちなみにザハール先生には計画をねっている時に既に無理矢理魔具を渡しているので魅了は効いていない。
詰まりはこの意見は先生の本心だ。
「ふーん。アーネストは?」
「俺もそうして欲しいです。正直イリーナを殺そうとしたことを許すつもりは無いですけどこのまま消えるとイリーナがまた泣くんですよ」
少し笑ってアーネストが答えた。
・・・一言余計だ、この野郎。
「うーん、ここまで多くの人に言われると迷うなぁ。君、更生できるのかな?」
ちらりとサラ様の方に神様が顔を向けるとサラ様は泣きじゃくったままで神様の方を見て首を縦にふる。
さっ、と神様が手をかざすと少しずつサラ様の口が開いた。
「・・・ごめん、な、さい。本当にすみ、ませ・・・んで、した。」
彼女の口からか細く言葉が紡がれる。
「口だけならなんとでも言えるんだよね・・・、さて困ったな。仕方ない、決定権はイリーナちゃんに託した。」
「え、うぇぇ?私?!」
いきなりの神様からの名指しに私は動揺を隠せずに返事をする。
「そうだよ。沢山の人を見てきた僕の唯一のお気に入りさんに決めてもらおうかな。」
そう言った神様はいつも通りの少しおちゃらけた口調だった。
「私、は。正直、サラ様の事ムカつくし、嫌いだし、刺される寸前はすごく怖かった。・・・でも、私の単なる自己満足としてサラ様にこの世界は幸せだって思ってほしい。だから、神様もう一度サラ様にチャンスをください。どうか魂を消さないでください。お願いします」
「それが君の答えだね。本当にいいの?」
心配するように神様が問いかけてくれる。
確かに彼女のことは苦手を通り越して大っ嫌いだけれども、ひどいことも沢山言われたけれども!
でも、神様がそうやって心配そうにしてくれるから、みんなが私を救ってくれたから怖くないんだよ、神様。
だからこそ、私ははっきりと返事できる。
「はい」
「・・・そっか。じゃあ特例だよ。」
神様は一瞬優しく笑ってそしてサラ様の方に向きなおった。
「サラ・グランディス、本来ならお前は積み重なる罪によりここで消える運命だった。しかし、特例により、これを無効とする。その代償はお前の今までの全ての記憶の忘却だ。悔い改め、新たなる人生を今度は踏み外すことなく進め。次、このようなことを繰り返した場合は問答無用でその魂を消す。」
最後に神様が少しだけ手をかざすとそのままサラ様は眠るように倒れた。
「次、彼女が目覚めた時は真っ白な状態だからそのつもりで。君達がしっかり見張るんだよ。」
「「「はい」」」
レイ様、ルイス様、ハルロド様は素直に返事をしてニコラスはボソッと「お嬢様に関わりのある時だけ」と呟く。おい、それでいいのかニコラスよ。
ザハール先生は「よく分かんねぇけど良かった、な?」なんて言ってる。
・・・良かった。
私は重苦しさから開放された雰囲気の中で安堵のため息をついた。
と、不意に何かに身体が包まれた。
え?と驚いたものの落ち着いて見るとアーネストの匂いがした。
「・・・え?アーネスト?」
・・・何故か私、アーネストに抱きつかれてるようです。
「怖、かった・・・」
「・・・へ?」
「お前が、いなくなるんじゃないかと思った。また守れないのかと・・・思った。」
しばらくしてからそれがサラ様に刺されそうになった時のことだとわかった。
確かにあの時、真っ先にこっちに走ってきたのはアーネストだった。
「大丈夫だよ、アーネスト。私はここにいる。」
「うん、うん・・・」
私が半ばしがみつくようにアーネストの背中に手を回すとその背中は少しだけ震えていた。
「んーー、ねぇ〜!僕にもいいこいいこ、して!」
さて、そんな雰囲気をぶち壊すのはこの人しかいませんよねぇぇ!!
「神様、だからね、空気読みましょう?って言うかキャラ変が凄くてついていけないんですけど。なんなら若干距離を置きたいんですけど。」
私にダイレクトに突っ込んできた神様に宥めるように話せば神様はわざとらしく「イリーナちゃんに嫌われたら泣いちゃうよ?!」なんて泣き真似をしてる。
神様、周りを見てご覧?5人がポカーンと神様のこと見てるから。
「あ、そんなことよりも」
「そんなことなの?!!僕の必死の抗議はそんな事なの?!」
気になることがあって声を掛けると神様がいちいちつっかかってくる。うぜぇ。
「今はそんなことどうでもいいんですよ。ねぇ、神様、どうして私は前世の記憶を持ってるんですか?私、前世でなにか悪いことしましたっけ?」
私の問いかけに神様は少し呆気に取られてその後に微笑んだ。
「違うよ。イリーナちゃんは特別なの。」
「・・・特別、ですか」
「そう!君は本当に不運としか言いようがなかったよ。君はね、完璧すぎたんだ。いや、正確には周りがそうさせた、と言った方が正しいね。」
「え?」
「イリーナちゃんは褒められたくて、認めてもらいたくて常に完璧でいようと心がけた。でもそれは逆に大きな壁となっていたんだよ。他人にとっても自分にとっても。」
・・・えーと?
神様の言ってることがよくわからなくて私は首を傾げる。と、そばにいたアーネストが「つまりは」とこっちをみた。
「お前は常に完璧でいすぎて自分の体はぼろぼろだわ周囲からは嫌味言われるわで勿体なかったって話。もしもお前が前世で頼れる人が一人でもいればお前は死なずにすんで、もっと幸せだったんだよ。」
確かに私は前世で味方なんていなかった。友達は利用するだけして私を捨てるし、親は少しでも理想の娘から外れると怒り出す。でも、だからこそ私は完璧でいようと・・・
「君に必要だったのはね、たった一つだけ。味方だったんだよ。君は脆いのに頑張ろうと無理するからそれを支える、もしくは受け止める人が必要だった。前世ではそんな人がいなかったからあの運命をたどったんだ。でもそれじゃああまりに可哀想すぎるだろ?だから君の願いを一つ叶えようと思ったんだ。」
神様は「願いの叶え方を間違えちゃったみたいだけどね」と笑った。
確かに、前世の私は味方がいなくて頼れる人なんていなくて、でも誰かに認めてもらいたくて、とにかく必死だった。
努力の方向性が分かんなくなるほどに。
でも今は・・・、沢山の味方が出来た。
・・・多分あの5人も味方、だよね?え?だよね、ちょっと自信なくなってきた・・・。
ま、まぁ!友達って言える存在ができた。
それって、凄く、凄く・・・素敵なことだ。
「神様、私今すごい幸せなんだ」
視界が歪んで一筋だけ涙が流れた。
「そうだね・・・、僕もだよ」
珍しく真面目なトーンで、でも確かに暖かさを持った返事をして神様は綺麗に笑った。
次の話から元の雰囲気に戻ります!
お読みいただきありがとうございました。




