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24 いよいよ対決の時でして

長めです

ガラガラと教室のドアが開く音がして私は後ろに振り返る。

放課後の人気のない空き教室にいるのは私と、そして、今ここに来たヒロイン――サラ様だけだ。

私はサラ様が来たのを確認して笑いかける。

「ご機嫌よう、サラ様。」

「そういうのいいから。なに?イベント進めてくれんの?」

相当苛立っているようでサラ様は舌打ちをした。

・・・怒りたいのはこっちだっつーの。


「ていうかさ、あんたが動いてくれないせいで親愛イベント進まないんだけど?どうしてくれんの、大体あんた何でまたアーネスト様といるわけ?」

「一気に質問されましても・・・」

私は湧き出てくる怒りをこらえて微笑んだ。

感情的になってはいけない。先にあっちにボロを出させなきゃだめだ。・・・今日はサラ様を罰するために来たのだから。


「ちっ、本当にあんたムカつく!あんたが前みたいにイベントやってくれればいい話じゃない!!なんなの?!前まではちゃんとゲームの中のイリーナ・アナベルだったのに。アンタみたいなバグがいるせいで攻略できないじゃないのよ!」

少しずつ感情的になっていくサラ様の顔はヒロインなんて可愛らしいものじゃない。

私はひるまないように意識してサラ様の言葉を遮った。


「サラ様、今回はお話があって呼び出しました。」

「はっ!私はあんたの話なんて聞く気ないわ、耳が腐る。この偽善者。どう取り入ったかは知らないけど私をいじめるだけいじめて今更何様のつもりよ。なに?ヒロイン乗っ取りでも目指してるつもり?無理よ。あんたは一生愛されずに死ぬ()なんだから!大体、今回だってねぇ、場所とか時間帯がイベントと被ってたからやっとイベントを起こすつもりになったかと思って来てみたらこれよ?!ふざけんじゃないわよ!」


念の為イベントの時と呼び出す条件を揃えておいて良かった・・・。もし普通に呼び出してたら来てくれなかったかもしれないし。


私は安堵を表に出さないように心がけてサラ様に向き直る。

「確かに私はサラ様を虐めていました。本当に申し訳ありません。それは決して許される事ではないし許してくださいなんて烏滸がましいことを言う気はありません。でも、私はこの世界を現実として生きています。死ぬ役だなんて冗談じゃありません。私は役だから生きてるのではありません。」

「・・・は?なによ、悪役令嬢ごときが私に口答え?まぁ、いいわ。あんたがそんなに余裕こいてられるのも今のうちよ。もう少しすれば攻略対象達もおちるわ。」

サラ様はそう言って歪んだ笑みを浮かべた。

多分、彼女が言ってるのは魅了のことだと思う。

この様子だと魔具のことはバレてなさそう・・・。


一々心臓がバクバクしててうるさい。

「サラ様」

「はぁ、何よ。しつこいわね。」

「サラ様はマリア様とご友人なのですか?」

私の問いかけにサラ様はピクリと眉毛を上げた。

「ふ〜ん。それは知ってるんだ。なに、マリア様と仲良くしてちゃダメ?」

「・・・いえ。別にマリア様とご友人なのは構いません。・・・ですが、マリア様に育てさせようとしている苗については少々言いたいことがあります。」

途端にサラ様の顔は今までの比でないくらいに歪む。


「・・・あんた、それをどこで?」

「たまたま聞いてしまいました。」

「嘘つきなさいよ。どうせ盗み聞きでもしたんでしょ。本当にクズね。まぁ、いいわ。あんた一人が知ったところで所詮何も出来ないでしょ。あんたは一人ぼっちで生きてる役なんだから。」

わざと役のところを強調してくるサラ様に多少の苛立つものの今はそんなことを言ってる暇じゃないので堪える。

「・・・何故マリア様にあの苗を渡したのですか。」

「何故?そんなの決まってるじゃない。逆ハーの為よ。」

「逆ハーの為・・・?」


信じられない・・・、そんなものの為だけに、それだけのためにマリア様はあと少しで・・・!


「貴女はあの苗の危険さを充分にご存知のはずでしょう!?」

「な〜に?感情的になっちゃってぇ。もちろん知ってたわよ。だからマリア様に頼んだんだもの。」


ふふふ、と笑うサラ様はどこか遠いところを眺めている気がして鳥肌が立った。



私が盗み聞きした時にマリア様とサラ様が話していた苗の話、あれはミャタという苗でゲームにもでてくる。そして取り扱いが法律で禁止されている違法植物のうちの一つだ。

ミャタが禁止されているのには訳がある。

ミャタは非常に危ないのだ。それこそ人命を脅かすほどに。

前世で言うところの麻薬の10倍は依存性と有害性があり、一度体内に入れてしまえば体は途端に壊れる。それどころか育てているだけでもミャタが出す胞子で死ぬことがある。

そんな危険な植物だがミャタは毒には薬として効く。通常時に取り入れたら死んでしまうそれも身体が毒で犯されている時のみ少量塗ることで毒の侵食を止めることが出来る。そのため、滅ぼすわけにもいかないのでミャタは王宮のみで育てることが許可されている。

そして私はそれを幼い頃に婚約者としてハルロド様と共にガラス越しにではあるが見た。


ミャタの怖いところはミャタ自体の存在や恐ろしさはよく知っていても王宮でしか育てられていない植物のため、多くの人はミャタの見た目を知らない所だ。

知っているのは王宮勤めの限られた人や王族、そしてその関係者。

・・・つまり、いくら身分が高くてもマリア様はミャタの見た目を知らない。


そして、サラ様はどこからか入手したそのミャタの苗を何も知らないマリア様にハルロド様が好きな植物だから、と言って渡したのだ。

そして1人で育てるように言った。


私達はそれを何日も、何日もかけて調べた。

ハルロド様は連日マリア様の家に行って情報を聞き出していた。私たちはその間、ずっと対策をねって計画を立てた。

やっとマリア様がハルロド様に情報を伝えた時にはミャタはかなり育っていてあと少しで胞子を吐き出すところだった。

あと少しで・・・、マリア様は死ぬ所だった・・・!!

思わず顔がこわばる私を嘲笑ったサラ様はそのまま言葉を続ける。

「あのね、逆ハーが激ムズルートなのはマリア様がいるからなのよ。まぁ、他にもあなたの死とか色々あるけど、マリア様は悪役令嬢でもいい方だから、攻略対象と恋に落ちてしまうのよ。だから、マリア様がいない方が逆ハールートを目指すには楽なの。わかる?ふふ、マリア様ったらお馬鹿だから『この苗は1人で誰にもバレずに育てられたら発動する恋のおまじないがかかっているんですよ』なんて言ったら信じちゃって。」

「・・・最低」

「はぁ?なによ、ゲームの役を殺して何が悪いの?どうせ痛みなんて感じないわよ。まぁ、最悪死ななくても違法薬物を育てているってことを知られたら牢に入れられるのは確実だしね。どっちみちゲーム上からは消えるわ。」

ゲーム上からは消えるだァ?

その言葉を聞いて自分の何かがプチンと切れる音がした。

この情報を聞き出したんだ。もう、いいよね。


「ふざけんなっ!!マリア様は、私たちは全員生きてるのよ!!そりゃあここはゲームの世界かもしれないけど、ここで生きてる人達は現実として生きてる!!ゲームとは違うの!痛みだってあるし、感情だってあるのよ!!何が『役』よ!何がゲーム上よ!」

バンっ!と思わず机を叩くと大きな音がたった。


「はぁ?何切れてるわけ?ウケるわ。そんな感情的になることでもないでしょ?失敗したらまたリセットすればいいんだから。私はねぇ、選ばれた人なのよ!私にそんな口聞いていいと思ってるの?バグごときが!」


狂っている。その目は、サラ様の目は狂っていた。


「リセットなんて出来ないんだよ?!ゲームとは違うんだよ?!貴女、魅了を攻略対象達にかけたでしょ。無理やり人の心を弄って楽しい?そんなことしてる限り、貴女は永遠に幸せになれない!!」

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ!!!!!」


大きな声で叫んだサラ様はその後、糸の切れた人間のように俯いた。

そして、徐々にその頭が上がってゆく。


「・・・そうよ、そうだ。このゲームがおかしいのはバグがいるから。バグがいなくなったら世界は元に戻るわ。私がヒロインなのよ。出来ないことがあるわけない。私は選ばれた人間なんだから、そうよ、そう・・・。バグを消せばいい。」


ブツブツと呪詛のように言葉を吐くサラ様はもはや誰がどう見ても正気の沙汰ではない。


・・・やばい。


私は本能的に後ずさる。

このままここにいてはダメだ。


外に出ればアーネスト達がいる。

そこまでいけば大丈夫、だから逃げなきゃ・・・!!


サラ様の方を見るとサラ様は狂気を孕んだ目で私を見る。

そしてその手には短刀があった。


どうしてそんなものを持っているのか、なんて聞かなくても考えなくてもわかる。

・・・いつでも私を殺せるように、だ。恐らくどこかしらに仕込んでいたのだろう。


遂にサラ様は雄叫びをあげながら私を追いかける。

・・・怖い、怖い!!


恐怖で思うように動かない足で必死に逃げてあと少しで出口だった。


「逃がさないわよぉぉぉぉ!!!!!」

なのに、あと少しのところで私はサラ様に捕まった。

そして私はそのまま扉に押しつけられすごい力で髪の毛を掴まれた。そのままサラ様は何回か私の頭を扉に打ち付け叫ぶ。

「お前が・・・、お前がいなければ・・・!!私の邪魔をする奴は殺す、殺してやるぅぅう・・・!!!」


ガンッ、ガンっ!と音がして後頭部に濡れた感覚がしてくる。

痛い・・・。頭が割るように痛い。視界がチカチカする。

やだ・・・、痛い!!助けて!!!


声に出したいのに声が出てこない。

そのうち、私の頭は開放されたものの力が入らなくて逃げることが出来ない。


私達がいる扉の方とは反対の扉が開くのとサラ様が私の肩を押さえつけたのは同時だった。


「イリーナ!!」

恐らく、扉に何かが打ち付ける音がしたのを不審に思って見に来てくれたのだろう。

アーネストやニコラス、ハルロド様、ルイス様、レイ様がこっちに必死な形相で走ってくるけど、きっと間に合わない。


だって、サラ様はもう私のお腹にめがけて短刀を・・・・・・。


ぎゅっ、と目をつぶって来るはずの痛みを待つ。


でも来るはずの痛みは来なかった。

ただ、カシャンと小さく何かが落ちる音がしただけ。

目をうっすらと開けると目の前に広がるのは空き教室だけだった。


気づけば肩を掴んでいたはずの腕もなくなっていてその代わり、教室の床にサラ様が持っていたはずの短刀が落ちていた。


どういうこと・・・?


私は五人の方を見る。

誰かが小さく「消え、た・・・?」と呟いた。


消えた・・・?サラ様が、人間一人がこの短時間で消えた?

どうやって?そんなこと人知を超えた力だ。


・・・あ。


私は一つの可能性を思いつてアーネストの方に振り返った。


「アーネスト、私を天界に連れていって!!」




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