20 理解が追いつかないことだらけでして
ハルロド様から聞いた話に私は固まった。
・・・そっか。そうだよね、すっかり忘れてたけどこの人は私がオートモードになる前にあったことがあるんだもんね。
たしかに、うっすら残ってる記憶の中では私とハルロド様は仲がよかったかもしれない。
だって、私中身一応成人済みだったし・・・、うわ、天使がいる!!みたいな感じだったんですよねぇ・・・。
乙女ゲームだって気づいたのはオートモードになってからだったから何も出来なかったけど。
「そう、でしたか・・・」
「あぁ。当時の君に戻ったようで不思議な感じがする。」
・・・つまりは、私は全くイリーナの真似ができてなかったってことよね。軽くショックだわ。
そんな私に気づかずしばらく上機嫌だったハルロド様だったけど、何かを思い出したらしく途端に真面目な顔になって私を見つめる。
いやん、そんなに見られると照れちゃうわ♡なんて冗談通じる相手じゃないので私は「なんですか?」と問う代わりに首を傾げた。
「イリーナ、お前はなぜあの時泣いていた?」
「・・・あの時?」
「この前、久しぶりにイリーナがサラを呼び出した時だ。」
あぁ、何かと思えば思い出したくもない黒歴史の話ですか・・・。
何故それをここで出してくるのだろう。
って言うかあの時私、ハルロド様に八つ当たりしてね?
あ、やばくね?これ答えても答えなくてもどちらにしてもやばくね?
「ふっ」
顔を青くしたり、白くしたり忙しい私をみてハルロド様が笑った。
「別に罰を与える訳では無いんだ。ただ何を思って君が涙を流したのかが気になってな。」
「あ、いや。大した理由ではないのですが・・・」
「それでも俺は聞きたい」
・・・なんか、ハルロド様に優しくされると違和感ある。
いや思い出すと昔はそうだったけどさ、最近の攻略対象としてのハルロド様しか見てなかったから違和感が・・・。
悪意はなさそうだからいいんだけどね?
「・・・あー、その。私の勘違いだったんです。勝手に勘違いしちゃっててそれで悲しくなっちゃって。でも勘違いだって分かったんでもう大丈夫です」
「そうか。勘違いなら良かったな」
私の言葉はいまいち答えになっていないにも関わらずハルロド様は薄く笑みを浮かべてくれた。
しばらく和やかな時間が流れたけど、私の場合それだけじゃ終わらないんだよね。はぁぁ。
というのも「はい。ご心配頂きありがとうございます。」と答えた私がすの部分を言い終える前に扉がバッコーーーーン!!!という破壊音と共に壊れたから。
「殿下!!」
私に見えないところで控えていたハルロド様の護衛が戦闘態勢になって扉を睨む。
やがて、扉の向こうから見えたのは・・・、レイ様だった。
ここにいる全ての人が脱力する。なんだよ、お前かよ。
「ごめん!力加減間違えちゃった!ね、修羅場なった?!」
世界人類に聞きたい。
今ばかりはこいつを磔にしても責められないよね?
フルボッコだドン☆
「やだ、イリーナちゃんそんなに睨まないでよ〜。冗談じゃ〜ん。」
「冗談はいいので要件をおっしゃってください。」
心の底から嫌悪感を表してレイ様に問いかけるけどやつに効果はない。
「せっかちだなぁ〜。まぁいいや。うーんとね、要件を言っちゃうとニコラス君を元に戻す薬ができたんだ。」
「あ、そうなんですか。わざわざ遅くにありがとうございます。」
お礼はいうけど感謝は絶対にしない。
だって、元はこいつのせいでこうなったんだし、私はお前が入ってきた時に「修羅場なった?!」って叫んでたのを聞いてんだよ、オラァ。
大体レイ様の事だから大体解毒剤を作れる時間だってわかってそうなのにわざわざハルロド様にあんなことさせやがって・・・。絶対確信犯!!
きっと今の私は視線だけで人殺せるね、って言われるような顔をしていると思う。わざとだけど。
「もう、イリーナちゃんそんな怒らないでよ〜。はい、薬」
私は少しだけ殺気を抑えてレイ様から薄ピンク色の液体を受け取る。
少しだけレイ様に頭を下げてから早速私は寝ていたニコラスを起こした。
「ニコラス、起きて」
「むぅ・・・?」
寝ぼけているようで私を見てほっぺにチューをしてきた。
よし、スルーでいこう。
「うわ、欲望に忠実だねぇ・・・」
レイ様の声が聞こえた気がしたけどそれもスルーで。
・・・っつうかお前のせいだしな?!
「寝ぼけてないで、ニコラス。ほら、これ飲んで?」
「むにゃぁ?」
「むにゃぁ?じゃなくて、この液体を飲んで。」
「うむ」
寝ぼけながらも頷いたニコラスの口元にレイ様から貰った薬の容器をあてる。
「はい、お口開けて、これ飲んで〜」
少しずつニコラスの口に流し込むとニコラスは可愛らしく喉をこくこくと鳴らしてそれを飲んだ。
「ふに」
謎の音を発したあとにニコラスは眠りについた。何この生き物、ちょっと可愛い。
と思いながらも不安になった私はレイ様に問いかける。
「ちょっと、これ大丈夫何でしょうね?」
「うん、大丈夫だよ〜、僕を信じて!」
全く信用ならないから聞いたんだけどな。
悪役顔を利用して思う存分威圧しながら睨んでるのにレイ様はそれに気づいていないふりをしている。
くそ、神経図太っ!
「あ、そうだ」
ずっと楽しそうにニコニコ笑っていたレイ様だったが、急に真面目な顔になってこちらに向き直った。
「彼女、サラの事でちょっと二人に話したいことがある。」
サラ、という言葉にハルロド様がぴくりと反応した。
「彼女と話している時の違和感の正体が分かったよ。」
「え?」
私は思わずつぶやく。
違和感?なんで?サラ様はヒロインなのに?
状況がよく分からないまま私はレイ様の言葉に耳を傾ける。
「彼女、魅了持ちだった。」
「・・・やっぱり、か」
隣でハルロド様の呟いた言葉に私はまたびっくりする。
って言うかレイ様の言葉にも。
み、魅了持ちって魔法のことだよね?え?あれって禁断の魔法じゃなかった?
っていうかちょっと待ってハルロド様知ってたの?
私だけがよく分からないまま二人はどんどんと話を進めていく。
「それだけなら良かった。それだけだったら罰金を払って少し魔力を吸い取られて終わる話だった。」
「やはり、彼女は使ってしまっていたんだな?」
「・・・うん。」
何?どういうこと?魅了は、相手の思いを無理やりねじ曲げて好きに出来てしまう魔法のことでしょ?それを使った?誰に?
混乱する私にやっと気づいたハルロド様は「悪い、イリーナには何が何だかわからないよな」と謝った。
「俺達は・・・、俺とレイはいつも彼女に違和感を感じていた。」
「違和感?」
「そうだ。話している時に何か違和感があったんだ。でも同じくサラと仲良くしていたルイスは違和感なんてないと言う。それでルイスと俺達、何が違うのか気になったんだが、俺とレイの共通点はこれをつけてるか付けてないかだった。」
そう言ってハルロド様は自分の手首についていた腕輪のようなものを外した。
「これは魔具だ。主に自身の身を魔法から守るためにつけるもので俺は王族だから一応自身の身を守るためにつけている。」
「そそ。で、俺は俺で魔法が好きだから自分でネックレスにしてつくって付けてたんだ。つまり、俺達が感じていた違和感はこの魔具によって防がれていた魅了に対する違和感。」
数秒沈黙があった。
「ってことを今調べ終わったんだけど〜、調べ尽くしたせいで確信に変わった。ルイスには魔具ができるまでは薬でなんとか抑えてもらってたけど魔具も完成したし明日からはもう大丈夫だよ」
ハルロド様に笑いかけたレイ様はその時ばかりは友人を思うただ1人の同い年の男子に見えた。
・・・でも、だめだ。その3人だけではダメだ。
「レイ様」
「何?イリーナちゃん」
「あの、もしも宜しければですがその魔具をあと3つ作ってはいただけませんか?」
私の言葉にレイ様は申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめんねぇ、イリーナちゃん。ルイスに渡す魔具はあくまで魅了の魔法しか弾かないんだ。ちゃんとした魔具を作るとなると結構時間がかかっちゃうんだけどそれでもいい?」
「いえ、魅了を弾くだけでいいのです。それでも作るのに時間がかかってしまうのならルイス様に飲ませていたという薬だけでも結構です。」
「ちょ、ちょっと待ってイリーナちゃん。何でそんなに魅了を気にしてるの?もしかして誰かにかけられそうになってる?」
焦ったようにレイ様が私に声をかける。
たしかに私は伯爵という大きな地位をもっている。そして一人娘。そんな私に魅了をかける人がいたら大変だ。
でも違う。魅了をかけられそうになってるのは私じゃない。
「私ではありません。恐らくこれから先、魅了をかけられるとするならば相手はザハール先生、ニコラス、そしてアーネストです。」
「な・・・」
「イリーナちゃんはどうしてそう思うの?」
「詳しいことはいえませんが・・・、この前サラ様と接触した時に聞きました。」
まさかここが乙女ゲームのせかいだから、なんて言えるはずもない。
苦し紛れの私の言い訳にハルロド様とレイ様は顔を見合わせる。
「お、お願いします。これで貴方がたに迷惑をかけるのは最後にします。今までのご無礼も責任を取ります。私のことなど信じなくてもいいです。勿論お金も払います。お願いします!どうかつくってくだ」「ちょ、ちょっと待て!」
私の必死の言い分はハルロド様によって遮られた。
「なんで君が責任を取る前提なんだ?別に俺はもう、その・・・」
「今はそういうのはいいから。ねぇ、イリーナちゃん、僕も不思議に思うんだけど。どうしてそこまで必死に?」
真っ赤な顔で何かをもごもごと喋るハルロド様をレイ様が遮った。レイ様、貴方いつか不敬罪で捕まるよ。
とはいえ私もそんな冷やかしてられる余裕はないのではっきり答える。
「特に強い理由はありません。ただ、しいていうのならヒロイ、サラ様の人柄を好きになってそれで共に過ごしてるのならいいのですがでもそうではないから。魅了は相手の気持ちを無視してかけられてしまう。そしてかけられた相手は機械のように相手が望むことをする。だからこそ禁断の魔法なのですよね?私はそんなふうになって欲しくないからだから私が知ってる限りの人を守って欲しいのです。」
「・・・その3人で全員かな?」
「はい。恐らく。ただ・・・、サラ様はハルロド様、レイ様、ルイス様、ザハール先生、ニコラス、アーネストに魅了が効くと思っています。もし、効かないとわかったらどんな行動をとるかわかりません。お気を付けて。・・・私が言えたことではないですが、あの方の執着は相当ですから。」
私にアーネストの話をした時のヒロイン、サラ様を思い出す。
きっと、サラ様はこの世界が自分の思い通りに動くと思っている。あの目は・・・、あれは危ない。
私の言葉に二人は絶句したまま何も言わなかった。




