閑話 ハルロドの話
ハルロド視点です!
俺は、優しくて綺麗なあいつの事が大好きだった―――。
◆◇◆
「ハルロド様!!!そんな汚い小娘をなぜ相手にするのです?!」
嗚呼、彼女はいつからこうなってしまったのだろう。
俺は素っ気なく「お前には関係ない」と返しながらもそう考えてしまう。
彼女―――イリーナは私の婚約者になることが生まれた時から決まっていた。
伯爵という地位を持ち、次期王になる俺と同い年の少女。
それだけで条件は充分揃っていた。
だから我が父は生まれる前からもし、男だったら俺の近くで共に戦い、女だったら俺と寄り添う、そうアナベル家の領主と決めていたらしい。
俺がその話を聞いたのは4歳の時で正直状況はあまり理解出来ていなかったのでどうでもよかった。
俺はよく分からないままでアナベル家に向かった。
そして、そこにいたのはあまりに美しい少女だった。
少女は固まる俺を見てニッコリと笑う。
そして彼女は優しい声で「よろしくね」と言ったのだ。
幼いながらにして、それが俺の初恋となった。
その後、俺は自分から積極的に婚約者となった。
イリーナの父親は娘を溺愛しているようで「やっぱりのあの約束はなかったことに・・・」なんて言ってごねていたが、何とか無事に婚約者になった。
その間も、ずっとイリーナはにこやかに俺達を見守っていた。
幼い俺が泣きそうになったり、むくれたりする度に彼女は本当に同い年なのかというくらい落ち着いた態度で俺の頭を撫でてくれた。でも叱る時はきちんと叱ってくれた。
そして彼女は俺が不安になったり泣きそうになる度に「大丈夫、大丈夫」と言って笑うのだ。
俺は、そんな彼女が大好きだった。
でも彼女はそれから2年がたった頃、急に性格が変わり出してしまった。
優しい穏やかだった性格は傲慢で我儘な高飛車な性格に。
いつも彼女は笑みを絶やさなかったのにいつしか喚き、願いが叶わなければ泣き叫ぶ様になった。
でも、いつかは元に戻ってくれると信じていた。
あの時の、優しい少女に。
でも、変わらなかった。それどころか益々その過激さはましていった。
思えば生まれてすぐに亡くなった母と溺愛してるものの仕事でなかなか帰れない父。
イリーナは寂しかったのかもしれない。
でも愚かな俺はそんなことに気づけず、ただ、変わってゆくイリーナに失望していた。
そして時は流れる。
魔法学園に入学した俺はある少女と出会った。
それがサラ・グランディスだ。
彼女は昔のイリーナに似ていた。
だからなのか、俺は彼女を友としてすぐに受け入れた。
でも、どうしても恋愛として好きにはなれなかった。
どこか、何かが違う。
いつもそう思っていた。
そして、同時に未だにイリーナと比べている自分自身に嫌悪した。
幼い頃の僅かな思い出にすがりついて俺は、未だに前に進めていない。
そのうち、彼女はサラをいじめ始めた。
彼女のソレはもはや恋心なんてものではなく、執着と言った方が相応しかった。
今日も俺はサラが呼び出されたと聞いてサラとイリーナがいる場所に向かう。
変わってしまった少女はそこでサラを虐めていた。
サラは俺の顔を見て輝かしい笑みを浮かべる。
違和感。
まただ。やっぱりこの笑顔は・・・違う。
そんなことを思いながらもイリーナが必死の形相で弁明するのを遮る。
サラは俺にとって友だ。
なら、イリーナは?今のイリーナは何なのだろう。
婚約者という肩書きだけで本当は俺のなんなのだろう。
喚くイリーナを見て自分の感情に気づいた俺は顔を歪めた。
好きの反対が無関心なのならば俺は彼女に無関心になりたかった。
俺はイリーナが嫌いだ―――。
が、イリーナがおかしくなった。
その日も午前中はいつも通り傲慢な少女だった。
だが、屋上で倒れていたという知らせを聞き、「また仮病か」なんて呆れて保健室に向かった俺は絶句した。
彼女の雰囲気が変わっていた。
少しオドオドしていた。少し表情が柔らかくなった。少し喋り方が違った。
・・・少し、昔の面影があった。
でも、そんなはずは・・・。
そんなことを思いながら俺はわざとイリーナに冷たく当たる。いつもだったらここで喚く。無理矢理にでも俺を・・・。
でも彼女はそんなことをしなかった。
・・・これは罠なのだろうか。彼女は俺を騙そうとしているのだろうか。
その日、彼女は屋敷に帰ってからも様子がおかしかったようで彼女の従者のニコラスから電話があった。
・・・何があったのだろう。
次の日、お茶会に来た彼女はやっぱりおかしかった。
でも俺も大概におかしい。
彼女の近くにいる男を見て俺は不快になる。
彼女が男に無邪気に笑いかけているのを見てモヤモヤとする。
こんな感情は嫌だ。
こんな感情、彼女が俺に向けるのと一緒じゃないか。これは恋心なんてものではないじゃないか。だって、俺は彼女のことは好きじゃない!なのに・・・、なのに何でこんなに胸が痛いんだ・・・。
はっきりしない自分が嫌で、でもいつもと違って一度もこちらを見ようともしない彼女に落ち着かなくて俺は彼女を呼び出した。
はっきり言おう。はっきり言ったらきっと何かが変わる。
そう思っていた。
でも違った。
いや、正確には変わりはした。でも俺が思っていたのとは違った。
俺は言いたいことをイリーナに言った。ただ、政略結婚ではあったものの俺は好きでイリーナと婚約を結んだ所については嘘をついた。自分でも何がしたいのかよくわからない。
だが、イリーナは予想外の反応をした。
いつものように喚くでも泣き叫ぶでも狂うでもなく「婚約破棄をするのか」と聞いてきた。
俺はその時、「するかもしれない」と口にしたつもりだったのに口から出たのは「婚約破棄はしない」なんて言葉だった。
自分でもびっくりだ。
そしてそれを聞いたイリーナが詰め寄ってきたので俺はなんとか適当に考えた言い訳を口にする。「そうですか」と呟いた彼女は婚約破棄を望んでいるように見えて背中を向ける彼女の腕を掴んだ。
そして口から出たのは彼女の脇にいた男の事だ。紹介はされたものの彼女の友人にしては見たことがなかった。
それなのに何故彼女とあんなに仲良くしていたのか、知りたかった。
が、俺の口は彼女や、その友人を嘲る言葉ばかりが出てくる。
嫌なのに、こんなこと言いたくないのに、俺の口は止まらない。嗚呼、自己嫌悪でどうにかなってしまいそうだ。
暗闇に心がズブズブと沈む感じがして自分の気持ちがわからなくなった時、彼女の凛とした声が頭の中に響く。
彼女のヒステリックな声以外を聞いたのは久しぶりだった。
そんな彼女の言葉は俺に突き刺さるものばかりだった。
彼女は俺の自分の嫌いな場所を的確についていく。
俺が見たくなかったところを晒していく。
おもわず怒りで拳を握る。きっと今の俺の顔は大変な顔になっているだろう。でもそれは彼女に向けた怒りではなく、自分に向けた怒り。
俺は弱々しく僅かな抵抗として「無礼だぞ」なんて情けない言葉を吐くしかなかった。
しかし、彼女はそんなことも気にしない。
そして言う。
自分が今までしたことを正当化するつもりは無い、と。
だが、俺に彼女や彼女の友を蔑む権利もないと。
その怒り方が、あの頃の彼女に似ていて俺は去ってゆく彼女の背中を呆然と見つめることしか出来なかった。
その後も彼女は彼女だった。
たまに思い出したかのように以前のイリーナっぽく振舞ったりするが明らかにそこには愛らしさがあり、演技しているのがバレバレだった。
そして彼女のそばにはあの男とニコラスがいた。
彼女は変わったのだろうか、それとも元に戻ったのだろうか。
俺にはわからなかったが、せめて罪滅ぼしをしたかった。
あの時、彼女が言ったように今まで何もしてこなかった罪滅ぼしを。
そして目の前にいる彼女をみて確信した。
彼女は元に戻ったのだと。薬で精神逆行し、眠るニコラスに話しかけた彼女はあの頃の彼女のままだった。
俺が大好きな・・・。
でも、どの口がいまさら彼女を好きだといえよう。
俺は彼女を見捨てたのだからそんな資格はない。
でも、せめてどうしてあの時彼女が泣いているのかを知りたかった。
あの時―――サラをイリーナが呼び出したと聞いてやっぱり変わっていなかったか、とあそこに向かった時何故彼女が泣いていたのか知りたかった。
泣き叫ぶわけではなく、静かに流した、恐らく彼女が元の彼女に戻って初めて流した涙はとても綺麗で、でも胸を締め付けられるものだったから。
きっと彼女の事だから大事な人を思って流した綺麗な涙なのだろう。
そんなことを思ってしまう俺は重症だと思うが、ただ彼女が涙するとしたらそれしか思いつかなかった。
まぁ、それと同時に彼女が八つ当たりするように俺に叫んだ言葉は俺と彼女の心の距離を再確認することになったのだが。
少し泣きたくなる・・・。俺の自業自得だがな。
ただ、俺は願うばかりだ。彼女が、彼女でいられるように。
彼女が幸せになれるように。
俺は彼女が―――。
・・・ということでした(汗)
実はハルロド様、ただの拗らせボーイです。
拗れたツンデレです。彼もいい人なんだよ、っていうお話でした。そして自分の感情に恐ろしく鈍い・・・
お読みいただきありがとうございました!




