19 疲れ果てまして
「な、なななななな何すんのよ?!!!」
パニックでどもりまくりの私を見てニコラスはまた悲しそうに顔を伏せる。
「やっぱり俺のこと嫌い・・・?」
「あ、や、そうじゃなくて・・・!ちょっとびっくりしたと言うか・・・」
慌てて言い訳をするとニコラスはまた花が咲くように顔を輝かせる。
ぬぉぉ、どこが地雷かわからない・・・。
私はニコラスがニコニコな顔に戻っていることを見てとりあえずほっと息をつく。
と、ニコラスがこちらにニコニコな顔を崩さないまま近寄ってきた。
「お嬢様・・・」
「な、なに?」
ニコラスはニッコリとさらに笑みを深くして近づいてくる。
そんなニコラスから距離を置くために後ずさっていたのに後ろにあるベッドのせいでこれ以上後ろに下がれなくなった。
や、やばっ!!なにされるかわかったもんじゃないい!
そんなことを思っている間にもニコラスの顔がどんどん私に近づいてくる。
ニコラスはそのまま止まることなくトンっと私の肩をおしてベッドに押し倒した。
・・・ナニコレ。え、ナニコレ。
やだよ、私。大丈夫だよね?こんな所であんなことやそんなことないよね?大丈夫だよね?ねぇ?!!
これ、助け呼んだほうがいいの?
グルグルと考えている私にニコラスの声が聞こえてきた。
「お嬢様、好き。大好き。」
スリスリと猫のように首筋に頭を当ててくる。
それはいい。別にもう慣れた。いや、慣れちゃいけないんだろうけどもう慣れた。
でも、この格好はまずいんじゃないかな?ニコラス君よぉ。
これ完全に私が君にお、襲われてる人みたいになってやしないかい?えぇ?
「ニ、ニコラス?ちょっと一回どいて?」
「んーん」
「いや、んーんじゃなくて・・・」
何とか剥がそうと試みるもベッドがふわふわ過ぎてうまく力が入らないし、何よりもニコラスに一切離れる様子がない。
なんとか踏ん張っている私をものともせずにニコラスはちゅっと音をさせてまたほっぺにチューをする。
はい、ほっぺチュー頂きました〜。おっと、まさかのおでこにも頂きました〜。デコチューですね。
もう、感覚と感情を麻痺させないとやりきれなくなるので私はもはやされるがままになる。
が!そんな事をしていられたのもニコラスの唇が首筋に当たるまでだった。
イヤまてぇ!!!誰も首筋にしていいとはいってないぞ?!!!!
首はダメだ!!キスマークみたいになるから絶対ダメ!!
未婚の令嬢が首筋はダメ!!!っていうかどこもダメだけど!
一応まだ、私ハルロド様の婚約者だからね?!
それだと婚約破棄じゃ済まなくなっちゃうかもだからね?!!
私の首に唇を当てるニコラスを必死に剥がそうとしているとコンコン、とノックの音がした。
や、やべぇ!
私は急いで小声でニコラスに「離れて!お願い」と告げる。
が、今まで散々私のお願いを拒否したニコラスがそんなお願いを聞くわけもなく、ニコラスが離れないまま扉の外から「お嬢様、入ってもよろしいですか?」という声が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっと待って!」
返事をしながら何とかニコラスを離そうとする。
「お願い、ニコラスどいて!」
・・・どかないいいいいいいいいい!
と、扉の前から使用人達の声ではない誰かの声が聞こえた。
「何をしている?イリーナはどこだ?」
「あ、いえ。今はちょっと・・・」
「なんだ?別に着替えてる訳では無いだろう?入るぞ、イリーナ。」
この声は・・・!!という思いと、あ、やべぇ!!!!という思いが交わって結論として出てきた私の思いは「これ私の人生オワタ」というものだった。
まぁ、私の想いなんて今はどうでもいい。
問題はこの状況だよ。
・・・何故、今日。このタイミングでここに滅多にこない貴方がきたのだ?
ハルロド様・・・。
私は扉を開けて絶句しているハルロド様と未だに私に擦り寄っているニコラスをみてため息をついた。
◇◆◇
「そ、そういう事だったか・・・。」
「はい、お見苦しいものを見せて申し訳ありません」
「いや、その、災難だったな。」
「ええ、とても。」
あの後、私にニコラスが覆いかぶさっているという衝撃映像を見た純情ボーイなハルロド様は首まで真っ赤にさせて「な、な、」と絶句していたのでその隙に私はリサに助けを求めてニコラスを剥がしてもらった。
そして、今。
広間にでハルロド様と向き合っている。
え?ニコラスはどこかって?いますよ、隣に。寝てますけど。
しかも枕にしてるの私の足ですけどね。ええ、俗に言う膝枕ですけど?
リサから引き離されたあと、ニコラスははしゃぎ疲れたのかしばらく私にくっつこうと試みた後にそれが出来ないと悟るとすぐに眠り出した。私の膝枕で。
はぁ、とため息をついてハルロド様を見る。
ハルロド様にレイ様から聞いた説明をまんますると納得いった顔をしていたけど、まだ耳が赤い。
・・・すみませんね、変な映像を見せてしまって。
にしてもなんで来たんだ?
「ハルロド様はなぜこのような時間にうちに?」
今の時間はかなり遅い。礼儀を弁えてるハルロド様ならなかなか来ない時間帯、しかもうちの屋敷に自体あんまり来ないのに何があったんだろう?
私の問いかけにハルロド様は気まずそうに目線をそらしたあと、ポツリと「レイが」とこぼした。
「放課後俺のところに来て今日の夜、この紙をイリーナに届けてやってと頼まれた。だから、夜に行くのは迷惑になるだろうから明日自分で届けろと言ったんだがな、今日の夜、しかも俺が届けないと意味が無いと言われてな。
で、屋敷に来たらなかなかイリーナが出てこなくて何が起きているのか気になって扉を開けてしまった。その、すまない。」
・・・なるほど、なるほど。分かった。状況は理解出来た。
だからハルロド様、ちょっと気まずそうに私の首をチラ見するのやめて。何とかキスマークはついてないから。阻止したから。
そしてレイ様、お前はドブに落ちてブサイク悪役令息に転生しろ。
気を抜くと感情がダダ漏れになりそうなので頑張って表情をつくる。
「いえ、こちらこそ申し訳ないです。ちょっとその紙見せてもらっても?」
私はハルロド様からレイ様がハルロド様に渡してほしいと頼んだ紙を受け取った。
「中身は見ていないから安心しろ。」
「感謝致します」
ハルロド様にお礼を言いながら折りたたまれていた紙を開くとそこには可愛らしく美しい字で『僕が作った薬、ハルロド様にこの手紙を届けてもらう時間帯が一番強く作用が出るから気をつけてね?ハルロド様に見られないように、頑張って♡あ、もう遅い?』と書いてあった。
コンマ1秒で紙を握りつぶし、私は誓う。
あいつ、絶対に〇す。
と、私の様子に気づいたハルロド様から「イリーナ・・・?」と困惑した声が聞こえてきたので私は殺意をひっこめた。
「失礼しました、少し取り乱しました。」
「あ、いや、別にいいが。その紙には何が?」
「・・・大したことではありません、ほほほ。」
私は静かに圧を掛けてハルロド様に笑いかけた。
「そ、そうか・・・」
若干、引いてる気がするけどいいや。
もう諦めて開き直っちゃおうかな〜、どうせ平民になるし?なんて馬鹿なことを考えていると下から「ん」と声が聞こえた。
あ、ニコラスいるのすっかり忘れてた。
眠っているニコラスに目をやると少し魘されていた。
「ん、おか、さ。」
誰かを呼んでいる気がして私はニコラスに頭を寄せる。
「おか、ぁさ、ん・・・。ごめん、な、さ」
お母さん、ごめんなさい
私が聞いた限りはニコラスはそう言った。
その言葉に私は顔を顰めた。
・・・私にとってはゲームに出てきたニコラスの母親は最低なクズ野郎だけど、ニコラスにとってはたった1人の、お母さん。
未だに魘されているニコラスに胸が締め付けられる。
私はそっとニコラスの手を取ってなるべく優しい声色でニコラスに囁きかける。
「ニコラス、私がいるわ。イリーナ・アナベルは貴方と共にいる。だから安心なさい。・・・お母さんの代わりにはなってやれないけど、あなたはもう1人じゃない。安心して眠りなさい」
しばらく頭を撫でてやるとニコラスはすぅ、と心地よい寝顔になった。
少しでも楽になってくれればいいけどこればっかりはな・・・。
なんて思いながら頭をあげると目の前には呆気に取られたハルロド様がいた。
「お前は・・・」
「へ?」
「今のお前は昔のイリーナだ。」
・・・はぁ?何言ってんだこいつ?
私はハルロド様の意味不明発言に首を傾げた。
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