2 変な世界に迷い込みまして
「私の話を聞いているのかしらっ?!!」
うおっ!びっくりした!!
・・・ってなんだ、これ私のセリフか。
私はヒステリックな声により回想から戻り、目の前の状況を思い出した。
あー、今ヒロインいじめイベント中なの忘れてた・・・。
「き、きいてます・・・。こ、これからは気をつけ、ま、す。」
私は目の前でぷるぷると震えるヒロインを見ながら、ぼーっとしながらでもセリフは勝手に喋っててくれるのね、なんてどうでもいいことを思っていた。
・・・それにしてもこんなに可愛い子が泣きそうに震えてるのを見るとちょっと胸が痛むな・・・。
が、私がどう思おうが私の体は指1本動かないし、口も止まらない。
我慢、我慢・・・。あと少し待てば私の婚約者がこの子を助けに来る。・・・どうせ私には何も出来ない。
案の定、数分もしないうちに私の婚約者が来た。
おお、いつも通りお怒りですね。
昔からこの子の眉間にシワが刻まれていない時を見たことがない。跡つくわよ。まぁ、私のせいなんですけどね。
私は婚約者が近づくのをひたすらに待った。
これでいじめイベントは終わる・・・。
私が心の中で安堵のため息をつくと同時に婚約者がとても冷たい声で「何をしている?」と私に問いかけた。
「ち、違うのです・・・!!こ、これは・・・、この子が・・・」
イリーナの焦った声が聞こえる。
このイベントは比較的序盤で起こる。このイベントからイリーナの嫌がらせが犯罪くさくなるんだよね・・・。
やだなぁ・・・。私、犯罪はしたくない・・・。何を思っても無駄なんだろうけど。前世は普通のOLだったのに・・・。
そんなことをぼんやりと思いながら婚約者を見つめていると婚約者は静かに「もういい」と私の弁解を止めた。
「サラはただの友人だ。君が何を思ってこんなことをしているのかは知らないが次このようなことをするのなら私にも考えがある。」
サラ、というのはヒロインの名前。確か、デフォルトネームがそれだった。フルネームはサラ・グランディス。
桜色のボブにぷるぷるな唇。零れそうなグリーンの瞳。
思わず守りたくなるような見た目をしている庇護よくそそる系女子がヒロイン。
その隣でヒロインを庇うように立っている私の婚約者は先ほどの紹介通り金髪蒼目で眉間にいつもシワがある(主に私のせい)。
まぁ、美形なのはテンプレよね。この人の美形レベルはかなり限界突破してる感じはあるけど。そんなクール系の冷ややかな美青年が私の婚約者。
さてさて、他己紹介もここまでにしておいて、と。
私は婚約者の言葉に悔しそうに唇を噛み締めて、逃げ出す。
でもヒロインとすれ違う時に耳元で「覚えておきなさいよ」と囁くのは忘れない。
ここまでの一連の流れがこのイベントだ。
・・・よし。これで何とかいじめイベントは終わった。あともう1個仕事しなきゃ・・・。
私は一気に脱力しながら校舎裏から去った。
◇◆◇
ガチャ、と音を立てながら私は屋上の重い扉を開けた。
はぁ。疲れた・・・。
屋上に行くにはエレベーターがないから階段を使わなきゃいけないのよね。久しぶりに階段なんて使ったわ・・・。
一応言っておくと、私は好きでここに来た訳では無い。
これもゲームの強制力だ。
この場面はヒロインへのいじめイベントを邪魔され、つもりに積もった嫉妬を確実にぶつけるにはどうしたらいいのかを屋上で考えるシーンだ。
ゲームの中で私は風が吹く中、突然にやりと笑ってこういうのだ。
「いいこと思いついた♪」
ちょうど私の口からも飛び出たし、はい。イベント終わり、と。
私はイベントが終わり少しだけ強制力が弱まった体で屋上を後にしようとした。
ぐゎゎゎゎゎゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん
ぐゎゎゎゎゎゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん
でも扉を開けようとした瞬間、突然のめまいが私を襲いよろめく。
痛い・・・、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、痛い!!!!!
っ!!!何この痛み!!!??
頭が割れそう・・・っ!
なにか掴めるものを探すものの、見つからない。
私・・・、このまま死ぬの・・・?ゲームの中ではこんなルートはなかった。
一瞬、死への恐怖が私の心を覆い尽くす。でも・・・
こんな世界、私という意識だけがあっても生きてる意味が無い。今死んだとしても別に・・・、この人生に未練なんてないわ。
私はあまりの痛みに崩れ落ちながら暗闇におちた。
◇◆◇
「――ろ、おきろ。」
・・・うーん、うるさい。もう少し寝させてよ・・・。
「お前が起きなきゃ話が始まらない」
私なんかいなくても勝手にオートモードが喋るわよ。
「・・・起きないな。仕方ないか。」
声がして、額に誰かの大きな手が置かれた。
と、その瞬間頭の中に映像が浮かぶ。
『××ちゃんは本当に偉いわね』
『××ちゃんに頼ればなんでも解決するね、すごいわ!!』
『××ちゃんは何でもできていいね』
『××ちゃんみたいななんでもできる子にはわからないよ』
『××ちゃんって私達のこと見下してるでしょ?』
違う、私は私はただみんなのために・・・!
そんなつもりじゃなかった・・・!!
「・・・っ!」
飛び起きた私は大きく息をついた。
ゆ、夢・・・?
まだ荒い息を整えて周りを見渡す。
ひたすらに白い、上下左右も分からないくらい何も無い白い空間で私は横たわっていたようだ。
「・・・ここ、どこ?」
久しぶりに発することが出来た自分自身の声に驚きながら私は首をかしげた。
「ここはあの世と俗世の境界だ。」
返ってこないと思っていた問いに思わぬ答えが返ってきて私はまたもや驚く。
「・・・境界?」
「お前目覚めるのが遅すぎる。悪いがなかなか起きなかったから少しお前の記憶から最も嫌な記憶を思い出させて無理矢理起きてもらった。」
いや、じゃなくて。お前誰だよ?どこに隠れてんだよ?なんでそんなこと出来んだよ?ていうか「・・・境界?」っていう私の問いに答えろやオラァ。
さっきから声だけしか聞こえてこないし、正直勝手に自分の記憶を探られるとかあまり気持ちのいいものではない。ていうかそんなこと出来るもの?
疑問符だらけの頭で私は必死にその人物を探した。
「あぁ、そうか。お前には俺が見えないのか」
悪いな、と謝ってる割に全然悪く思ってなさそうな声が聞こえ、突然周囲が光で溢れかえる。
光が収まって一番最初に見たものは、この世のものとは思えないほどの美しさを持つ人だった。
艶のある綺麗な漆黒の髪に血のように赤い威圧感のある瞳。
肌は陶器のように白くニキビ一つない。
美しすぎるのにどこか男らしい色気を感じるその姿に私は思わず見惚れてしまう。
しかも、身に纏っている衣も見たことのない生地が使われている。
うぇぇ?この人誰?私の婚約者もそれ以外の攻略対象も相当な美形だけど・・・。この人はそんなレベルじゃ収まらない。
人ならず者がもつ、そんな美しさ・・・。
状況がわからない私はアホのように口を開けてその人を見る。
「あ、あなた・・・誰、ですか?」
私の問いかけにその人は不敵に笑った。
そして姿と同じくらい美しい声でこう言ったのだ。
「俺は天界の者だ。」
と。
明日もこのくらいの時間に投稿します!
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