18 ニコラスのお世話を始めまして
ドイツの詩人、ゲーテは言った。
『人生の最大の罪は不機嫌である。』と。
でもね、こいつの場合、上機嫌でも罪だと思うの。
主に私にとってね!!
実際、目の前のこいつはやけにルンルンしてるけど私からしてみれば悪魔の笑みだからね?
嫌な予感しかしないよ?
これまでに見たことのない上機嫌で近づいてくるレイ様。
逃げ腰になる私。
そんな私を更に強く抱きしめるニコラス。
そしてそして、そんな私達をポカーンと見つめるアーネストとザハール先生。
何このカオス。泣いてもいい?
「お嬢様、何考えてるの?俺がいるのに・・・」
突然、耳元でニコラスに囁かれて私の顔は多分真っ赤になってると思う。
「ちょ、お前一回離れろ」
アーネストが近づいてきてニコラスを私から離そうとする。
が、様子のおかしいニコラスがそれを許すはずもなく、ん?許すはずもないのか?そもそもなんで私抱きつかれてんだ?
考えてもわからんのでとりあえず目の前の状況に目を向けないと・・・。
やたらニコニコしているレイ様、何故かベッタリと甘えるニコラス、必死にニコラスを引き離そうとするアーネスト、フリーズしているザハール先生。
うん、分からん。
ダメだ、何回見ても何が起きてんのかわからないわ。
「イリーナちゃ〜ん!」
やけに間延びした甘い声が聞こえた。
「・・・レイ様。いつから私はちゃん付けで呼ばれるほどあなたと仲良くなったんでしょうか?」
出来るのならば神様を思い出すからその呼び方はしないで欲しいのん。
「やだぁ、つれないなぁ。いいじゃん!親密に見えそうで」
それが嫌なんですけどね。
私はげっそりしながらもレイ様の方にしっかりと向き直る。
「これはどういう状況ですか?」
「えーとね、イリーナちゃん達が欠席した授業って魔法の授業だったんだけど僕、魔法得意なほうだからすぐに出された課題終わちゃってさ、先生に何してればいいか聞いたら好きなことしていいって言われたから道具とかかりて試作薬をつくったんだ。で、それをニコラス君に「飲んでくれる?」って言ったらなんかニコラス君、君がどこかに行っちゃったから精神不安定だったみたいで何も言わずにごきゅごきゅ飲んじゃってね。」
・・・あー、なるほどぉ?
つまりは?こうなってるのは?ぜぇーんぶ、レイ様のせいって事ね?
「あれれ?イリーナちゃん怒ってる?おこ?おこなの?」
なんだ、こいつ。うぜぇ。
「おこです」
「うわぁ、イリーナちゃんの声超野太いよぉぉ。怖ぁ。」
イラ、イライライラ!
む〜ぅかぁ〜つ〜くぅぅぅぅぅぅ!!!!
怒りにわなわなと震えていると存在を忘れかけていたニコラスが私の首筋に自分の頭をなすりつける。
うぉ、首筋こそばゆい・・・。
「お嬢様・・・、俺がいるのに他の人と喋らないで・・・、俺と喋ろ」
おぉ、ニコラスの人称も俺になってるぅぅ。
私は後ろから抱きしめられていて大した身動きができないので「もうちょっと待ってね」とだけニコラスに伝える。
「レイ様・・・、ニコラスに飲ませた薬の効果はなんですか?」
「・・・んー?効果は色々あるんだけど〜、あ、危ないものはないから大丈夫だけど。多分ニコラス君に一番強く出てる作用は精神逆行だと思う。」
「・・・精神逆行?」
聞いたことのない作用に私は首を傾げる。
「うん。精神逆行っていうのはね、単純に言うと精神が子供の頃に戻っちゃうってこと。つまりは幼児がえり?」
「えーと?」
「うん、だからつまりは欲望のままに動くし、泣きたかったらなく。」
「じ、じゃあ、これは・・・」
「うん。完っ全に甘えてるね。」
「うっそん」
「イリーナ、言葉遣い!」
いままで黙ってたアーネストのオカンスキルが発動した!
私は慌てて口を抑える。
やばい、完全にレイ様に聞かれたぁ!!!!
・・・なんか呆然としてるしぃ、絶対バレたしぃ。
「アーネストォォォォ」
情けない声を出してる自覚はあるけどこのカオスは一刻も早く脱出したい!
「お嬢様・・・」
耳元で切なげに名前を呼ぶな、ニコラス!
と、やっっっっと硬直から解けたザハール先生が気の利くことを言ってくれた。
「・・・なんか大変だな。よし、お前らHRあるけど帰っていいぞ。レイ、お前解毒剤まだ作ってないんだろ?」
「はい。」
「じゃあお前はすぐにそれに取りかかれ」
「分かりました」
キビキビと指示を出したザハール先生は言い終わると私の方へ向き直る。
「イリーナ、お前は・・・」
「は、はい」
何を言われるのか緊張しながらザハール先生の言葉を待っていると先生は私の肩をたたいた。
「ニコラスの相手を頑張れ。って言うか色々頑張れ」
「・・・はい」
多分、世界中を探してもなかなかここまで気持ちの入った返事はないと自分で思った。
◇◆◇
「ただいま帰りました」
私の言葉に使用人達が一斉に「おかえりなさいませ」と返した。
そのうちの1人が一歩私の方に踏み出す。
「あ、あのイリーナ様・・・。」
「なに?」
「あの・・・、いつも先にお帰りになっているはずのニコラスが今日は帰ってないのですが・・・」
「あぁ。」
私は自分の目が半目になるのを自覚した。
「ニコラスならいるわよ。私の後ろに。」
「え?」
横目でチラチラみていた使用人達が一斉にこちらをガン見する。
そして数秒後、ニコラスが私に後ろから抱きついてるのを見て使用人達は自分の目をこすって二度見した。
そして数秒フリーズした後、屋敷内に大きな悲鳴がひびいた。
はい。ということで今、使用人達にニコラスの説明を終えました。
まあ、レイ様の説明をそのまま話しただけだけど。
みんな驚いてたは驚いてたけどまぁ、多分理解はしてくれたと思う。優秀な人達しかいないし。
で、結局解毒剤ができるまでは使用人達が世話をするって言ってくれたんだけど当のニコラスが「んーん!やっ!」って言って私から離れなかったので主に私が世話をみることにした。
それにしてもマジでこいつ離れん。解せぬ。
学園でアーネストが申し訳なさそうにこっちを見てたけどまぁ、仕方ない。アーネストにもアーネストのやらないといけない事があるし、家が違うからね。
ということで、解毒剤ができるまでは私がショタ(精神だけ)ニコラスのお世話をします。
はーい、ということでショタ版ニコラスのダイジェストォォォォ!
色々と大変なことがありすぎて長くなりそうなのでダイジェストでいきます!
まず、ご飯。
いつものニコラスは後ろにたって私がご飯を食べ終わるのを静かに待ってるけど今のニコラスにそれは無理なので一緒に食べた。
そしたらなんか「あーん」された。
・・・ちっちゃい子ってやりたがるよね。
次にトイレ。
これはね、一言に尽きる。
流石に一緒には行けねぇよな!?
ついてこようとするニコラスを必死に引き剥がし、トイレに行った。
次にお風呂。
これも一言に尽きる。
無理ですね。
えぇ。ショタなのは精神だけだし?って言うか元に戻った時に記憶あったら困るしね?
これも何とかニコラスを引き剥がして入った。
そんな濃い一日を終えてげっそりしながら部屋に戻るとニコラスがニコニコしながら待っていた。
・・・いやぁ。無理ぃ。
若干戸惑い気味の私を見て使用人の1人のリサが慌てて「どうしてもこの部屋から出ようとしなくて!」と弁解するからちょっと可哀想になって「別にいいわよ」と笑いかける。
その後、リサは「お嬢様が笑った・・・?」とか「お優しい・・・?」とか呟いていたけど嫌な予感しかしないので敢えて追求はしない。
さてと、それよりもニコラスをどうするか。
「ニコラス」
名前を呼ぶとニコラスは一気に顔をパァっと明るくさせる。
お、お前誰?
能面ニコラスどこに行ったの?君、その美貌でその顔はやばいって・・・。犬属性なの?実はニコラス、犬属性なの?
戸惑う私の魂を置き去りに私の体はニコラスに体当たり、じゃなくてハグされる。
からの、頬ずり。
うん。大丈夫、大丈夫。のーぷろぶれむ。慣れた、今のニコラスは子供。
必死に自分に言い聞かせて悟りを開く。
「・・・ねぇ。なんで何も言ってくれないの?俺といるの飽きちゃったの?」
あとちょっとで無我の境地に入れそうな時にニコラスの切なげな声が聞こえてきて私は意識を浮上させる。
「俺、頑張るから。お嬢様を楽しませられるように頑張るから・・・。だから、捨てないで。」
必死に紡がれる言葉に私はハッとする。
どうやら私はまたニコラスのトラウマに触れてしまったらしい。
「ちょっとぼーっとしてただけよ。大丈夫。ニコラスを捨てたりなんてしない」
「・・・本当に?」
「本当よ。」
なるべく柔らかく笑いかけてニコラスの頭を撫でる。
「お嬢様、大好き!!!」
と、ちゅっ、と可愛らしい音がするとともに油断していた私の頬に柔らかい感覚があった。
え?と思った時には真横に、と言うかほぼゼロ距離にニコラスの美しい顔があった。
ほ、ほほほほほほほほほほほほっぺチューー?!!!
思ったよりも話が進まなかったです。
すみません!




