12 苦手なやつと出会いまして
・・・はぁ、なんかどっと疲れた。
朝、アーネストが転校生として我がクラスに来るというビックイベントからクラスはずっとお祭りでもしているかのようにうるさかった。
何故かニコラスも全自動の私を真似しているのかのように休み時間の度にうちのクラスきては私とアーネストが喋るの邪魔してくるし。何なの?アーネストが好きなのか?そんなにアーネストを独り占めしたいのか?好きなんだな?
と、まぁそんな騒がしい1日を送っていた私は疲れすぎて授業が終わってすぐに誰にも気づかれないよう、こっそりと廊下に出た。
ニコラスもまだ来てないし、逃げるんなら今しかないんですよねぇ。
そろそろと音を立てないように人気のない廊下を歩く私は不審者のようだけども気にしない!今私が求めるのは安息のみ!!
なんて考えていた私は罰が当たったのかそれとも死亡エンドしかない悪役令嬢の運命なのか、背後から近づく影に気づかなかった。
「どこに行くの?イリーナ・アナベルさん?」
この、耳にひっつく不愉快な声は・・・!!
私はギギギと音がしそうなぎこちない動きで後ろに振り返る。
そこに居たのは案の定、私が一番苦手な腹黒ショタで。
「レイ様・・・」
溜息をつきたくなるのをぐっと堪えて私はやつに笑いかける。
・・・よりによって1人の時にこいつと会うとは。
「ふふふ、もう1度きくね。どこに行くの?」
「・・・別にどこでもいいじゃありませんか。少し外の空気を吸いに行こうとしただけです。」
本当にそのつもりだったんだけどやつの探るような目に私は思わず身じろぐ。
「何ですの。」
「ふーん、いや別に。」
・・・何考えてんのかわかんねぇな、こいつ。ていうかヒロインと喋ってる時とキャラ違いすぎて怖いんですけど。雰囲気の温度差で風邪ひきそうなんですけど。
・・・ん?まてよ、こいつがいちいちつっかかってくるのってヒロインに私がちょっかいだした(という名のいじめ)からだよね?
ということは?私がヒロインにとって無害な存在だとわからせれば良いのでは?ではでは?
「レイ様、何を気になさっているのかは知りませんが、私はもうサラ様に余計な手出しはしませんわ。こんな事言ったら不敬罪になるかもしれませんが、既にハルロド様への熱情も無くなりました。私はあの方を邪魔する意味がなくなったのです。ですから私のことはもう気になさらなくて結構ですよ。」
「・・・」
な、なんで黙るのーーーー!?!
なんか言えよー!怖いだろ!!こっちをガン見するな!お前目がくりくりっとしてるから目力やばいんだよ!
しばらくやつと見つめあった私は我慢出来ずに目を逸らした。
「・・・それでは、ご機嫌よう。」
もう言い逃げでいいや。
そう投げやりになって外に向かおうとやつに背を向けて一歩踏み出した途端、音もなしにやつに腕を掴まれた。
「・・・っ!な、なんですの?まだなにか?」
若干の恐怖と苛立ちで少し声を荒らげてしまったがやつは気にする様子もなく、くすりと笑った。
「ねぇ、騙せると思った?」
最初、何について言っているのか分からなかった。
もしかしてさっきの言葉のことかと思った。ハルロド様のことを私がまだ好きなんじゃないかと、そう問うているのだと思った。
でも次にやつの口から出た言葉に私は固まる。
「ハルロド様はそもそも君のことを見ていないし、ルイスは頭はいいけどちょっと抜けているところがあるからね。あとニコラス君は何故か君をあっさりと受け止めたようだけど僕はそうはいかないよ。」
「・・・え?」
なんで次から次へと攻略対象の名ばかりが出てくるのかわからない、分からないけど怖い。
そしてその恐怖は次の瞬間、一気に増幅する。
「君は、誰?」
その言葉に心臓が痛いほどに音を立てる。
「な、何を言って」
「君、イリーナ・アナベルじゃないよね?その器で何をしてるの?」
まただ、また探るようなこいつの目。
この何もかもを見抜くようなこいつの青い目は嫌いだ。
「わ、私は」
その時、近くで誰かの話し声が聞こえて私は我に返る。
私、いまなにを言おうとしてた・・・?
・・・だめだ。しっかりしないと。こんなやつに弱みを握られたらどんな事になるか。
「私は私以外の何者でもございません。失礼なことを仰らないで。」
しっかりとやつの青い目を見る。
ハルロド様も大概冷たい印象のする蒼い目をもっていらっしゃるけどこいつの青い目は苦手だ。
「・・・ふーん。」
だから意味深に呟くこいつにびくっ!と大袈裟に反応してしまうのも仕方が無い!そう仕方が無いっ!断じて怖いとかじゃないよ!ただ苦手なだけだし!!
私は未だに震える手を押さえつけてもう1度やつを見た。
「私は私です。たとえそれがレイ様が仰っている元のイリーナではなくても確かに今の私はイリーナ・アナベルなのです。それは何者も揺るがすことは出来ない事実。ですから疑うなんて失礼なことですよ。」
そう言って悪役っぽく笑ってやる。
こいつに弱みなんて見せるもんか。こいつの前で怖がったりなんて絶対しない。
「・・・君がそこまで言うなら別にいいよ。」
案外あっさり引き下がったレイ様に私は拍子抜けする。
が、すぐに油断ならない声が聞こえてきた。
「別に元々イリーナ・アナベルに興味はなかったんだ。ただハルロド様が困ってたからちょっと虐めてやろうと思ってただけだし。・・・でも、そうだねぇ。今の君には興味がある。」
ニヤリと私より悪役顔で笑うレイ様の顔に私は寒気が止まらない。
・・・何それ、何それ、怖すぎるんですけど。
私は引きつった笑いだと分かりながらも微笑む。
「別に大した人間ではございませんのよ、おほほほほ。」
「いいんだよ、それは僕が決めることだから。よろしくね、イリーナ・アナベルさん。」
・・・こ、こえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!まっったくよろしくしたくないんですけど?!今までで一番よろしくしたくない!!
「あ、そうだ」
何かいい事でも考えたかのように弾んだ声を出すレイ様に私は嫌な予感を覚える。
「な、なんですか」
「ふふ、ニコラス君の嫉妬も珍しいけどあのいけ好かない男の顔が嫉妬で歪むのも見てみたいなぁ?ふふふ。楽しみだね」
私、こいつが何を言っているかわかりたくないです。言ってること、さっぱりワカラナーイネ。
なんて現実逃避してる間にもあいつは嬉しそうに笑ってる。
クソ!黙ってれば可愛いのにっ!!天使のような微笑みなのに!!
私がついていけずにやつをぼーっと見ているとやつはいきなり私の手を握ってぶんぶんと上下に振った。
「君のおかげで退屈な日々が楽しくなりそうだよ!」
私は大変な日々がもっと大変になりそうです。
死んだ目でそんなことを考えていると不意に殺気を感じた。
「お嬢様・・・」
「ひっ!」
この声は・・・!!
「レイ様、お離れください」
案の定、私が名前を呼ぶ前にニコラスが出てきて私がレイ様と握手している所に割り込んできた。
「教室にいないと思ったらこんな所で何をなさってるんですか」
ニコラスの睨むような視線に私は思わず「ご、ごめん」と謝ってしまった。ん?あれ?私悪くなくない?
すぐ後ろからアーネストもついてくる。
「お、いたいた。修羅場してんなー」
「アーネストー!!」
Help me!!という思いを込めてアーネストを見ると今度は助けてくれるようでさりげなく私をニコラスとレイ様から離してくれた。
もうやだ、ニコラスはこっち見て捨てられた子犬みたいな目をしてくるし、レイ様はなんかめっちゃ楽しそうに近づいてきてるし。その手は何?なんでキョンシーの様に両手を伸ばして近づいてきてるの?
もー、アーネスト以外サラ様のとこいけよー!このままだとサラ様のヒロイン補正が働いて、私がとんでもない目にあいそうで怖いんだよっ!
なんて心の中で嘆く私は後々思い出すことになる。
この乙女ゲーム、がく✩ぷりは陽気なタイトルの割に一つだけミステリー要素のあるルートがあるということを。
そして、私は死亡エンドの前に死ぬルートがあるということを。
今はまだ思い出せずに呑気に嘆いていた。




